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二度目はありません  作者: 泉 真子
1/2

前編

流行遅れの婚約破棄をモデルにした物語。

良ければお付き合いしてください。





公爵家令嬢リーゼ・フォン=クラウは二年前、通っていた学園から追放された。


追放理由は当時婚約者であった第一王子にして王太子であったチャールズに学園での素行と子爵家の庶子であったとある令嬢への度の過ぎた嫌がらせの数々を断罪されたが故である。


当時十六であったリーゼ公爵令嬢はチャールズ王子に真っ向から自らの冤罪を主張するもチャールズ王子の側近を務める生徒会の皆によって集められた証拠と証言を提出される。


しかしそのどれもが公爵令嬢たる者を断罪するにはあまりにもお粗末過ぎるものだった………。


リーゼ公爵令嬢の無罪を主張する上級、下級生と教師達。身分問わずにリーゼ公爵令嬢を庇おうとする彼らの反対を押し切りチャールズ王子と生徒会はリーゼ公爵令嬢を学園から追放、そしてチャールズ王子に至ってはリーゼ公爵令嬢との婚約すら留学している他国の王侯貴族の前で破棄を宣言し、あまつ子爵家の庶子令嬢との婚約を国王の許しなく発表してしまくった。


学園より帰ったリーゼ公爵令嬢はフォン=クラウ家当主にして公爵である父と公爵夫人たる母にこれから王都は荒れ、騒がしくなるという助言の下、フォン=クラウ家が治めている領地へと帰郷したのだった。



そしてそれから二年後の今は─────。






「────こちらの決済を至急に各所に通達して。そしてこちらの嘆願書はわたくしの手には負えませんのでお兄様の下にお持ちしてくださいまし」



現在はフォン=クラウ家の嫡子であり次期公爵の跡継ぎであるバルトの下で領地の運営の補佐をしていた。


もともと妃教育で経済語学歴史運営政治あらゆる分野の教養を身に付けさせられていたリーゼの手腕は初めての実務でも遺憾なく発揮された。



「お仕事中失礼致します。バルト様よりこちらの書類をお預かりしてきました」


「分かったわ。ありがとう。その書類はそちらに置いておいきなさい」



視線を上げることなく、次々と書類の決済を進めるリーゼのもとに王都に在住している母からの知らせが届いたのはそんな時だった。


兄バルトと共にリーゼは父からの知らせに、不吉な気配を感じた。



「母上から父上が王城に捕らえられたという知らせが届いた。………なんでも、新しい王太子の婚約者であられるマリン子爵令嬢に無礼な発言をしたことが理由だと…………」


「────なんて、こと」



あまりにも悪い知らせに、リーゼは意識を失いかけた………。本来ならば、国王勅命の婚約を勝手に破棄する事を表明した王太子の今の立場は極めて微妙である。しかし他国の王侯貴族の目の前で、いくら独断とはいえ王太子の身分のまま宣言した子爵令嬢との婚約を撤回させることは、出来なかった。


仮にも一国の跡継ぎが公の場で口にした言葉を簡単になかったことには出来なかったのだ。


そんなことをすれば王を頂点とする王族貴族社会と国の成り立ちを壊す原因になりかねない。


そのことをよく判っている国王は父公爵に詫びを言ってくださった。もともとチャールズ王子とリーゼの婚約はいずれ即位するチャールズ王子の足場を確固たるものにすべく国王が配慮したもの。


しかしチャールズ王子は自らその心遣いを無に帰してしまった………チャールズ王子の母君のご実家は長らく対立している某国との戦争で領地を失い………治めていた一族も攻めてきた某国の騎士達によってすべて討ち取られてしまった。


つまり、今、王妃である方のご実家の後見をチャールズ王子は受けることが出来ないのである。



「この拘束は、あくまでも王太子チャールズの独断でしかない………しかし、国王夫妻は、今は同盟国である王太子の結婚式に招かれて不在の最中………あまりにも時期が悪すぎる…………」



