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事情聴取

 お守りの力をもろに受けたものの、命に別状がなかった死神の二人は、腕輪も取り上げられ魔封じをされた上で牢へと入れられた。



 事情聴取のために牢へと向かうジェイドに、瑠璃も付き添った。



 第五区にある牢の、犯罪者の中でも重犯罪者用の厳重な牢の中に入れられた死神二人。


 牢屋と言っても、薄暗く汚い石壁の牢屋を想像していたのだが、予想に反し牢の中は綺麗だった。


 中も明るく、ベッドとテーブルのある部屋を鉄柵で区切っていた。

 部屋を区切っている鉄柵がなければ、一見して牢とは思えないほど、床も壁も綺麗に掃除されていた。



 鉄柵の外から死神二人を見る。腕や足に包帯は巻いているものの元気そうである。


 あの破壊でこれだけの怪我ですんだなら僥倖だろう。


 コタロウに感謝してもらいたいものだ。



 牢の中の二人はそれまでの威勢はなく、死刑を待つ死刑囚のように沈んだ表情を浮かべている。


 まあ、愛し子を殺そうとしたのだからそれも当然だ。

 軽い刑ですむはずがない。



 ジェイドが一歩進み出る。



「お前達に聞きたいことがある」



 はっと顔を上げた男が縋るように鉄柵を掴む。



「話したら刑を軽くしてくれるか!?」


「馬鹿を言うな。愛し子を殺害しようとした罪は軽くない。

 ましてや、お前達死神は多くの国で人を殺してきただろう。

 そんな危険人物を許すわけにはいかない」


「違う!俺達は死神じゃねぇ!」

 

「そうよ、違うわ!」



 弾かれるように否定の言葉を積み重ねる二人。


 言い逃れようとしているだけなのかもしれないが、どこか必死さが現れていた。



 瑠璃とジェイドは視線を合わせ、ジェイドは表情を険しくしながら男を睨み付ける。



「どういうことだ。

 お前達は死神だろう?ルリから自身で死神だと名乗ったと聞いているぞ」


「ち、違う、本当だ。俺達は死神じゃない」



 そして、男は身の上話を始めた。



「俺達は元々傭兵だ。

 ナダーシャが大きな戦争を起こすって話を聞いてはるばるやって来たのに、仕事にありつく前にあっという間に勝敗が決しちまった。

 稼ぐどころかマイナスだ。

 自国に帰る路銀を稼ごうにも、中々良い仕事にありつけなくて、このままじゃ帰るどころか生きていけない。

 そこで、有名な死神の名を借りることにしたんだよ。

 そうしたらすぐに依頼がきた。

 ローブを着た二人。顔は分からなかったが、破格の報酬に俺達は飛び付いた」


「それが、神光教か?」


「そこまでは知らねえ。ただ俺達に愛し子を殺してくれって。

 準備はあちらが全てするって。

 腕輪を渡されて、これがあれば簡単に侵入して、逃げられるからと。

 俺達はただ愛し子を殺せば良いって言われて、奴らの言われた通り、言われた行動を取っただけだ」


「どんな指示を受けた?」



 男は少し視線を彷徨わせた後、こくりと喉を鳴らし、躊躇いがちに口を開いた。



「まずは腕輪を使い城に浸入して、内部の確認、特に愛し子の部屋と、厨房、医務室の位置は念入りに調べろと言われた。

 数日前から城には侵入してたんだ。

 そして、夜、竜族の愛し子の部屋に入り、愛し子を誘拐して城内を混乱させる。

 その間に依頼主は何かをしたかったようだ。

 その後は、精霊殺しの鎖を巻きつけて、精霊に見つからないようにして海にでも捨てて殺せって」


「何故殺してから連れていかなかった?

