それぞれの夜その3
「それで、突然どうしたんですか?」
俺はセイキさんに連れられて、市役所の近くにある酒場に来ていた。
「どうって、たまたま通りがかったら見た顔がしょぼくれてるから元気づけてあげようとしただけよ」
どうしてこんなに強い人が初心者しかいないあんな場所を通りがかるんだ・・・。と思ったが俺は黙っていた。
「嘘よ。嘘。ちょっとアキラ君の事が気になって見に来てみたのよ」
「なんでセイキさんみたいに強い人が俺なんかの事気にかけるんですか・・・」
「なんでってアキラ君、小学校とかで気になる女の子とかいなかったの?異性の事が気になるだなんて、別に理由なんかないじゃない。なんとなく気になったりするものだったりするじゃない」
セイキさんはうれしそうに言う。異性・・・?と突っ込みそうになったが俺は言葉を飲み込む。
「まぁ・・・はい。なんとなくわかりました」
俺がそう言うとセイキさんは満足そうににっこりと笑って、急に真剣な顔になった。
「ふふ。それでアキラ君。なんであんなに落ち込んでたの?何かあったの?」
「ああ、いえ、俺がエルバインにやられてしまって、それがたまたまチュートリアルの時にいた相手で、色々考えてしまいまして・・・」
「なるほどねぇ。それは辛かったわね。その子達はそんなに強いの?」
その子達?何で相手が子供だってわかったのだろう。この人くらい強ければ相手はみんな子供みたいなものなのだろうか。
「強い・・・と言うかそもそも俺達と根本的に頭の作りが違うと言うか・・・俺達が躊躇ってしまう事を平然とやれる強さがあるといいますか、なんかすみません、よくわからなくて・・・」
「ううん。大体わかるわよ。要するにアキラ君はまだゲームの世界とは言え、人を殺す事に抵抗があって、敵の子には一切それがないとかそんな感じの話かしら?」
「はい。まあ簡単に言えばそう言う事なんですが、・・・例えばこの世界って足を矢に刺されても、傷むだけで実際は何事もなく走れたりするじゃないですか。でも俺はそれが頭でわかっててもどうしても、前の世界の常識に捉われてしまって、痛みで動けなくなってしまうんです」
「それは普通みんなそうよ。アタシだって最初はそんなもんだったわ。やっていくうちにみんな慣れていくものよ」
「でもあいつらは最初からそれができるんです。このゲームではこうだからって、簡単に割り切って・・・」
「なるほどねぇ。でもそれはその子達が特別なだけよ。何もそれをそこまで悲観する事ではないわ。その子達と違ってアキラ君にはアキラ君の良さがあるもの」
この人は俺の何を知っているんだろう。
「でもこの世界ではあいつらみたいな奴の方が絶対に強い。それは確かなんです。俺は今のままじゃ絶対にあいつらには勝てない・・・」
「それで、アキラ君は諦めてここでじっと戦争が終わるのをただ待つ事にしたの?」
「そう言う事ではないんですが・・・いや、まあ確かにそうなのかもしれませんね。どうすればあいつらみたいに生きられるのかなって思ってしまうんです。俺は現実世界でもいつもどの道が正しいかわからなくて、結局考えれば考えるほどどの道も間違えているような気がして、何も進めなかった。だから、そうですね。セイキさんの言うように、今のままの俺だと結局このまま中途半端に何もせずにこの世界でも終わってしまうんじゃないかって。だからあいつみたいにまっすぐに自分のやっている事が正しいって確信を持って生きていけるにはどうすればいいんだろうって、考えてしまいます」
「アキラ君は間違えてしまう事が怖いのね?」
「はい。もしも間違った道を行くのだとしたら、それは止まっていた方がよかったような気がして」
「そうね。アキラ君。あなたはきっと優しいから、何をするにしても色んな事を考えてしまうのね。他人の事、社会の事、そして自分の事。そう言う風に色んな事を考えて行動できるのはとても優しい人間なのよ。でも時にはそう言う優しさは自分が足を止めるための言い訳にもなってしまう」
「・・・そうかもしれません。結局俺は言い訳が欲しいだけなんです。間違えるのが怖いから、がんばった結果間違えていたり、それが全て無駄になる事が怖いから・・・。だから自分で動き出せない。足に矢が刺さっても走れると知っていても、こんなに痛いなら走れなくても仕方がない。そうやって言い訳しているのかもしれません」
『言い訳』と言う言葉に俺は敏感に反応してしまった。内心ずっと気づいていたからだ。自分がいつも何かに言い訳して生きてきていた事に。
「ふふ・・・。ごめんなさいね。少し意地悪な言葉を使ったわね」
そんな俺を見透かしたかのようにセイキさんは話し始める。
「ねぇアキラ君。決定論って知っているかしら?」
「あの・・・自分達の未来がすでに決められている、みたいな考え方でしたっけ」
「そうよ。アタシがシティーホールでアキラ君に聞いた事覚えてる?」
俺はシティホールでセイキさんと別れる時の事を思い出す。
『ふふ。いいのよ。ところでアキラ君。あなた、運命って信じる?』
『自分の人生は自分の力で切り開いてると思う?あなたの人生はあなたが選択したものかしら?』
『え・・・っと。あ、はい。そう思います。いや、そう信じたいです』
「ああ、はい覚えてます」
「アタシあの時思ったの。この子面白いって。普通神様に会って世界が神様に作られた物だなんて聞かされたら、アタシ達の未来は神様に決められた物だって思うじゃない?でもアキラ君は自分の意思で生きているって『信じたい』って言ったのよ。『信じている』じゃなくてね」
