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ヘルブレス  作者: htsan
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少女は笑う

 *キャンセレーション『対象の魔法保護効果を全て打ち消す。取得に必要なINT180。』


 ミカがキャンセレーションを詠唱すると、三好さんにかかっていたAMPの効果が切れてしまった。AMPが切れた三好さんにミカは続けてパラライズをかけ、三好さんを拘束した。


 「まさかあそこまでINTに振っているなんて・・・」


 ある程度MAGにも振っていないと魔法が成功しないため、おそらくミカもほとんどVITに振っていないのだろう。VITに振っていないということは2人とも攻撃に当たりさえすればすぐに死ぬヒットポイントしかないと言う事だ。


 選択肢としてはもちろんありだが、そんなこと普通できるのだろうか?ましてや自分たちの命、存在そのものが消えるかもしれない戦いで。


 三好さんを拘束したミカはこっちを向く。恐らくタクマを拘束している邪魔な俺を殺すつもりだろう。


 「キャンセレーション」


 ミカは俺の保護魔法を打ち消す。


 「これまでか」


 俺は腹をくくり、タクマの武器を思い切り左手でつかみ、拘束しているタクマの右手を自分の右手ごと貫く。


 タクマの持っていたグレートソードが俺の腕とタクマの腕を串刺しにする。


 うぐっ・・・。想像していたよりもはるかにいてぇ。でももう今更痛みなんて気にしてる場合じゃない。なんとしてもミカにやられる前にタクマも道ずれにする。それが今俺にできる唯一の事だ。


 「マジかよお前」


 苦笑いをながらタクマはそうつぶやき、俺を振りほどこうとする。


 俺はタクマの武器でつながっている右手を起点に、タクマにのしかかってタクマを拘束する。そしてサブ武器として持っていた短刀のマインゴーシュでタクマを刺す。


 「うお。マジかよ。結構いてえなマジで。クソ」


 「もう1発!」


 「パラライズ」


 ぎりぎりのところでミカのパラライズで俺は拘束される。全く身動きが取れない。


 「おせえよ。死ぬかと思った」


 「いや死ぬよ。タクマの腕にタクマのグレートソード刺さったままだし、ちょっとずつヒットポイント減っちゃってる」


 「あ、マジか」


 「タクマ柔らかいからそんだけでもすぐ死んじゃうね。うける」


 「うけねえよ。お前に言われたくねえし、つか回復しろや」


 2人は呑気に会話をする。


 「うおおおおおおおおお」


 パラライズが切れた三好さんが再びミカに斬りかかる。


 「おじさんはじっとしてて」


 「うっ」


 しかし三好さんはあっさりミカに再び拘束されてしまう。


 「回復してる時間なんてないの。あたしの本命はこっちなんだから」


 ミカはタクマと話しながらも、少しずつ亜美さんの方へと移動していた。


 「おい!早く俺をやれよ!俺をやってからタクマを回復したら済む話だろ」


 咄嗟にそう叫ぶがミカは聞かない。


 「あはは。男2人ががんばってるのにおばさん1人で座って何してるの?マジでうけるんだけど」


 ミカは尻餅をついて震えている亜美さんの前に立ちはだかる。


 「あ、あ・・・。そうだ。AMP!」


 亜美さんはとっさに自分に保護魔法をかけなおす。


 「あはは。あたしが魔法使いで、AMPであたしの攻撃を防げる事くらいは理解してたんだ。でもだめ」


 ミカのキャンセレーションで亜美さんの保護効果は切れる。


 「やだ・・・やだ・・・」


 「うわー。ぞくぞくする。あたし、ずっとあんたみたいな女ぶち殺してやりたいって思ってたんだよね。やっと夢が叶うよ」


 そう言ってミカは中級魔法のEnergy Strikeエネルギーストライクを亜美さんに当てる。


 いくつもの魔法の玉が亜美さんにぶつけられる。


 「痛い。やだ。痛い痛い痛い痛い。やめて。痛い」


 亜美さんは激痛からか泣き叫ぶ。


 どれほどの痛みなのかはわからないが、亜美さんの身体は魔法の弾が1発1発当たるたびに人に思い切り殴られたかのように跳ねた。


 「やめてってうける。本当に頭悪いんだねお前。でも無駄に硬いところだけは最高」


 ミカは舌なめずりをしながら、恍惚とした表情で連続して魔法を打ち続ける。


 「あ、亜美さん。ひたすらPFMを自分にかけるんだ。その攻撃魔法はAMPじゃなくても防げる。PFMは消費マジックポイントが少ないから、キャンセレーションをしているミカのマジックポイントが先に尽きるはずだ」


 俺は激痛に耐えながら必死に叫ぶ。


 しかし魔法の弾に撃たれ続けている亜美さんは悲鳴をあげるだけで何もできない。


 「く・・・」


 ようやく力尽きたたくまから解放された俺は、亜美さんにPFMをかける。

 

 「亜美さん!俺はもう余裕がないから、後は自分でかけ続けるんだ!もうすぐタクマがまた戻ってくる」


 「はぁはぁ・・・ありがとう・・・。大丈夫。わかった・・・」


 亜美さんはなんとか起き上がり、魔法のリストを開き、ミカのキャンセレーションを待つ。


 ミカは驚いたと言った顔で俺を見る。


 「お兄さんすごいね。タクマやっちゃうし、こんな状況でも打開策見つけて、こんなクソ女助けようとがんばってる。男がいなきゃなんにもできない、こんな女助けても何の価値もないのに。あ、無駄にでかいおっぱいがあったか。あは。よかったねそこだけは立派に産まれて。親に感謝って感じ」


