苦痛と死と絶望
「どういうことだ?」
リスポーン地点に着き、亜美さんと合流すると三好さんは聞く。
「ごめんなさい。まさかDEX200まで振ってくるとは・・・」
「DEX200だと俺達の攻撃は当たらないのか?」
「詳しい計算式まではわかりませんけど、恐らくあの感じだとDEX100でDEX200に攻撃が当たる確率は限りなく低いんだと思います」
「なるほど。つまり俺達2人でタクマを倒すのは無理だと言う事か」
「そうなりますね・・・」
倒せるとしたら亜美さんの魔法による攻撃しかないが、亜美さんはまた座り込んで震えて身動きを取れないでいる。
「もう、やだよ・・・。あんな痛いなんて・・・。なんで私だけこんな目にあうの・・・。やだよ。もう戦いたくない・・・。どうせまた私が狙われる。またあんな目にあうなんて耐えられない・・・」
痛覚までリアルにある事は考えていなかった。亜美さんは死ぬまでの痛みを感じ続けたわけだから、まあこうなってしまうのは仕方ないのかもしれない。
こんな状態じゃ、亜美さんに期待できそうもない。
「とすれば、俺と三好さんでミカのほうを倒すしかないか」
「しかしあいつは魔法で俺達を拘束してくるぞ。近づく事ができるのか?」
「あれは俺も覚えているPFMと言う魔法をあらかじめかけていれば防ぐ事ができるはずです」
「なるほど。それならいけそうだな」
「はい。でも問題はタクマが後2回亜美さんを倒す前に俺達がミカを3回倒さなくてはならないと言う事です」
「じゃあ亜美さんにはさっきの透明になるやつでずっと隠れててもらえばいいんじゃないか?タクマのほうは魔法を覚えているわけじゃないんだろ?」
三好さんは案外理解が早い。
「そうですね。俺と三好さんがミカを狙っている間、亜美さんはタクマにやられないように隠れていてもらいましょうか」
タクマがあくまで亜美さんを狙い続けてくれるのならば、の話だが・・・。
しかし案の定、タクマはあっさり亜美さんを諦めて、ターゲットを俺に切り替えた。
ミカを狙う三好さんを支援するように亜美さんに声をかけるが、俺が攻撃されている間、亜美さんは何もできずに震えて座り込んでしまい、三好さんはミカにあっさり拘束される。そして俺はタクマにそのまま殺された。
無理もない。こんな痛みを知ったら、亜美さんじゃなくても動けるはずがない。
少しすると三好さんもリスポーン地点に戻ってきた。あの後三好さんもやられたようだ。
亜美さんはなんとか逃げ延びたらしく、リスポーン地点から出た所で震えながら
「ごめんなさいごめんなさい」
とずっと謝っていた。
「ねえタクマぁ」
三好をやってから2人は明達のリスポーンから少し離れたところで様子を見ていた。
「なんだよ」
タクマはまだ戦いの興奮を抑えられないのか、じっとしていられず、今にも次をやりに行こうと意気込んでいた。
「あたしやっぱあのおばさんむかつくから、あいつから殺したいんだけど」
「はぁ?別に誰やっても関係ねえだろ。やれる奴をやりゃいいんだよ」
「あたし嫌いなんだよね。ああいう常識人ぶってる癖に、実際は男の力がなきゃ何もできない女。男に媚売って守ってもらうしか能がないくせに、それが自分の力みたいにでかい顔してさー」
初めてまともに話すミカを少し珍しく思い、タクマは少し冷静になる。
「なんかああいう女にトラウマでもあんのか?」
「ママがあんな感じだったんだけどさ、トラウマってわけでもないけど、見てたらイライラするんだよね。最高に痛めつけてからぶっ殺してやりたくなる。そう考えたらこのゲーム最高だよね。あいつ無駄に硬いからなかなか死なないし」
ミカはうれしそうに笑いながら言う。
「んなこと言ったって、あいつインビジかけてずっと逃げ回ってるから殺すのめんどくせえんだよな。お前がちゃんと仕事すればやれなくもないけど」
「やるやる。ちゃんとやるからあいつからぶっ殺そー!」
