雑貨屋その2
「いらっしゃい」
雑貨屋に入ると武具屋や倉庫とはまた違った、渋いおじさんの声が聞こえた。
だが俺たちは声よりも雑貨屋の光景に驚いた。どう見ても雑貨屋と言うよりも酒場の光景だったからだ。
テーブルには何組かの人達が座り、酒を飲んだりしている。
「ここって雑貨屋ですよね?」
「ああ、そうだよ。ここは雑貨屋兼酒場ってとこだ」
俺が不思議そうに聞くと、店主はそう答えた。
「なるほど。俺達以外に人がいなさすぎるとは思っていたが、ここに集まっているんだな。それにしても2国で戦争するにしては数が少なすぎると思うが・・・」
ミヨシさんがつぶやく。
「あれ、君達新人?」
近くのテーブルに座っていた2人組の男のうちの1人が声をかけてきた。
「はい。この世界の事全然わからなくて、せめて地図でも入手しようと雑貨屋に来ました」
「あー、そう。なるほどね。この酒場、いやこの町は初心者から中級者にかけてだけ入れる町なんだ。厳密にはレベル100までの人だけ。それを超えると本土に飛ばされる」
男はミヨシさんの質問に答える。
「ああ、なるほど。どおりでやけに人が少ないと思った」
「君達まだ本土にも行ってないのかい?訓練所を卒業するレベルくらいになったら本土のシティーホールで市民登録をするだろ?」
「え、そうなんですか?」
一度にたくさんの情報が入ってきて、何がなんだかわからない。
「あー。君達ハズレの女神引いたんだ。たまに何にも教えてくれない女神がいるらしいよ。俺達の担当の女神はこの世界の概要を最初に教えてくれたからね」
もう1人の男が言う。
まじかよ・・・。そんな不公平あっていいのか・・・。
「あたしも聞いてない・・・」
どうやらレイさんもハズレを引いたみたいだ。もしかしてリリスだったりして。
「君達が最初に出てきた場所あるだろ?あそこのすぐ近くにポータルがあったじゃん。あそこに入ると本土に飛べる。まあ低レベルで本土に行くと、侵入してきているエルバインにすぐ殺されちゃうから、まだ行くべきではないけどね」
「あのポータルって、ここに来た時の出口的な物だと思ってました・・・」
「あーそうだね。確かに何も知らないままあそこに出たらそう思うかも」
そう言って男2人は笑う。
「そんな事言われたって、あたし達もレベル上げたいけど、訓練所に初心者狩りがいるから上げられないのよ。だから他にいい狩場でもないかって思ってここに地図を買いに来たわけ」
レイさんは馬鹿にされていると感じたのか少し不機嫌だ。
「初心者狩りって、もしかしてセルシ?」
「知ってるんですか?」
「知ってる知ってる。あいつまだいるんだ。めっちゃうける」
男達は再び笑う。
「つーか・・・。あれ?カメオさんじゃない?」
「はい・・・。お久しぶりです・・・」
「お久しぶりって、何してるんですか。俺らより先に始めたはずなのに、他の人達は?ってあれ、カメオさんと一緒にいた人達の事全く思い出せねえ」
「みんな、セルシにやられました・・・」
「マジかよ・・・」
男達は突然神妙な顔つきになる。
「何で誰かに相談しなかったんですか。消えるまであいつにやられ続けるって・・・」
さすがに頭悪すぎるだろ。男達はそう言いたいのだろう。確かに俺も最初聞いた時はそう思ってしまった。
「わかってますよ・・・。でも後から始めた人達に聞くのも恥ずかしいって言って・・・。私も馬鹿だと思います。でもそれでもなんとか少しずつレベルをあげて、自分達だけの力で訓練所を卒業してやろうとがんばってたんです・・・」
カメオさんは涙ぐみながら言う。
「頭悪すぎでしょ・・・」
レイさんがさらっと言う。
「あなたみたいな若い女性にはわからないですけどね。いい年した男ってのは、こんなくだらない意地をはってしまうんですよ」
