表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘルブレス  作者: htsan
1/42

ヘルブレスの世界へようこそ

 夜眠る時、たまに将来についてとかそんなことで不安になって眠れなくなる時がある。俺は明日で二十歳になる。小中と神童と呼ばれるほど勉強ができ、高校も日本でトップクラスの進学校に入って、その中でもトップを維持していた。


 俺、児玉明はこのままトップクラスの大学に入り、いわゆるエリートと呼ばれる人間になる。俺も周りの人間もそう思っていた。


 だが俺は大学受験に失敗した。今まで挫折と言う挫折もせずに生きてきたせいか、その反動は大きく、それから俺は無気力になってしまった。親も周りの人間も「明君は浪人してもう一度挑戦すれば上手くいく」そう言って励ましてくれたが、その時になって俺は初めて気づいたのだ。特に俺は夢も目的も何も持っていなかった。ただ頭が人に比べて良く、勉強もやればできたからやってきていたに過ぎない。


 今思えば大学に落ちたのもこう言うところが足りなかったのだろう。夢を持って命をかけて必死でやっている奴らに、こんな生半可な気持ちでいる人間が勝てるわけがなかったのだ。


 そう、気づいたところで俺は結局夢も目的も持てないままだらだらと二年間を過ごした。夢も目的も、歳を取れば勝手にできるものだとずっと思ってた。勉強さえしていればそんなものは後からついてくるだろうと。だが俺にはその漠然としたイメージさえまだ浮かばないでいた。


 高校を卒業してから、勉強もしなくなってしまい、周りの目を気にして一応バイトなんてものもしているが、このままフリーターとして生き続けて何になるのだろうかと不安になる。俺が今までがんばってきた事はなんだったんだろう。高校までの勉強なんか大学受験をしなければクソの役にも立たなかった。


 もちろん努力すれば誰でも一定のレベルに達することができるものだ。夢や目的がある人間からすればこれ以上の物差しは他にはないだろう。だがそれが無い人間はどうすればいいんだろう。俺はこれからどう生きるべきなのか。どうして今までこんな事を考えてこなかったのだろう。


 「死のうかな」


 寝る前にこんな事を考えていると何もかもがめんどくさくなって、そう思う事がよくある。でも結局生きる事すら怖い俺は、死ぬ事も怖くてできない。


 明日で二十歳になる俺は、こんな事を悶々と考えながら、少し泣いて眠りにつく。俺は馬鹿みたいで恥ずかしい人間だ。



 「どこだここ」


 目を覚ますと俺は見覚えの無い場所に立っていた。暗闇の中で、かろうじて自分の周りだけは見えるくらいに、天井から少しだけ明かりがさしている。


 「やあ」


 「!?」


 突然背後から声をかけられ、俺は振り向く。


 「驚かせてすまなかった」


 声の主は金髪の少年だった。瞳も青く、日本人ではないらしい。その割には日本語が上手い。


 「えっと・・・。どちらさまでしょうか・・・」


 そう言うとその少年は得意気な顔をして言う。


 「よくぞ聞いてくれました。そう、僕は神様です」


 「は、はぁ?」


 あまりにも唐突な出来事からの、少年の素っ頓狂な言葉に俺は思わず変な声を出してしまう。


 「ああ、なんだ夢か」


 自分の声で冷静になった俺はこの異常事態の正体を理解する。


 「それは半分正解みたいなものだね」


 少年は頭の後ろで手を組んで言う。


 「うん?」


 こいつは何を言っているんだ。


 「まあ君達の言う夢みたいなものだけど、僕から言わせてもらえば、君達の言う夢も君達の現実も大した差はないからね。そしてここは君の夢ではなくて、僕が作り出した別の世界だ」


 「えーっとなんとなくわかったけど、どう言う事だ?」


 「鈍いなぁ。君それでも頭良かったんだろ?こんな事くらいさっさと察してくれよ」


 そんな事言われてもこんな異常事態をすんなり受け入れる精神力を持つ人間はそうそういないだろう。


 「ここは僕が作った、君達が住む世界とは別の世界。そしてここと君の夢をリンクさせて、君の精神体だけをこの世界に引っ張りこんだんだよ。あ、精神体ってのは君達で言う魂ってやつね」


