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腕輪


 食事を終えると、ヨシュア達もようやく自分達の食事ができるようになった。

 だが、瑠璃達は食後のお茶をゆったりと堪能していていたので、給仕の者を残し、交替で取っている。


 たっぷり食事を取ったカイは満足したのか、コタロウをベッドに横になっている。

 食後すぐに寝たら太るぞと思ったが、中身は精霊なので大丈夫なのかもしれない。



「獣王国は温泉があるんですよね?」


「ああ、そうだ。温泉は好きか?」


「大好きです!」



 アルマンの問いに瑠璃は激しく同意した。



「城の風呂には地から湧いた温泉を引いているから、朝でも夜でも存分に楽しむと良い。

 浸かる温泉も良いが、地熱を利用した砂風呂も良いぞ」



 瑠璃の目がきらきらと輝く。



「羨ましいー。竜王国には温泉どころかお風呂もないからすっごく楽しみなんです」



 竜王国にない分。否が応でも期待値は高まっていく。



「そうか、竜王国は魔法で全てすませるからな」


「そうなんです。魔法で綺麗にはなるんですけど、やっぱりお湯に浸からないと」



 瑠璃の熱弁にアルマンは「そうだろうとも」と頷く。


 お湯に浸かる文化のない竜王国の人に、お湯に浸かる素晴らしさを説いたところで軽く流される。

 現に以前森でチェルシーにお風呂を作る許可をもらうため、お風呂の素晴らしさを説いたが、勝手におし、と投げやりに返された。

 魔法ですませるチェルシーには、いまいち瑠璃の熱意は伝わらなかったらしい。


 なので同意してくれるアルマンに嬉しくなった。



「しかし、そんなに好きなら竜王国にも作れば良いじゃないか」


「でも、竜王国に温泉って湧くのかな?」


「そこに地と水の最高位精霊殿がおられるんだから、力を借りれば地下深くから引っ張ってこれるんじゃないのか。

 それに愛し子の願いなら、温泉を湧かせるぐらい他の精霊でもできるはずだ。

 獣王国の王都も、元は荒野だったのを、当時の愛し子の願いでオアシスを作り出したぐらいなんだからな」


「へえ、そんなこともできるんですか?」



 瑠璃は試しに聞いてみる。



「ねえ、リン、カイ、竜王国に温泉作れる?」



 半分寝ている様子のカイだが、話は聞こえたようで『できるぞー』と力ない返事が返ってきた。

 そしてリンからも『できるわよ』と返ってきて、瑠璃は小さくガッツポーズをした。



『でも、温泉ってことはお湯でしょう?