 「あんたみたいなガキに何がわかるのよ!」


 今まで大人しくミカに罵倒されていた亜美さんがとうとう怒って怒声をあげる。タクマの死体は消え、瀕死状態からなんとか自分の魔法で回復しようとしていた俺も驚き、亜美さんを見る。


 「おー。こわ。おばさん怒った」


 ミカはケラケラ笑う。


 「私だって・・・。私だってね・・・」


 亜美さんは痛みと怒りに耐え、歯を食いしばりながらミカを睨む。


 「面白いけど、おばさんの話なんて興味ないや。さっさと死んで」


 ミカがそう言うと、亜美さんはPFMをかけなおそうと身構える。


 「Meteor Strikeメテオストライク


 ミカの詠唱と共に空から小型の隕石のようなものが降ってくる。


 「嘘だろ・・・」


 あまりの光景に俺は言葉を失う。


 亜美さんも、わけがわからずあっけにとられ、呆然と空を見上げる。


 「これは上位魔法。だからPFMじゃ防げないの。AMPなら防げたけど、他の保護魔法がかかってると上書きできないみたいだし、絶体絶命ってやつだね」


 満面の笑みでミカは言う。


 「亜美さん!逃げるんだ!早く!」


 必死に叫ぶが、亜美さんはただ震えて呆然と空を見上げたまま動かない。


 「亜美さん!!!!!!!!!」


 俺の叫びも虚しく、小型の隕石はミカごと巻き込んで亜美さんを押しつぶす。


 ドゴオオォンと、漫画みたいな音を出して隕石は地面に衝突し、俺と三好さんの身体も衝撃で震える。


 数秒の沈黙の後、当然のように砂煙の中からミカだけが現れる。おそらくAMPでミカ自身はあの魔法を防いでいたのだろう。


 「これで後一回」


 ミカは俺を見てニコっと笑う。


 次は俺の番だと悟り、身構えようとするが、あまりにも衝撃的な光景を見たせいで、俺と三好さんは身動きが取れず、ただ呆然とミカを見る。


 「あはは。どうしたのそんな顔して。早く攻撃してこないと、今がチャンスだよ。あたしもうMPないし、あんた達2人同時はさすがに無理だし」


 確かにそうなのだが、ミカの余裕が不気味で、俺と三好さんはたじろぐ。


 「な、なんでお前はそんなにこのゲームの事に詳しいんだ?保護魔法の上書きの件だって、そんな説明どこにもなかったぞ」


 「いやいやなんでって、普通試すでしょそんなこと。保護魔法なんて自分たちにかけられるものなんだから。まあこれはタクマの提案だったけど」


 言われて見れば当然だ。初めて体感する魔法の効果くらい、あらかじめある程度検証するのが普通だろう。むしろ俺たちが間抜けすぎたんだ。


 「ほらほら、タクマもう帰ってきちゃうよ」


 「くっ・・・」


 確かにミカの言うとおり、ここでミカをやるしかない。罠かもしれないが、やらなければ俺たちが殺されるだけだ。


 「三好さん行きますよ!」


 「お、おお!」


 あわてて斧を構えなおした三好さんと俺自身に俺はPFMをかけ、2人でミカに切りかかる。


 ざくっ。と言うような、ぐしゃっと言うような、なんとも言えない擬音と共に俺の剣はミカの腹を、三好さんの斧はミカの肩に食い込み、ミカの身体からは大量の血が噴きだしたが、ミカは気のせいか俺を見て一瞬にっこりと微笑んだ。


 「いた、いったぁ・・・あーーーーーーーーーいったい!!!!!いたああああああああい!!!!!!何これええええええええ!」


 そう言ってミカは悲鳴を上げる。しかし苦痛に少し顔をゆがめるが、依然笑ったままだ。もはや狂気としか思えない。


 VITに振っていないミカはこれだけで即死だろう。あまりにもあっさりやれてしまった事に、俺と三好さんはまた呆然とミカを見る。


 「はぁ、はぁはぁ・・・。ふふ。痛い。でも・・・全然いいや。苦しくない。こんなのは。ちゃんとした理由がある暴力なんだから。理不尽で、何の意味もわからないまま痛め続けられるのに比べたらずっと楽。やっぱり苦しさは心の中から来るものなのかな」


 何を言っているんだこいつは。


 「はぁ・・・。一回死んでみたかったの。本当に、ちゃんと死ねるほどの痛みを知ってみたかった。どうせ何のデメリットもないなら一度は体験しとかないとね。よかった。やっぱり」


 デメリットがない・・・。つまりミカはこのチュートリアルにおいて、自分が負けるわけもないし、もう二度と俺たちにやれられることもないと、完全に確信しているのだろう。だから俺たちにわざと殺されたんだ。


 殺されること、痛みを感じること自体がデメリット、最悪の自体だと考えている俺たちとは違い、それすらも1つの経験として、あいつは受け入れている。


 もはや完全になめられているのに、全く悔しさすら沸かない。


 「勝てるわけがない」


 息絶え、静かになったミカの死体を見ながら俺はそう呟いた。

 

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