市民登録その2
インビジブルをかけた俺達は、エルバインに見つからないように歩いて市役所らしき建物へと向かった。
「自国なんだからここまで慎重にならなくてもいいんじゃない?」
レイさんが小声で言う。
「見つかったら終わりなんですから。慎重に行くのに越したことはないです」
市役所も戦争の影響で少し燃えていて、煙が上がり、焦げ臭い匂いが近くには広がっていた。
「結構ちゃんと焦げた匂いとかするのね。変なところだけやけにリアル」
レイさんは袖で鼻と口を押さえながら言う。
「ふぁ・・・はっはっ・・・・」
ミヨシさんから不穏な声が聞こえる。
「はっくしょん!!」
「嘘でしょ・・・。何も漫画みたいにこんな時にこんな所で盛大にくしゃみする?普通・・・」
「ディテクトインビジブル!」
レイさんが呆れていると即座にエルバインがインビジブルから出てきて、インビジブルを解除する魔法を使う。
そのエルバインは、武具屋では見た事がない青い鎧で全身が包まれていて、顔を見ることができないが、とにかく俺達よりは絶対に強い事だけはわかった。
エルバインは俺達を認識すると、見た事のない禍々しい鈍器のようなものを構えてこちらに向かってきた。
「すまん・・・!」
鼻声で謝りながらミヨシさんはそのエルバインへと向かって行く。
「ここは俺が抑えるから、お前達は市役所に入るんだ!」
ミヨシさんがそう言った直後、ガキィーン!と言う音と共にミヨシさんとエルバインの武器がぶつかるが、ミヨシさんは呆気なく弾き飛ばされ、武器は真っ二つに折れてしまう。
ミヨシさんが弾き飛ばされるとエルバインは、市役所に入ろうとしていた俺達の方に狙いを変え、一番後ろにいたキリトに鈍器で殴りかかる。ミヨシさんが一発で弾き飛ばされるような攻撃力を持った敵に、メンバー内で一番柔らかいキリトが殴られたら恐らく即死だろう。
「くっ」
俺は慌ててキリトの前に出てキリトを守ろうとする。キリトもすぐにエルバインにパラライズをかけるが、回避されてしまう。恐らくPFMがかかっているのだろう。エルバインは構わず俺に殴りかかる。多少キリトよりは硬いが、恐らく俺も耐える事はできないだろう。
「早く入って!」
キリトとレイさんに向かって叫びながら俺は剣を構え、向かってくるエルバインの方に向く。
「うふふ。なかなかかっこいいじゃない」
死を確信して強張る俺に、聞き覚えのない声が聞こえたかと思うと、さっと俺の横を人影が通り、再び武器同士がぶつかるガキィーンと言う音が響く。
「何でこんな初心者をわざわざいじめてるのよ。せっかくの英雄装備が泣くわよ」
俺を守ってくれた男?の人は巨大な赤い剣でエルバインの武器を弾くと、エルバインの攻撃を軽々と避けながら一方的にエルバインを斬り続け、確実にダメージを与えていた。
「クソ!なんでお前がこんなとこにいんだよ」
エルバインは一度距離を取り、初めて声を出す。
「いたら悪いのかしら?それよりどうすんのよ。今なら見逃してあげてもいいけど?そ、れ、と、も・・・アタシに勝てると思ってるなら相手するわよ」
女のようなしゃべり方をしている男は再び剣を構える。
「敵国のど真ん中でお前みたいなのとやりあってられるかよ」
エルバインはそう言うとインビジブルをかけて逃げて行ってしまった。
「素直に勝てないって言えばいいのに。かわいくないわねぇ」
男は剣を下ろすとため息をつく。
「あ、あの。ありがとうございます。助かりました」
俺がそう言うと、男は思い出したかのようにこちらを振り向く。
「ああ。いいのよ。あなた達今から市民登録する新人さんでしょ?助けられてよかった。とにかく中に入りましょ。ほら、あんたも立てる?」
そう言うと、男はミヨシさんの腕をつかみ、男より一回りも大きいミヨシさんを軽々と肩にかついだ。
「すまねぇ・・・」
「いいのよ。じゃあ行くわよ」
俺達は男に促されるままに市役所の中へと入る。
「ふぅ。危ないところだったわね」
