世も末
「ごめんなさい。もうしませんから許してください」
酒場にいる人間は俺を含めて全員その光景に驚愕する。タマさんがレイさんに帰ってくるなり土下座をして謝り出したからだ。
「え、ちょ・・・もういいけど。あんたの言ってる事も少しわからなくもなかったから」
「え、レイさん?」
いつにもなくしおらしいレイさんに俺は更に驚く。
「だってさ!これでオーケーだよね?アキラ君」
タマさんは何事もなかったかのように起き上がり、俺をいつもの無機質な目で見る。全く反省している様子は見られないが・・・土下座までした以上何も言う事ができない。
「は、はい・・・わかりました」
「すげえな。アキラがやらせたのか・・・」
ミヨシさんとキリトも呆然とする。
「んじゃ、後はアキラ君が話しまとめといてよ。僕は眠いから寝るぽ」
呆気にとられる俺たちをおいて欠伸をしながらタマさんは店を出る。
「ごめんねアキラ君。あいついつもああだから・・・。また明日会いましょう」
そう言うとセイキさんもタマさんに続いて店を出る。
しばらくの間、俺達を含め他の客もその様子を呆然と見守る。
「あ、じゃあええと・・・続きしましょうか」
「そうだな。ちゃんと全部話してもらおうじゃねえか」
ミヨシさんは勢いよく椅子に座る。
「そうね。そうじゃないとあたし蹴られ損だし」
「もちろんです。ただ少し難しい話なのでお酒を飲む前に話しましょうか」
「・・・はい」
レイさんは少し不満そうな顔をするが納得する。
「ではまずこの武器、メデューサソードの事から」
俺はそう言うと、続いてメデューサソードのこのゲームでの性能、この世界の記憶をすべて集約している事、そして神様の事について、俺が現時点でわかっている事、セイキさんとタマさんから聞いた事を全て3人に話した。
「うむ。さっぱりわからん!」
ミヨシさんがなぜかドヤ顔で叫びだした。
「なんで得意げなんだよおっさん・・・」
「まあ・・・正直あたしも完全には理解できてないけど・・・。まあなんとなくわかったわ。とりあえずものすごいもんなのね、その剣」
「で、お前は神様になるつもりなの?」
「いや・・・まだそんな事は急すぎて、それに漠然としすぎてて自分でも事実を受け止め切れていない」
「まあ、そうだよな。じゃあそれでいんじゃね?別にギルドに入るのも手っ取り早く強くなるためなんだろ?あの2人がそこまでアキラに賭けてる時点でもう他の手がないんだろ。じゃあ俺らもそれに乗るしかないわな。神がどうとかはそのうちなるようになんだろ」
「そ、そうだな。珍しいな、キリトがそんな風にちゃんと俺達に意見を言うの」
「だってこのおばさんなんか落ち込んじゃって調子でないみたいだし」
「おい・・・」
俺は恐る恐るレイさんを見るがレイさんは怒る様子もなく俺達を見る。
「ほらな?」
キリトはお手上げといったポーズをする。
「レイさん、本当に大丈夫ですか?」
「え、何が?あたしそんなに変?」
「いやだって今キリト、レイさんの事おばさんって・・・」
「うん・・・そうよね。実際もういい年してるもの。みんなと一緒にいるとなんか昔に戻ったみたいでなんかついはしゃいじゃった」
「いや、なんかすみません・・・」
「こりゃ重症だな」
「とりあえずギルドに関してはまた明日セイキさんから詳しい連絡が来ると思うので、今日は楽しく飲みましょう」
「そうね!」
レイさんが少し元気になる。
「では気を取り直して、明日からまた大変そうだけどがんばりましょう!乾杯!」
俺の音頭で俺達は飲み食いをして楽しく過ごしたが、俺は疲れていたのかすぐにそのまま机に伏して眠ってしまった。
「あらら。一瞬で寝ちゃったわね」
「色々疲れてんだろう。俺にはさっぱりわからなかったが、やけに難しい話をしてたみたいだ」
「はは。おっさんははなから理解する気ねえだろ。ふわぁ・・・俺もねみいからもう寝るかな。近くの宿屋行って来るわ」
そう言うとキリトは自分にAMPとインビジブルをかけて外に出た。
「あいつ何気にすごいわよね。こっちの街は確かにエルバインが襲ってくる可能性があるけど、あんなにすぐに環境に適応するものなのかしら。戦闘に関しても、中2病さえ発動しなければ完璧に動いてる」
「元々ゲームばっかしてたみたいだしな。慣れてるんだろう。それよりお前はもう大丈夫なのか?」
「え、なにが?」
「何って腹蹴られてそこからえらい落ち込んでるじゃねえか」
「ああ、そうね。実際蹴られてすごい痛かったし正直あいつみたいな男に会ったのは初めてだったからすごく怖かった。でもあいつの言ってることも一理あるなって少し考えちゃって」
「俺には全く理解できんがな」
「あいつの言う通り、あたしってなんか自分は当然いつも優位なポジションにいるって認識があって、誰が来ても強気に出れば言う事聞いてくれるみたいな感覚はあったのよ。正直あたし美人だし、男はみんな優しくしてくれた」
「まあ、そうだろうな」
「あたし一人っ子だから、親もずっと子離れできなくてさ。だから本当に周りに甘やかされて生きてきたから、自立しなきゃな~って思ってる間に30近くになっちゃった。キリトからしたらおばさんよね」
「おばさんって事は全くねえと思うが、まあ親が子離れできねえってのは子供の責任でもあるな。やっぱり結婚式とかそう言う形で『ああ、この子は親元離れるんだ』ってのを実感させてやらねえと、やっぱりいつまで経っても子供のままって認識を変えるのは難しいんじゃねえか」
「うーん。そう言うものなのかな。そりゃあたしも結婚したいとは思うけどさ、こんな性格だし男と付き合っても長続きしないのよ。もっとかわいく生きれたらいいんだけどね」
「そう言うのが原因で死にたいとか考えたのか?」
「あんたいきなり核心ついてくるわね。まあ全く関係ないわけではないけど」
「そんな事で思い悩む必要もねえと思うがな。まあお前みたいな美人でもそんな事で思い悩むものなんだ。現実は難しいってこったな」
「そんな事そんな事ってなんかむかつくわね」
「あぁ、すまねえ。そう言うつもりじゃねえんだ」
「わかってるわよ。冗談。そんな事よりアキラよ。呑気に寝てるけど」
レイはアキラの顔を見ながら心配そうにつぶやく。
「俺は全然よくわかんなかったけどよ。アキラが神様になるのか?それなら単純にいい事じゃねえか。アキラが神様ならいい世界になるだろう」
「そんな簡単な問題じゃないでしょ。そりゃアキラが立ち直ってこの世界で戦う力を手に入れた時はほっとしたけど・・・。いくらなんでもそんなぶっ飛んだ話になっちゃうなんて。普通そんな責任1人じゃ抱えきれないわよ」
「まあなるようになるだろ。俺達はアキラを支えてやればいい。そしてこの世界で勝ち抜いて、みんなで戻ろうや」
「いいわね。あんたは気楽そうで。あんたみたいなのがこの世界に来るなんてのも、現実は世も末って奴なのかしらね」
「がっはっは。俺にだって一時の気の迷いくらいはあるさ」
高らかに笑いながら酒を飲みだすミヨシを見て、レイは苦笑いをしながらため息をつく。




