Promised Land
レイさんは俺を引っ張って市役所から出ると、扉の前で止まる。
「ところで・・・とりあえずあのオカマがめんどくさいから出てきたものの、どうやって戻るのよ」
「え、何も考えずに出てきたんですか?」
「あんたが絡まれてるから助けてあげたんでしょうが」
「ああ・・・はぁ。ありがとうございます」
「はぁ?何よその反応。あんたもしかしてああ言うの好きだったりするの?」
「いや、それは全くないです」
「それで、茶番はおいといてどうすんだよ」
キリトは呆れたようにため息をつく。
「前に雑貨屋であの町にワープするスクロールを買っておいたので、これを使えば戻れるかと」
「え、そんな便利なもんあるなら最初から言いなさいよ」
「言うタイミングがなかったんで・・・」
そう言いながら俺は3人にスクロールを1枚ずつ配る。
「これをどうするんだ?」
ミヨシさんが不思議そうにスクロールを回転させたりしながら眺めていると、突然ミヨシさんはふっと姿を消す。
「読めばいいのね」
レイさんがそう言うと、続いてレイさんとキリトも姿を消す。
スクロールに書いてあるのは文字ではなく、何かの模様のようなものだったが、それを見つめていると俺も急に目の前の景色が変わり、最初にいた町のポータルがあった場所へと戻ってきた。
「スクロールは一回使うと消えちゃうのね」
レイさんはスクロールを持っていた手を見ながら言う。
「エルバインに襲われたらこれ使えばいいんじゃね」
「スクロールは戦闘中は使えないみたいです」
「なんだ。まあさすがにそれじゃクソゲーすぎるか」
キリトはつまらなさそうに言う。
「それで、PLだっけ?次の狩場」
「そうですね。確か最初に狩ったスライムがいた場所からもう少し北に行った所にあります」
「じゃあ、早速行ってみよー!」
レイさんは陽気に歩き出す。
スライムの狩場から少しだけ歩くと、俺達はすぐにPLについた。PLの中には道のようなものもあるが、荒れ果てた感じで、向かって右側には元々墓地だったかのような場所があり、そこにはゾンビとオークと言われるモンスターがいる。向かって左には木が何本か立っており、スケルトンと言われる人の骨と同じ形をした骨が立って歩き回っていた。
「訓練所とはまた違った意味で気味が悪い場所ね・・・。女子には厳しい場所だわ・・・」
「女子・・・」
「ん?」
すかさずレイさんはキリトを睨む。
「なんでもないです」
「とりあえずオークから狩ってみますか。見たところ一番弱そうですし」
そう言うと俺達は墓地跡のような場所へ行き、オークに攻撃する。オークを剣で殴ると『グオォ』と言った鳴き声を出してすぐに死に、消えてしまう。しかし次から次へと沸いてくるので俺達はそれをひたすら狩り続けた。
「これは俺がサボっててもいいやつだな」
キリトは3人にバーサクをかけてその場にしゃがみこむ。
そのまま3人で狩りを続けていると、5分も経たないうちにオークは沸かなくなってしまった。
「枯れちゃったのかな」
そう言ってレイさんは額の汗を腕でぬぐう。
「みたいですね」
「楽だけどこんなんで枯れちゃうんじゃあんまり美味しくはないわね。もっといい狩場ないのかしら」
「あそこにでかい岩が歩き回ってるが、あれはなんだ?」
ミヨシさんが指をさす方を見ると、ストーンゴーレムと言われるモンスターがうろうろと歩いていた。
「あれやってみよっか」
そう言って俺達がストーンゴーレムの狩場と思われる場所に着くと、そこには何人かのアレスデンが俺達と同じように狩りをしていた。
「随分人気の狩場みたいね。ここが一番美味しいのかしら」
「とりあえず狩ってみましょうか」
訓練所のときと同じようにキリトが3人にバーサクをかけ、ミヨシさんをタンクにして俺とレイさんは背後から殴る。オークよりは結構硬いが、案外あっさりと狩る事ができた。
「経験値も美味しいしここでやるのが一番よさそうね」
「ただ人が多いからさくさく次が狩れないのがだるいな」
「あんた楽してるんだからいいでしょ」
「貢献は一番してまーす」
確かにキリトのバーサクで3人の攻撃力が2倍になるのはかなりでかい。
「ちょっと俺、現状攻撃力もないしバーサクもかけられないので、他に美味しい狩場がないか偵察して来ますよ」
「大丈夫なの?」
「インビジもPFMもあるから多分大丈夫だと思います。レベル100未満しかいないみたいだし、やばかったらすぐ逃げてきますよ」
「フラグじゃね。それ」
キリトがあぐらをかいて、後ろの地面に手をつきながらこっちを見て笑う。
「そう言う事言うなよ・・・」
俺はそう言ってから、自分にPFMとインビジブルをかけてストーンゴーレムの狩場の奥へと向かった。ストーンゴーレムの狩場を抜けるとすぐに小さい川があり、橋がかかっていた。
「そろそろエルバインに遭遇しそうだな・・・」
直感的にそう思った俺は、橋を渡る前にPFMとインビジブルを更新して、忍び足でゆっくりと歩く。
橋を超えるとストーンゴーレムとよく似たクレイゴーレムと言うモンスターが大量に沸いていた。その名の通り、ストーンゴーレムが石でできたモンスターなのに対して、クレイゴーレムは泥でできたモンスターのようだ。
(あれは・・・)
少し近づくと1人の戦士がバーサク状態でひたすらクレイゴーレムを倒していた。俺はその戦士に見覚えがあり、思わず唾を飲む。
(タクマ・・・!)