現王太子がその座を取り上げられないのは王位を継げることの出来る者がいないからだ。チャールズ王子の弟君であるチャーリー王子はまだ御歳三つになられたばかり。国王の王弟であられる大公閣下は国に余計な混乱を招かぬようにと王位継承権をすでに放棄しており、自身に子がいればその子を担ぎ上げる者が出ることを恐れて独身を貫いている状態だ。


その他の王族も、他国に嫁や婿に出たりと下手にその子供を後継者にと呼ぼうものなら他国の王侯貴族の介入を許す危険があった。


唯一王太子を止められる国王は王妃と共に国を不在にしている最中。チャールズ王子がリーゼとの婚約破棄と学園追放、マリン子爵令嬢との婚約発表の一件以降特に目立った失態も起こさなかった為に国王はチャールズ王子に側近たる宰相を着けることで国を開けたのだ。


リーゼとバルトの父親は現在財務大臣の位に就いている。フォン=クラウ公爵を拘束するということは財務大臣を拘束したということ。


今、財務省の役人の苦労と王城内の混乱が偲ばれる………。



「リーゼ………私はこれからすぐに王都に向かう。大丈夫だとは思うが………チャールズ王太子が決して短慮を起こさないとも限らない。母上のことも心配だ。私は、なんとか伝手を頼って父上の早期解放を奏上するつもりだ。………リーゼ、私が留守にしている間、領地を頼む」


「…………分かりましたわお兄様。どうか、お気を付けてくださいまし………お父様とお母様のこと、お願い致します」



決死の覚悟を決めた兄バルトの姿にリーゼは内心の不安を押し殺して微笑んだ。


国王夫妻が戻ってくれば何もかも解決すると───この時のリーゼは信じていた。






「お父様、お母様……お、兄さま──────いっ、やぁああアアアアアアアアアアアアアア!!!?」






それが間違いだったと分かったのは……王都に向かったバルトと、王都で捕らわれていた父公爵、母である公爵夫人が民衆の目前で公開処刑されたという知らせが国中に轟いた時だった…………。






●○●○●○●○






フォン=クラウ公爵の当主夫妻と跡継ぎである嫡子の公開処刑。その衝撃の知らせは近隣諸国に激震を走らせた。


他国に公務に訪れていた国王夫妻もこの知らせを聞いて全身の血の気が一斉に引いてしまった。



「誰も……チャールズを止めるものはいなかったのか!?」



王妃は王太子チャールズの気狂いじみた所業に気絶して、今は隣室で侍女の介抱の下に安静にしている。



「フォン=クラウ公爵家は我が国の建国当時から仕えている由緒正しき名門貴族…………それも最高位の大公の次に高位の公爵にある者達だぞ!? それをあろうことか国王たる儂に意見も許可も申し出ることなく処刑しただと!? 王侯貴族の命に関わる処罰にはすべて儂の許しがなくては行えぬと法で決まっておる!! にもかかわらず! 寄りにもよって貴族にとって一番不名誉とされる公開処刑を行っただと!? 公開処刑は国家転覆、もしくはそれに準ずる叛逆罪に下される処罰だ!!!」



いきり立つ国王に、国であったことを王直属の影の者が逐一報告する。



「………フォン=クラウ公爵家の方々の公開処刑には多くの貴族の方々が大反対されました。宰相閣下も、チャールズ王太子殿下に諫言を申し上げるもチャールズ王太子殿下は不敬であると地下牢に宰相閣下を投獄、その他の役人達もチャールズ王太子殿下をお止めしようとなさいましたが全員が地下牢に投獄されました。そして………王弟閣下もチャールズ王太子殿下をお止めしようと王城に参上仕ったところ…………チャールズ王太子殿下の勘気を被り、現在、王弟閣下は意識不明の重体となっております………」


