それぞれの夜その2
「ん?なんか今アキラの悲鳴みたいなのが聞こえなかったか?」
「え?俺は何も聞こえてねーけど、おっさんの気のせいじゃね」
キリトは頬杖をつきながらコップにささったストローをくるくる回しながら退屈そうに答える。
二人残され、沈黙の中ミヨシはキョロキョロと心配そうな顔をしながらあたりを見回す。
「どうしたんだよおっさん。そんなキョロキョロしながら」
「いや、あいつら大丈夫かなと思ってな」
「レイのほうは大丈夫だろ。アキラのほうはダメかもしれねーな。俺にはあいつがまだあんだけまともに話できるだけすごいと思うよ。俺ならぶっ壊れてる」
「お前がそこまで言うって事はそこまでひどい事をされてたのか」
「・・・。あまり思い出したくないな」
キリトは苦虫を噛みつぶしたような表情をする。
「すまん・・・」
「いいよ」
そしてまたしばらく沈黙が続く。
「なぁ・・・キリト」
「なに?」
「俺は結構お前に色々話したからよ。たまにはお前の事も教えてくれよ」
「はぁ?なんでだよ。めんどくせえ」
「まぁそう言うなよ。お前現実世界では何やってたんだ?中学ではなんか部活とかしてたのか?」
「・・・おっさん、俺前に言ったじゃん。中卒ニート引きこもりだって」
「ああ、すまねえ。そうだったな・・・。最近物覚えが悪くてよ・・・」
「まあいいけど」
「えーっと・・・なんで引きこもるようになったかも聞いたっけか」
ミヨシは言葉を選びながら聞く。
「言ったよ。まあ大した事じゃねえし覚えてなくてもしょうがねえけど。普通にいじめられて行くのめんどくさくなったし、ゲームしてたかったから、そんで行かなくなったらずるずるって感じ」
「大したことじゃないってお前、なんでいじめられてたんだ?」
ミヨシは心底驚いたような顔をする。
「はは。おっさん。普通いじめられてたやつにいじめられてた理由聞くか?」
キリトは思わずふきだして笑う。
「ああ・・・そうだな。すまん」
「まあいいけどさ、それも大した理由じゃないし。俺はあれかな。年の離れた兄貴がすげえ優秀でさ、俺からしたら憧れの存在だったんだよ。だから何かにつけて兄貴の自慢ばっかしてたからだと思う。今になりゃわかるけど、うぜーよなそう言うの。自分には何もないくせに、身内がすごいって自慢してるやつなんて、自分は空っぽですって言ってるみたいなもんだ」
「そんな事でいじめられたりするもんなのか?」
「んー。いじめってのは大げさだったかも。単純に誰も俺と話さなくなって、教室でも何するにしても常にぼっちだった。下駄箱とかにいたずらしてくるやつとかもちらほらいたな。そこまで苦痛じゃなかったけど、朝とか起きるとやっぱ行くのだるいなって思うようになってきてって感じ」
「そうか・・・」
ミヨシは何かを考え込むように俯いた。
「まあ結局俺が悪いんだと思うぜ。実際今になっても思うもん。俺空っぽだなって、兄貴がいくらすごいやつだって言ったって、俺には何の関係もないし、実際じゃあ俺に何があるんだって聞かれてもやっぱり何もねえ。空っぽだ」
「そんな事はないぞ!」
ミヨシは突然アキラの顔を見て叫ぶ。
「なんと言うか・・・上手くは言えんが、兄貴が立派だって事を誇るのは何もおかしな事じゃないだろう」
「でも俺が兄貴をいくら誇っても俺は兄貴とは何も関係ないんだぜ?」
「関係ない事はない。そうだな・・・キリトと兄貴はずっと一緒に暮らしてきたんだろ?」
ミヨシは言葉を選びながらゆっくりと話す。
「あぁ、まあそうだけど」
「それなら関係あるだろ。兄貴の生活の中でお前の存在は確実に関係してる。どんな些細な事でも、もしもキリトがいなかったら、兄貴はそんな風に立派にはなってなかったかもしれない」
「関係ねーと思うけど」
キリトは自嘲気味に笑う。
「関係あるさ。今だってそうだ。俺は少なくともお前と出会ってこう話してるだけで、確実に俺はキリトの存在によって変わってる。うまく言えねえが、そう言うもんじゃねえのか人ってのは。キリトだけじゃない。アキラもレイもだ。いや、これまで関わって来た全ての人間がそうだ。誰か一人でも欠けてたら、俺は今の俺じゃいられなかったと思う」
「でもおっさん、今そんなにいい状況じゃなくね」
キリトは馬鹿馬鹿しいと言ったように茶化す。
「俺はそこまで今が不幸だとは思っていないぞ。こうやってキリトと今話してる時間は十分楽しいしな。それに俺と違って兄貴は立派にやってたんだろ?と言う事はキリトは間違いなくその立派な状態の兄貴を作り上げた一人の人間だと思うぞ。だから胸を張るべきだ。自分と関わって立派になった人間がいるのなら、どんどん誇るべきだ」
「・・・でも俺はそんな風に考えて兄貴を誇ってたわけじゃねえ。俺は空っぽだから、兄貴の自慢をする事で、自分にもまるで価値がある人間であるかのように他人に見せていたかっただけだ。」
「だから!価値はある!キリトは空っぽじゃねえ。お前と関わった兄貴、その他の人、そして俺、アキラ、レイ。確実に関わった人達の一部なんだお前は。俺の中からお前の存在が消えたとしたら、俺は絶対に言いようもない苦しみにかられる。チュートリアルが終わった時、はっきり感じたんだ。俺の中の一部がごっそり欠けたって感覚が。だからお前はもう俺の一部なんだ」
「・・・」
キリトは黙り込んでしまう。
「すまねえ。熱くなっちまって俺も自分が何言ってるかわからなくなっちまった」
恥ずかしそうに頭をかきながらミヨシは笑う。
「いや、まあなんとなくわかったよ。正直少しうれしかった。ありがとな」
「そ、そうか!」
ミヨシは心底うれしそうにキリトを見る。
「まあ、暑苦しすぎだけどな。おっさんって感じするわ」
そう言うとキリトは照れくさそうに笑った。




