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恋の予感?

 旅行日和の晴天の下、城の広いテラスでは獣王国へ向かう者と見送る者とで混雑していた。


 獣王国までの移動は空路。


 獣王国から来た者達の多くが、翼を持つ獣人。それ以外の翼を持たず空を飛べない者は、竜王国から向かう兵が連れて飛ぶことになっている。


 魔法で空を飛ぶ方法もあるにはあるが、獣王国まで長時間空を飛ぶのは途中で魔力切れを起こして落ちる可能性があるので誰もその方法を取る者はいない。


 瑠璃の魔力ならばそれも問題ないだろうが、コタロウがいるので、瑠璃はコタロウに乗っていくつもりだ。



「ルリ、準備はできたか?」



 見送りに来ていたジェイドが、近付いてくる。

 その後ろにはフィンとクラウスもいる。

 それぞれ同行するユアンとヨシュアを見送りに来たのだろう。



「はい、いつでも行けます」


「くれぐれも気を付けるんだぞ」


「大丈夫ですよ、精霊達も、ヨシュアとユアンもいますから」



 明るく瑠璃がそう言うが、ジェイドの心配そうな表情は拭えない。

 できることなら付いていきたいとジェイドの顔が語っていた。



「アルマンには頼んでいるから、セレスティンと何かあれば頼ると良い」


「何かって?」


「いや、まあ、何かだ」



 はっきりとしないジェイドに、瑠璃は首を傾げる。

 何かがありそうな言い方をされるとものすごく気になるし不安になるではないか。

 そこへセレスティンがやって来た。



「あら、大丈夫ですよ、ジェイド様。

 ルリさんのことは私が責任を持っておもてなしさせて頂きますから」



 上品に笑うセレスティンを、ジェイドは苦虫をかみつぶしたような顔で見る。

 


「セレスティン、ルリは私の番いだ、くれぐれも、くれぐれも余計なことはしないでくれ」



 くれぐれもと強調した忠告を受けたセレスティンは心外だと言わんばかりの顔になる。



「別に取って食べたりなどいたしません。

 ですが、長年の想いに折り合いを付けるのには簡単なことではありませんのよ」



 愁いを帯びるその表情に、ジェイドも言葉を失ったように詰まった後、申し訳なさそうに眉を下げる。



「……それでセレスティンの気がすむなら、ルリとゆっくり話すと良い」


「ええ、そういたします」



 そんな二人のやり取りと見ていた瑠璃は、獣王国に行って虐められないかどきどきしていた。

 あまりにも怯えた表情をしていたのが気に食わなかったのか、セレスティンは瑠璃の顔をじっと見つめ……。



「でも……少しぐらいの意地悪は構わないでしょうか?」


「え゛っ」


「……まあ、ほどほどならばな」


「ええ!?なに許可出してるんですか、ジェイド様!」



 まさかジェイドから許可が出るとは。

 虐められる当人である瑠璃は衝撃受ける。



「大丈夫だ。セレスティンも愛し子相手に酷いことはしない……と思う」


「ええー」



 ジェイドも断言できるほどの自信はないらしい。



「ふふふ、冗談ですよ」



 そう笑うセレスティンの目が笑っていないように見えるのは瑠璃の気のせいであってほしい……。ますます獣王国行きが不安である。



「陛下、準備が整いました」



 出発の準備に奔走していたユアンとヨシュアが報告にやって来た。



「分かった」



 ユアンはジェイドの側にいるセレスティンを目に留めると、顔を紅潮させ視線を忙しなく動かしつつも、セレスティンをちらちらと見ている。


 その反応に瑠璃だけでなくヨシュアにクラウスとフィンが、おやっと目をとめる。


 ジェイドも感じるものがあったが、一先ず二人をセレスティンに紹介する。



「セレスティン、ルリと共に獣王国へ向かうユアンとヨシュアだ。

 ヨシュアの紹介は必要ないだろう。ユアンはフィンの弟だ」



 どうやらヨシュアとは面識があるようで、セレスティンも「お久しぶりです」とヨシュアに挨拶をしている。


 そして初対面らしいユアンと向き直り、にこりと微笑む。



「初めましてではありませんね。言葉を交わしはしませんでしたが一度お会いしておりますね?」



 以前にアゼルダが第一区に乗り込んできた時のことを言っているのだろう。

 基本的にジェイドが国外に行く時に護衛で付いていくのはフィンの役目であり、ユアンが他国に行きそこでセレスティンと会うようなことはなかった。

 これまでセレスティンが竜王国に来る時はあったが、ユアンは軍でも事務作業が多く、賓客の警護には別の兵がその業務についていたのでセレスティンと顔を合わせることがなかった。


 なのでこれが二度目の顔合わせであり、初めて言葉を交わすことになるのだが……。



「はははい!ユアンと申します。どうぞお見知りおき下さい!」



 顔を真っ赤にし、激しい動揺っぷりを見せるユアン。



「そう緊張しないで。

 これからお話しする機会も多くあると思いますので、よろしくお願いします」


「ここここちらこそ、よろしくお願いします!」



 ぽーっとセレスティンを見つめるユアンは恋する男子そのもの。


 瑠璃はヨシュアと顔を見合わせ、その互いの視線で同じ考えに至っていると分かり、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。



「これはまさかのまさか。あのユアンがねぇ」


「獣王国に行く楽しみができたなぁ。観察日記でも付けるか」


「フィンさん、もしかしたら脱ブラコンかもしれませんよ」

 