「なんと?! チャールズは儂の弟であるラウエに刃を向けたということか!? なんという………なんということを…………」



国王の脳裏に国の為、民の為に自分を律し、余計な争いの種を作らぬようにと子供どころか伴侶すら持とうとしない………争い事を嫌い、平穏を愛する弟の姿がよぎった。



「もはや……チャールズを野放しには出来ん!! 二年前のあの日以来………特に愚行を繰り返す兆しが見えなかったが故に一度は謹慎を下すことで許したが………それが過ちであったわ!!」



腹の底から燃え立つ憤怒の波動に、国王は決意した。



「かつての婚約者に対する不貞という裏切り。儂の臣下であるフォン=クラウ公爵家夫妻とその嫡子を勝手に処刑するという裏切り。そして国に殉じている大公位にある王弟ラウエを傷付け、あまつ死に瀕しさせるという裏切り……!!」



婚約者を、国王を、貴族を、役人を、民を。

国というものを成り立たせる全ての事柄に対する裏切り行為。



もはや、見逃しも容赦もしない………!!



「急ぎ国へと帰国する!! 皆の者、出立の準備を!!」



「「「「御意!!!」」」



こうして国王夫妻は同盟国への挨拶もそこそこに急ぎ帰国して行った……。






●○●○●○●○






(嗚呼……お父様、お母様、お兄様………国の為、民の為に尽くしていらしたお父様達が、何故このような惨き目に遭わねばならないのですか? 王都では今、お父様達を公開処刑した憎く、忌まわしい王太子チャールズが国王陛下が居ないことを良いことに国政を弄んでおります………。国王夫妻が公務で国を離れてからまだひと月しか経っておらず、財務大臣で在られたお父様がお亡くなりになったことで国費を婚約者のマリン子爵令嬢のへの贈り物を買うために好き勝手使う始末………。マリン子爵令嬢も、チャールズ王子に要求する贈り物の額が段々と跳ね上がっています。このままでは………国費はすぐに底を突いてしまうでしょう────)



たったひと月、だが悪夢のひと月。

国の行政と財政を一気に悪化させ、国を傾けるにはあまりにも短すぎる時間。



国王夫妻が帰国するにしても彼の国と我が国との距離は往復で半月は掛かる。彼の国の王太子殿下の結婚式は国を挙げてひと月は祝われる祝典祭。


我が国の使者が国王陛下の下にチャールズ王子の御乱心を知らせられるのは半月後、知らせを聞いて国王夫妻が帰国するのに更に半月の時間が掛かる………。



(どんなに国王陛下がお急ぎになられたとしても帰国までまだ一週間程は掛かるでしょう………)



陛下が戻られて、王都の有り様を御覧になられたならば、どんなに御嘆きになることか。



(わたくしから名誉も、矜持も、未来も、家族も奪った王太子チャールズ………そしてマリン子爵令嬢………わたくしは、決して貴方方を許しはしない。決して!!)



憎しみの炎に身を焦がすリーゼの耳に、何か言い争うような声が聞こえてきた。



「これは………一体なんの騒ぎなの」



少しずつ大きくなる争いの気配に、リーゼは警戒心を高めていった。すると、リーゼが居る執務室の扉からリーゼ付きの侍女が飛び込んで来た。普段は礼儀正しく、躾の行き届いた侍女の慌てた様子にリーゼの顔が自然と険しくなる。



「落ち着きなさい! 一体……なんの騒ぎだというの?」


「申し訳ごさいませんお嬢様!! しかし緊急事態なのです! たった今、第一王子チャールズ殿下の配下を名乗る集団がお嬢様を罪人として捕らえに参ったのです!!」



侍女の言葉に、リーゼは淑女の振る舞いらしからぬほどの大声を出した。



「なんですって?!」


「城内にいる衛兵達と騎士達が使者と名乗る者共をなんとか抑えておりますが長くは保ちません! 急いでお逃げくださいお嬢様!!」



侍女の切羽詰まった訴えに迷ったのは一瞬。リーゼはフォン=クラウ公爵家に長年仕えてくれた彼らの気持ちとフォン=クラウ公爵宗家の血脈を途絶えさせない為にも逃げねばならない。


