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失踪

 ジェイドは、城下でぼや騒ぎがあったという話を聞き、執務室へ向かった。


 今も断続的に起きているというぼや騒ぎは、どう考えても故意に誰かが行ったとしか思えない。


 ジェイドは原因究明と犯人への牽制のためにすぐさま多くの兵士を城下に向かわせた。



 指示を出し終えたところで、思い浮かぶのは瑠璃のこと。


 近くにいながら攻撃を許してしまった。

 猫の姿をしていた小さな瑠璃に攻撃する者がいようなどと思いもしなかったとは言え、守れなかった自分へ苛立ちが湧き上がる。


 それと共にあんな可愛らしい姿の瑠璃を蹴り飛ばしたアゼルダへの怒り。



「クラウス、セルランダ一行を国へ戻す準備を始めてくれ」


「よろしいのですか?

 未だ神光教は捕まっていないようですが」


「そもそもそれはセルランダの問題で、我が国の問題じゃない。

 愛し子が竜王国に来たいと言わなければ、セルランダで解決していなければならない問題だった。

 それにもうあの女はコタロウ殿により愛し子としての能力をなくしている。

 ルリを傷付けたものにかける情けは必要ない。送り返せ」



 ジェイドの厳しい口調に、クラウスは苦笑を浮かべる。



「かしこまりました。

 しかし、セルランダは難癖をつけてくるかもしれませんね。

 愛し子が力をなくしてしまったのですから」


「もしそうなら、番いを攻撃された雄竜がどれだけ恐ろしいか丁寧に教えてやれ」



 ジェイドの瞳が鋭く光る。



「ええ、そうしましょう」



 これでやっといつも通りの生活に戻れると、ジェイドも肩の荷が下りたような気がした。


 アゼルダの我が儘も問題ではあったが、ここ最近アゼルダの取り巻きの一人が瑠璃に何度も接触を図ってきたことも、ジェイドが愛し子一行を早く帰したい理由でもあった。



 アゼルダが愛し子の力をなくしたと知れば、きっと瑠璃に接触してくるだろう。

 そうジェイドのカンが告げていた。

 だからそうなる前にとっとと帰したい。



 おそらく苦情を送ってくるだろう。

 しかし所詮は大国と小国。

 今回アゼルダを預かることになったのも、アゼルダという愛し子が望んだからに他ならない。


 もう大国に言うことを聞かせるだけのものはなくなってしまったのだから、小国が何を言ってきたところで痛くもかゆくもない。




 ぼや騒ぎはその後も町中で断続的に起こった。

 時限式の魔術具が使われたようで、それが町中に散らばっていた。


 それを回収するのにかなりの時間を要したが、発動してもぼや程度の火の強さだったので、大きな被害は起きなかった。



「いったい何のつもりだ?」



 ジェイドは首を捻った。

 愉快犯か、何かの目的があったのか。



「念のため愛し子達への警備を強化してくれ」



 死神の情報に、アゼルダとセレスティンを襲った神光教。

 不安材料はある。



「セルランダの方もですか?」



 フィンの問い掛けに少し考えてしまったが、竜王国で他国の客人を危険な目に会わせるわけにもいかない。



「ああ、頼む」



 フィンに指示を出してしばらく経った時、ヨシュアが慌てたように執務室に入ってきた。



「陛下、報告が」


「なんだ?」


「以前から死神について情報を得ていた者からの情報で、死神が拠点としているアジトが見つかりました!」


「本当か!?」



 ジェイドは目を見張った。


 世界各地で要警戒組織となっている暗殺集団。

 何人いるのか、首領は?国は?

 誰もその形を捕らえた者のいない謎の集団。


 その死神の竜王国での拠点が見つかったと言う。



「すぐに兵を連れて拠点を制圧してくれ」


「しかし、ぼや騒ぎの上、愛し子達の護衛を増やしたので人手が……」



 クラウスが困った顔をする。



「ああ、そうだったな……」



 やれやれというように、ジェイドはこめかみをとんとんと叩く。

 喧嘩っ早い者の多い竜族。

 火を見ると血が騒ぐらしく、我先にと多くの者が城下に下りていってしまった。

 ただの野次馬だ。


 竜族以外の兵は他にもいるが、死神がどれだけの戦力を持っているのか分からないので、戦闘力の高い竜族に向かわせたい。



「ぼや騒ぎの竜族を連れ戻して、他の種族の兵士を回せ。

 戻り次第、拠点を制圧に向ってくれ」


「はい」



 すぐさま町に下りた竜族の兵士に帰還命令を出したのだが、別の問題が発生した。



「竜族の兵士が揃って体調を崩しました」


「なんだと?」


「調べたところ、竜族の食堂で作っていた夕食に毒物が混入していたようです。

 外に行っていた竜族や勤務中の者は無事だったのですが……」



 休憩は交代制。

 先に休憩をしていた兵士全てが被害に遭った。



「警備はどうなってる!?

 兵士達は大丈夫なのか?」


「ええ、頑丈な竜族ですから、命に別状はないとのことです」


「犯人は見つかったのか?」


「いえ、偶然はあり得ないので故意だと思いますが、誰が何の目的でどうやって入れたか不明です」



 ジェイドの眉間に皺が寄る。

 いったいどうやって毒物を混入できたのか。

 竜族の兵士達の食堂がある第五区まで、何者かが城内に侵入しているとすれば大問題だ。



「クラウス、一度ルリ達愛し子の安否を確認してくれ」


「かしこまりました」



 すぐに確認をしたが、瑠璃は夕食を取っており、セレスティンとアゼルダも部屋で無事でいた。

 瑠璃の食事は特に問題がなかったらしい。



「どうなさいますか?