 その方が楽だろう」


「腕輪は魔法具だから魔力に反応するんだ。

 死んでしまったら、腕輪を付けてもネズミには変化しない。

 だから生かしておく必要があった」



 それは瑠璃も初耳だった。

 変わる動物は違うが、瑠璃の持つ腕輪もそうなのかもしれない。



「竜王国の愛し子を殺したら、混乱している城内にまた忍び込んで、今度はセルランダの愛し子を殺せって指示されていた。

 俺達は指示された通りに動いただけだ。

 俺達だって殺したくて殺そうとしたわけじゃない。

 なあ、許してくれっ!」


「お願いよっ!」


「指示されたことだろうが、依頼されたことだろうが、愛し子を殺そうとして、ただですむとは思っていないな」



 地の底を這うような低い声がジェイドから出る。

 一つ間違えば瑠璃が死んでいたのだ。

 その怒りはまっとうに思えた。


 この後に及んで言い訳をし、罪を軽くしようとする二人に、瑠璃は怒りを感じた。


 瑠璃を海に突き落とした時の歪んだ笑みを瑠璃は忘れてはいない。



 ジェイドから発せられる怒気に、男はひっと息を呑む。



「悪かった!もうしない、だからっ……助けてくれ」



 プライドも殴り捨ててその場に土下座をする二人を、ジェイドは冷めた眼差しで見下ろす。



「そんな口だけの言葉を重ねたぐらいで、お前達の行いが許されるとでも思っているのか。

 軽犯罪ではない。お前達がしたのは殺人未遂だ。

 お前達は竜王国の法に則り、厳罰に処される」



 途端に絶望的な表情を浮かべ、がっくりと肩を落とす、牢の中の二人。


 しかし、それに異を唱えたのはリンだった。

 くわっと真っ赤な目を見開きぱたぱたと羽ばたきながら吠える。



『生温いわ!!』



 こくこくとコタロウも同意を示す。



『我らの契約者であるルリを殺そうとしたのだ、国の法如きで裁ける罪ではない』


「いや、しかし……」



 ジェイドとしても、リンとコタロウの気持ちも分からなくもない。

 先ほどまで、今この場で八つ裂きにしたいというような怖い顔をしていたことからも分かる。

 だが、王としては法を遵守しないわけにはいかない。



『どうせ死刑にはならないんでしょう?』


「はい……」



 いくら愛し子を殺害しようとしたとは言え、竜王国の法では死刑にはならない。


 窃盗だけで死刑になってしまう厳しい罰を与える国もある中で、竜王国は比較的人道的で、厳しい罰にはなるが、死刑までにはならない。


 それでは軽いと、リンとコタロウはそれに大きな不満を持っている。


 ジェイドも気持ちは分かる。

 精霊の報復により、国が危うくなる可能性があったことを考えても、死刑にしたい気持ちではあるが、じゃあ殺そうなどと言うこともジェイドにはできなかった。


 困っているジェイドの顔と、怖い顔をしているリンとコタロウの顔を見ながら、瑠璃は閃いた。



「じゃあ、ちょっとばかりお仕置きしちゃっていいですか、ジェイド様?」


「どうするんだ?」



 瑠璃は死神の名を借りた男女二人の顔を見てにやりと笑う。



「まず、またたびを用意します」



 料理でも始めるかのような言葉に、ジェイドは訝しげである。



「ああ、それで?」


「ネズミになる腕輪がありましたよね。

 あれでネズミになってもらいます」


「ああ……?」



 これだけではまだジェイドにも分からないようだ。



「彼らにまたたびを全身にかけて、人間に戻れないよう頑丈な小さな檻に入れます」



 この位の、と言って、瑠璃は両手で持てるほどの小さな四角い鉄の檻を空間から取り出す。


 これは以前に空間に入った時、たまたまあるのを覚えていたのだ。



「で、彼らの入ったこの檻を、お腹の減った野良猫達の中に放り込みます。

 そしてそのまま一晩過ごすのがお仕置きです」



 わずかな沈黙が流れる。



「いや、ルリ。そんなことをすれば腹の減った猫に八つ裂きにされると思うが?

