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ヘルブレス  作者: htsan
24/42

初勝利

 「かんぱーい!」


 レイさんはそう言うと、美味そうに酒を一気に飲んだ。 


 訓練所から戻った俺達は、祝勝会と言う事で雑貨屋に来た。主にレイさんの提案で。


 「結局全然レベル上げはできてないんですけど、こんな事やってて大丈夫なんですかね・・・」


 「いいじゃない。今日くらいは。初めての対人戦で勝利できたんだから」


 「それにしてもまだセルシの記憶があるって事は、さすがにあれじゃ死ななかったんですね」


 「まぁそりゃ、それなりにEK稼いでるだろうしね」


 レイさんは肉を頬張りながら平然と言う。


 「じゃあまた戻ったらセルシに襲われるかも・・・」


 「来たら来たでいいんじゃね。返り討ちにすればいいし。童貞はびびりすぎ」


 キリトもジュースを飲みながら肉を頬張る。


 「そう言えば、俺がセルシを追いかけてる時、あいつがSP切れたとか言ってたんですけど、SPって何かわかりますか?」


 俺ははっと思い出して言う。


 「あぁ。スタミナポイントの事ね。名前のとおり、スタミナよ。これがある間は走れるけど、なくなると切れるって事。VIT依存だからVIT高い程走り続けられるって事ね」


 「SPは走るのをやめたらちょっとずつ自然に回復するけど、魔法ですぐに回復する事もできるぞ」


 キリトもレイさんに続いて得意気に言う。


 「初めて知ったんですけど・・・。2人は最初に教えてもらったんですか?」


 「んーん。あたし達も聞いてなかったけど、チュートリアルの時走り回ったりして検証した時気づいた感じかな。一応HPバーとMPバーの下に緑のバー出てるしね。これがSP」


 やっぱりチュートリアル中にある程度色々検証するもんだよな・・・。


 『いやいやなんでって、普通試すでしょそんなこと。保護魔法なんて自分たちにかけられるものなんだから。まあこれはタクマの提案だったけど』


 俺はチュートリアルでミカに言われた事を思い出して少し落ち込む。


 「そう言えば、アキラ達のチュートリアルはどんな感じだったの?」


 「俺達はボロ負けでした。一方的にこっちがやられて・・・1人は1回倒せたんですけどね」


 「あらら。じゃあ仲間が消えちゃったんだ。やっぱきつい?」


 レイさんは聞きづらそうな事を平気な顔して聞いてくる。


 「まあ・・・実際きついんですけど、本当にその人の事は全く覚えてないので、悲しいとかそう言うのでもないんですよね。どっちかと言えば気持ち悪いとか虚しいとか、そんな感じです」


 「ふーん。まあそうだよね。全く覚えてなかったら悲しいもクソもないわね」


 そう言うとレイさんはまたぐいっと酒を飲む。


 「そう言えば、ここに来てる人達は現世で死にたいって考えていた人だけだって女神から聞いたんですけど、みなさんもそう言う事考えてたんですか?」


 レイさんのノリに流されたのか、酒のせいなのか、俺は一番聞くべきではないであろう質問をしてしまう。


 当然場は沈黙に包まれ、沈黙で冷静になった俺は、自分のした質問に激しく後悔する。


 「まぁ、いいじゃねえか。現世の話は。今はこうやって楽しくやってんだし」


 今まで黙って酒と飯を食い続けていたミヨシさんが沈黙を破る。


 「そうね。あたしも正直現世の話はあんまりしたくないかな」


 「はい。俺も変な事聞いてすみません」


 「そう言うとこだぞ。童貞」


 「お前に言われるとなんかむかつく」


 キリトと俺のやり取りにみんな笑い、その後俺達は何事もなかったかのように楽しい時間を過ごした。


 「じゃあおやすみ。明日からはきっちりレベル上げるわよ。こんな風に遊んでばっかなのは今日まで」


 風呂から出たレイさんはそう言って布団の中に入った。俺達はまだ金があまりないので、4人部屋で一緒に寝ている。部屋には2段ベッドが2つあり、ちょうど4人が寝られるようになっていた。

 

