クルセードその1
「すみません・・・俺なんて事を・・・」
あの謎の男の登場で状況は急転し、俺達は戻って街の倉庫に集まっていた。
突然現れた男は謎の力で俺のメデューサソードを破壊するとタマさんの赤いレイピアと似た赤い剣を2本構える。
「どうする?メデューサソードは折れて、そのゼリマレイピアもちょうど効果切れだ。ここからなら多分俺が勝つけど」
マントについたフードを深くかぶっているため顔は見えないが、男はハッタリではなく本当に勝つ気で言っている事がわかる。
「あの二刀流・・・ユウキね・・・。とんでもないのが出てきちゃったわね」
「いーややらない。ここらで解散かな」
タマさんも先ほどまでの殺気は消え、武器をしまうといつもどおりに戻っていた。
「俺も解散に1票」
ユニさんも手を挙げてタマさんに同調する。サウルさんにいたってはとっくにリコールを詠唱して帰っていた。その様子を見ると男は武器をしまい、煙草を取り出して火をつける。
「まあ仕方ないわね・・・アキラ君、帰るわよ」
「逃がすかよ!」
ロックオンハートはリコールを詠唱しようとするユニさんに殴りかかるが、後ろから男に腕をつかまれる。
片手でつかまれているだけなのにも関わらず、ロックオンハートは全く身動きが取れない。男はもう片方の手でくわえていた煙草をつかみ、煙を吐き出す。
「まあまあ、ロック君。さすがに分が悪い。俺とロック君でも万が一があるからここは一度引こうか」
「・・・・クソが」
ロックオンハートは渋々武器をしまい、男と共にリコールを詠唱して帰って行った。
メデューサソードを折られ、呆然としていた俺にセイキさんは俺の肩を叩く。
「ほら、帰るわよ」
「はい・・・」
「・・・と言う感じ」
セイキさんがレイさん達にこちら側の事の顛末を話し終える。
メデューサソードを失った事で俺は申し訳なさで顔を上げることができない。
「なんでアキラ君そんな落ち込んでんの?」
「そうよ・・・。確かに大事な武器だったけど、結果的には勝てたんだから・・・」
レイさんは言葉を選びながら俺を慰めようとする。
「いやいや、普通に砕けた武器を持って行ったら鍛冶屋で直してくれるよ」
「え?そんな簡単に?」
「うん。そう言うゲームだしね」
タマさんはけろっとしている。
「なんだ・・・よかったぁあああ」
俺は力が抜けてその場に崩れ落ちる。
「さすがに武器を完全にぶっ壊せたら強すぎでしょあのアイテム」
「あれは一体なんなんですか?」
「メリエンプレート、発動中に攻撃されたら当たった武器を破壊する事ができるの。メデューサソードと最も相性が悪いわね」
「そんなものが・・・」
「ちなみに僕が持っているのがゼリマレイピア、あいつが2本持っていたのがゼリマブレード。持てるSTRと攻撃力が違うけど効果は同じ」
「一体どんな・・・」
タマさんがウサチャと呼ばれるメイジを瞬殺していたのを思い出す。
「これは効果中の攻撃1発に敵の現HPの半分が追加ダメージとして入るんだ。つまり敵のHPが800なら400+僕のこのレイピアでの攻撃力分のダメージって感じ」
「強すぎる・・・。そんな武器を2本も・・・更にメリエンプレートまで持っていたらお手上げじゃない」
「つーかこのゲーム二刀流できるんだな。ちょっとメイジにしたの後悔」
「武器の必要STRの1,5倍のSTRであれば同じ武器を2本持つ事は可能よ。そしてゼリマブレードの必要STRは130だからあいつは195以上って事ね」
「なるほど。で、あいつは何者なの?」
「あいつはユウキ。特別よ。エルバインの中、いやアレスデンを含めてもぶっちぎりで1番強い」
「あんなのに勝てるんですかね」
「まあメリエンプレート次第だよね。メデューサとゼリマの組み合わせは対多においても最強の組み合わせだから、大体は僕とアキラ君で皆殺しにできるけど、あれだけは相性が悪すぎるからね」
「俺が生きてたら勝てるんちゃう?キャンセレーションとパラライズを入れる間に他が囮になってくれればやけど」
「まあ上手く行っても最低2人は持っていかれるでしょうね」
「・・・」
「つーかカスチンやられたんだね。あんな雑魚とおばさん相手に」
タマさんがカスチンさんを指差してクスクスと笑う。