 「いやそれはわかるけど・・・。現実の俺は今どうなってるんだ?」


 「ぐっすり眠っているよ」


 「なるほど。つまりやっぱりこれは夢って事か」


 「だから違うってば」


 神様は露骨に怒った顔をする。


 「わかったわかった。じゃあなんなんだここは。神様はなんで俺をこんなところに連れてきたんだ?」


 「お、やっと本題に入れるね」


 そう言うと神様はうれしそうに目を輝かせて指を立てながら説明を始める。


 (神様ってこんなに感情豊かなんだな・・・)


 「まず結論から言おうか。この世界の名前はヘルブレス。今この世界は二つの国家に分かれていて、戦争状態にあるんだ。君にはその片方の国家に入ってもらって、戦争に加担してもらう事になる。そして負けた国家に所属している人間には現実世界での存在ごと消えてもらうんだ」


 「うんうん・・・って、ええ!?お前なんだいきなり最後にえらい事言ってるけど、何言ってるの?」


 「言葉通りの意味だよ。君が所属する国家が負けたら、現実世界での君の存在はきれいさっぱりなかった事になる」


 「なかったことになるって?」


 「君本当に物分り悪いね。知能は高いはずなのにおかしいなぁ」


 「悪かったな。俺も動転してるんだよ」


 そりゃなんとなくは言っている意味はわかるけど、こんなのすんなり聞き入れるほうがおかしい。


 「だからなかったことになるんだよ。最初から君の世界には君はいなかった事になる。もちろん戦争が終結したらこの世界もなくなるから、君の存在は宇宙の中のどこにも存在しなかったって事になるね」


 「いやいやいやいや、なんでいきなり神様がそんな事しだすの?俺そこまでされるような悪いことしたっけ?」


 神様は腕を組む。


 「君が悪いってわけじゃないんだけどね。まあ原因を突き詰めると、現状を予測できなかった僕が悪いわけだけど」


 「神様って全知全能完全無欠じゃないのか」


 「それは君達が勝手に作り出した幻想だろう。僕にだって出来ることも出来ないこともしっかりある」


 現実世界の宗教信者が聞いたら発狂しそうだな。


 「で、なんで俺は消されるわけ?」


 「ええ!?あきらめるの早すぎない!?勝てば消されないんだからがんばろうよ」


 神様は漫画みたいな驚いた表情をする。


 「ああ、まあそうか。そうだな」


 「ふう・・・。話それちゃったけど続けるよ」


 そう言うと神様は再びまじめな顔に戻って話し出した。


 「君達の住む世界も、元々は僕が作り出したんだ。もちろん君達人間も僕が僕に似せて、面白半分で作って見たんだけどね。でも君達は僕の予想を超えて繁殖しちゃって、更に僕の予想を遥かに超えた情報を持つようになってしまったんだ」


 神様が予想を超えてとか言うのなんかすげー違和感あるな。


 「それがなんかまずいのか?」


 「まずいんだよ。君達が持つ脳の情報ってのは宇宙の理から外れてしまっているんだ」


 「どういうこと?」


 「君達は質量保存の法則とか言うだろ?君達の世界に存在する事象ってのは本来一定の質量の中でぐるぐる回ってるはずの物だったんだ。でも君達の脳が持つ情報はそのルールから外れてしまっている。君達の脳が持つ情報ってのは君達が摂取しているカロリーや酸素の質量の何倍もの質量を持ってしまっているんだ」


