つなぐ力
「まだいないの?お互いインビジブルしてて気づかずにすれ違ったとかじゃないでしょうね」
「いえ、多分味方のインビジブルは見えるはずです」
「じゃあどういうことよ。もう入り口よ。あたしら置いて逃げたのかしら」
「・・・」
そんな事をするとは思えないが、こうなるとさすがにそう言う事も考えてしまう。
「うわ、あいつ・・・」
入り口が見えてくると真っ先にキリトが口を開く。入り口は2人のエルバインによって封鎖されていた。その2人は・・・タクマとミカだった。ハヤトさん達の方が圧倒的に数が多いのにも関わらず、バラバラに突っ込んで行くため、1人ずつ順番に殺されていた。
「あの人数であの2人にずっとやられ続けてたって事・・・?嘘でしょ」
「いや、あいつらなら十分ありえます・・・」
ミカはPLに入ってくるアレスデンプレイヤーに順番にPFAをかけていき、PFMをかけられなくしてからパラライズで片っ端から拘束していった。中にはミカに弓を撃つ者もいたが、ミカはPFAで防いでいる。カメオさんがそのミカに必死に魔法を撃つが全て抵抗されていた。恐らくミカのMAGは200だろう。そして拘束されたプレイヤーをバーサクをもらったタクマが片っ端から殺し続けていた。タクマはミヨシさんと同じフランベルジュを装備している。
「こいつら一生来るんだけど。EKうめぇ」
「きゃはは。20人近くいるのに2人相手に虐殺されるってやばいでしょ。ステータスも装備も大差ないのに。馬鹿ってかわいそー」
「あ、こいつDEXマンだわ」
そう言うとタクマはすぐにターゲットを別に変える。
「はいはい」
ミカはエネルギーストライクを連打してタクマが放置したプレイヤーを殺す。
さすがにタクマにはPFMがかかっているのか、タクマの足にはいくつかの矢が刺さっている。しかしタクマはそんな事を一切気にも留めていないように自由に動き回る。
「うおおおおおおおお」
一方的に殺され続けているのにも関わらず、ハヤトさん達は戻ってくるなりまっすぐにタクマとミカに向かって行くが同じように拘束されて何もできない。
「ち、ちょっと・・・やばいでしょあれ。全員死ぬわよ」
「はい・・・」
「あいつらが雑魚すぎるのもあるけど、敵の手際がよすぎる」
「どうすんだ。助けに行かねえのか?」
彼らもさすがに消えるまで突っ込み続ける事はしないだろう、どこかでみんな止まってくれればいいが。
「問題はあれだな」
キリトは苦笑いをしながらカメオさんを見る。
「あいつあの時-8だったし、あれから一回でも死んでたとしたら下手すると消えるだろ。何考えてんだ」
「・・・。何も考えてないでしょ・・・」
「・・・」
実際その通りな気がする。それに先日の戦争で一度負けた事によってほぼ確実にEKCは-9になっているはずだ。どこかでEKCを拾っていなければだが・・・。
「お前マジでいる意味ないよな。何してんだ?」
俺達の悪い予感は当たり、タクマはカメオさんの目の前に立つ。
「さっきから必死に魔法使ってるけど全く当たってねえし、かと言って味方にバーサクもPFMもかけようとしない。ブリザードもないみたいだしどこにステータス振ってんだよ。」
「ひ、ひぃいい」
「きゃはは。豚さんびびってる」
ミカは他の戦士にパラライズを使いながらゲラゲラ笑う。
「い、いやだぁ。殺さないで」
カメオさんはタクマにパラライズをかける。
「いやだからPFMかかってるって俺」
「カメオさん逃げるんだ!!」
コーイチさんが叫ぶがカメオさんは尻餅をついて動けない。
「うける。パラかけてないのに勝手に自分で止まってくれてるよ」
「お前みたいなゴミ見てると虫唾が走るんだよなぁ」
そう言うとタクマはカメオさんの両足にフランベルジュの先をドス!ドス!とつきたてた。
「痛いいいいぃい、いやだぁあああ死にたくないいいいい」
「なんだお前もしかしてこれで消えるの?」
「そうですぅうううう助けてくださいぃいいい」
「マジか。最高じゃん」
そう言うとタクマは目をギラギラと輝かせながら剣を構える。
が、咄嗟に何かに気づいたのか、カメオさんをつかんで持ち上げる。
バシュ!と言う音と共にカメオさんの腹に矢が突き刺さる。
「いひいいぃ。いだいいぃいい」
カメオさんはタクマにつかまれながら身悶える。
「嘘でしょ・・・どんな反射神経してんのよ」
矢を放ったレイさんが呆気にとられる。