忘れるわけもない。その戦士は紛れもなく、チュートリアルで一緒になったタクマだった。あいつもここまで来てたのか。それにしても1人であの大量のクレイゴーレムに囲まれながらさくさく狩ってるあたり、俺より遥かにレベルが高い。バーサクがかかってるあたり、ミカも近くにいるのか?
「ディテクトインビジブル」
「!?」
案の定近くにいたミカがインビジブルから出てきて、俺のインビジブルを解除してしまう。
「ほらね。いるって言ったじゃん」
チュートリアルの時と同じ、無邪気な高い声でミカは話す。
「あー。めんどくせえ。ゴーレムに囲まれてるとあんまり足音聞こえねえんだよ」
「あ!てか、チュートリアルの時のお兄さんじゃん!久しぶり」
呆然と立ち尽くす俺にミカはニコっと笑う。
「あ・・・あ・・・」
チュートリアルの時の事を思い出して、俺は恐怖で動けなくなってしまう。
(どうしてよりにもよってこいつらにこんな所で。だめだ。すぐに逃げないと。間違いなく殺される。)
ようやく俺は少し冷静になり、すぐに踵を返し、全力で逃げようとする。
バシュン!
どこかで聞いた事のある音が聞こえたと思ったら、俺は足に激痛を覚える。タクマが武器を弓に持ち替えて俺の右足を射抜いたようだ。
「逃げる判断遅すぎだろ」
タクマは嘲笑う。
足は痛むが、このゲーム内だと走るのに支障が出るわけではない。足に怪我を負おうが、走る速度は変わらず、弓の攻撃1発では大したダメージにもならないからHPも大して減っていない。だから逃げられるはず。
そのはずなのだが、俺は恐怖と痛みでうまく走る事ができない。
(このゲームは特にジョブとかに縛られているわけじゃないから、STRさえあればどの武器でも持てる。だから剣で戦っていたタクマが弓を持っていても何も不思議ではない。問題なのは俺を認識してからゴーレムから離れ、弓に持ち替えて俺の足を止めるまでの判断の早さだ。俺がインビジブルを解かれて呆然としていた時間も精々5秒とかそこらだ。どれだけ戦い慣れしてるんだよ。スタートは同じはずなのに・・・)
バシュン!
間髪いれずにタクマは俺の左足を射抜く。
「うけるよなぁ。別に足が矢に貫かれようが、このゲームの中じゃ死ぬかSPが切れない限り普通に走れるってのに、ほとんどの奴はこうすると止まっちまう」
そう言うとタクマは剣に持ち替えて俺に向かってくる。
(わかっている。頭ではわかっているのだが、どうしても走り出す事ができない。足が平気で機能しているとわかっても、痛覚だけはしっかりあるから、両足が矢に貫かれた激痛の中で普通に走る事なんてできない)
なんとか逃げるために走ろうとするが、俺はちゃんと走る事ができず、ふらふらとその場に倒れてしまう。
「じゃあな。雑魚」
俺に追いついたタクマは、倒れた俺の腹に剣を突き立てた。
「ぐはっ・・・。はぁ、はぁ・・・どうして・・・」
「はぁ?」
「ど、どうしてお前らはそんな風に割り切って考える事ができるんだ。人を殺す事も、ゲームだからって死ぬ事にすら恐怖を感じない。普通の人は!普通の人は両足を矢に射抜かれたら、その激痛で走る事なんてできない。どうしてお前らにはそれができるんだ」
「はっめんどくせ。どうでもいいわ」
タクマは俺の話に聞く耳も持たず、剣を抜いて狩場に戻る。
「ぐっ・・・」
まだHPが残っていて死ねない分、俺は剣を引き抜かれた事による激痛にもがく。
「おにーさん。逆だよ」
ミカがいつのまにか俺の傍に来てしゃがんで俺を見下ろしている。
「あたし達からしたら、何でみんなそれができないのかわかんないよ。だってこういう世界なんだからしょうがないじゃん」
「それはわかってる・・・」
「わかってないよ。だからそうなっちゃう。ま、とりあえずあそこの橋超えたらエルバインの領地だしさ、あたし達ももうしばらくはここいるから、これからは気をつけるんだよ」
そう言ってミカはニコっと笑って、持っていた杖をタクマに切られた俺の腹に捻じ込む。
「うぐっ・・・うぅ・・・」
激痛からもはやもだえる事もできない。
「そのままじゃつらいでしょ。じゃあまたね」
えげつない事をしているのに、ミカはニコニコ笑いながら無邪気に手を振る。
「お前EKC横取りしてんじゃねえよ」
「ちゃんととどめを刺さないタクマが悪い!」
狩場に戻ってクレイゴーレムを狩り始めるタクマと、少し怒りながらバーサクをタクマにかけるミカ。
そんな2人を見ながら俺は意識を失っていった。




