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第13話 情報と言えば酒場

「お。そろそろ日暮れだが、出ていくのかい?」


 先程の警護の兵が声をかけてくる。


「えぇ。魔法用の触媒が足りないので、夜にかけて採取を考えています。ある程度長居(ながい)するのであれば、用意を始めておこうかなと考えています」


 微笑みを浮かべながら伝えると、殊勝(しゅしょう)な事だと返ってくる。アルトから魔法に触媒を使う事により効果を高めるというのを聞いておいて良かったと思いながら、王都の門を出る。アルトに先導してもらい、藪の中細い獣道を踏み分けていくと細い木や若い木がひょろひょろと生えた荒れた林に出る。木々の間隔が空いている場所にキャンピングカーを生んで扉を開ける。


「寒いですから、先に中に入っていて下さい」


 アルトにそう伝える。


「アキさんはどうされるんですか?」


 少し心配そうな顔を向けてくるアルトの頭をそっと撫でる。


「視界は遮られていますが、このままでは目立ちます。隠してしまいます。飲み物の飲み方は分かりますか?」


「あ、お水!! お水で大丈夫です!!」


 ほんのりと頬を染めて、慌ててアルトが扉を開けて入っていく。子供は元気だなと思いながら、ぐいっと腰を伸ばしていると、車内からひゃーっという悲鳴が聞こえてくる。


「アルトさん!!」


 慌てて扉を開けると、シンクの蛇口のレバーを上げ過ぎたのか、凄い勢いで流れ出す水を前に、アルトが涙目でおろおろとしていた。


「アキさん……。すみませんー……。大切なお水が……」


 上目遣いで潤んだ瞳で見つめてくるアルトに苦笑を浮かべながら近づき、レバーを降ろす。


「大丈夫です。濡れなかったですか?」


「はい……」


 怒る? という感じで目の端に涙の滴を溜めながら首を傾げるアルトをソファーに誘導する。棚からグラスを取り出し、アップルジュースを注ぎ差し出すと、改めてぺこりと頭を下げて、嬉しそうに飲み始める。機嫌が直ったのを確認して、改めて外に出る。


 『せいぞう』で迷彩シートを探す。こういう時に一通り色々な趣味に手を出しておいて良かったなと思う。軍用トラックの交換用シートを見つけて、キャンピングカーの上から覆う。夜になれば風がきつくなると言われていたので、杭で打ち込み固定して、念のために周辺の藪を切り分けて被せておく。少し離れて、眺めてみると風景に溶け込んで少しこんもりした藪のように見えるので、問題無いだろう。特に何かと言う訳では無いが、老人と年頃の娘が外で野営していると言う情報が警護の兵から流れた場合に面倒くさいので、少し手間をかけただけだ。


 扉側の開口部にしゃがみながら入り、車内に声をかける。


「失礼、王都内部の様子を確認してきます。夕飯の頃には戻ります。待っててもらえますか?」


「あ、あの!!」


「はい?」


 素直な返事がくるかなと思っていたが……。何だろう。


「出来れば……昨日の晩の……動物の動く絵が……見たいです」


 少し恥ずかしそうなお願いにふっと微笑みが零れてしまう。モニターの調整をして、映像を映し出すとぱぁっとアルトの表情が明るくなる。レティを預けていたが、既に太ももの上でうとうととしている。


『ぬくー。おなか……すくかな……。まだへいきー……』


 むにゃむにゃとした思考が流れ込んでくるが、眠ってくれるなら良いかな。エアコンの温度だけ再度調整して、扉の外に出る。寒風が足元から冷気を感じさせる中、王都に向かう。最低限の護身具は必要かなと、籐のかごバッグを生み出し、中に特殊警棒とスタンガンを入れておく。王都の中で銃を携帯していても何も言われないだろうが、殺傷力が高すぎるのと、周囲への影響が大きすぎる。外した時に巻き込む可能性が高い。


「おろ。どうした? 爺様一人で戻ってきたのか? 弟子はどうした?」


「はい。野営の準備をしてもらっています。少し買い忘れた物があるので私が戻ってきました」


「そうかい。まぁ、まだ日が残ってるしな。ただ、暮れて沈んでからはそう長くは開けてない。気を付けてくれよ」


 心配げに声をかけてくれる目を見ていたが、他意は無いか……。情報を売る人間の目でもない……な。了解の旨を伝え、噂話が出来る食事処か酒場を紹介してもらう。門から入って少し歩いたところにある酒場が人の入りが良く、マスターも話を聞いてくれるらしい。夕飯の時間には少し早いから、席は大丈夫だろう。

 教えてもらった方に向かい、一際(ひときわ)大きな建物に入る。看板にカップの絵が描かれているんだから、ここだろう。


「いらっしゃい」


 もくもくと上がっていた水蒸気の白い煙ともう一つの灰色の煙で期待していたが、扉を開けた瞬間感じる暖かな風と薪を焼く香り。それから続いて広がる食事の匂い。カウンターが八席にテーブルが四つ。カウンターの中ではマスターがガチャガチャと洗い物をしている。店の中にはまだ客は入っていない。マスターの声に気付いたのか、奥の厨房(ちゅうぼう)から若い女の子が出てくる。薄茶色の髪を後ろで上げた、今の季節には寒かろうと思うほどにきわどい恰好ではあった。個人的な感覚では若く溌溂(はつらつ)とした容姿に合っていない印象は受ける。この格好だと、客層は若干悪いのか……な。


「一人ですが、席はありますか?」


「はーい、お爺ちゃん。そろそろ夕飯時だからね。カウンターで良いかい?」


「はい、結構です」 


 そう告げると、カウンターの真ん中、マスターの正面に案内される。護身具と一緒に生み出しておいた、木製のカップと小皿をバッグから取り出し、マスターに手渡す。


「加水していないワインと()の実をもらえますか?」


「お客さん、商人かい?」


 マスターが若干割れた声で聞いてくる。


「魔法使いです。(つい)の棲家を探していますが、良い情報が無いかと考えています」


 そう告げると、マスターがくいっと眉を上げて、目を瞑る。


「ピケットでも井戸が濁る前だがな……。それなりに値が張るが、良いか?」


 それはワインだろうか、情報だろうか……。


「構いません。そこまでは飲めないので一杯で結構です」


「分かった。四百で良い」


 日本円で二万円くらいか。これなら情報料込みだろう。千タルをバッグから取り出し、マスターに渡す。


「釣りは結構です」


 そう告げると、マスターがほのかに怪訝な表情を浮かべる。


「その代り、少し人手のいる仕事があります。信用のおける荒事が可能な人間を紹介して下さい」


「荒事かい? 町の中でよそ者が騒ぎを起こした場合、きついぞ?」


「町中では起こしません。それに可能性のみです。今日は顔つなぎだけです」


 そう告げると、マスターが掌の中でコロコロと木札を転がし、こくりと頷く。


「毎度。五年前のだ。当たり年だった。目当てのはもうしばらくしたら来るだろう。飲んで待っててくれ、声をかける」


 そう告げると、カウンターの上に赤ワインと、ざらっと乗せられたクルミや椎の実を乾煎りして塩をかけた物をことりと置く。


「いただきます」


 マスターに笑いかけ、カップに手を伸ばす。

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