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第16話 物語はどこの世界でも愛されます

 異世界三日目は若干曇り。雨は降らないと思うがかなり雲は分厚い。朝起きて、朝食を食べて、アルトをどうしようかという話になる。今日一日は隠さないといけない。明日の夕方には一緒に王都に入れるだろう。その間をどうやって過ごしてもらうかが課題になる。あまり顔を見せない方が良いので、町の中には連れていく事が出来ない。苦肉の策として、孫が来た時用に置いておいた童話アニメーションの全集を見ておいてもらおうかなと。言葉が分からなくても映像だけでも楽しめるだろう。

 そう思いながら、実際にネズミが主人公の魔法使いの話が再生され始めると、アルトが食い入るように見始める。


「キラキラして綺麗です……」


 ほわっと若干艶やかかつ色っぽい顔で歓声を上げている姿にほっこりする。テーブルにオレンジジュースを置くのと、ポットの使い方は教えたので、レティの方も大丈夫だろう。若干もやがかった林の中をざくりざくりと進む。


「あぁ、魔法使い様ですか。お弟子さんはどうしました?」


 昨日の兵と違う人だが、引継ぎはしてくれているようだ。今日は温厚で人懐っこそうな若い兵だ。


「まだ触媒を探しています。夜の分は手に入りましたが、昼の分ですね。そのまま野営しながら、今晩も採取をしようと考えています」


「そうですか。折角王都まで来たのに、野宿というのも大変ですね。はい、どうぞ。お通り下さい」


 若い兵に頭を下げて王都内に入る。目的としては、噂を集める事と物価の上昇状態を確認する事だろう。戦争前になれば物資が枯渇するはずだ。それによってどの程度本気で戦争に従事させるかが分かる。

 そう思いながら、朝から盛況な市場(いちば)で聞き込みに入るが、物価そのものは大きく変化が無いそうだ。確かに飢饉の絡みで全体的に値段は上がっているようだが、それを織り込んでも兵を出すのに必要な物資を市場(しじょう)から回収していないという感じがする。取引先を紹介してもらって、話を聞いてみても、国から供出を指示されてはいないようだった。ある程度大きな商店で大きく買い物をして信頼出来る情報屋を紹介してもらって向かったが空振りだった。戦争の準備自体をしていない? 民間の方を確認する限りは全くその気配はない。これ以上の情報は軍や(おおやけ)の人間と接触しなければならないが、この時点で顔を売るのはまずいと判断し、一旦キャンピングカーに戻るとする。


「あ、おかえりなさい」


 扉を開けた音に気付いたのか、アルトがにこやかに出迎えてくれる。


「ただいま戻りました。退屈はしなかったですか?」


「はい!! 動く絵を見ていたら、退屈しませんでした!! 後、きちんとレティがお腹が空いたらご飯をあげました!!」


 褒めて褒めてという顔で見上げてくるので、頭を撫でると嬉しそうに、はにかむ。

 モニターには不思議の国のアリスが映っているが、言葉は日本語っぽい。


「音楽と動く絵だけで、物語は分かりますか?」


「え? 絵の中の人が話しかけてくるので驚きました。こちらから話しかけても返してくれないので残念ですが、言葉は分かります!!」


 アルトがきょとんとした顔で言う。と言う事は、この世界に降りた段階で通訳、翻訳は所持している物、全てに適用されているのか。私自身も日本語で思考して喋っているつもりだが、実際には自動的に通訳処理を脳内で行われているのだろう。

 市場で買ってきた果物などを洗ってパンなどと一緒に昼食を楽しむ。秋も深くなっているが、柑橘系などが数多く存在しており、自然そのものは豊かなのだろうと考える。アルトはステーキと呟いていたが、そうそう肉ばかり食べる訳にもいかない。野菜や果物も重要だ。レティは食事を取って満足したのか、くてんとベッドの中でスヤスヤ眠っている。汚物で汚れたシーツや毛布はまとめて交換してくれたようなので、新しい物と取り換えておく。


「引き続き情報を集めますが、レティが起きて運動をしたいようなら、一緒に外に出ても大丈夫です。ただ、周辺くらいにしてもらえると助かります」


 そう告げると、アルトがモニターの方を向いて、ちょっと絶望的な顔になる。余程映像を見るのが楽しいのだろう。


「あの、あの。レティもまだ小さいので、この部屋の中で運動してもらいます!!」


 えっへんという顔で述べるアルトの頭を撫でて、後を頼む。

 王都に戻り、情報屋から紹介された人材に、(おおやけ)に関する周辺情報を教えてもらう。相手を知らない状態で謁見なんて無理だろう。そんな状態を夕方まで続けた結論としては、暗君……なのだろう。嫉妬深く、政務の方針も内向的、外交に関しても押されているようだ。情報というより、愚痴に近い物を延々聞いて辟易していた頃に、昨日の酒場に到着する。時間的には、ティロはいるだろうと思い、扉を開ける。

 ウェイトレスがこちらを確認して、私が手を挙げた瞬間、店の中に怒号と言っても良い叫び声が響く。


「おい、爺さん!! この嘘つきが!!」


 はて、何の事だろう……。

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