しょうがない
「!?」
明がはっと気がつくと、今までいた場所とは全く違った、中世の西洋のような景色の場所にいた。チュートリアルが終わり、ここに飛ばされたのだろう。隣に三好さんもいる。
「なんだ・・・。何が起きたか思い出せない。ただ負けた事はわかる。俺たちは仲間を1人失ったんだ。なのに、その人がどうやって死んだかも、その人が誰だったのかも全く思い出せない」
明は自分の脳が自分の脳じゃないかのように、記憶の抜け落ちた場所がただ気持ち悪く、頭をかきむしる。
「なんだこの感じは・・・。何かが確実にあったはずなのに、一部だけがごっそり抜け落ちてる。ただ忘れたとかじゃない。思い出せない。そう言う確信がある」
三好もつぶやく。
「思い出そうとか、そもそもそう言う事じゃない。無いんだ。何も無い。何かがあった事実はわかるのに、そこを思い出そうとする事すらできない」
あまりの気持ち悪さに明はその場に吐いてしまう。
「おいおい。大丈夫か」
三好は明の背中をさする。
「はぁはぁ・・・。こんな感じは初めてだ。こんなに気持ち悪い事は、生まれて初めてだ」
三好さんは目を瞑り、少し考え込んでから言う。
「まぁ・・・しょうがない。終わってしまった事なんだ。俺たちは生き残ったんだ。これからの事を考えよう。誰か、大事な仲間を失った事はわかるが、それを悲しむ事も今の俺たちにはできそうもないみたいじゃないか。しょうがないじゃないか」
三好さんは少し泣きながら、精一杯俺を慰めようとしてくれる。
「はい。わかってます」
わかってはいる。どうしようもないんだこれは。この世界に来た時から、覚悟するべきだったんだ。しょうがない事なんだ。
『しょうがない。』なんて言葉だろう。しょうがないなんて言葉、使う時は絶対にしょうがなくなんてない時だ。しょうがないで済むわけがない。俺たちは3人で戦ったはずなんだ。敵はタクマとミカの2人。そして俺たちは負けた。と言う事はもう1人いたはずなんだ。なのに全く思い出せない。自分が死にかけた事も、三好さんが死んだ事も。わかるのに思い出せない。
誰かの存在がこの世界からも現実世界からも消えたんだ。元々無かった事になった。元々無かった事になったのなら、それはチュートリアルが始まる前からその人は存在しなかった事になるはずだ。矛盾するはずなんだ。なのに、確かに俺たちは3人で戦い、1人が死んで消えた。それがわかる。雑すぎる。ただそこだけが抜け落ちている。そうしないとこのゲームがそもそも成り立たない事はわかるが、あまりにも雑すぎる。人の記憶を、気持ちをなんだと思っているんだ。
「・・・。しょうがない・・・んですね・・・」
結局この言葉しか出ない。こんな出来事は。もうこんなわけのわからない言葉で片付けるしかないのだ。そうでもしないと、俺達は進むことができない。
飛ばされた場所には建物が4軒と、看板が立っていた。看板によると、左手にあるのが倉庫、目の前にあるのが雑貨屋、右手にあるのが武具屋、そして俺達の後ろにあるのが訓練所らしい。その他にも看板には別の地域に進む道も記されていた。
「まずは何をすればいいんだ」
三好さんが看板を見て俺に聞く。
「少しだけ、もう少しだけ待ってもらっていいですか」
まだ何かを考えるほど、気持ちの整理ができていなかった。
「おう」
優しく三好さんはうなずく。
空を見るときれいな満月が浮かんでいた。
こんな世界でもちゃんと月はきれいなんだな。
なぜかこんな時に、そんな事を俺は思った。