たとえ………それが、どれほど情けなく、屈辱感に見舞われようとも。



この日、リーゼ・フォン=クラウ公爵唯一の生き残りである令嬢はこの国の王太子である第一王子チャールズ殿下の配下を名乗る集団から見事逃げ出しその行方を眩ました………。






●○●○●○●○






「………おい!! まだあの女は見つからないのか!? もう一週間以上は経っているぞ!? 何時まで私を待たせるつもりだ!!」


「! も、申し訳ごさいません!!」


「っつ!! もう、いい!! 早くあの女を私の目の前に引きずり出せ!! いいな!?」


「はい!!」



慌ただしく去っていく騎士の姿を鼻で嗤う。



(クソ………どいつもこいつも役立たずだ! あの忌々しい女が生きているというだけでも腸が煮えくり返るというに………!!)



今となっては消し去ってしまいたい過去である。

あの女…………リーゼ・フォン=クラウ公爵令嬢と初めて出会ったのは私が七歳の頃だった。私とは二つ違いの年下の令嬢は五歳という幼い身でありながら、父たる国王と母たる王妃に堂々とした振る舞いで完璧な淑女の礼をした彼女。


最初はあまりにも完璧過ぎる振る舞いに、私は頼もしさよりも薄気味悪さを感じた。



(………この子、まるで人形みたいだ……………)



誰よりも賢く



誰よりも気高く



誰よりも麗しく



誰よりも王太子妃に相応しく



リーゼは決して自らの賢さをひけらかすことなく、常に私を立たせてきた。国の未来と民を思い、私に助言する様はあくまでも控えめであった。貴族令嬢の中で洗礼されてきた教養と思慮深さはその見た目と合い余ってどこまでも麗しく。父王も母王妃も、王家に仕える貴族達も、我が国に属する国民達もすべて未来の王太子妃……ひいては王妃の姿に更なる繁栄を見ていた。


かくいうチャールズ自身も、何時しか初めて会った頃に感じた薄気味悪さも忘れ何時の間にか頼もしさを感じていた。


このような素晴らしい女性が自分の隣に立ち、共に国の未来を紡いでいくことを誇らしく思った。



しかし現在最愛にして最高の女性である婚約者マリン。



学園で彼女と出会ったことで自分はあの憎々しくも忌々しい女に掛けられた呪縛から解き放たれることが出来たのだ!


最初は子爵家の庶子である彼女になんの興味も沸かなかった………だがある日の事、学園ですれ違い様、私の服に着いていたボタンに髪を引っ掛けてしまった彼女は私が誰だか気付くと面白いくらいに慌てだし必死に頭を下げてきた。


