戦闘開始
「痛い。痛い。痛い。痛い」
一つの感覚が頭の中でぐるぐる回り続ける。
なんだ、これこんなに痛いものなのか。つかゲームなのに本当に痛いのか。死んじゃうだろこんなの。いや、死ぬのか?
タクマは持っている武器で容赦なく俺を斬り続ける。俺は痛みのせいで何も反撃する事もできず、ただされるがままにされていた。
霞んで行く景色の中で、ミカの魔法で拘束されている三好さん、リリスの話を聞いたばかりの時のようにただ震えている亜美さん、うれしそうに俺を斬り続けるタクマ、そして斬られた事によって出た、俺自身のおびただしい量の血の中で、俺の意識は途切れて行った。
途切れて行く意識の中でなぜか、この戦闘の前のやり取りを思い出す。
「三好さんは純戦士で、亜美さんはサポート重視の魔法使い方面で行きましょうか」
「了解」
そう言って三好さんはSTRとVITに数値を振っていく。
「あ、DEXもある程度ないと相手に攻撃が当たらないので100くらいは振っておいたほうがいいと思います」
俺は以前やっていたネットゲームの知識を元に説明する。
「なるほど」
「私はどうすればいいかな?」
亜美さんは全く何もわからないと言った様子で俺に聞く。
「そうですね、亜美さんはとりあえず、この全ての魔法を無効化するAMP(Absolute Magic Protection)までINTを振って、後は魔法の詠唱を失敗しない程度にMAGを振って、残りをVITにしましょう。サポート役は死なないのが第一ですからね」
「わかった。がんばってサポートするね」
亜美さんはにっこり笑って言う。
「俺は下位の魔法を防げるPFM(Protection From Magic)まで取って、魔法剣士みたいなポジションでサポートしつつ相手を倒しますね」
「STRはどこまであげたらいい?」
三好さんが聞く。
「そうですね。三好さんは純戦士なんで、結構高めに振っちゃってもいいと思います。STR169まで振って、バトルアクスを持てるくらいがいいんじゃないでしょうか」
「了解」
「明君がいて本当によかった。明君がいなかったら何をどうしたらいいかもわからないまま死んじゃうところだった」
「いやぁそんな事ないですよ。俺がいなくても俺の代わりに来た人のほうがゲーム詳しかったかもしれませんし」
と言いつつ内心天狗になっている。こんな風に人に頼られる事なんてめったになかったからだ。
「顔はそうは思ってなさそうだがな」
三好さんが茶化すように言う。
「ええ、俺そんな浮かれた顔してます?」
「うん。してる」
「亜美さんまで・・・」
俺がそう言うと2人は笑って、俺も笑った。
はっと気がつくと俺はリスポーン地点。つまり殺された人が復活する場所にいた。俺はあのままタクマに殺されたらしい。
ステータスを振り、魔法と装備を整えた俺達は、リリスによってこのリスポーン地点にワープで飛ばされた。リスポーン地点を出ると、広い草原が広がっており、少し離れたところにミカがいた。
「あ、ミカちゃんだ」
ミカを見つけると、亜美さんがおどおどしながらミカを指さした。
「もう1人はどこ行ったんだ?」
三好さんが言うのはタクマの事だろう。確かに見当たらない。まだリスポーンの中にいるのだろうか?
そんな事を考えていると、突然近くから『ザッザッザ』と誰かが走っている音が聞こえ、音のするほうの草が誰かに踏まれたようにぺしゃんこになっていた。そして、その音と草のつぶれた後はまっすぐに亜美さんの方へと向かっていった。
「亜美さん危ない!逃げて!」
俺ははっと気がつき、あわてて叫ぶがもう遅く、インビジブルと言う魔法で透明になっていたタクマが出てきて亜美さんに切りかかる。
「よぉ。元気してたか?」
そう言うとタクマは亜美さんの背中を思い切り斬りつけた。
「いやぁああああああああああ」
一応ゲームの世界だと言うのに、亜美さんが斬られた箇所からは実際に斬られたかのようにすさまじい量の血が噴き出し、切られた亜美さんはしゃがみこんでしまう。
「インビジブル!」
俺はあわてて亜美さんを透明にする。
「亜美さん!逃げて!」
「ああああああ。痛い痛い痛いよぉ。あああ何これえええ。痛いいいいいいい」
攻撃されると本当に痛いのか、血がでたショックで動転しているのか、透明になった亜美さんはあまりの痛みに身動きが取れず、あのままうずくまっているようだ。
それは当然タクマにもわかるようで、タクマは透明になった亜美さんをお構いなしに斬り続ける。
「ウケるなこいつ。案山子かよ」
タクマは笑いながら斬り続ける。
俺と三好さんはあわてて助けに行こうとする。
「パラライズ」
しかしミカが拘束魔法で俺達の動きを封じる。
「あはは。あたしの事忘れてた?行かせないよん」
ミカはうれしそうに言う。
「痛い!助けて!やだ!痛いよああああああああああ。助けてよおおおおおお!」
「やめろ・・・やめろよ・・・。やめてくれ・・・」
何もできずに俺はただ呟く。
「やめろってお前、馬鹿じゃねえのか」
タクマは笑いながら亜美さんを斬り続ける。
透明状態になった事によって、姿は見えないが、立ち竦む俺たちに亜美さんの悲鳴だけが聞こえ続けていた。
「お、死んだか。無駄に硬いな」
しばらくして、亜美さんが声をあげることもなくなると、タクマはそう言って斬るのをやめた。
「うおおおおおおおおおおおお!」
パラライズが解けて自由になった俺と三好さんは急いでタクマに斬りかかる。ここでタクマを殺せないとただのやられ損だ。
「おっそ」
しかし俺と三好さんの剣と斧は空を切る。
もう一度2人で斬りかかるが、全く当たらない。
「はは。当ててみろよ」
タクマは笑いながら俺達の攻撃を避け続ける。
「いい事を教えてやろうか」
必死に斬りかかる俺達を笑いながら、タクマは呑気に話を始める。
「俺はDEX200の残りSTRだよ」
それを聞いた俺は思わず手を止める。
三好さんはその絶望的な状況を理解しておらず、繰り返しタクマに斬りかかり続ける。
「一回引きましょう。三好さん」
俺はそう言って三好さんと自分にインビジブルをかけて退避する。
「とりあえずリスポーン地点まで下がりましょう」
「お、もう1人はさすがに少しは状況を理解できてるみたいだな」
タクマは特に追っかけてくることもなくニヤニヤ笑っていた。
「つーかお前もう少し手伝えよ。ディテクトであぶりだせるだろ」
タクマはミカに言う。
「ええー。このまま終わっても面白くないじゃん。おっぱいお化けがなぶられてるのは面白かったから、2人の事止めといたけど」
「お前あの女嫌いすぎだろ」
「あはは。だって気持ち悪いじゃん」
無邪気にミカは笑う。