再来のセルシその1
いつからだろう。こんな風に穏やかな、幸せな時間が怖いと感じるようになったのは。
「おい。ボケっとするな。バーサクやらねえぞ」
キリトに言われてはっと我に返る。
エルバインが襲ってくる事もなく、装備が強くなったおかげで以前よりもはるかに楽に狩れるストーンゴーレム。あまりにも単調な作業だった為、俺達は仲良く話しながらだらだらと狩りを続けていたのだが、一瞬の無言の中で俺はふとそんな事を考えていた。
「なんか思ったよりあっけなく100レベルになっちゃいそうね。まさかずっとこのゴーレム倒し続ける事になるとは思わなかったわ」
「一応この上位の狩場はあるらしいぞ。経験値もドロップもうまいが、エルバインの領地との境目だから襲われるリスクは高いがな」
「あえてリスクを取らなくてもいいだろう。もうすぐここも終わりなんだから、このまま上げちまおう」
「そうですね。とにかく今は強くなってさっさと次のマップに行っちゃいましょう」
そして俺達は再びゴーレムを狩り始めた。
ストーンゴーレムの狩場はPL内でも比較的安全かつ美味しい場所だったため、アレスデンのプレイヤーが多くいた。俺達と同じようにパーティを組んで和気藹々と狩りをする人達もいれば、ソロで黙々と狩りをしているプレイヤーもいた。
「あれ、なんか人減ってきましたね」
しかし何も考えずにゴーレムを狩っているうちに、俺達は最初に狩っていた場所から少し離れた場所まで来ていたが、先ほどまでどこもプレイヤーであふれていた狩場だったのにも関わらず、ふと周りを見ると全く人がいない事に気づく。
「人少ないほうが美味いしいいんじゃねえの」
「そうね。今のうちにガンガン稼ぎましょ」
「助けてくれぇえええ」
俺達はバーサクをかけなおし、再びゴーレムを殴ろうとした瞬間、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「カメオさん!?」
声の方を見ると、カメオさんがボロボロになりながら必死にこちらに向かって走ってきていた。そしてその後ろには見覚えのある少女がカメオさんを追いかけていた。
「あれは・・・セルシの・・・」
「あ、あなた達は先日の!助けてください!セルシが・・・またあいつにみんなやられて・・・」
カメオさんは俺達を見つけるなり転がるように俺達の後ろに隠れた。
「チッ」
カメオさんを追いかけていた少女は、俺達を見るなり舌打ちをして、足を止める。
「どう言う状況?」
レイさんは俺とミヨシさんの後ろに位置どり、矢を構える。
「コーイチさんとハヤトさんに連れられて、その他の知り合いも集まってみんなでサイクロプスを狩っていたら、セルシ達が現れて・・・私以外全員やられて・・・」
ブルブルと震えて頭を抱えながらカメオさんは言う。
「あんたよくそれで生き残れたわね・・・。サイクロプスって何よ」
「さっき話してた上位の狩場のモンスターだろ。それより話してる余裕ねえ。他のやつも来たぞ。どうする」
キリトの言うとおり、少女の後ろから何人かの人影が見える。
「おやおやおやぁ・・・。誰かと思えば訓練所で僕を殺してくれたクソカスどもじゃねえかぁ。あああああああああ感謝!こんなに早くこのゴミカスどもをぶち殺す機会が与えられるなんて!神に感謝!」
少女の横にセルシが現れるといかにもうれしそうな顔をして目を見開いて叫びだした。
セルシの後ろにも見えないが何人かいるのがわかる。おそらく10人以上・・・。
「だめだ。逃げましょう」
「だな」
キリトはそう言うと即座にミヨシさんとレイさんにPFMをかけ、俺はカメオさんにPFMをかけた。
「カメオさん!早く立って!逃げますよ!」
「逃がすかボケェ!!!!!」
セルシは少女と他の仲間にバーサクをかけ、少女と他の仲間はカメオさんに向かって走ってくる。
「ひぃいいい。だめだ!私ももうここでおしまいだぁ・・・」