「うるせーな。メイジ隠れてたらしょうがねえだろ」
「カスチン何回目だっけ?」
「7」
「結構やべえじゃん。次のクルセードあたりで消えそう」
サウルさんとカスチンさんのやり取りを聞いて俺は首をかしげる。
「えっと、みなさんくらい強くてもEKCがマイナスになったりするんですか?」
「ん?EKCは今28だぞ」
「え、じゃあ7回ってEKC-7で後3回そのまま死ぬと消えるって事ですよね?」
「はぁ???」
カスチンさんは意味が本当に意味がわからないと言った顔で不思議な顔をする。ミヨシさん以外のみんなも不思議そうに俺を見る。
「あれ、俺おかしい事言ってますか?」
「アキラ何言ってるの?EKCと消える事は別に関係ないわよ」
レイさんも不思議そうに俺を見る。
「え?」
「あー!そっかそっか。アキラ君達の女神リリスだったでしょ」
セイキさんが全てを理解したと言う様子で手を叩く。
「は、はい」
「あのクソアマ、相変わらずドブみたいな性格してんな」
タマさんが真顔で毒づく。
「アキラ君達リリスになんて説明されたの?」
「えーっと・・・」
『しかし気をつけなくてはならないのは、敵に倒されてしまうとこの数値はマイナスされてしまいます。10回殺されてしまうとゲームオーバーとなり、そのプレイヤーは消えてしまいます』
『この戦争が終結する条件は、片方の国家の国民の人数が、もう片方の国家の国民の人数の半数を下回った時です。その瞬間に戦争は終わり、勝利した国家の人間は現実世界に戻され、負けた国家の人間は消滅します』
『ちなみに週に1回行われるクルセードと言われる、ゲーム内の戦争では負けた国の国民全てのEKCが-1され、勝った国の国民全てのEKCは+1されます』
『何もしないと、殺されなかったとしても戦争10連敗で全員消えるって事か』
リリスと言う女神はうれしそうににっこり微笑む。
「こんな感じです」
「うんなるほど。リリスも狙ってただろうけど、アキラ君が勝手に勘違いしたって感じだね」
「狙ってって・・・何の意味があってそんなこと・・・」
「単純にあいつの性格がドブみたいに最悪ってだけか、消える条件を勘違いさせといてガンガン戦わせて戦争を活発にさせるためか。後3回死ねるのと1回しか死ねないのとでは戦い方が変わってくるからね。まあリリスの事だから後者を大義名分にした前者だろうけど」
「・・・。それで今のみなさんの反応を見る限り、EKCと消えるまでの死亡回数は別物で、いくら敵国を倒しても10回死ぬと消えてしまうと言う事なんですね」
「いや、戦争で勝つと死亡回数は1減らしてもらえるよ。プラス1とかになる事はないけどね。勝ち続ければ0回にはできる」
「あ、そうなんですね」
「EKCだけじゃ戦争に勝つメリット薄すぎだしね」
「確かにそれもそうですね。・・・ところでみなさんはあのリリスと言う女神と知り合いなんですか?」
「元ギルドメンバーよ。カルマは神になる際に自分をサポートするメンバーを何人か連れて行ったの」
「なるほど・・・。みなさんはカルマさんに着いていこうとは思わなかったんですか?」
「傍観者なんてつまんねえしな」
「とか言ってサウルは結構悩んでたけどな」
カスチンさんが茶化す。
「それにしても神になるだかなんだか知らねえけど、要するにアレスデンから強いプレイヤーを何人も連れて行っちまったって事だろ。たまったもんじゃねえな。元の仲間が苦しくなるとか考えねえのか」
キリトはそう言いながら本当に少し怒っているようだった。こいつはなんだかんだ優しいやつだ。
「確かにその通りよね。アタシ達も最初は困惑していたけれど、カルマはメデューサソードから記憶を取り込むたびに少しずつおかしくなっていってしまったのよ。前の神様の記憶の影響かしらね。中身が変わってくれば考え方も変わってしまう。最後にはカルマがアタシ達を仲間として認識していたかどうかすら怪しいわ」
「・・・切ねえな。・・・!ということはもしかしてアキラもそうなっちまうのか?」
ミヨシさんは突然俺の肩をつかんで俺を見る。
「それはアキラ君次第ね。正直どうなるかは全くわからないわ。前にも言ったけど既にカルマが神様になったのにも関わらず、再びアキラ君の元にメデューサソードが発現したのも不思議だし・・・」
