第18話 背中で語る
「これ、美味いね……」
ティロは話が済んだら、蟠りが解けたように素直にワインと食事を楽しみ始める。ジャーキーをもきゅもきゅと噛みながら、感想を述べる。
「牛を塩と香辛料の液に浸けて、乾燥させた後に燻製した物です。ほんのりと木の香りがしませんか?」
「んー? んー……。木と言うか、花みたいな香り……なのか? 後は煙の香りは確かにしやがんな」
くてんと首を傾げたティロが目を瞑って味わってから、感じたままに口を開く。
「花ですか。確かに中々木そのものの香りを感じる事は無いですからね。嗅覚が鋭敏なのかもしれません」
「爺さん、褒めてる?」
「はい。素質だと思っています」
「ならいい」
興味を無くしたように、もきゅもきゅと食べながらワインをかぱかぱ空けていく。元が高いワインなので、もう少し味わって欲しいなとは思うが楽しそうに飲んでいるとそんな気持ちも消えていく。
「しかし……。輜重が動いていないのは分かったのですが、輜重は重視されていますか?」
「んあ? どういう意味だ? 食わねえと、戦えねえだろ?」
ジャーキーを指示棒のように、私に突きつけるティロ。
「いえ。戦わない兵は軽視される傾向があったと思うんですが。後、輜重に関わる物資の警護がきちんとされているか等ですね」
「あー、そりゃあるよ。庶民が話し出来るなんて輜重辺りまでだ。それに輜重なんて飯運びっつわれて嫌われてんな。警護に関しては、この国に限らず重視されてねぇんじゃないかな。食い物より上官を守んねぇと帰ってからが怖いかんな」
ティロが上機嫌で言う。それが本当なら、かなり楽に戦えるのだが……。ふむ。ティロ達の手を借りたとして、少し戦術を考えるか。ティロがあらかた食べ終わると、満足したように席を立つ。
「爺さん、取り合えずは、信じる。これからの事もあんしな。だから……きちんと、応えろ。支払い額と今後はまた改めて考えろ。それを協議する」
背中で語るティロだが、魔法使い相手に背中を向けるんだから、信頼されているんだろう。格好良いな。若いけど、人を率いてきた人間か。うん、信用しよう。
「分かりました」
「じゃあな」
そう言って、階下に向かうティロ。私は片付け、テーブルと椅子を元の位置に戻す。階段を降りると、下では野卑な冗談にティロが食って掛かっている。マスターに幾らかと聞くと一万もしなかったので、二万タルを渡し、酒場を後にした。
「アルトさん……アルトさん」
キャンピングカーに着いて、中を覗くと、モニターに釘付けのアルトがいた。レティはキャフキャフとてしてしお尻を叩いているようだが、全然反応しない。声をかけてみたが、魂を抜かれたようにぼーっとモニターに集中している。電源を落とすと、ぷちゅんという音が響き、この世の絶望を現したような悲鳴が上がる。
「あぁぁぁぁぁ……。変身が、呪いが解けるか解けないかやっと、やっと分かるんです!!」
アルトが今にも泣きそうなうるうるとした目で見つめてくるが、私は額を押さえて、溜息を吐く事しか出来ない。
「レティのお世話はどうしました?」
本人はつまらないといった感じで、ちょっとむくれながら、ずりずりと辺りを這っている。
「あ、ご飯はあげました!!」
確かにお腹が減ったとは言っていないので、事実だろう。
「あまり集中していると、目に悪いですよ」
そう告げて、レティを手渡すと、反省したのか、床で一緒に遊びだす。
私は話がまとまった事に安心したので、夕飯の準備をする事にした。