 水脈を引っ張ってこれるけど、それだと冷たい水のままだから、お湯にするには地熱で温めないと。火の精霊の力も必要ね』


「火の精霊かぁ。それ別に最高位精霊じゃなくてもいいんでしょう?」


『まあ、できなくはないわよ。

 でも私達と力を合わせて何かするなら、同格の精霊の方がやりやすくはあるわね』


「そうなんだ。でも、そう簡単に最高位精霊が手を貸してくれないよね」


『ルリなら手を貸してくれるかもしれないわよ。あいつ女好きだから』


「あら、アルマン様と気が合いそうですね」


「おい」



 女好きという火の精霊の話を聞き、セレスティンが呟くと、アルマンは苦い表情を浮かべる。



「手を借りようにも、どこにいるかなんて分かんないし」


『前は樹のに会いに霊王国にいたわね。

 まあ、千年ぐらい前の話だけど』


「精霊同士、何処にいるとか分からないの?」


『探そうと思えば探せるわよ。探す?』


「ううん、別にいいや。

 他の火の精霊でもできるんでしょう?それなら皆に頼むから。お願いして良い?」



 周囲に飛んでいる精霊達に問い掛けると、



『いいよー』


『うん、まかせて!』



 といった、気合いの入った声が返ってくる。



「獣王国に行ったら、王都の町を観光したいんですけど、しても良いですか?」



 ジェイドにもお土産を買ってくると言ってきた。なので町を観光したいのだが、神光教の問題はまだ解決したと言えない。

 セレスティンが襲われたのが獣王国だったことを考えても、ほいほいと町に出て良いものか迷う。

 まだ神光教の仲間が獣王国にいる可能性があるのだから。


 聞かれたアルマンも少し難しい顔をする。



「そうだな。神光教の問題が片付いていたらすぐにでも許可したんだが……。

 まだ拠点すら分からない状況だ。獣王国でまた襲ってくる可能性は否定できない」


「やっぱり難しいですか……」



 せっかく他国に来たのにと、瑠璃は肩を落とす。



「城の警備はどうなっていますか?

 恐らく以前獣王国の城へ侵入した方法も、竜王国の城と同じで、ネズミに変化してだと賊から証言を得てます。

 腕輪がいくつ存在しているか分かりませんが、他にまだある可能性があります」



 食事に行ったヨシュアと交替したユアンが、アルマンにそう問い掛ける。



「侵入方法が分かった直後、城内を見直させている

 だが、正直ネズミのような小さい者を絶対に入り込めないようにするのは少し難しいな。

 時間も足りない」



 狭い部屋ならまだしも、城のように広い場所。全てを見直すだけでも時間が掛かる。

 さらに対策もとなれば、すぐにできることではない。


 竜王国の半壊になった城のように、いっそ潰れて一から建て直す方が対策も取りやすく、時間も短縮されていたのかもしれない。



『獣王国にいる間、我はルリから一時も離れるつもりはないし、常にルリの周囲に結界を張っておく。

 賊が来たところでもう同じようにルリを浚ったり、傷付けたりすることは叶わぬ。安心しろ』



 コタロウはよほど瑠璃が偽死神に捕まったことを口惜しく思っていたのだろう。

 瑠璃が助かってから、コタロウは瑠璃の側から離れなくなった。


 これまで遠慮していた寝室や執務室にも、心配だからとくっついてくる。


 心配を掛けさせたことを分かっているので、瑠璃も拒否できずにいるが、いつまでも神経質にいてはコタロウが疲れてしまうのではと、逆に心配していたりする。


 だが、今はきっと言っても聞かないだろう。

 せめて、神光教の問題が片付かないことには。



「ねえ、コタロウ。その結界、神光教の問題が片付くまでセレスティンさんにも張り続けることってできる?」


『うむ、できるぞ』


「じゃあ、お願い」



 愛し子が狙われていた以上、危険なのはセレスティンも同じだ。

 

 直後、セレスティンの周りにふわりと風が起き、見えない結界が張られた。

 驚いたように話を聞いていたアルマンが瑠璃に頭を下げた。



「助かる」



 セレスティンも、続いて「ありがとうございます」と礼を言う。

 