「ばれちまったら行くしかねえな」
「・・・やってみましょう。もしもやばくなったらすぐに退散する事だけ約束してください」
「オーケー」
俺は自分とレイさんとミヨシさんにPFMを、キリトは自分にPFMとレイさんとミヨシさんにバーサクをかけた。
「あれれ、どこかで見たお兄さんとおじさんが来たよ」
ミカとタクマは矢が飛んできた方向を見てすぐに俺達に気づく。
「雑魚がまたノコノコ俺の前に現れやがって。しょうもねえ矢撃つ前にインビジで奇襲でもしてくりゃまだチャンスあったのにな。そう言うとこが雑魚なんだよ。おい豚、俺の前に立て。動いた瞬間殺す」
タクマはカメオさんを盾にして弓を構える。
「とんでもねえやつだな」
「女の子の方はPFAかかってるからあたし何もできないわよ。どうする」
「レイさんは一番VITが高いので・・・」
盾になれとは言いづらくて俺は口をつぐむ。
「大丈夫よ。こんな事もあろうかと一応あたしでも持てる盾持って来たの」
「マジですか!すげえさすがレイさん!」
俺は本気で感嘆していると、頭の真横を矢が通りぬけ、レイさんがちょうど出した盾に矢が当たって落ちる。
「しゃべってる暇はねえな。じゃあキリトはレイに任せて俺とアキラでミカをやるぞ」
「・・・はい。」
俺はチュートリアルの時に斬られて血しぶきをあげながら笑うミカの顔を思い出す。
「あらら、タクマどうするのこれ詰んでない?逃げる?」
「ばーか」
そう言うといきなりタクマはカメオさんを突き飛ばし、倒れたカメオさんの首にフランベルジュを思いきり食い込ませると、のこぎりを使うかのように足を使ってごりごりと首を斬りだした。
「お、おいやめろ」
「ぎ、ぎやぁあああああああああぎゃあああああああああああぎええええええええええええええ」
カメオさんは聞いたこともない音の悲鳴をあげながら、首が身体から切り離される。切り離された首をキリトが持ち上げると、VITの高いカメオさんはそれでもまだ死ねていないらしく、ヒュウヒュウと音にならない声を上げ続けていた。
「んだよ。やっぱVIT豚の半端クソメイジだったか」
その間俺達を含め全てのアレスデンプレイヤーはあまりの光景に目を見張り、ミカのパラライズによる拘束が切れているのにも関わらず、誰も声を出す事もできずに呆然と立ち尽くした。
「あ、うわ・・・」
カメオさんが絶命し、死体も大量に飛んだ血も消えると俺達の頭に電撃が走ったかのようなピリっとした痛みが走り、また何か記憶がごっそり抜け落ちた感覚だけが残った。
「うぅ・・・おえ・・・」
キリトは耐えられずに吐き出す。
誰かが無残な殺され方をした事実だけが脳裏に焼きつくが、誰がやられたかも、どのようにやられたかも全く思い出せない。ただただ気持ちの悪い激しいトラウマが残った感覚だけが残る。
「なに・・・これ・・・こんな事ってあるの、うぷっ・・・」
キリトにつられてレイさんが吐き出すと俺とミヨシさん以外の全員が同じようにその場に崩れ落ちて吐く。
「ははこいつらメンタルよっわ。おい、ミカ」
「もうしてる~」
「あ、しまった!」
俺とミヨシさんは少し耐性があったものの、すぐには動けずに呆然と立ち尽くしてしまっていた。俺はタクマの声にすぐに反応したが、既にPFMの切れた俺とミヨシさんにミカはPFAとパラライズをかけていた。
タクマはそれを見てフランベルジュを再び構えるとまっすぐに俺の方向に向かってきた。
「やっぱ動けるやつからやっとかねぇとなぁ」
「えーあたしそのお兄さん割と好きなんだけどなぁ。タクマ嫉妬してるの?」
「んなわけねえだろ。なんとなくむかつくんだよ!オラ!」
俺は拘束されながらもなんとかタクマのフランベルジュをグレートソードで受け止めるが、繰り返しているうちにDEXもSTRも負けているためか少しずつダメージを食らってしまう。
「はぁはぁ・・・グレートヒール!」
キリトはなんとか立ち直り、よろめきながら俺にヒールを使う。
「ふぅ・・・ふぅ・・・ちょっと何してんのよ。あんた達はあのメイジを追いなさい!この人数全員にパラかけ続ける事なんてできないんだから」
レイさんも立ち上がり叫ぶ。タクマに矢を放とうとするが、俺とミヨシさんが間にいるために狙えずにいる。
「タクマやっぱ無理だって。PFMとバーサクだけかけといてあげるから、後はがんば~。にゃはは退散~」
