訓練所再びその2
インビジブルから出てきた少女は走ってきた勢いのままレイさんに切りかかる。
「くそ。間に合わない」
俺は急いで駆け寄るも、少女の1撃はレイさんの背中にきれいに入ってしまう。
「くっ・・・」
レイさんは痛みで顔をゆがませながら、キリトのインビジブルで消える。
「はーっはっは!俺は勝ちを確信して調子に乗っている雑魚が、敗北して、一気に絶望に落胆する様子が何よりも好きなんだよなぁあああ」
セルシは笑う。
少女は床の埃の動きからインビジブルで消えたレイさんの場所を把握し、2撃目を入れようとする。
「やめろ!!」
なんとか追いついた俺が少女に食らい着く。
「邪魔」
が、STRの低い俺は少女になんなく弾き返される。
少女はレイさんのいるであろう方向を向き、再び2撃目を繰り出そうと剣を構える。
だめだ。レイさんがやられたらセルシに勝つ術がなくなる。
「ふん!」
少女が一瞬俺の方に注意を向けている間に、ミヨシさんが追いつき少女の剣を受け止める。
「キリト、ミヨシさんと俺にバーサクを」
「わかってる」
返事をする前にキリトは俺達にバーサクをかけていた。
当然セルシも少女にバーサクをかける。現状こっちは全員PFM状態だからセルシにはそれ以外できる事がない。
少女も恐らく純戦士なのか、レベルと装備の分ミヨシさんは少女に少し押されている。インビジブルもPFMも事前にセルシにかけられていたのだろう。
しかしキリトがミヨシさんを回復しているため、なんとか均衡状態を保っている。
とすれば俺は少女を一緒に攻撃するよりも、セルシが回復に回る前にセルシの妨害をするべきだ。
「おし。行くぞ」
「うわ。こっち来るな雑魚。ああああああああ。僕はPFMをかけた雑魚が調子に乗って追っかけてくるのが一番嫌いなんだよオオオオオオオ」
セルシは走る。
「追いつかないか」
このゲーム内での足の速さは全員統一されいるようで、俺とセルシの間の距離は全く変わらなかった。
だがこれで走っている間、セルシはあの少女に回復する事ができない。少女のDEXはそこまで高くないらしく、ミヨシさんの攻撃はしっかり少女に通り、少しずつダメージを与えていっているようだ。
しかし少女が持っている武器はSTR104のもの。DEXがミヨシさんと同程度と考えると、VITにかなり振っている事になる。恐らく倒しきるのはかなりの時間がかかってしまう。その間俺がセルシを抑え続けなければならない。
「おい雑魚。このまま僕と追いかけっこしてたら勝てるなんて思ってないか?」
なんだ心理戦でもするつもりか?
俺はセルシを無視して追いかけ続ける。
「チッ無視かよ。僕は雑魚に無視されるのも嫌いなんだよなぁ。あーお前らむかつくわー。はーーーーーーーーーーーむかつく」
こいつ走りながらよくこんだけしゃべるな。そう言えばこのゲームっていつまで走ってられるんだ。結構疲れて来たんだが、走るスタミナは個々人が元々現世で持っていたものに影響されるのだろうか。
そう考えているとぴたっとセルシが止まる。
「はーSP切れちまった。疲れた。はぁー疲れた。むかつく」
SP?
「なんだ、諦めたのか?」
俺はセルシに切りかかる。
「そう!その顔!パラライズ!」
セルシは最高にうれしそうな顔をしながらこっちを振り向いて詠唱し、俺はセルシの魔法で拘束された。ちょうどPFMの効果時間が切れていたらしい。
「PFA」
そのままセルシは俺にPFAをかける。これでセルシの魔法を防ぐ手段がない。
「はーっはっはは。僕がなんの考えもなしに走り続けてるわけないだろ。ばぁーか!ほーら、どうした?絶望した顔を見せてくれよ。お前は今から僕の魔法で死ぬんだぞ?ほらほら?」
「馬鹿はお前だろ。PFA」
俺はセルシにPFAをかける。
「は!?」
「俺のPFMが切れたって事はお前のPFMも切れてるって事だ。お前が走ってる間にPFMをかける余裕なんてなかったしな。キリト!」
「わぁーってるよ。指図すんな童貞。パラライズ!」
俺が言うまでもなく、キリトはセルシを拘束した。やはりキリトはかなり優秀だ。元々結構ゲームをやっていたんだろう。
「く、クッソォーーーーー!なんなんだよお前らはよォ!!!!!初心者の雑魚がなんでこんな連携取って来るんだよ。こんなのおかしいだろうがよぉおお」
セルシは頭を掻き毟る。
「こうなったらお前も道ずれだ。アイス・・・」
ガシ!俺の攻撃はセルシの鎧で防がれるが、詠唱を止めることはできた。パラライズの効果中、移動は制限されるが、魔法を使ったり攻撃をする事は可能なようだ。
「0距離で詠唱させるわけないだろ」
あ、俺今めっちゃかっこいいかも。
「やっと我が暗黒魔法の出番だな!食らえ!そして死ね!暗黒の氷結魔法!」
いいからさっさと撃ってくれ・・・。
「アイス!!ストライク!!」
『Failed!!』
詠唱したキリトの頭にアルファベットが浮き出る。
・・・。
「あ・・・」
さっきまで意気揚々だったキリトが情けない声を出す。
こんな時に30%引くか普通・・・。嘘だろぉ・・・。
「お、オオオオオオィ!あのメイジをやれぇええええええええ」
セルシは少女に向かって叫ぶ。
「わかってる」
少女はセルシに言われるまでもなく、ミヨシさんを振り切り、キリトの方へ向かっていた。
「くそっ!パララ・・・」
「PFM!」
キリトのパラライズの前に少女にセルシのPFMがかかる。
しまった。キリトの方に注意を取られている隙に・・・。
「あ、こりゃ終わったか」
キリトが苦笑いをして諦めた瞬間。
パシュン!