「危険なのはセレスティンさんも同じですから。気にしないで下さい。

 それより問題なのはあのネズミになる腕輪ですよね。

 あれさえなかったら、城にも侵入できないし、愛し子を暗殺なんてしようがなかったはずだし」



 瑠璃は空間から腕輪を二つ取り出した。

 一つは瑠璃の猫になる腕輪。もう一つは偽死神から取り上げた腕輪の一つだ。

 見れば見るほどよく似た腕輪だ。



「それがネズミになるって腕輪か?」


「はい、そうです」



 問うアルマンに腕輪を渡すと、くるくると回したり腕にはめたりしながら確認するが、その腕輪には回数制限があるらしく、それを越えた腕輪は本当にただの腕輪だ。


 確認し終えたアルマンが、瑠璃の持つもう一つの腕輪へと視線を向ける。



「それは?」


「これは私の持っている、猫に変化する腕輪です。

 元々は初代竜王様の物なんですけどね。

 そっちの腕輪と似てますよね」



 似てはいるが性能は瑠璃の持つ腕輪の方が良いようだ。

 回数制限などなく、何度も使っているのだから。



「試しに使ってみろ」



 どこかわくわくとした様子のアルマン。

 実際に賊が変化した所を見ていないので、興味があるのだろう。


 仕方なく瑠璃は自分の腕に腕輪をはめてみる。

 直後、白猫へと変化した瑠璃に、アルマンは大層ご機嫌だ。



「おお、本当に猫になった!」


『もう戻っていいですか?』


「いや待て、ちょっとこっち来い」



 ひょいっと瑠璃を抱き上げると、猫になった瑠璃の頭を撫でたり、肉球を触ったりしながら、本当に猫だと楽しんでいる。


 一通り撫で回され、解放された瑠璃はげんなりとしていた。

 また触られない内に人間へと戻る。



「腕輪がどこで作られたとか分かったら、そこから何か分かるかもしれないんですけどね」



 そう言えばリディアに腕輪のことを聞こうとしていたが、何だかんだで忙しく聞くのを忘れていたと思い出した。


 しかしそこでカイの姿が目に入る。


 カイもまた初代竜王と契約していた精霊。

 腕輪について何か知っているかもしれないと思った。



「ねえ、カイは何か知らないの?この腕輪について」


『ネズミになる方の腕輪のことは分からねえけど、ルリの持ってる腕輪のことなら知ってるぞ。

 そいつはヴァイトがヤダカインの魔女からもらったやつだ』


「ヤダカイン?魔女?」



 どこかで聞いたことのある名に、しばし考え込む。

 瑠璃の中から答えが出てくる前に、答えたのはユアンだ。



「ヤダカインは愛し子がいると言われている国だ」



 そう言えばそんなことを聞いた気もすると瑠璃は思い出した。



「竜王国の海の向こうにある島国で、代々呪術を使う魔女が国を治めている。

 精霊に見放された国、そんなふうにも言われているな」


「精霊に見放された国ってどういうこと?」


「お前も知ってる精霊殺しの魔法を生み出したのが、ヤダカインの魔女達だ。

 その精霊殺しにより多くの精霊が消え、世界中で禁忌とされたが、ヤダカインの魔女達は構わず使い続けた。

 それ故、ヤダカインには精霊が近付かなくなったという話だ」



 ユアンの言葉が真実なのか問うようにコタロウ達を見ると、肯定するようにこくりと頷いた。



「以前は竜王国もヤダカインと頻繁に国交を持っていたが、その件以降ヤダカインも鎖国を始め、竜王国も積極的に関わろうとしなくなったので、今では絶縁状態だ。

 諜報員が何度かヤダカインに向かったが、長く鎖国しているせいか見知らぬ者への警戒心が強くて、あまり情報を得られなかったと奴らが文句を言ってたな。

 だから今のヤダカインがどんな国かはほとんど分かっていない」 


「そうなんだ。じゃあヤダカインの情報はないんだ。

 それにヤダカインには精霊がいないってことよね。

 それなのに愛し子がいるって分かるの?

 精霊がいなきゃ愛し子かなんて分からないじゃない」



 精霊の力を借りられなければ、愛し子もただの人なのだ。



「時折ヤダカインから追放された犯罪者が、海を漂流しているのを通りかかった船が助けることがあるんだ。

 愛し子がヤダカインにいるってのは、そいつらからの情報だ。確認しようにも鎖国しているヤダカインには入るのも大変だからな実際に確認はできていない」


「ふーん、そうなんだ」



 瑠璃は腕輪に視線を落とす。



「猫になる方の腕輪がヤダカインの魔女が作ったなら、こっちのネズミになる方も魔女が作ったのかな?」


「可能性はあるな」


「ってことは、神光教がヤダカインの魔女と繋がってる可能性もあるのよね」


「それだと色々面倒だな。ネズミになる腕輪以外に、魔法具を持っている可能性もある。

 魔女はそういうのが得意らしいから」



 アルマンは眉間にしわを寄せながら瑠璃とユアンの話を聞いており、「このことは念のためジェイドにも話をしておいた方が良さそうだな」と呟く。


 精霊に伝えてもらえれば早いのだが、幼い話し方をする精霊伝手だと、きちんと伝わらない可能性がある。


 なので、ジェイドには獣王国に着いてから手紙を書くことになった。








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