あまりにも必死過ぎる様子に、護衛で側に控えていた同い年の騎士の少年も私に対する不敬を咎めるどころか呆れ果てているようだった。


元は庶民であった為だろう。あまりに慌てた様子で必死に誤り続ける彼女が可哀想になりついつい声を掛けたのだ。



『この程度のことで君を咎めるつもりは無いよ。だからそんなに必死に謝らなくていい』



必死に謝り倒す子爵家の庶子────マリンは顔を上げて照れたように滑らかな頬を赤く染めていた。


その……初々しい仕草に私は一瞬目を奪われた。素直な表情を浮かべるマリンに今まで接してきた令嬢とは違う新鮮な空気を感じた。



『あの………本当にごめんなさい』



鈴が鳴っているような可憐な、声。



『────チャールズ殿下は、優しい人なんですね。そういう人はとても素敵だと思います!』



別れの間際に言ってくれた彼女の言葉。馴れ馴れしい態度に護衛騎士は眉を顰めていたが、私は裏表のないその言葉が心の奥の奥まで染みていくのが分かった。


それから私は何度か彼女と話をするようになった。彼女の仕草、視線、言葉のすべては私にとっては新鮮で新たな物事の見方、価値観を知ることが出来た。


そして………何時しか私はマリンを心から欲するようになっていた…………だが。



『チャールズ様………どうぞ、これ以上の御戯おたわむれはお控えしてくださいまし』



当時の婚約者であったリーゼが私に言った。



『チャールズ様が彼の子爵家息女をご友人として遇しておられることはこの学園内の規律を乱し、そして学園に通う貴族子息息女を通して貴族社会にすら争いの兆しを生むやも知れませぬ…………せめて、そう、せめて彼のご令嬢を友人と遇し続けたいのであればそれ相応の“距離”をお保ちくださいませ』



この時、私はリーゼの物言いにカッとなった………何故、交友関係をこの女に指図されねばならないのかと。確かに貴族社会において私がマリンに接する様は少し不適切だったかも知れなかった…………が、マリンは元は庶民である。貴族社会に慣れていない彼女を慮って何が悪いのか!!



『黙れリーゼ………貴様に指図される覚えは無い!! すぐにこの場を立ち去れ!!』


『───────チャールズ様』



リーゼは一度、キツく瞳を閉ざすがすぐに淑女の礼をとると私の前から立ち去って行った…………それからだ。マリンに対して嫌がらせが始まったのは。


制服を泥だらけにされ、教科書を破かれ…………陰口を叩かれるようになったのは。


マリンの虐めを耳にして…………私は裏にリーゼが居ることがすぐに分かった。マリンの虐めはリーゼが私に彼女との付き合いを止めろと忠告した次の日から始まった…………これで判らない方がどうかしている。


私はすぐさまリーゼを呼び出しマリンに対する嫌がらせの指示を止めるように言ったがリーゼは自分はそのような指示は出していないとしらを切った。そればかりか周りのマリンに対する嫌がらせの数々は元を正せば私の所為だと言ってきた!



『チャールズ様がマリン様と適切なお付き合いをなさらない所為で彼女は貴族社会を重んじる子息息女の方々に目の敵にされているのです。わたくしが幾ら止めようと彼らは決して止まりませんわ。だって………マリン様の上位の者に対する行いを許してしまえば貴族社会の規則に順次している彼らの矜持が傷付いてしまうどころかその存在意義すら揺るがしてしまうからです』



口の達者なリーゼはもっともらしい御託を並べて私の詰問をけむに巻こうとし、あまつさえ非難までしてくる始末だった。


この女はもうダメだと私は理解した。

社交界の華と持て囃されているこの女も、結局のところは自らの地位と権利に固執する浅ましい女だったのだ。周りの目を上手く欺き、名誉と栄誉を欲しいままにする喰えない女狐。


マリンに対する嫌がらせも自分の王太子妃としての未来を盤石にする為にくぎを刺しているのだ。


なにが誰よりも王太子妃に相応しい高貴な令嬢か。浅慮で醜く、生臭いただの女ではないか………。


リーゼに失望した私は、リーゼがマリンに対する嫌がらせを止めないことが分かったので私自身が生徒会長を務める生徒会の皆に協力を仰いだ。


幼き頃からの友人であり側近でもあった皆は私の声を耳を傾けてくれた。そしてマリンを護ることを約束してくれたのだ。


生徒会の皆との約束を取り付けた私は早速マリンを生徒会室に連れて行った。此処ならばマリンもきっと安全であると確信していたからだ。


だが………ここで予想外の事が起きた。友人であり側近でもあった彼らが皆マリンに夢中になってしまったのだ。何かと理由を付けてマリンを連れまわす彼らに私は苛立ちを覚えた。