「はい。一応警戒していたんですが、本当に襲われるとは・・・」
「すまねぇ・・・」
くしゃみをしてエルバインに気づかれた事の申し訳なさからか、ミヨシさんはずっと謝っている。
「えっと、あの、あなたは?」
「アタシ?ああそうね。自己紹介しないとね。アタシはセイキよ」
そう言ってセイキさんが真っ赤な兜を脱ぐと、中から派手な化粧をした男の顔が現れた。
(うすうす感じてはいたけどやっぱりこの人は・・・)
「うわ。オカマじゃん」
キリトがすぐにセイキさんの顔を指差して言う。
その瞬間キリトの顔の真横を、さっきまでセイキさんが持っていた赤い大剣がすごい勢いで通り、キリトの後ろの壁に深く突き刺さる。
「なんて?」
セイキさんはきつめの化粧のせいもあって、すさまじく恐ろしい形相でキリトを睨み付ける。
「い、いえ。何もないです・・・」
キリトはレイさんの時よりもおびえ、ガタガタと震えていた。
「それならいいけど」
そう言うとセイキさんはすぐににっこりと笑い、壁から剣を抜き取る。
「おいおい。久々に見たと思ったら、うちを破壊しに来たのか?」
声の方を見ると、市役所の管理人と思われるおじいさんが呆れた顔をしながらセイキさんを見てため息をつく。
「ごめんごめん。カっとなるとついやっちゃうのよね。まあどうせ戦争の補修するんだからその時一緒に直してもらいなさいよ」
「まったく・・・勝手な事を言いおって・・・。それで、あんたらはなんじゃ?」
「あ、俺達は市民登録をしに・・・」
「そうそ。そしたらそこで襲われてたからアタシが助けてあげたのよ。お手柄でしょ?」
「なるほどの。まあついさっきの戦争でも負けてしもうたし、アレスデンは結構厳しい状況じゃからの。新規は大事にせんとの」
「でしょでしょ」
セイキさんは得意気な顔をしてくねくねする。
「あの、それで俺達はどうすれば・・・」
「市民登録じゃろ?レベルは満たしているみたいじゃし、それぞれ名前を教えてくれたらわしが登録するぞい」
「えっと、俺はアキラです」
「あたしはレイ」
「俺はキリト」
「俺はミヨシだ」
「アキラにレイにキリトにミヨシ・・・っと。これで市民登録は完了じゃ。おぬしらもステータス画面で確認してみるとよい」
おじいさんに言われてステータス画面を開いてみると、俺の名前の横に書いてあった『アレスデンの旅人』と言う文字が『アレスデンの市民』と変わっていた。
「市民になったら何が変わるの?」
レイさんはステータス画面を見ながら不思議そうにする。
「特に大きな変化はないの。旅人の時からエルバインには狙われていたじゃろうし、単純に初心者を卒業したって証みたいなものじゃ」
「なるほどねー」
「後市民になるとここでEKCの交換ができるようになる。EKCが貯まったら色々な装備やアイテムと交換する事ができるぞい」
「あ、そう言えばセイキさんが言っていた英雄装備ってなんですか?」
「ん?ああ。EKCで取れる国家専用の防具の事よ。アレスデンは赤でエルバインは青になるの。通常で入手できる防具より防御力が高いのよ」
「それはどれくらいのEKCで手に入るんですか?」
「えーっと、あれどのくらいだったかしら?」
「胴と腰が30、インナーとヘルムが20で合計100じゃな」
「100って・・・」
想像より遥かに高い数字に俺は驚く。
「あたし達を襲ってきてた奴もめちゃくちゃ強いって事ね・・・。それにしてもそいつですら逃げてくってこのオカ、この人何者なのよ・・・」
「ふふ。アタシはこのゲームができてすぐにここに来たからね。長くやってればこれくらい貯まるのよ。後アタシの事はセイキって呼んでね。呼び捨てでもいいから」
セイキさんはにっこりと笑っているが、レイさんがオカマと言いかけたのに気づいていたのか、少し威嚇気味にレイさんを見る。
「あ、はい」
「ところで」
突然セイキさんは俺のほうに来て俺の肩に手を回す。