 「すげえ!錬金術じゃん!」


 「最初は僕も驚いて興奮したさ。でも喜べる事ではないんだ。このまま行くと君達の世界は本来持てる質量を超えて、パンクしてしまうんだ」


 「パンクってどうなるんだ?」


 「世界が丸々消えちゃう」


 「はぁ?ちゃんとそれくらい計算して世界作ってくれよ神様」


 「だから僕は全知全能でも完全無欠でもないんだってば。出来ない事もわからない事もあるんだ」


 「でも俺たちが持つ情報が質量を持つって聞いてもぱっとしないな」


 「君達の世界にパソコンってのがあるだろ?あそこに保存されてるファイルはどんなファイルでも容量を持っているよね」


 「ああ、なるほど」


 「そう。君達は既にかなりのレベルで僕に近づきつつある。僕が世界を作っている事は、君達がパソコンの中に色んな情報を詰め込む事と大差ないんだよ。さすがに自立的に思考する存在を作るまでには至っていないみたいだけどね」


 「ふむふむ。なるほどです」


 「君、馬鹿にしてない?」


 むっとして神様はこっちを睨む。


 「いやそんな事はないけど、話があまりにも現実離れしていて、なんか受け入れづらいっつーか」


 「まあいいや。また話が脱線したけど、君達の世界が消えるのは困るだろ?だから僕ももう一つ世界を作って、君達の持つ情報をそっちの世界にも分散させる事にしたんだ。それが君達が眠っている時に見る、夢って奴だね」


 「夢ってそう言う物だったのか・・・」


 「うん。だから最初に言ったとおり、僕からしたら君達の現実世界も夢の世界も大差ないのさ」


 「で、じゃあそれで解決じゃねえのか?」


 「そうもいかないんだ。君達の繁殖力と情報量の増え方は、夢の世界に少しずつ発散するくらいじゃ足りなくなって来た」

 

 「じゃあ夢以外にも他に発散できる手段を与えればいいんじゃね?」


 「じゃあじゃあって君、簡単に言うけど、今の人間全ての脳の情報を書き換えるってのはもう途方も無いことなんだよ。それに最近の君達ときたら、やれ哲学やら宗教やらでやたらと僕にケチをつけるからさ、めんどくさいんだよ」


 「要するにめんどくさいと。めんどくさいからこの世界に何人か召還してきて、負けた人間を根こそぎ消してしまおうと。そう言う事か?」


 「お、急に理解が早くなったじゃないか。そう言うことだよ」


 「で、わざわざ二国家に分けて戦争なんかさせるのはなんで?神様なんだし、無作為にぱぱっと何人か間引いちゃえばいいじゃん」


 「それじゃおもしろくな、それはあまりにも不公平だし残酷すぎるだろ!」


 「お前今面白くないって言いかけたよな」


 神様はまたぎくりと漫画みたいな反応をする。


 「あ、ああ!そうだよ!面白くないんだよ!だから僕が存分に楽しめるようにこの世界を作ったのさ!せいぜい楽しませてくれよ。はっはっは」


 とうとう開き直った。本当に神様なのかこいつは・・・。


 馬鹿笑いする神様の前で腕を組んでため息を吐くと俺は聞く。


 「それで、どう言うシステムなんだこの世界は」


 神様はぴたっと笑うのをやめてこっちを向く。


 「君、オンラインゲームとかしてたよね」


 「まあ、多少は」


 大学受験に失敗してから現実逃避で俺はしばらくオンラインゲームにハマっていた。課金要素が増えてきて、札束で殴りあうようなゲームばかりになってからは身を引いていたが。