 べったりな弟の独り立ちに喜んでいるかと思いきや、フィンは複雑そうな顔をしている。

 隣にいるクラウスもだ。



「嬉しくないんですか?」


「いや、嬉しくないわけではないんだが、相手が獣王国の愛し子というのがな……」


「それが問題あるんですか?」


「彼女はずっと陛下に懸想しているんだ、現在進行形で。そんな相手を思っても断られるのがオチだろう」


「まあ、確かに」



 フィンの隣にいたクラウスが「それだけではありません」と続ける。



「ユアンは精霊が見えないんです。そのせいか他者と比べて精霊への信仰が薄いように感じます。

 そんな者が、精霊信仰の厚い獣王国の中でも、特に信仰心の強い一族である愛し子と合うとは思えないですね。

 それに彼女は獣王国愛し子。

 番いになったとしても竜王国には来られないでしょう。

 そうなるとユアンが獣王国へ行くことになるでしょうが、果たしてあのユアンがフィンと離れて獣王国に行くでしょうか?」



 その疑問には瑠璃も同意だ。

 獣王国へ行けばフィンとは滅多に会えなくなる。

 ブラコンがそれに耐えられるとは思えない。



「でも、ユアンも竜族だぜ?

 大好きな兄より番いを優先するだろ」



 番い至上主義な竜族。

 そうヨシュアが言い出したが、何も言わないクラウスとフィンを見て少し自信がなくなってきたようだ。



「うーん、あのユアンだしねぇ」



 あのフィンへの心酔っぷり。

 同じ不安を抱くのはフィンとクラウスものようだ。



「確かに竜族なら番いをないがしろにしないとは思うが」


「フィンと離れるぐらいなら番いを作らないと言い出しそうですね」


「これってセレスティンさんが相手じゃなくても問題になってきますよね。

 番いより兄にべったりだと、奧さんになる人は大変そう。下手したら離婚に発展するかも」



 番いだけを愛する竜族に離婚はあり得ないのだが、これまでのユアンを見るに、記念すべき第一例になりそうな勢いだ。

 ユアンの今後が心配になってきたらしいフィンが頭を抱える。



「まあ、まだ決まったわけではないし、そんなに考え込まなくても良いと思いますよ、フィンさん」

 

「あ、ああ、そうだな。まだ獣王国の愛し子と恋仲になったわけでもあるまいし」


「そうそう。それにこれを機にフィンさん断ちするかもしれねぇし」



 からからと笑うヨシュアは、今の状況を楽しんでいるようにも見える。

 他人事なヨシュアに、クラウスが嗜めるような眼差しを向け、次に慰めるような眼差しをフィンに向ける。



「まあ、獣王国に行くと、自分からフィンと離れると言い出したのなど初めてですからね。

 少し成長したということでしょう。

 今は様子見をするしかないのでは?」


「ああ、そうだな」


「ユアンの行動は観察してちょくちょく報告しておくよ。なあ、ルリ?」


「まっかせて下さい、フィンさん!

 ついでにユアンの恋の成就の応援もしてきますから」


「いや、余計なことはしないでくれ」



 恋のキューピッドになる気満々の瑠璃をすかさず止めに入るフィン。

 瑠璃は残念そうだ。



「えー、そうですか?」


「ルリが動くと余計にこじれそうですからね」



 国家問題に発展したら大変だと言うクラウスに、ヨシュアとフィンが頷く。



「静かに見守っとけ。

 俺達がするのは観察して、ユアンが暴走しそうな時に止めに入るだけだ」


「はーい」



 つまらないと言わんばかりの表情で、不満げに瑠璃は頷いた。


 そこへジェイドの声が掛かった。



「ルリ、そろそろ出発だ」


「はーい。行くよ、ヨシュア」


「おう。じゃあ、行ってくるぜ、親父」


「しっかりルリを守るんだぞ」


「分かってるよ」



 フィンの元にユアンが駆け寄ってくる。



「兄さん、行ってきます」


「ああ、頑張ってこい」



 くしゃりとユアンの髪を触るフィン。

 ぶんぶん振る尻尾の幻覚が見えそうなほど嬉しそうにしてから、ユアンは出発組の中に入っていった。


 そして瑠璃もジェイドへと挨拶をする。



「じゃあ、行ってきます、ジェイド様」



 別れを惜しむようにジェイドは瑠璃を抱き込む。



「できだけ早く城を直すから、待っていてくれ」


「お土産買ってきますね」


「ああ、楽しみにしている」



 ジェイドから離れヨシュア達の元へ行く。


 見送りの者達が離れると、次々ヨシュア達共に獣王国へ向かう竜族が竜体へと変化する。



 瑠璃はそんな竜達に守られるように囲まれ、視界が一気に見えなくなる。



 コタロウの上にカイを乗せると、続いて瑠璃も上に跨がる。



「準備できたよ」


「出発!!」



 アルマンの一声で、次々に隊列を組んだ出発組が空へと舞い上がる。

 眼下に見えるテラスのジェイド達に向かって手を振り、獣王国へと出発した。






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― 新着の感想 ―
ジェイドいつも読者にイラつかれてて草
うわー。なんかジェイド、ちょっと、いや大分?イラッとするなー。 番の前でする話じゃないし、ルリの意思無視して2人で会話進めるのも、この辺りの件全般的にムカつくな。巻き込むなって感じだし、なんか、舐めて…
は?ジェイドはなんでセレスティンがルリをいじめるかもって言われて許可してるの??? それも彼女なら酷いことをしないだろうって、以前にルリに恋人の前で他の女を褒めるのはどうかと思う的なことを言われてたの…
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