「くそっ。世話焼けるわねほんとに」
レイさんはそう言いながら少女達の足に矢を撃つ。キリトもすかさずレイさんにバーサクをかける。
少女達は矢を撃たれると少し動きが鈍くなった。
「ほら!早く逃げて今のうちに」
「ひぃいい」
レイさんの声に合わせて俺はカメオさんにインビジブルをかける。カメオさんの姿は見えないが声と足元の草の動きから逃げようとはしているのがわかった。
その瞬間、レイさんの横の草がつぶれるのがわかった。
「レイさん危ない!」
俺がそう叫んだ瞬間、セルシの仲間と思われる戦士がレイさんに切りかかる。
「あっぶな」
しかしレイさんは俺の声で一瞬早く気づけたため、DEXを活かして戦士の攻撃を避ける事ができた。
だがその次の瞬間、少女達がレイさんに追いつき、レイさんを背後から切りつけようとする。
「ふん!」
すかさずミヨシさんが間に入り、レイさんを守る。俺はすぐにレイさんにインビジブルをかける。
「ディテクトゥ!インビジボゥ!」
セルシがそう叫ぶとレイさんとカメオさんのインビジブルが解けてしまう。
「オラ!隠れても無駄だぞ!僕が延々とあぶりだしてやる。オイ!お前らボケっとしてねえで早く追っかけろ!」
「パラライズ」
キリトが追いかける戦士を拘束する。
「あれ、入るんだ。もしかしてPFM使えるのセルシだけ?」
そう言うとキリトは次々とセルシの仲間の戦士を拘束していく。あわててセルシは味方にPFMをかけていくが、既に拘束されたプレイヤーの拘束が解ける事はない。キリトのパラライズに並行して、俺はミヨシさんとレイさんにインビジブルをかける。敵が拘束された事によって、2人はその場から離れる。
「あああああああああああああ!うぜえええええ。おまえらPFMくらいは覚えとけやこのポンコツ脳筋戦士どもがァ!!!」
ひたすら仲間にPFMをかけていたセルシはそう言うと再びディテクトを詠唱するが、既にミヨシさんとレイさんはその場から離れていた。
「キリトも逃げるぞ!」
「わかってるよ」
そう言うとキリトは自分にインビジブルをかけようとする。
だがパシュン!と言う音とともにキリトの詠唱は中断されてしまう。
「うわまじか。頼む」
キリトは俺を見てインビジブルをかけるよう促す。
「だめだキリト・・・。俺はまだMAGが20しかないからさっきのでMPが枯れてしまった・・・」
バシュン!バシュン!と言う音と共に、パラライズで拘束されている敵が矢を放つ。
「オラオラ死ねぃ!クソボケがァ!雑魚の癖に邪魔しやがって。お前だけは絶対に逃がさんぞ!」
DEXもVITも一切振っていないキリトはもう俺が近づく前にでも死んでしまうだろう。キリトの死を無駄にしないために俺はすぐにでも逃げなくてはならないが、自分が1度インビジブルを使えてたらと言う申し訳なさからキリトを見捨てて逃げる判断ができないでいた。
「くっ・・・いってぇ・・・。おい。何ボケっと見てんだ。お前いてももうなんもできねえだろ!さっさと逃げろクソ童貞」
「ああ・・・すまん・・・すまないキリト・・・」
キリトに背中を押されて、俺はようやく逃げる。
少し走るとすぐにレイさんとミヨシさんに追いついた。どうやら心配して待っていてくれていたようだ。
「カメオさんは?」
俺が追いつくと2人も再び走り出す。
「あいつはそのまま真っ直ぐ逃がしたわよ。キリトは?」
「弓に捕まって・・・。俺のMPさえあればインビジブルでぎりぎり逃げられたのに」
「悔やんでも仕方ないでしょ。あんたはできる事したんだから、あいつはまだ余裕あるから、妥当な結果よ」
「相手があの人数じゃ全滅してもおかしくなかった。仕方ねえ。とりあえず入り口でキリトと合流しよう」
「おそらく拘束が解けて真っ直ぐ俺達を追ってきてると思います。一度PLから出て応援を呼びましょう」
話しながら走っているうちに入り口が見えてきた。