 「それなら結構有利かもね。ここは君達の世界でちょうど二十年前くらいに存在していたオンラインゲームを元に作った世界だから」


 「いや、それくらい神様なんだから一から自分で作れよ・・・」


 「めんどく、いや、あのゲームは実によくできていたからね。さすが僕が作った人間だよ。なかなかよくできているんだ」


 今まためんどくさいって言いかけたな。


 「そう言うぱくりって著作権とかそう言うの大丈夫なのか?」


 「大丈夫。このゲームは運営会社が夜逃げして消えちゃったから。今更著作権もクソもないよ」


 そう言ってから神様はドヤ顔でこっちを向く。


 「それに何より、僕は神様だからね」


 滅茶苦茶な理論だな・・・。それに運営会社が夜逃げって・・・。大丈夫なのかこのゲーム。


 「まあわかったよ。それでオンラインゲームならチュートリアルとかシステムの仕様とかそう言うのの説明とかないわけ?」


 「あ、次の人が来た。じゃあ僕行かないと!それじゃまたね~。君の活躍を楽しみにしてるよ!」


 そう言うと神様は突然宙に浮いてどこかへ飛んで行こうとした。


 「えっおい!待てよ。そりゃないだろさすがに!」


 「あ、あそこにポータルが二つ見えるだろ?そのどっちか好きなほう選んで入ればいいよ。ポータルから君の所属国家にワープできるから。この世界の仕様とかはその時にポータルの主が説明してくれる」


 なんだよ。ちゃんとそう言うのはいるのか。


 「さすがに焦ったぜ。なんて自分勝手な神様なんだ・・・」


 神様が指差したほうを見ると確かにポータルが二つあった。ポータルって言っても本当にゲームとかにある、地面に円の形した魔法陣が描いてあり、光が浮かび上がっている、まさにポータルってやつだ。


 「さっきまではあんな物なかった気がするが・・・」


 神様の話が終わったら出現するみたいな仕様なのか?俺は不思議に思いながらもとりあえずポータルの方へと向かっていった。


 あたりの暗さと、ポータルが想像以上に大きい事で距離感がつかめていなかったのもあるが、ポータルまでの距離は思っていたよりも遠く、近づいて行くとポータルの前には何人か人がいた。


 「あ、こんにちは!」


 その中の一人の女がこちらに声をかけてきた。


 そこにいたのは男が二人、女が二人の計四人だった。


 「こんにちは。ここって自分以外の人もいるんですね」


 そう返事をすると女の人は、ぱっとうれしそうな顔をする。

 

 「そうなんですよ。なんだか五人揃わないと入れないみたいなんです」


 馴れ馴れしく話しかけてくる女の人とは対照的に、他の三人は黙ってポータルの方を向いていた。


 「私、亜美って言います!私は四番目に来たんですけど、あちらの三方に話しかけても返事してくれなくて・・・。やっと話ができる人が来てよかったー。私メンタル強いほうじゃないから、最後の一人も口聞いてくれなかったらどうしようかと・・・。えっと・・・。あなたは」


 「明です」


 なるほど。確かに他の三人は相変わらずずっとポータルの方を向いてこちらを見ようともしない。


 「明さん!」


 女の人はうれしそうに俺の名前を呼ぶ。よっぽど心細かったのかよくしゃべる。


 正直あまり女の人と話し慣れてないせいで、こう言う時どう言う風に話せばいいかわからない。


 亜美と言う女の人は、俺より少し上くらいの年齢で、この暗さでもわかるくらいの美人だった。そして・・・巨乳だった。


 「あ、亜美さん。名前で呼んじゃっていいのかな」


 「さんつけなくても、亜美でもいいですよ」


 亜美さんはふふっと笑う。・・・かわいい。


 「いや、さすがに初対面でそれはちょっと。で、五人揃わないと入れないって言うのは?」


 俺は緊張しているのを察せられないように精一杯クールを装って話を続けた。


 「ああ!そうなんですよ。あそこのポータル?の前に看板があって、そこに色々書いてたんですよ」


 そう言って亜美さんはズレた赤縁メガネをクイっと戻して、その看板を指差した。


 そこには確かに木の看板があり、そこにはこう書かれていた。


 ・赤いポータルは国家アレスデン、青いポータルは国家エルバインへと続く。


 ・ここで五人揃うまで待ち、話し合ってどちらの国家に所属するか決めること。


 ・五人全員同じ国家に所属する事はできない。必ず三人と二人に別れる事。


 「よし、じゃあ始めるか」


 俺がちょうど看板に書かれている事を読み終わった頃に、沈黙していた三人のうちの一人の男が立ち上がってそう言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