第6話 今の暮らしに心は満たされているか?
門番B
『第一だな、もしもお前に才能があるのなら、もっと若い頃にとっくに芽が出てるんでないかい?悪いことは言わん。諦めろ。それじゃあ女にもモテんだろ。女は現実主義者が多いからな、食えない夢なんかより、今日の飯だろ!飯!』
門番A
『…。お前に夢はないのか?
お前は今のこの暮らしに心が満たされているとでもいうのか?』
門番B
『別に満たされてるとは思ってないさ。
だが、心が満たされているとか、満たされていないってことはそんなに重要なことなのかね?
俺らのように武芸や学問、芸術など、それらに突出した才能もなく、容姿に恵まれているわけでもなく、おまけに生産手段も持っていない!富もない!
そんな生まれの多くの人間は普通に働く他、ないではないか?
創作や表現の世界など才能のある者に任せておけばいいのさ。
少なくともお前がやることではない。
我々のような人間はだな、長いものには巻かれる他はないのだよ?
労働を終えた後、安酒を飲みながら憂さを晴らし、布団に転がり、大イビキをかいて尻を掻きながら(笑)寝るとか、そんな小さな幸せを我々は幸せと感じるべきなのだ。
だから、お前もだな、つまらない意地を張らずにもっと身の丈に合った幸福をだな、探すといいんでないかい?
それに、風雨を凌げる家があるだけでも幸せなことだぞ、アァン?』
門番A
『そうか。お前も今の暮らしに満たされているわけではないのだな?確かに俺の耳にはそう聞こえた、聞こえたぞ!俺の耳には!』