それぞれの夜その1
はっと気がつくと、俺は最初の町のリスポーン地点に立っていた。身体はきれいに治っており、痛みがあるはずもないのに、腹部と足に俺はなぜか鈍い痛みを感じていた。
「おい!大丈夫か?」
ぼんやりとしていると、ミヨシさんの声が聞こえはっと我に返る。そこにはキリトとレイさんもいて、俺の事を心配そうに見ていた。
「あ、すみません。やられちゃいました。はは。偶然強いエルバインがいまして、さくっとやられちゃいました」
俺は精一杯強がって笑顔を作ったが、三人は気まずそうに目を伏せた。
「・・・。またあいつらだったのか?」
ミヨシさんは言いにくそうに口を開く
「へ?」
「やっぱりあんた一人じゃ危険だと思ったからキリトにインビジで後を追わせたのよ。そしたらキリトがついた頃には既にあんたの身体に剣が突き刺さってたみたいで・・・」
「すまねえ。助けようと思ったけど、何も動けなかった」
キリトは心底悔しそうに震える。キリトが俺を助けようとした事を口にするなんて珍しいなだなんて俺は思った。
「ミヨシから少し聞いた。チュートリアルの時の相手がいたみたいね。めちゃくちゃやばいやつらだって、この様子のキリトを見る限り、相当なのね」
「あいつら・・・同じ人間だとは思えねえ。アキラの事殺すときも、まるで蚊を潰すみたいに・・・。目になんの感情もこもってなかった。ただ本当に普通の日常を生きてるみたいな顔で、人を殺してた。いっそセルシみたいな快楽殺人鬼とかの方がまだ理解できる。でもあいつらには何もなかった。すまねえ。ただもう怖くて、俺はただ死ぬところを見てるだけしかできなかった。すまねえ」
キリトは人が変わったみたいに震えながらただ謝っていた。俺の事を名前で呼んだのも初めてかもしれない。
「大丈夫だよ。あいつらは確かに異常だけど、むしろよかった。あそこでキリトも一緒に殺されてたら俺が死ぬほど落ち込んでた」
「死んでるけどね・・・」
「レイさん今そう言う突っ込みするところ!?俺フォローしてるつもりなんですけど」
「ふふ。まあいいじゃない。何はともあれ、アキラは元気そうだし。次から気をつけましょ」
「そうだな。やはりああいうところはみんなで一緒に行動しなきゃだめだ」
ミヨシさんも空気を変えようとレイさんに合わせる。
「そうですね。今回は本当に俺の不注意でした。キリトもそこまで気にしなくていいぞ。あいつらは二人だし、俺達は四人いる」
「ああ・・・そうだな」
釈然としないと言った顔をしながらキリトも頷く。
「じゃあ今日はもう休みましょ!明日は安全に四人でストーンゴーレム倒して、レベル上げてリベンジしましょ!」
そう言うとレイさんとミヨシさんは雑貨屋の方に歩いていった。
「お前、すげえな」
二人について歩こうとする俺の後ろでボソっとキリトが言った。
「え?」
「お前も気づいてるだろ。あの二人相手に俺達が四人で挑もうがどうしようが、絶対に勝てねえ。そもそもモノが違いすぎる。何よりあいつらを目の前にして、更に殺されて・・・なんで平気でいられるんだ。遠くで見ていただけの俺でも、もう二度とあいつらに会いたくねえって思っちまってる。俺がお前の立場だったら、もう立ち直れる気がしねえ」
「・・・。そんな事言ってもどうしようもないだろ。俺は大丈夫だから。四人でがんばろう」
そう言うと俺はレイさんとミヨシさんに追いつこうと早足で歩いて行った。
だが俺はとっくに限界だった。キリトが言うまでもなく、そもそもチュートリアルが終わった時点から限界だった。消えた仲間を思い出せない事も、タクマとミカの事も、あの時からずっと限界だった。俺が生きていた現実世界はなんて幸せだったんだろうって。ずっと考えてる。今でも四人で話している時とか、幸せな瞬間ももちろんあったけど、またタクマとミカに出会ってしまった事で、俺は完全に心が折れていた。
でもそんな事を言って何もしないわけにもいかなかった。正直言ってキリトの言うとおり、タクマとミカには到底勝てるとは思えないが、俺がやめて、俺が戦争が終わるまでじっとしている間に、キリトとレイさんとミヨシさんが死んだとしたら、多分その方が俺には耐えられないだろう。それにもしかしたらチュートリアルの事があった分、俺はキリトに比べて耐性があったのかもしれない。