「は、はぁ・・・。それがそんなにおかしかったでしょうか」
「アキラ君、いい事を教えてあげる。このゲームのチュートリアルであなた達は三人と二人に分けられたでしょ?これってみんな同じなのよ。みんな最初は五人でゲームが始まるみたいなの」
「え?」
「そう。気づいたみたいね。これっておかしいのよ。普通三人と二人に分かれて戦ったら三人の方が勝つじゃない?と言う事は二人の方のうちの一人が消えて、ほとんどの組み合わせが三人と一人になってそれぞれの国へ行く事になる。でもそうしたらどう考えても各国の人口バランスが取れないじゃない?」
「まあ、そうですよね。普通はみんなアレスデンを選びそうですし」
「それがね・・・。アタシが知る限り、このゲームに来た人みんな、チュートリアルでは二人の方が勝ってるの。つまり全ての組み合わせが二人と二人になって終わってるって事」
「そんな・・・。たまたまじゃないんですか?」
「アキラ君。既にわかってるんでしょ。いえ、本当はこの話をするずっと前から感じていたんじゃないかしら。だから『信じたい』だったんじゃないかしら?神様はあらかじめ五人の人格と行動パターンから、どう三対二に分かれ、更に二人が勝つような組み合わせを計算して五人の組み合わせを作っていたのよ」
「・・・」
確かに俺はセイキさんの言う通り、どっかで決定論みたいな物を信じていたのかもしれない。だから自分に言い訳して立ち止まっても、運命がなんとかしてくれる。いずれ勝手に環境が変わって、自分も変わるはずだなんて、どっかで甘えて過ごしていたのかもしれない。本当に自分の意思だけで未来が決まると信じているとすれば、きっと俺は自分の力で変わろうとしていただろう。
「そうね。現実世界でもそうだったわ。アタシ、世界の事を知れば知るほど不思議だったの。アキラ君知ってる?地球が元々どうやってあんな風に回るようになったか」
「あ、物理の先生から聞いた事があります。地球は元々隕石で、偶然太陽の重力に引っ張られて、偶然地球が飛んでいた速度と太陽の重力が釣り合って、偶然太陽の周りを公転するようになったとかなんとか」
「そう。大体そんな感じよ。アキラ君が言うとおり、色んな偶然が奇跡的に噛み合ってできた星なの。でもアキラ君ならそれがどれだけありえない確率の出来事かわかるでしょう。それが更にその星で偶然人類なんて言う知的生命体が誕生して、更に言えば何千万年経ってもなお、男女の比率がほぼ同じだなんて、どれだけできすぎてるのよ」
確かに俺は現実世界で生きている時、常にある違和感を抱えていた。セイキさんが言うように、生きていく上でありえないような確率の出来事が平気で起こる。例えば旅行に出かけた先で知り合いに出会うとか、日常の中で偶然だと思ってたいくつかの出来事。そんな事、確率を考えたら普通は起こりえないんだ。確率・・・確かに数学としての確率を俺は学んできたが、よくよく考えれば確率なんてものがそもそも神様みたいなものじゃないか。
「男女比!そう考えるとアタシみたいな人間はそう言うバランスを取るために産まれたのかもしれないわね・・・」
「それはちょっとわかんないですけど」
「アキラ君変なところで冷静よね」
「す、すみません」
「で、何の話だったかしら。あ、そうね。それでアタシ、アキラ君が『信じたい』って言った時に気づいたのよ。問題は神様がいるかとか、未来が決まっているかなんて事じゃないって事。どのような世界であれ、人が自分の意思で自分の未来を選択しているって、そう信じようとしている事それ自体が美しいじゃないって。馬鹿正直に信じているだけならただの馬鹿だけどね。どれだけ疑わしい世界でも、その中でも信じようとする。それはとても美しい生き方だと思うの」
「あ、はぁ・・・ありがとうございます」
「まじめな話よ。アキラ君。この世界で一番価値のある事は美しい事。決定論があろうがなかろうが、世界に明確な意味を持つ物なんて何もないもの。だから美しさだけが価値を持つの。アタシはアキラ君の考え方、美しいと感じたわ。だから自信を持ちなさい。アキラ君はそのままでいいのよ」
「・・・自分では正直わかりませんが、はい。なんか話せて少しすっきりしました」
「いいのよそれで。肝心なのは進むか立ち止まるかなんだから。進めさえするなら理由はなんでもいいの。ただ立ち止まるのは美しくないわ」
「そうですね。俺は俺なりに、あいつらみたいに上手くはできなくても、この世界で勝ち抜いていけるようにがんばります」
「ふふ。こんなオカマの言葉でも立ち直ってくれたなら本当にうれしいわ」
「オカマって・・・」
「自分で言うのはいいのよ。それくらいの自覚はあるわ」
「はは・・・。じゃあ俺、みんな心配してると思うので戻ります」
「アキラ君」
お礼を言って店を出ようとする俺をセイキさんは呼び止める。
「未来が決まってるかとか、どの選択が正しかったかなんて、そんなのすごくどうでもいい事なのよ。どんな事実があっても、あなたが選んだ道しかこの世界には存在しないんだから。だから今のあなたの道だけが正解」
「はい!」
正直セイキさんの話を全て理解できたわけでもないし、まだ頭の中は混乱している。でもなんとなく自分に自信が持てたような気がした。
元気よく返事をした俺を見て、セイキさんは満足そうににっこり笑って手を振っていた。
メンバーのEKC・・・アキラ-2ミヨシ-2レイ-2キリト0