少女に矢が突き刺さる。
「あたしまだ死んでないんだけど」
インビジブルから解けたレイさんが負傷しながらも少女に矢を放つ。
ダメージはほぼなさそうだが、少女は矢に刺さった影響で少し動きが止まる。
「うおおおおおおおおお!」
その間に追いついたミヨシさんが少女に切りかかり、ガキィン!と剣と剣がぶつかり合う音が響く。
「キリト!」
レイさんとミヨシさんが叫ぶ。
「よくやった。今度こそ我が・・・」
「無駄な詠唱はもういいぞ!」
俺はすかさず突っ込む。
そろそろパラライズの効果も切れる。俺は必死にセルシに切りかかるが、セルシの杖はEKCで手に入れた特別な装備なのか、俺の剣を受け止める。
「チッ。アイスストライク!」
今度はキリトの頭にFailed!!と出ることはなく、いくつもの氷の塊が俺もろともセルシを飲み込む。
あれ?俺も死ぬかなこれ・・・。
「チックショオオオオオォオォォ!!」
セルシの断末魔と共に氷の塊が頭上に降り注ぐ。
「やったか!?」
キリトが言う。
「馬鹿。フラグを立てるな」
氷の塊が落ちた影響でで巻き上がった埃の中から俺は言う。
セルシは氷の塊に押しつぶされ、即死していた。フラグ回収されなくてよかった・・・。
「あれ、童貞も無事なんだ」
キリトはきょとんとした顔をする。
「パーティー組んでたらパーティーメンバーの魔法は食らわないみたいだな。ってお前やっぱわかんないまま撃ってたの?」
「まあどっちでもいいかなって」
こいつ・・・。
「まあそう言うもんでしょ。ゲームって」
レイさんも軽い・・・。
「おおーい!こっちはまだ終わってないぞ」
ミヨシさんは依然少女と戦っている。やはりタイマンだと厳しいようだ。
俺達は少女達の方に向く。
「チッ」
舌打ちをして少女はミヨシさんの剣を弾き逃げる。
「逃がすか!食らえ!暗黒氷塊!アイスストライク!」
さっきと名前変わってるし・・・。
「Failed!!」
「・・・。」
「くっ!」
レイさんが慌てて矢を構えるが、負傷が激しく上手く撃てない。
「とりあえずセルシはやれた事だし、無理にあいつを追って他のエルバインと合流されるのも厄介です。一度訓練所を出て回復しましょう」
「レイさん。立てますか」
「うん。なんとか・・・」
しかしレイさんは崩れ落ちる。
「俺が担ごう」
そう言うとミヨシさんはレイさんをおんぶした。
なんとかセルシをやった俺達は急いで訓練所の外に出る。
「ふぅー!やったった!おっしゃー!スッキリ!」
外でキリトの魔法によって完全に回復したレイさんはうれしそうにはしゃぐ。
「ふっ。まあ8割方俺のおかげだな」
キリトが得意気に言う。
「2回も詠唱失敗しといてよく言うよ」
「うるせえぞ。童貞もびびってあいつの鎧に向かって切りかかってるから悪いんだろ。顔を狙え顔を」
確かに俺は直接人を切るのが怖くてセルシの鎧に切りかかっていた。チュートリアルの時は無我夢中だったからタクマを殺す事ができたが、いざ冷静な時に目の前にいる人間を切る事は躊躇してしまう。
あの時、俺めっちゃかっこいいとか思ってたのに・・・。
「つかあんた詠唱の前に余計なセリフ言ったら失敗するんじゃないの?暗黒なんとかっての。そもそも暗黒魔法じゃないし」
俺が黙っているとレイさんがキリトを煽る。
「そ、それは関係ねえよ!・・・多分」
キリトは恥ずかしそうに目を背ける。
「まあ、何はともあれ、勝てたんだ。よかったじゃねえか。はっはっは」
ミヨシさんはそう言うと陽気に笑い、それに釣られて俺達も笑う。勝利を実感し、俺は軽く拳を握り締めた。
メンバーのEKC・・・アキラ0ミヨシ-1レイ-1キリト1