そう言ってミカはタクマにPFMとバーサクをかけると自分にインビジブルをかけて走って行く。しかしすかさずキリトがディテクトでミカをあぶりだす。
「おっとぉいい反応」
と言いながらも何事もなかったかのようにミカは再び自分にインビジブルをかける。
「キリトはひたすらあいつをあぶりだして」
「だめだ、これをやってたら俺のMPが枯れて先にアキラが死ぬ」
「く・・・っそ・・・」
ディテクトを使った事によりキリトのヒールが一瞬途切れた事と、タクマにバーサクがかかったことで俺は一気にダメージを受け、耐え切れなくなっていた。
ガキィン!と言う音と共に再びグレートソードでタクマのフランベルジュを受け止めるが、体力低下とバーサクにより少しずつ押し込まれ、フランベルジュの刃がめりめりと俺の肩に食い込む。
ああ、やっぱりそうだ・・・。いつもそうだった。幸せだった時間の先にはいつも破滅が待っている。楽しい時間も幸せな時間もいつも終わってしまうんだ。だから怖いんだ。幸せな時間が。
同じ事の繰り返しだ。やっぱり俺はこいつには勝てない。何度やっても。だからいずれ俺はこいつに消されるんだろう。俺もこいつみたいに迷わずに生きられたら・・・。幸せな時間すらも俺は不安を抱えて生きている。何も考えずにただ幸せを噛み締めていられたら楽なのに。
「どうして・・・」
「またそれか。お前はいつもどうしてどうしてうるせえんだよ」
「・・・どうしてお前は迷わないんだ?他の人もお前と同じように生きているのに、どうしてそんなに簡単に割り切って人を殺せるんだ。お前は不安とか迷いとか、そういうものに囚われないのか」
「はぁ?この期に及んで・・・はぁ、馬鹿かお前は」
タクマが力を少し弱める。
「何かしゃべってるぞ!今のうちに」
「待って!・・・今のアキラには必要な事かもしれない」
レイがキリトとミヨシさんを止める。
「どう言う事だよ」
「いいから、少しだけ待ってあげて。アキラ自身も気づいてるのよ。このままじゃダメって事に」
「逆に聞こう。お前は自分が一体何に囚われているのか理解しているか?俺は現世を生きていた時、本当にクソつまらなくて、何で俺はこんなクソみたいな時代のクソみたいな世界に産まれたんだって毎日後悔して生きてきた。例えば戦国時代、相手に家族がいようがいまいが、敵を多く殺して勝った国が正義だった。他人と命を奪い合う事でお互いの存在意義を賭けていたんだ」
タクマはフランベルジュを地面に突き刺す。
「なのになんなんだ現世のあの世界は。誰が自分の存在に価値を感じている?誰が自分の生きる意味を見出せている?誰も見出せてないだろそんなもの。どいつもこいつも資産を築いて積まれた金に満足するか、子供でも作って子供のために生きているだなんて妥協して、子供を自分の存在意義にしたりして納得してなんとなく生きてやがる。そんな世界のどこに生きる価値がある?」
「うおおおお!」
コーイチさんがタクマに襲い掛かる。
「だーめ!じっとしてなきゃ」
インビジブルで逃げたと思っていたミカが現れ、再びハヤトさん達を拘束する。
「一緒に聞こ?」
ミカはニコっと笑う。
「俺はこの世界に来て心底うれしかったんだ。俺はこっちに来てから自分でも信じられないくらいに毎日が充実している」
「・・・やっぱりお前は狂ってる」
ダメージを負っているせいもあって、疲れきった俺はタクマの言っている事の意味が全然わからず、なんとか悪態をしぼりだす。
「狂ってる?はは、やっぱりお前は馬鹿だな。最初の話に戻ろう。お前は現世の倫理観とか価値観に囚われて、俺が狂っているだとかこの世界がおかしいだとか間抜けな事をぬかすんだろう?だが思い出してみろ。この世界も現世も作ったのは同じ存在なんだぞ」
確かに神様は最初に会った時にそう言っていた。
「同じ存在が作った世界で、どっちがおかしくてどっちが正しいかなんてお前達が決められる問題ではないだろう。俺からすればこっちの世界が正しいんだよ。俺に言わせればお前達が狂ってんだ。目的がはっきりしている世界の方が生きやすいに決まっているだろう」
「ああ・・・」
「どうした?何も言い返す事もできなくなったか?じゃあ死ね。お前は今から俺自身がただ自分の存在の価値を認めるためだけに死ぬんだ」
「いや、わかったんだよ。なんだお前も一緒じゃないか」
「なんだ?」