そして気付いた─────私はマリンに恋をしていることを。



自分の気持ちを自覚した私は益々マリンに纏わりつく彼らに耐え難い苛立ちと嫉妬を覚えた。マリンを手放したくなかった私はマリンに自分の気持ちを告白した。婚約者であるリーゼの事などもうどうでも良かった…………あんな薄気味悪い人形のような者など…………。


マリンは私の告白に戸惑いを隠せないようだったが、それでも恥ずかしながらも私の手を取ってくれたのだ。


マリンが居てくれれば何も怖くなど無い………。


私はマリンを護る為に最後の行動に出ることにした。マリンの───そして私の幸せの為に、リーゼとの婚約を破棄してこの学園から追放すること。


なかなか証拠と証言、そして在学中の貴族子息息女と教師達の賛成を集めるのは難航した。だが私は遂にやり遂げた!! リーゼとの婚約破棄と学園追放を成し遂げたのだ!! 何より嬉しいのは私とマリンが無事に婚約を結ぶことが出来たこと。父王から身勝手な振る舞いに対して叱責と処罰を受けたが…………父王もいずれは分かってくださるだろう。あの外面ばかり取り繕ったリーゼよりも、心優しく、慈悲深く可憐なマリンの方が王太子妃に相応しいことを。


その時になれば父王もこの時の私の判断を認めてくださるだろう。


マリンは妃教育の為に城に上がった。

マリンは少々気後れしているようだったが、私に対しては花が綻ぶかのように愛らしい笑顔を見せてくれた。



それから二年の間、私は幸せであった………。愛しいマリンが側に居り、私の為に一生懸命頑張る様は私の心をくすぐり暖かくさせてくれる……。


国王夫妻が同盟国の王太子の結婚式に公務として参加することになった。



私は父王と母王妃に後の国を託された。



私は両親に寄せられる期待に応えようと気持ちを引き締めた。お二人が国を離れてすぐのこと。アレは起こった………。


なんと私の愛しいマリンが財務大臣であり、リーゼの父親であるフォン=クラウ公爵に城内で罵倒されたというではないか!!


聞けば、マリンは財務大臣であるフォン=クラウ公爵に妃教育の費用を城下にある孤児院に寄付して欲しいと願い出たところすげなく拒絶され、尚も言い募ったら「貴女は妃教育で何を学んでいたのか!!」と怒鳴られたそうだ。


マリンの心優しさが、何故判らないのか?


マリンは身寄りの無い小さな子供に手を差し伸べてたかっただけではないか!!


怒り狂った私はフォン=クラウ公爵を衛兵に命じて捕らえさせた。王太子妃の位をマリンに奪われた腹いせだろう。娘も娘なら親も親だ。


しかしフォン=クラウ公爵を捕らえてすぐに宰相が公爵を解放するように言ってきた。私は言葉を尽くして宰相にフォン=クラウ公爵がマリンに対して言った不敬を悉く語るも耳を貸さない。それどころか私とマリンを非難してきた。


私は宰相も地下牢へと投獄するように命じた。

王太子たる私とその婚約者であるマリンに敬意を持たぬ者など不用だ。


そして最後に私の元に訪れたのは元王子にして王弟でありこの国唯一の大公であるラウエ叔父上。


ラウエ叔父上は私に懇々と諭すようにフォン=クラウ公爵と宰相の解放を要求してくるが、幾ら叔父上といえど聞き届ける訳にはいかない。


この事は私とマリンの立場と沽券に関わる問題だ。これ以上あの女に関わる者共に邪魔される訳にはいかないのだ。



それから叔父上は何度も城へ上がった。


その度に私が下したフォン=クラウ公爵と宰相の拘束命令を撤回するように言ってきた。


周りの官僚からの非難の声も高まってきた。業腹ではあるがもうそろそろ潮時であろう。あの二人とて今回の事で私とマリンに対する不敬を省みただろう。



……………そう、思っていたのだ。あの時までは!!









 


今日の12時に最終話を更新します!

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