「しょうがねえな。まあ俺はぶっ殺せるなら誰でもいいしな」
そう言うとタクマ達は明達のリスポーン地点へと向かった。
「やべえ。あいつら向かってきた」
リスポーン地点から出て、亜美さんと合流すると、明は向こうからタクマ達が向かってきている事に気づく。
「亜美さん。とにかく、そうしててもこっちが殺されるだけなんで、なんとかがんばりましょうよ。3人で力を合わせれば勝てるはずですから。亜美さんが頼りなんです」
「無理だよ。あたしゲームも大してやったこともないし、あんな痛い事なんてわからなかったし・・・。どうすればいいのか・・・」
「俺の言うとおりにしてくれるだけでいいんです。亜美さんが隠れたら、タクマは俺を狙ってくるんで、そしたら亜美さんは三好さんにAMPをかけて支援してください。できれば俺の回復もして欲しいんですが、それはできたらでいいです。できるだけ俺は耐えるんで。でももしもタクマが向かってきたらすぐにインビジを使って隠れて逃げてください。それだけでいいです」
「でも・・・」
「亜美さん!俺も死にたくないんですよ。お願いします」
俺が少し大きい声を出したからか、亜美さんは少し冷静になる。
「本当にそれだけでいいの?」
「はい。十分です」
「なんだかそれだけならやれそうな気がする・・・。うん。このままうじうじしててもまた痛い思いして死んじゃうだけだもんね・・・。がんばらないと」
「よかった。3人で生き残りましょう」
「そうだな」
三好さんも同調してくれる。
こっちに向かってきていたタクマが消える。恐らくミカの魔法で透明になったのだろう。
「来ますよ。亜美さんは一度隠れてください」
「うん。インビジブルってやつでいいんだよね」
「はい。その前に三好さんと俺にAMPをかけてください」
亜美が魔法を使おうとすると、目の前の何もない空中に覚えている魔法のリストがずらっと並ぶ。
その中から魔法を選択すると、明と三好に丸いバリアのようなエフェクトがかかった。
「これでいい?」
「はい!ばっちりです。じゃあ早く隠れて」
その直後亜美は自分のインビジブルによって透明になって見えなくなった。
「じゃあ行きますよ三好さん。ミカを狙います」
「おう」
俺と三好さんがミカの方に向かうと、案の定タクマは俺に攻撃をしかけてきた。
初撃をなんとか持っていた剣で受けるが、タクマの方が早いので次の攻撃を受けきれずに、俺は斬撃を食らう。
「くっ、やっぱいてぇ・・・」
しかし今回は違う。俺が耐える事によって味方がなんとかしてくれる。そう思うと痛みくらいならいくらでも耐えられる気がする。
「ヒール!」
正直期待していなかったのに、亜美さんが俺に回復魔法をかけてくれている。
「ありがとう。亜美さん」
「私にはこれしかできないけど、がんばって」
それを見てタクマはニヤっと笑う。
「なんだ。少しは進歩してるんじゃん。でも出てきちゃっていいのか?お前から殺すぞ」
そう言ってタクマは亜美を睨む。
睨まれた亜美さんは恐怖で尻餅をついてしまう。
「行かせない!」
そう言うと俺はタクマの剣ごとタクマの腕をつかむ。剣は体に食い込み、激痛が走るが、亜美さんが回復してくれたおかげで死ぬほどのダメージは負わない。
「STRは俺の方が高いみたいだな」
捕まえさえすれば、STRで勝っている分力比べは負けない。しかし激しい痛みで捕まえているのが精一杯で反撃まではできない。
「んだよ。めんどくせえな」
大丈夫だ。これで後は三好さんがやってくれる。
三好さんには上位魔法を全て無効化する保護魔法をかかっているから、ミカは三好さんに対して為すすべがなく、三好さんはまっすぐミカの近くまで切り込んで行った。
「うおおおおお」
三好さんが雄たけびと共にミカに切りかかる。
「よし。やった!」
しかし勝利を確信した俺の目にミカの不気味な笑みがうつる。
「Cancellation」
ミカの口から出たその言葉は俺を再び絶望の底に叩き落とした。