「お前は不安なんだな。だからこうやって人の命を奪って、明確に示された目標どおりに生きる事で、それだけを自分自身の存在意義だと信じて生きているんだな。そう生きていないと不安になるんだ」
「はぁ?」
「お前も俺もみんな不安なんだよ。自分の存在意義、何をすべきかなんて何もわからない。何かをしても正しいかなんてわからない。そんな中で迷いながら苦しい中で必死に生きているんだ。でもお前はそれが怖いから、そんな物にしがみついて安心しようとするんだよ。」
「馬鹿かお前は。現にこの世界で強いのは俺達で、お前らはこれから消えて行くだけの存在だ。俺達が正しいんだよ」
「そうだな。お前達は強い。お前達は自分の力に自信があるからこの世界で迷わないんだ。お前の言うとおり、この世界で迷わない力は確かに必要で、それは強さだ。だから俺は俺自身じゃない、俺とつながる全ての大事な人とのつながりをもう失わないために、その為にこの世界を戦い抜いて勝つ。もう誰も失いたくない。その為だけに生きればいい」
セイキからもらった錆びた剣が光りだす。
「なんだよこれ。てめえなにしたんだ」
タクマが思わずアキラと距離をとる。
「現世でもそうだった。俺が小さい頃から勉強して来たのは、ただ大切な両親を喜ばせたいだけだったんだ。俺にはその2人とのつながりだけが生き甲斐だった。だからそれがなくなった時、喜ばせる事ができなくなった時にどうすればいいかわからなくて、迷ってしまって立ち止まってしまったんだ」
錆びた剣の強い翠の光はどんどん強さを増して行く。
「わかったんだよ。俺の戦う意味、人を殺す事ですら自分が許せる理由。大事な人達を、大事な人達とのつながりを守って俺は現世に帰る。もう俺は迷わない。もう絶対に仲間を失わない。その為に今、お前を殺せる力を受け入れる」
剣は形を変え、鮮やかな翠の光をあたり一面に撒き散らす。
「わかる。この剣が何で光っているのか、一体どうなるのか、何ができるのか。何も知らないはずなのになぜか直感的にわかる」
「あちゃー・・・。これはやばいね。あたしは本当に逃げるよ」
ミカはインビジブルを自分にかけて走り去る。
「クソ!」
タクマも逃げようとするが、アキラが持っている剣でタクマを斬りつけると、タクマは全く身動きがとれなくなった。パラライズのような拘束とは違い、完全に相手の動きを封じていた。
「クソ!クソ!!ふざけんじゃねえ!なんだそのチート武器」
タクマはしゃべれないはずなのに、タクマの言いたい事が直接アキラの頭に流れ込んでくる。そして頭の中にぽっかりと空いていた穴もいつの間にか埋まっていた。
「亜美さん・・・カメオさん・・・」
アキラがそうつぶやいた瞬間にその場にいた全員の頭にズキっとした痛みが走る。
「タクマ、お前の言いたい事、全部がわからないわけではなかったよ。でも現世の戦国時代とこの世界は違う。どんな時代でも人を殺した人間は殺した相手の事を考えて、色んな形の痛みや罪を背負って生きてきたんだ。それはとても大事な事だったんだよ。殺した相手の記憶が消えて、それを背負う事もできないこの世界はやっぱり狂っている」
そう言うとアキラはタクマの首に剣を振り下ろす。
「ありがとう」
アキラがそうつぶやくとタクマは何も言わずに絶命し、ゆっくりと死体が消えて行った。
「やった・・・のね?」
レイさんがしばしの沈黙をかき消す。みんな何が起きたのかわからず、呆然としている。当たり前だろう。俺も急展開すぎてよく状況は飲み込めていない。
「疲れたな・・・」
タクマを倒して歓声でもあがり、みんな喜ぶかとも思ったが、そうもいかなかった。恐らく先ほどのこの武器の光の影響でみんなカメオさんの事を思い出したのだろう。
「カメオさん・・・うぅ・・・」
ハヤトさんとコーイチさんが泣き崩れる。
「亜美・・・どうして突然俺は思い出したんだ。信じられねえ。この記憶が消えていたなんて。アキラも思い出したのか?」
「はい。話すと少し長くなります。一度戻りましょうか」
「アキラ、なんか顔つき変わったわね」
「え、そうですか?自分ではわかりませんが」
「まあいいわ。とにかく帰りましょ。今日はぱーっとやるわよ」
「今日はって、毎日酒飲んでるじゃねえか」
「今日も、よ」
いつもの日常に戻ってきた感じがした。でももう不安はない。この幸せは俺が守るのだから。その為の力がある。だから俺はもう迷わない。