そう言って、カメオさんはうおおおーんと豪快に泣き出した。
「うむ・・・。まあわからなくもないな」
ミヨシさんは腕を組んでうなずく。
「こんなおっさんにだけはなりたくねぇ・・・」
キリトはあっけにとられながらつぶやく。
「まあまあ、カメオさん。なんて言ってあげればいいのか俺達もわかんないですけど、カメオさんは生きてるんだから。これからの事を考えましょうよ。ほら、こっちに来て、一緒に飲みましょう」
そう言うと男達は自分達の席の隣にカメオさんを座らせるが、カメオさんは相変わらず机に伏して泣いている。
「悔しい!悲しいのに、一緒にいた人達の事思い出せないから、悲しむ事もできない!話した事も、起きた事もなんとなく覚えているのに、肝心の部分が全く思い出せないからどう悲しめばいいかもわからない!こんなのひどすぎる・・・」
カメオさんは嘆く。
まあ、カメオさんの気持ちはよくわかる。俺もチュートリアルを終えた後はこんな気分になった。
「とりあえず。飲みましょうよ。ほら、君達も一緒にどう?あ、俺はハヤトで、こいつはコーイチ」
「ども」
さっきまで普通に話していたのに、コーイチさんは突然紹介されたからか、あらたまって挨拶をする。
「どうすんのアキラ。あたしは・・・まぁどっちでもいいと思うけど」
本来なら絶対に断るはずのレイさんが意外な事を言う。顔を見ただけで俺でもわかる。酒が飲めるのがうれしくて仕方ないと言った様子を必死に隠している。間違いない。
「うーん・・・」
情報収集をしにきたのだが、まあこの人達から何か聞けるかもしれない。
「はい。ではお言葉に甘えて・・・」
「おっしゃ!アキラ酒飲めるの?」
レイさんがうれしそうに聞く。
おっしゃって言っちゃってるよ・・・。
「ちょうど二十歳になったから大丈夫です・・・」
「いや、飲んでいいのかどうかじゃなくて、飲めるのかって事だけど・・・。まいっか」
「じゃあ、俺もいただこうかな」
キリトがうれしそうに座る。
「あんたはジュース」
しかし冷静にレイさんに一蹴される。
飲み始めてからも特に建設的な話はできず、俺達はただひたすらカメオさんの嘆きを聞いていたが、1時間程経つとカメオさんは泣きつかれたのか、眠ってしまった。
「やっと静かになった。久しぶりにお酒飲めたってのに最悪だわ」
心底うんざりしていると言った顔でレイさんは言う。
「はは。君達も付き合わせちゃって、悪いね。お詫びに君達が本当に知りたいであろう事を話すよ」
ハヤトさんが姿勢を直して言う。
「俺達もセルシにやられて行き詰ったんだ。でも女神が困ったら雑貨屋に行けって教えてくれてたからさ、君達と同じようにここに来て情報収集したんだよ」
「それで、他にもレベルを上げる方法はあるんですか?」
「ある。まあ最終的には訓練所に行く事になるけど、セルシをなんとかできるレベルまでは上げられる」
「他にも初心者用の狩場があんの?」
まだ機嫌の治らないレイさんは足を組みながらぶっきらぼうに言う。
「そう言う事。カウンターに地図があるから、見ながら案内するよ。一緒に来て」
コーイチさんが立ち上がり、カウンターに向かう。
「俺も行ったほうがいいか?」
ミヨシさんも立ち上がろうとする。
「いや、大勢で行っても邪魔になりますし、ここはとりあえず俺とレイさんだけ行って聞いてきますよ。ミヨシさんとキリト君には後から俺達から説明します」
「まあ、そうだな。俺が聞いても結局お前らに着いて行くだけだ」
少し不機嫌そうにミヨシさんは言う。
あれ、失礼だったかな・・・。
そう思ったが、なんて返事をすればいいのかわからないので、俺は半笑いのよくわからない顔でミヨシさんにうなずいてコーイチさんの後を追う。