そんな事を考えながら俺は自分を誤魔化していた。だが現実には、俺はキリトから逃げるように今歩いている。
「かんぱ~い!」
雑貨屋につき、四人でテーブルを囲んで飲み物が来ると、浮かない顔のキリト、引きつった笑顔の俺とミヨシさんに気を使っているのか、レイさんは満面の笑みを浮かべながらそう言った。
レイさんはごくごくと酒を飲み干し、ガチャンと机にジョッキを置く。
「じゃあ、聞かせてもらおうかしら。チュートリアルであったことと、あいつらの話」
ジョッキを置くなりレイさんは突然そう言った。
「え?」
突然の事で俺は思わず聞き返す。
「え?じゃないわよ。あんたら三人ともどう見てもこのままじゃやっていけないじゃない。この中じゃあたしだけ例の二人の事知らないわけだから、共有してくれないとどうにもなんないでしょ」
「あれは実際に見ないとわからねえ」
キリトがぼそっとつぶやく。
「あんたもいつまでも何うじうじ言ってるのよ。らしくないわよ。そりゃわかんないかもしれないけど、何も知らないままじゃあたしだけいつまでたっても仲間はずれなのよ。だから教えてよ」
「そうですね。続けていく以上、恐らくまたあいつらに会う事はあるでしょうし、話しておかないといけないかもしれません」
そう言うと俺はレイさんに、チュートリアルでのあいつらとの戦いと、消えてしまって思い出せない仲間の話をわかっている限りだけ話した。話しながら思い出そうとしていたが、やはり消えた仲間の姿や言葉は何も思い出せなかった。ぽっかりとそこにただの空間があるだけで、だが確かにそこに誰かがいて何かを言っていた事は明らかだった。
「一つ気になったんだけど、話を聞く限りだとアキラを後ろから刺したのはその仲間って事だよね?」
「はい。そうだと思います。でもあれは自分が死なないためにって仕方なくやった事だと思います」
「仕方ないって事ないでしょ。そんな事するやつなら死んで当然よ。よかったアキラが生き残って」
「おい、そんな言い方はないだろう」
ミヨシさんが少し怒る。
「まあ・・・そうね。アキラの前で言う事じゃなかったわ。ごめん。」
「大丈夫です。でも俺がその後消えてリスポーンする前に、ミカとタクマはその人を見て何かを言いながら笑ってたんです。そしてその後突然チュートリアルが終わって・・・。きっと最後に俺とミヨシさんを守ろうとしたんじゃないでしょうか。」
「違うでしょ。きっと命乞いして笑われてたのよ」
「おい!」
ミヨシさんは少し大きな声で怒鳴る。
「いや、これだけは言わせて。どうせ二度と思い出せないし、答えがでないんだもの。だからそんな事でいいように美化してアキラが気に病む必要はないわ。だってそいつあんた達を助けようとしなくたって、どっちにしろ殺されておしまいじゃない」
「・・・そうかもしれませんね。でもなんとなくそんな気がするんです」
「はー。あんたほんとお人よしねぇ。そんなんだからミカとタクマってのにいいようにされるんでしょ」
「お前さすがにその言い方はなくねぇか?」
珍しくキリトが怒る。
「はぁ・・・。ごめん。あたしもちょっと疲れてるみたい。先に寝るわ」
そう言うとガタンと音を立ててレイさんは席を立ち、奥の宿屋の方に向かっていった。
「まぁ、あいつもあれで心配してんだ。不器用だからうまくできねえみたいだけどよ。許してやってくれ」
ミヨシさんは心配そうな顔でレイさんの後姿を見ながら言う。
「わかってます。俺は大丈夫ですよ」
そう言うと俺は自分の酒を一気に飲み干した。
「少しだけ風に当たってきます。できれば一人にしてください」
そう言って俺は席を立つ
「あ、ああ・・・」
ミヨシさんは何か言おうとしたがその言葉を飲み込んだように思った。大丈夫かって言おうとしたのかな。でも俺はきっと大丈夫って言うからミヨシさんは何も言わなかったのだろう。
「あら偶然」
「う、うわああああああああああ」
「ちょっとぉ、そのリアクションはいくらなんでも失礼すぎない?」
外に出た途端にセイキさんが現れたため、俺はびっくりして悲鳴をあげてしまう。