「お、既に集まってるみたいだぞ」
ミヨシさんが言うとおり、入り口にはアレスデンの味方が集まっていた。恐らくハヤトさんとコーイチさん達がセルシにやられた後にすぐに集めたのだろう。その中には2人の姿もあった。
「お、アキラ君にレイちゃん、それにミヨシさんも久しぶり」
やられた後とは思えないほど爽やかな笑顔でハヤトさんは俺達に声をかける。
「アキラ君達もセルシに襲われたみたいだね。カメオさん助けてくれてありがとね。この人もう後ないから、ほんと助かった」
「ありがとうございます。ありがとうございます」
カメオさんはコーイチさんの後ろで震えている。
「襲われたみたいだねって、明らかにカメオのせいであたし達巻き込まれたんだけど。キリトの落とし前どうつけてくれるのかしら」
レイさんが小声で毒づく。
「はは・・・」
「何とか逃げられたみたいだな」
話しているうちにキリトが戻ってくる。
「ああ。ありがとうキリト。ごめんな」
「もういいって。クッソ痛かったけどな。マジで死ぬかと思ったわ。死んだけど」
「どっちにしてもあたし、ここまで走ってる間にSP枯れちゃったから、あんたのVITじゃSP枯れて追いつかれてたわよ」
「ぐっ・・・だが俺はなんと言われようがVITには振らんぞ!」
「はぁ・・・。まああんたが死ぬだけだからいいけどさ」
「大丈夫だ!次からは俺がキリトを担いで走る!」
確かに考えてなかったが、担いで走った場合ってSPの減りとか移動速度とかってどうなるんだ。今度試してみよう。
「さてさて、人数も揃った所だしセルシ狩りに行きますか」
アレスデンサイドのPL入り口のエントランスには約20人ものプレイヤーが集まっていた。
「これだけいれば余裕そうね」
「ですね。でもセルシ達もここまで追ってきていないって事は既に撤退している可能性もありますね」
「それならそれでいいんじゃね。さっさとゴーレム食ってこんなとこおさらばしようぜ。後ついでにこれ覚えてきた。暗黒魔法!ブリザード!」
そう言うとキリトの前に大量の氷柱が落ちてきて、すさまじい音を立てながら地面に刺さっていった。
「お、おおおお!すごいぞ!キリト!」
ミヨシさんが興奮してガッツポーズを取る。
「すごいじゃない。それ一番強い魔法でしょ。そんなにすぐ覚えられるのね」
「久々に聞いたな、その暗黒なんとか。以前ほど気合入ってない気がするけど」
「飽きたものの、やはり魔法を使うとなれば気合を入れないとな。だがMAG全然あげられてないからこれ2発撃つとMP枯れちゃうけどな」
「使えるのか使えないのかよくわかんないわね・・・。あたしにバーサクかけてるほうが強そうだわ。つかなんで今から行くって時にMP使ってるのよ」
「1発分くらいなら着くころには回復するっつーの」
「すげえ!ブリザードを覚えているやつがいるぞ。これで一網打尽だ」
味方の中の何人かがキリトのブリザードを見てガヤガヤと騒いでいる。それを見てキリトは少し満足気に微笑む。
「それじゃ一旦俺達が中の様子見てくるんで、ハヤトさん達は後からついてきてもらっていいですか?20人も一度に動くと逃げられると思うので」
「う、うん。そうだね。それにしてもアキラ君達急に頼もしくなったね。助かるよ」
「あんた達がどんくさすぎるだけでしょ」
レイさんはまた小声で毒づく。ただ聞こえないように言うだけ、少しは気を使っているらしい。
「それじゃ行ってきます。ちょっとしたらすぐ着いてきてください」
そう言うと俺はレイさんと自分にインビジブルをかけ、キリトはミヨシさんと自分にインビジブルをかけてストーンゴーレムの狩場へと向かった。向かう前にハヤトさん達の方を見ると、俺達の手際のよさに驚いたのか少し呆気に取られてこちらを見ていた。どうやらパーティーメンバーだけでなく、自国のプレイヤーのインビジブル状態の姿は見えるようだ。




