閑話
予定通り瑠璃を追い出し、ほくそ笑むナダーシャの王子と同級生達。
あさひには一切知らせず、瑠璃の事は城での生活が嫌で逃げ出したと説明した。
それで簡単に納得するだろうと思っていたのだが、彼等はあさひの執着を甘く見ていた。
「瑠璃ちゃんが、私を置いていくわけないじゃない!!
瑠璃ちゃんの事は私が一番よく分かっているんだから!」
ここに瑠璃がいたならば、そんな事は無いと激しくツッコミを入れていた事だろう。
だが、ここに瑠璃はおらず、予想以上のあさひの抵抗に王子と同級生達は狼狽えた。
探しに行くと、今にも飛び出して行きそうなあさひをなだめ、王子は瑠璃を追放したその日に捜索部隊を魔の森に送る事となった。
上手くすれば森へ捨てる前に瑠璃を連れ帰れると思ったが、途中で森から帰るナダーシャの兵と行き合い、瑠璃が既に森に捨てられた後だと知った。
魔の森は魔獣や獣の巣窟となっている場所。
時は一刻を争う。
兵を増援し、数日に渡り森の中を捜索したが、瑠璃は見つからなかった。
この時、実は捜索部隊と瑠璃は目と鼻の先まで迫っていたのだが、鉢合わせにならないよう精霊達が上手く瑠璃を誘導し、兵がそちらへ向かおうとしたらコタロウが別の方向へ追い立てたりと、抜群のバックアップ体制により、発見に至らなかった。
瑠璃が見つからず日増しに癇癪を起こすようになってきたあさひに、ナダーシャ国の者も同級生達も焦りを見せる。
だが王だけは、腐っても一国を統べる者。
王はこの状況を自身の都合が良いように利用する事にした。
「どうやら巫女姫の友人は竜王国の者に誘拐されたようだ」
王も他の者も、瑠璃は生きてはいないと思っていたが、それをちらりとも感じさせず、無念でならないといった表情を作った。
「竜王国?」
「野蛮な亜人共が暮らす国だ。
きっと巫女姫を手にした我が国を嫉妬し、巫女姫の弱点となる者を捕らえたのであろう」
「そんな……私のせいで瑠璃ちゃんが……」
「ご安心召されよ。
いつまでも蛮族の好き勝手を許すわけには行かぬ。
だが、残念な事に国内には竜王国に対して兵を出す事に弱腰な者が沢山いるのだ。
我が国に繁栄をもたらす巫女姫が旗頭となって頂ければ、きっと反対派も戦争に踏み切るだろう。
友人を救い出す為にどうか協力しては頂けぬか?」
真摯な態度を貫く王であったが、腹の中は瑠璃を助ける気など全くありはしない。
戦争で勝った暁には、戦争の最中に殺されたと、再び竜王国になすり付ける心積もりだった。
そんな事など知らないあさひには、竜王国はさぞかし野蛮で凶悪な国と映っただろう。
そんな場所に瑠璃がいるなら助けなければと、快く承諾した。
「勿論です!
瑠璃ちゃんを早く助けてあげなくちゃ。
…………待っててね、瑠璃ちゃん」
こうして、ナダーシャ国は竜王国への戦争準備を始める。
その時、彼等の会話を聞き、呆れたように溜め息を吐いた者が密かにいた。