 「はい。おやすみなさい」


 そう言うと俺も布団に入る。


 「じゃあ俺は風呂」


 そう言ってキリトは部屋を出て行った。



 「なんだよ。おっさん。こんなとこにいたのかよ」


 外で座って空を見上げているミヨシに、キリトが声をかける。


 「おう。お前か。どうしたんだ?」


 「風呂行こうとしたら窓からおっさんが見えたから来てみただけ」


 「はっは。心配してくれたのか。かわいいやつだな」


 「そんなんじゃねえし!つかおっさん。意外と星とか好きだったりするの?似合わねぇ」


 キリトは照れ隠しか、茶化すようにミヨシに言う。


 「いや、まあ嫌いじゃねえが、別に星が好きで見てるわけじゃなくてよ。少し現世の事思い出しちまったから、昔の事ぼーっと考えてた」


 「あー。さっきそんな話してたな。おっさんも死にたいとか思ってたの?」


 キリトは手を頭の後ろに組んで、壁に寄りかかる。


 「まぁな・・・」


 「ふーん。意外」


 沈黙が夜の静けさを引き立てる。


 「前に話したやつの事覚えてるか?」


 沈黙を破ってミヨシが突然話し始める。


 「え、気使って何も聞かなかったのにおっさんから話すんだ」


 「いや、お前が黙るから俺を待ってるのかと思ってよ・・・」


 「まあ正直、ちょっとこの沈黙どうしようとは思ってたけど・・・」


 「はは。そうだろ?」


 「それで、なんだよ。また大卒の話?」


 「ああ。ツトムって言うんだけどな。あいつは本当にいいやつでな。上の連中ともうまくやってたから、俺達みたいな力仕事しかできないおっさんが働きやすいようにって色々がんばってくれてたんだよ。それで俺達はあいつはいいやつだとか、あいつは出世するとか言ってもてはやして満足してたんだ。他には何も返せねえからよ」


 「で、なんでおっさんが死にたいって思う事になるんだ?」


 「・・・死んだんだ」


 「え、だれが?今の話に誰か死ぬ要素あった?」


 「ツトムが突然自殺したんだ。電車に飛び込んでな」


 「なんでだよ」


 「俺等にもわからなかった。まあ俺達が思っていたより仕事が大変だったみたいだな。それでも、何も死ぬ事はないとか、そこまで大変だったなら俺達にあそこまで構わなくてもよかったのに。とか、俺達は自分達の罪悪感を拭うためにそんな話をして慰めあってたんだ。あいつの事なんて全然わからねえままにな。自分勝手なおっさんだよ」


 「うん。まあでもしょうがねえんじゃねえの。そいつは好きでそうしてたんだろ。結局そいつが選んだ道なんだから、それでおっさん達が気に病む必要はないだろ」


 キリトは飽きてきたのか、しゃがみこんで地面の草をいじる。


 「そうだけどよ、そんな事があった後にちょうど朝から電車に乗る用事があったんだ。そこでホームにいたらよ、ツトムの事思い出して、何でこんなおっさんが生きてるのに、あんな奴が死ななきゃいけないんだろうって考えちまったんだ。そしたらなんか無性に生きているのが嫌になっちまって、そんな時に電車が来たのを見てわかったんだよ。あいつの気持ちが」


 「どう言う事だよ」


 「心が弱って、少しでも生きている事がつらいとか思ってる人間が、朝のホームで電車が来るのを見るとな、吸い込まれるんだよ。一瞬で楽になれるって考えると、別に本気で死のうとか考えてなくてもな、気づいたら吸い込まれていっちまってる。俺は途中でハッと気づいて我に帰ったが、ゾっとしたよ。そして悲しくなった。あいつも辛かっただろうが、別に本気で死にたいとか考えていたわけじゃないんだろうなって思ってよ。弱った心が吸い込まれちまったんだあそこに。楽になれるって考えちまった時にはもう飛び込んでたんだろうな」


 「なるほどなー。それでまたおっさんは死にたくなってここに来たと」


 キリトは空を見上げ、首をかきながらうなずく。

 

 「はは。悪いな。またつまんねえ話を長々としちまった」


 そう言ってミヨシは苦笑いをする。


 「つまんねえって事はないけどさ。まあ、いつまでもそれで悔やんでてもしょうがねえじゃん。俺達には今やる事があるんだし。とりあえず今は、今やるべき事をやろうぜ。そして今やるべき事は明日に備えてちゃんと休む事だろ」


 そう言ってキリトは立ちあがる。


 「ああ・・・。そうだな。お前の言うとおりだ」


 ミヨシは少し悲しそうにキリトににっこりと笑いかけ、立ち上がる。


 それを見てキリトは雑貨屋の中に戻ろうとするが、突然ミヨシの方を振り向く。


 「まぁ・・・死んじまったら幸せもクソもねえけどよ。まあ、死んだ後にそんな風に思って悲しんでくれる人がいるってだけで、そいつはある程度幸せなんじゃねえかな。他人にそんな風に思われるのって、結構大変だと思うぜ。多分な」


 キリトは照れくさそうに言った。

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