「あなたアキラ君って言うのね。あなたがリーダーなの?自分を犠牲にして仲間を守る姿、かっこよかったわよ。顔も結構好みだし」
セイキさんは舌なめずりをしながら言う。
「え、えーっと・・・」
俺はどうすればいいかわからなくて固まってしまう。
「ふふ。かわいい。何か困った事があったら頼ってちょうだい。ここのすぐ南にある酒場にいつもいるから」
「こっちも雑貨屋と酒場が一緒なんですか?」
「まさか。あっちは人が少ないからああなったってだけで、こっちはちゃんと雑貨屋と酒場と宿屋が分かれてるわよ。まあ近くに建ってはいるけどね」
「なるほど」
「市民登録できたし、そろそろ行こうよ。さっさと次の狩場行ってレベル上げよ」
レイさんが俺をセイキさんから解放しようと助け舟を出してくれる。
「次の狩場って事はPLあたりかしら。あそこはエルバインとも直接つながってるから、気をつけないとすぐに殺されちゃうわよ」
「PL?」
「Plomised Land略してPLよ。レベル100まではあそこで上げるのが一番いいわね」
「エルバインと直接つながってるって、それで狩りができるんですか・・・」
「案外大丈夫よ。あっちもほとんどの人は同じようにレベル上げに来てるわけだから、基本はアレスデンはアレスデンサイドの狩場でエルバインはエルバインサイドの狩場って感じで大人しく狩りしてるわ。でもたまに襲ってくる奴もいるから注意しないとだめ。まああなた達は4人いるし、あそこは100レベルまでしか入れないから、ちゃんと対処したらなんとかなるでしょ」
「訓練所ですらしんどかったのに・・・」
「何弱音吐いてんのよ。どっちにしてもあんな狩場も抜けられないようじゃあなた達はそこで終わりよ。大人しくじっとして戦争で消えるの待ってる?」
「それは・・・」
確かにこのまま何もせずに4人でだらだらと過ごすのも幸せかもしれない。アレスデンが負け続けたら消えてしまうかもしれないけど、その方が長く生きられるかも。
「ちょっと。あんた今それもいいかもとか思ってたでしょ」
レイさんに図星をつかれてドキっとする。
「い、いや、そんな事は」
「ふーん」
露骨に焦る俺を疑わしそうにレイさんは見る。
「どちらにせよ、今できる事をするしかねえだろ。そう言うとこだぞ。童貞」
「あら、アキラ君童貞なの?」
セイキさんがうれしそうにニヤリと笑う。
「ほら、行くわよ!」
レイさんは俺の腕を引っ張る。
「あ、セイキさん。助けていただいてありがとうございました」
引っ張られながら俺は振り返って礼を言う。
「ふふ。いいのよ。ところでアキラ君。あなた、運命って信じる?」
「?」
突拍子のない質問に俺は困惑する。
「自分の人生は自分の力で切り開いてると思う?あなたの人生はあなたが選択したものかしら?」
「え・・・っと。あ、はい。そう思います。いや、そう信じたいです」
「そう。じゃあ気をつけて。再会できるのを楽しみにしているわ」
そう言うとセイキさんはにっこりと笑って手を振り、俺は引っ張られるがままに市役所から出た。
「珍しいじゃないか。お前が赤の他人にあそこまで関心を持つなんて」
セイキと2人になると市役所の管理人は言う。
「ふふ。なんかピンと来たのよ。あのアキラって子」
「そうかのう。わしには凡庸な青年にしか見えないが」
「物語の主人公は案外ああ言う普通の子だったりするじゃない」
「ふむ」
「それにあの子、まだ自分の人生を自分の意思で選択して生きているって言ったわよ。神様って言う存在に立ち会ったのにも関わらずね」
「それが何かおかしいのかのう」
「神様が実在すると知れば、人は普通、自分の人生は神様に決められているって考えるもの。だからあの子はよっぽどの馬鹿か、それとも・・・」
「わしにはよくわからん」
「ふふ。信じたい。ね」
セイキはアキラの言葉を思い出して満足そうにうなずいた。
メンバーのEKC・・・アキラ-1ミヨシ-2レイ-2キリト0