 お仕置きなんて優しい言葉ですまなくなるぞ」


「大丈夫です、檻に入れるし何とかなりますよ。…………多分」



 お腹の減った猫に八つ裂きにされるネズミの姿が頭の中に浮かんだのか、牢の中にいる二人の顔が青ざめる。 



 瑠璃はジェイドの耳に口を寄せ、檻の中の二人に聞こえないようひそひそと囁く。



「檻に魔法で結界をかけておきますから、猫に食べられちゃうことはありませんよ。

 まあ、怖がらせるためにそんなこと教えてあげませんけど」



 暗い海に沈められ、じわじわと迫る死の恐怖を味わわされたのだ。

 同じぐらいの恐怖を感じてもらわなければ気が済まない。



『それでルリの気がすむなら良いわ』


『うむ』



 リンとコタロウが賛同したことにより、ジェイドも受け入れた。

 精霊達が直々に制裁をすることになるよりは安全だと思ったのだろう。



「分かった。それで気がすむなら手配しよう」



 瑠璃は牢の中の二人に向かい、凶悪に見えるような笑みを浮かべる。



「死なないように頑張ってね」


「ひぃっ」



 もちろん死ぬことのないように安全対策をするのだが、そんなことを知らない二人は激しく怯える。

 そこが安全だとは知らず、檻の中で猫の恐怖に怯えて身を寄せ合うネズミの滑稽な姿を想像し、胸がすっとした瑠璃だった。




***



 偽死神達との話を終え、このまま牢を出るのかと思いきや、ジェイドはさらに奥へと進んでいく。



「まだ何かあるんですか?」


「奥に、先ほど偽の死神に依頼したと思われる神光教の者を捕らえているんだ」



 一つ扉を超え、さらに奥へ行くと、ある牢の前にユークレースとフィンとクラウスがいた。



 皆一様に牢の中を見ながら難しい顔をしている。

 

 瑠璃とジェイドが来たのに気付くと、牢の前を空ける。



「何か喋ったか?」


「いえ、それが頑なに口を開きません。

 子供相手に厳しい取り調べもできませんし……」



 頬に手を当て、困ったように溜息を吐くユークレース。



「子供?」



 ゆっくりと牢に近付きながら、牢の中へと視線を向ける。

 そこには、まるで忍者のような黒い装束を着た十歳ほどの少年が、ベッドに腰掛け、口を真一文字に閉じ、鋭い眼差しで牢の前のユークレース達を見ていた。

 

 捕まった神光教の者が十歳ほどの子供だったことにも驚いたが、何より瑠璃はその少年の顔に見覚えがあった。



「ノア君!?」


「知り合いか?」


「町で何度か話したことがあって。なんでノア君が……」



 牢の中にいたのは、以前に町で幾度か会った、串焼き屋の子供のノアだった。


 瑠璃は目を見開きノアを凝視する。

 ノアも、瑠璃と同じように驚愕を浮かべると、ベッドから立ち上がり、瑠璃の下へ掴み掛かるような勢いで駆け寄ってくる。


 しかし、鉄柵が行く手を阻み、瑠璃にまでは届かない。

 ガシャンと鉄柵を激しく掴み、ノアは叫ぶ。



「なんで、お前がここにいる!?

 奴らが殺したはずだ、なんで生きてるんだ!!」

 


 そのあまりのノアの迫力に、瑠璃は聞きたいことがたくさんあるのに言葉を失う。



「……愛し子を殺せなかった。もうおしまいだ……。

 これをやり遂げれば父さんと母さんにまた会えたのに……」



 目の前で希望を砕かれたような絶望をその瞳に宿し、力なくずるすると床に座り込んだ。



「ごめん、父さん、母さん……」



 ノアの悲痛な呟きが静かな牢の中に響く。



「父と母に会いたいのか?

 ならば会えるよう我々も協力してもいい、お前が全て話すなら」



 力を失った眼差しがジェイドを見上げる。

 手助けをするとジェイドが申し出たが、ノアがそれに喜ぶ様子はない。



「そんなことできるはずがない。教主様にしかできないんだ。

 俺は一度失敗してる。だからこれが最後のチャンスだった。それなのに失敗してしまった……。

 もう父さんと母さんには会えない……」



 呆然と座り込むノア。


 その後ジェイドやユークレースが声を掛けるが、ノアが声を発することはなかった。








活動報告に書籍情報載せています。

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