恋する小さな赤リンゴ
「お、お待たせ。待たせちゃった……かな?」
「……っ!!」
少し息を切らしながら現れた秋乃の姿を見て颯太は思わず言葉を失った。
黒い三角型の帽子を頭にかぶり、その背中にはほぼ同色のマント。中には制服を着ているものの、それは明らかに普段通りの格好ではない。
可愛い。颯太は素直にそう思った。けれども、それを言葉にして発するのは少々照れ臭かったらしく、赤くなりながらも視線をズラした
「ウッヒョオ!!なぁなぁアキちゃん。それってもしかして、手芸部で作ってたって噂の魔女っ娘コス?」
「う、うん……どうかな?急いで作った服だからクオリティにはちょっと自信が無いんだけど……」
「いやいや、かなり上手く出来てるって!!それにスゲェ似合ってるし。試しにそのまま「お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ」って言ってみて」
かなり興奮している俊の反応に照れながら、秋乃はコクりと頷く
「えっと……お、お菓子をくれないとイタズラしちゃう……ぞ」
「くぅーー!!良い、すごく良い!!恥じらう姿と自然な上目づかいが素晴らしい!!ベリーグッドだぜっ!!お菓子あげたいけど、イタズラもされたい!!」
ガッツポーズと共に高らかに叫ぶ俊。周囲はお祭り状態なので大して目立たないが、普段通りであれば不審者として通報されてもおかしくない。
そんな彼は収まる事のない興奮を隣にいた友人と共感しようと颯太に声をかける
「ほらほら、幼馴染がこんな可愛い恰好してるんだぜ?颯太もなんか言ってやれよ」
「えっ?いや、別に俺はコメントなんて……」
「いいじゃねぇか。お前もハッキリ言ってやれよ。「似合ってる」って。「可愛い」って」
「は、ハァ!?なんで俺がそんなこと……」
「なんだ、恥ずかしいのかぁ?幼馴染の魔女っ娘コスが可愛すぎて、言葉も出てこないってか?」
「くっ、コイツ……」
右ひじで軽く突きながら、俊がニヤリと笑っている。完全にからかっている。それが分かった颯太は彼の右ひじを左手で抑えながら抵抗する。
すると、恥ずかしがっていたらしい秋乃が颯太に弱々しく視線を送った。若干下を向いている影響か、上目づかいになっている状態。颯太はそれに可愛らしさを感じていると、秋乃はゆっくりと口を開いた
「そーくん。その……どう、かな?」
「えっ!?いや……その、すごく似合ってると思う」
「ほ、ほんとっ?」
心の底から喜んでいる事が分かるくらい明るい声。それ聞かされた颯太は取り繕う余裕もなく、本心を込めて頷いた
「あ、あぁ」
「でも、すっごく目を逸らしてるよそんな?ムリにウソなんて言わなくても……」
「違う!!ウソなんかじゃない」
咄嗟に颯太の声が大きくなった。少し驚きつつも秋乃はその真相を知りたいらしく、首を傾げる
「じゃあどうして……目を合わせてくれないの?」
「そ、それは……その……可愛いかったから」
「えっ?」
一度余裕を失ってしまうと上手く誤魔化す事も出来ない。半ばヤケクソになった颯太は「どうにでもなれ」と思いながら続ける
「か、可愛いかったから、ちょっと気恥ずかしかっただけだ。だから、ウソを言ってるわけじゃない」
「そ、そっかぁ。可愛かったかぁ。えへへ、ありがと。そーくん」
「んっ…………」
少女が照れ隠しに視線を逸らし、少女は褒められたことを嬉しそうに微笑んでいる
「あー、オホンオホン。お二人さん、俺がいること忘れてない?」
「あっ……いや、忘れてたわけじゃないぞ……たぶん」
「たぶんかよっ!!」
「それよりさ、さっさと行こうぜ。ハロウィンパーティー、行くんだろ?」
「うおぉ、そうだった!!早くコスプレ姉ちゃんたち会いに行かないと!!」
急激に気分を高揚させた俊がたくさんの人の集団に入っていく。その集団の中にはハロウィンらしい魔女のコスプレをしている女性も沢山いて、彼の言っていた「コスプレ姉ちゃん」というのが彼女たちだということはすぐに分かった。
それを見ていた颯太は「ったく」とため息をつきながら苦笑いを浮かべる
「アイツ……どうせ声もかけられないクセに」
「ふふっ。俊くん、意外と恥ずかしがり屋さんだもんね」
「あぁ……っと、ほら、俺たちも行くぞ。手、出して」
「えっと、もしかして繋いでくれるの?」
「……迷子にでもなったら困るからな」
「ありがと、そーくん」
ぶっきら棒に差し出された颯太の手を秋乃がゆっくり大切そうに握る。そして二人はお互いの温もりに小さな恥ずかしさを感じながら、俊のあとを追って歩き始めた