国家選び
ポータルには魔方陣が書かれており、赤いほうのアレスデンと言う国家は十字架の中央に円が描いてあるマーク。青いほうのエルバインと言う国家は縦の線の中央に目玉が描かれていた。恐らく国旗みたいな物だろう。
ぱっと見の第一印象だと、エルバインの国旗は不気味で、普通の人はアレスデンを選ぶだろうなと思った。
「何よ。ちゃんとしゃべれるんじゃない」
立ち上がった男を見て亜美さんは呟いた。
「すまないな。五人揃うまでは話すべきじゃないと思ったんだ。フェアじゃないだろう」
確かに四人の状態で話を進められると、最後に来た俺は肩身が狭い。
「あ、そっか。そうよね。ごめんなさい・・・私ったら、全く気がつかなくて・・・」
「それだけじゃない。少なくともここにいるうちの二人は敵になるんだ。馴れ合うってのもなかなか複雑なもんだ」
確かにその通りだ。三人と二人に別れると言う事は、どちらかのグループとは殺し合う事になると言うことだ。ここで仲良く話して情がうつると後々厄介な事になるだろう。この人は結構頼りになりそうだ。
「俺の名前は明です。あなたの名前は?」
「三好だ」
三好と名乗る男はガタイがよく、俺よりも十個ほど年上に見える。
「ねえねえ。あなた達はなんて言う名前?五人揃ったしこっちで一緒に話さない?」
未だにこちらを見向きもせずに地面に座り、黙ってポータルの方を見つめている二人に、亜美さんは声をかける。
後姿から察するに二人とも中学生くらいだろうか。声をかけられても少年と少女は亜美さんと無視してじっと黙っている。
「ちょっと、聞いてるの?せめてこっち見なさいよ」
無視されてイラついたのか、亜美さんは少年の肩をつかむ。
肩をつかまれた少年は亜美さんの手をつかむと勢いよく立ち上がり、そのまま振り向いて亜美さんを地面に叩きつけた。
「いったぁい・・・」
「うるせーんだよおばさん」
「おば、おばさんって、私まだ二十四なんだけど!」
「おばさんじゃねえか」
少年はクマのできた目をぎょろぎょろさせながらニヤニヤと笑いながら亜美さんを煽る。
俺は少年を見た瞬間に妙な胸騒ぎに襲われた。なんだろう。クマのできた目のせいだろうか、その少年はやけに不気味に見えて、直感的に関わりたくないと思わされる雰囲気があった。
「きゃはは。おっぱいおばけ怒ってる」
もう一人の少女がうれしそうに笑う。
「おっぱいおばけって・・・。最近の子供はわからないわ・・・」
亜美さんはショックを受けて黙ってしまう。
くだらない悪口だが、あまりそう言う事を言われなれてないのだろう。亜美さんの容姿を褒めはしてもけなす奴はそうはいないはずだ。
「まあお前らそれくらいにしとけよ。俺はさっさと話を進めたいんでな。で、お前らはなんて呼べばいいんだ?」
三好さんが流れを変えようと場を仕切る。
「タクマだ」
少年はあっさり答える。
「あたしはミカだよ」
なぜかミカと名乗る少女は俺を見てにっこりと微笑む。
「漢字はなんて書くの?」
よせばいいのに亜美さんが二人に聞く。
「どうでもいいだろそんな事。その無駄にでけえ乳引きちぎるぞ」
タクマは不気味な目で亜美さんをぎょろりと睨みつける。
「ひぃッ・・・」
思わず亜美さんはたじろぎ、とうとう俺と三好さんの後ろに隠れてしまった。
「きゃははは。うける」
ミカは気が狂ったかのように笑い転げる。
「それで、タクマとミカはどっちに行くんだ?」
俺は恐る恐る声をかける。
「エルバイン」
タクマは即答する。
「それはなぜだ?」
三好さんが聞く。