ミヨシさんにつめよられ、困っている俺にセイキさんが助け舟を出す。
「そうか!それなら大丈夫だな!アキラなら大丈夫だ!」
「おっさんは楽観的でいいな」
「・・・大丈夫ですよ。俺は大丈夫。みんなとの事を忘れたりしない」
ハヤチャを斬った時、ハヤチャの記憶と共に少しカルマさんの記憶が流れ込んで来た。それはここにいるAbsolute Teamのギルドメンバーとの思い出だった。みんなと一緒にいる時の彼は確かに幸せそうで、誰よりもギルドメンバーの事を大事に思っているのがよくわかった。そんな彼がギルドメンバーを仲間と認識しなくなるほどまでに変わってしまったと言う事実に俺は不安を覚えずにはいられなかった。
「そうね。アキラならきっと大丈夫よ」
レイさんは俺の気持ちを見透かしたかのように俺を見て微笑む。
「おっしゃ。切り替えよか。明日からクルセードやしその話したほうがいいやろ」
「珍しくユニが空気読んだな」
「つかユニさんって最初からそのエセ関西人みたいなしゃべり方だったっけ?」
「そら初対面には標準語を使うくらいの教養はあるんやで、キリト君は敬語使いや」
「はい」
「クルセードって言っても俺達何も知らないんですが、一体何をすればいいんでしょう?」
「ほなセイキさんよろしく」
「はいはい。そうね。簡単に言うと敵の街を攻めて街を守っている防衛塔を割るチームとMiddle Land(通称ML)で、敵国を攻撃するメテオを発射する為のエネルギーを確保するチーム、そして自分達の街の防衛塔を守るチームの3つに分かれるわ。MLには敵の街にメテオを発射する為のエネルギーを充填できるクリスタルが3つあって、そのうち最低1つでも確保しないとダメ。そして2つのクリスタルを確保している国は1つ確保している国に対してメテオの充填速度が1,5倍になるわ。ここまではオーケー?」
「クリスタルを確保するって言うのは何か条件があるんですか?」
「それは実際にやってみたらわかるわ。MLはカスチンとサウルが担当だから2人に着いていけば大丈夫」
「まあ見てたらわかるな」
カスチンさんも頷く。
「なるほど」
「それじゃあ防衛塔の話をするわね。街には倉庫、雑貨屋、シティホール、鍛冶屋の4箇所の施設に防衛塔が2つずつ出現するの。施設のHPはそれぞれ15で、防衛塔が2つある施設にはメテオが落ちてきてもダメージは0。防衛塔が1つでも壊されると施設のHPがメテオ1回につき1減らされるわ。つまり2個壊されると2ずつ減るって事。そして先に4つの施設全てのHPが0になった方が負けになるわ」
「えーっと、じゃあ4つの施設を全て守らなくても1つだけ守りきれば負けはしないと言う事ですか?」
「そうね。ただMLのクリスタルの確保と敵国の防衛塔をそれぞれ最低でも1つずつ破壊している事が条件ね。アレスデンはエルバインに比べて数が少ないから、長引けば長引くほど勝ち目は薄くなるわ。いざとなったら守りを捨てて攻めだけに転じる覚悟も必要ね」
「思ってたよりも随分シンプルだな。まあ相手との駆け引きは多少あるか」
「すげえなキリト・・・俺は全然わけがわからないぞ・・・」
「おっさんは最初から理解する気ないだろ・・・」
「はは・・・。それで俺達はどこの担当になるんでしょうか?」
「状況次第で随時変更はあるけど、アキラ君、レイ、アタシ、タマそしてユニが最初から敵の国の防衛塔破壊に向かうわ。ミヨシとキリトはカスチンとサウルの2人と一緒にMLでクリスタルの確保」
「俺達からは一切防衛には回さないんですね」
「さっきも言ったとおり不利な状況で守りに入ったらずるずると負けるだけ。それならば相手がこちらの防衛塔に人数を割いてる間に相手の防衛塔を全て破壊するのよ。先手必勝ってやつね」
「わかりました」
「それじゃ今日はゆっくり休んで明日に備えましょ。あ、メデューサソード修理するの忘れないようにね」
「えっと、修理はどうすれば・・・」
「アイテム欄に砕けたメデューサソードって装備カードがあるはずよ。それを鍛冶屋に渡すだけ」
「あ、本当だ。行って来ます!ありがとうございます!」
「そんなら明日がんばろや~解散!」
「締まらねぇな・・・」




