バイトの面接
今日はバイトの面接の日。
ひきこもりニートの俺がなぜこんなことをしなければならなくなっているのか。わけがある。いつものようにネットの某掲示板でダラダラとネトウヨとネトサヨの対立を煽り、「所詮はイケメンしか相手にされない」と女叩きに興じていたところ、突如スレに鬼女が出現。俺はなぜか粘着され、ニートだのブサイクだの散々に煽られ叩き返される事態に。止めの一言はこうだ。「どうせママの真っ黒な乳首吸いっぱなしで一度も働いたことないんだろ?」
俺はともかく母ちゃんをバカにするとは許せない。俺は一念発起してコンビニバイトの面接を受けるに至る。
「なるほど。帰りたい」
そもそも俺に粘着した奴が女かどうかも不明だ。男だろうと女だろうと乗せられた自分が悪いわけだが。
コンビニの前で立ち尽くすこと五分。約束の時間は刻一刻と迫る。家を出るのは三年ぶり。周囲の視線が気になってしょうがない。知り合いにも近所のおばさんにも遭遇してないが、やはり三年のブランク、外界のプレッシャーは半端ではない。なんにも恥ずかしいことはしてないのに恥ずかしい。穴があったら入りたい。生きててすみません。そうか、生きてることが恥ずかしいのか。なーんだ。
「行くぞ。行け。動け。俺の足」
しかし俺の足は止まったまま一歩も踏み出そうとしない。
外界と時間は確実に俺の首を絞めにかかっている。乗りかかった舟、いや三年ぶりに外出した実家なんだ。ここまで来て逃げるのは負け犬すぎる。
「……」
あー、もうダメだ。絶対無理。人生なんてクソゲー、働いたら負け。母ちゃん、なんで俺を産んだんだ。
ピンコン♪
携帯が鳴る。家族とコンビニ以外に連絡先は入れてない携帯。そうか、コンビニからだ。面接の担当者とか店長に急用が入ったんだ。やった帰れるぞ。
母ちゃんからのラインだった。
「新ちゃん、久しぶりの外出だけど、遅くならないうちに帰ってきてね。今日は新ちゃんの好きなシチューです」
「……」
なんだよ、それ……。そんな優しい言葉が来たら、もう逃げらんねーじゃねーか。もう、逃げられないじゃんか……。
いや、この際母ちゃんのことは置いておこう。今俺が一番許せないことはなんだ?
それは、こんな優しい言葉をかけてくれる母ちゃんを今一瞬、邪魔だと思っちまった自分だ。母ちゃんのために面接行くのに、母ちゃんのせいで逃げられないと思っちまった自分自身がどうしても許せねぇ。
「行ってやるさ。俺は今までの俺をぶっ倒す。圧迫面接でぶっ飛ばされるくらいがちょうどいい。いや、完璧に受け答えして、コミュ障の俺を俺がぶっ飛ばす……」
俺は三年ぶりに自宅から徒歩一分のコンビニに足を踏み入れる。
俺自身と蹴りを付けに。