「なぜって、どう見てもほとんどの一般人はこの国旗を見てアレスデンを選ぶだろう。だからエルバインに行って、そう言う平和ボケした間抜けどもをぶち殺しまくるんだよ。それにゲームは敵が多い方が圧倒的に面白いからな」
タクマは目を輝かせながら言う。
「面白いって・・・。現実世界の自分の存在がかかってるんだぞ。戦争は数が多い方が有利に決まってるだろ」
「どうでもいいよ現実世界なんて。面白ければそれでいい」
こいつは話しても無駄なタイプだな。と理由をつけて俺はこれ以上タクマと話すのをやめた。本心では単純にこれ以上こいつとは話したくなかった。
「それじゃミカもエルバイン行くー!」
ミカが突然タクマに同調しだした。
「おいおいなんだよそりゃ。お前ら知り合いなのか?」
「ううん。全然知らないよ。ミカは面白い事が好きなだけ」
うふふ。と無邪気に笑いながらミカは言う。こいつは普通にしてたらかわいらしい女の子なのに、言動とのマッチしなさから、やはり不気味な印象を受ける。
「まあ、聞かなくてもわかるが、あんたらはアレスデンに行くんだろ?」
三好さんが俺と亜美さんを見て聞く。
「ああ、まあそうですね」
「私も・・・アレスデンかな・・・」
亜美さんはもはやタクマ達と関わらなくていいならそれでいいと言った感じに怯えている。
「あーははっ!おっぱいおばけびびって隠れてるのにおっぱいだけ隠れてない。こう言うの『頭隠して乳隠さず』って言うんでしょ。超ウケる。あはは」
「尻隠さずだよ馬鹿」
笑い転げるミカをさらっとタクマが諭す。
こいつら本当に初対面なのか?
「もうやだよぉ~・・・。何で私こんな事言われなくちゃいけないの」
亜美さんは理不尽な罵声に今にも泣き出しそうになっていた。
「まあまあ、中学生が言ってる事ですし、気にしない方がいいですよ」
俺はありきたりな言葉を投げかける。
「明君も私の胸おかしいと思う?」
ええ!?普通そんな事俺に聞くか!?
「い、いや。とても魅力的だと思いますよ」
「ほんと!よかった。明君がそう言ってくれるならいいや」
なんだよそれ。そんな言い方されたら俺みたいな童貞は意識しまくっちゃうだろ。
「気持ちわる」
タクマが吐き棄てるように言う。
うん。まあそうだな。俺が客観的に見てもこのやり取りは気持ち悪かったと思う。でも俺の立場ならこうするしかなかっただろ。わかれよクソガキが。
俺は心の中で精一杯の悪態をつく。
「年寄りの茶番なんて見てられねーから俺はさっさと行くぜ。じゃあな。次会った時は殺し合いだ。」
こちらをニヤニヤと笑いながら見て言い、タクマはエルバインのポータルの方へと歩いて行った。
「やーん。タクマ待ってぇ~」
笑い転げていたミカも立ち上がり、タクマの後を追いかける。
「年寄りの俺はアレスデンに行くしかないみたいだな」
三好さんが呟く。
「本当ですか!?三好さんが一緒なのは心強いです」
本心からそう思った。恐らく五人の中で一番状況把握能力に長けていたのは三好さんだろう。三好さんがアレスデンに来る後押しをしてくれた所だけはタクマに感謝したいくらいだ。
「私、あんな子達と戦って勝てるのかしら・・・」
「まあ、まだ始まってすらいませんし。やって見てから考えましょうよ。いざとなったら俺達がついてるし」
「そうね。ありがとう明君。三好さんもよろしくね」
ようやく元気を取り戻した亜美さんは、またズレたメガネを直してそう言った。
「じゃあ行きましょうか」
俺がそう言うと、二人はうなずき、俺たちは三人でアレスデンのポータルの前に向かった。