 愛し子達の護衛に加え、死神の拠点の捜索がありますが、人手不足は否めません」



 竜族以外の兵士はじゅうぶんにいるが、愛し子の警護や死神の拠点制圧には竜族である方が良い。



「だが、愛し子の警備を減らすわけにはいかない」


「そうですね」



 かと言って死神を放置もしておけない。


 ジェイドは悩んだ末、自室へ向かった。



 扉前では番犬のようにコタロウが座っており、その上にリンが腰を下ろしている。



「ルリは休みましたか?」


『うむ、さっき部屋に入った』


「コタロウ殿、お願いがあるのですが……」


『なんだ?』


「今色々と問題があり、兵士の数が足りないのです。

 それで、ルリの警護の者を少し減らしたいのですが、かまいませんか?」


『うぬ、よいぞ。

 代わりに精霊を増やしてルリの守りを固めよう。

 それに部屋の周囲には我が結界を張ってある。なんぴとも入ることは適わぬ』



 それならば大丈夫だろうと、ジェイドもほっとした。



「ありがとうございます。

 ルリをお願いします」



 瑠璃の警護をコタロウ達に任せ、瑠璃につけていた者を死神の拠点に向かう隊に加える。


 そうしてヨシュア達が死神の拠点の制圧に向かったのだが、そこはもぬけの殻だった。


 つい最近まで生活していた形跡はあるのだが、荷物は何一つ残っていなかった。


 もしや偽情報をかまされたのではと疑念が浮かぶ。


 また戻ってくるかもしれないので、一部の兵士を監視に残し帰城したヨシュアに、再度調べるように命じて、ジェイドは今日は休むことにした。


 今日は休みだったはずなのに、とんだ休みとなってしまった。



 自室に戻ると、部屋の扉が開いており、血相を変えたコタロウとリンが室内にいた。



「何があったのですか?」


『ルリがいない!』


「いないとはどういう……」


『急に気配が消えたのだ。

 それで部屋に入ったら、どこにもルリの姿が見えぬ』



 慌ててベッドへと向かったジェイド。

 その時、こつんと何かが足の先に当たった。


 屈んで拾い上げたそれは、瑠璃に渡してあるはずの自身の竜心。


 どうしようもない不安がジェイドを襲った。



「ルリ!?」



 ベッドの布団を剥ぎ取る。

 しかしそこにあるはずの瑠璃の姿はなかった。

 慌ててジェイドは室内を捜索する。

 

 風呂場にトイレ、衣装部屋と、全ての扉を探したが瑠璃はいない。



 心臓がばくばくと激しく鼓動する。



「ルリ……」


『我はずっと扉前にいたが、ルリは出てきていない』


「他に出て行ける場所なんて窓ぐらいしか……」



 ジェイドは確認するため窓へ向かった。


 コタロウとリンも後に続く。



 窓を開けテラスに出るが、そこには人の影すらない。


 コタロウもテラスから外を見回すと、声を上げた。



『ルリを見なかったか?』



 すると、外にいた精霊達が答える。



『見てないよー』


『うん、僕達ずっとここにいたけど、部屋からは誰も出てないし入ってないよ』


『変わったこともなかったか?』


『うん』



 扉にはコタロウとリン、窓の外には精霊達。

 そのどちらも瑠璃の姿を見ていないという。


 ならばいったいどこに消えたのか……。



「本当にルリを見ていないのか!?

 見逃した何てことは……」


『そんなことないよ、ルリが出てきたら分かるもん』


「……どういうことだ?」



 忽然と瑠璃が消えた。

 瑠璃の意志であるはずがない。

 出掛けるならば精霊達に隠れて出て行く理由もない。



 誰かに連れていかれたならば、いったい誰が、何のために?


 ジェイドの脳裏を過ぎったのは、死神と神光教。

 そのどちらかが瑠璃をさらったとしたら瑠璃が危ない。


 しかし、神光教ならば、セレスティンの時もアゼルダの時も精霊が逃げていったはず。



「精霊殺しは使われなかったのか?」



 ジェイドは外にいる精霊に向かって問い掛けたが、精霊達は首を横に振る。



『ぜーんぜん』


『何にも感じなかったよー』


「神光教じゃないのか、それなら……」



 あるいは、精霊殺しで精霊を退けた間に瑠璃をさらったのではと思ったのだが、精霊はずっとこの場に留まっていたという。



 精霊が周囲を取り囲んでいる中、どうやって瑠璃をさらったのか……。



『そもそも我が結界を張っていたのだ。

 窓からでも扉からでも、入ろうとすれば我には分かる』


「ならどうして……」



 ジェイドはすぐに城内を探すよう指示を出したが、瑠璃は見つからなかった。





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― 新着の感想 ―
さすがにあっちもこっちも無能すぎない?
[一言] 案外役に立たん、 上位精霊
[一言] うーん流石に力づくじゃないと精霊が精霊殺しに気づかないで近寄れないとか或るのかね? 設定ガチガチだとこいうとき融通効かなくて話の流れが変。
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