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王都散策

 多くの精霊を引き連れながら歩く瑠璃に、王都の人々は唖然と立ち止まったり、ぽかんとしている。


 しかし状況把握ができていなくとも、まるで大名行列に遭遇したように自然と道が開かれ、夕食前で一番混む時間帯でありながら、瑠璃は誰かにぶつかることもなく道を進んでいけた。


 少しして愛し子であると気付いたのか、ざわざわとざわめきが起きていく。



「ところで私はここで何したらいいんですか、フィンさん?」


「瑠璃の好きなように。

 欲しいものがあるならいくらでも買ってもいいぞ。資金は陛下から頂いている」



 そう言ってフィンは懐からお金の入った巾着を取り出し瑠璃に見せるように目線の高さに上げる。


 瑠璃は「なら有難くジェイド様に奢ってもらいましょう」とくすりと笑った。



 瑠璃達は王都の屋台や商店が集まる地区へと向かう。


 港町でもある王都には、多くの船乗りや商人が集まり、それと共に幾多もの他国の物品が持ち込まれる。

 また、多種族国家でもあるので、その種族の特産品なども店や市場に並ぶ。


 パン一つにしても国や種族によって独自の味や形があり、果物や野菜も多くの地域の多様な種類が集まる。


 竜王国以外でこれ程多種多様な物が集まる国はないらしい。

 それは他の国になるとどうしても種族同士の諍いや偏見、差別があったりするのだが、何千年も昔の初代竜王が人間亜人関係なく受け入れたおかげで、長年積み重なった地盤があり、そういった差別が他国に比べ圧倒的に少なく、人間も亜人も働きやすいというのがある。

 それ故、それらの商品を目当てに多くの人々が王都に買い出しに集まって来るのだ。



 そうなってくると、大小様々な争いごとが日常的に起こってしまうのだが、そこは生物のヒエラルキーのトップにいる竜族が治める国。

 竜族の兵が一睨みすれば、それまで血気盛んに喧嘩していた者もその瞬間に怯えて、戦う意思をなくしてしまう。



 今も、愛し子の瑠璃に話し掛けようと近付く者がいるが、瑠璃の側にいるフィン、ユアンの姿を目にするとすごすごと引いている。


 ヨシュアは特徴のない服だが、フィンとユアンは兵士の服を着ている。

 それも地位の高い者のそれであり、同時に竜族の兵は他の兵と違うデザインになっているので、一目見ただけで竜族であると分かるのだ。


 そうでなくとも亜人ならば、その身から溢れる強い魔力で竜族だと分かるだろう。



 そんな立っているだけで周囲を威圧できる、護衛としてこれ以上ない優秀な三人に囲まれ、瑠璃は珍獣になったようなわずかな居心地の悪さを感じながらうろうろ歩き回る。



 見たことのない多くの品々に目移りしていると、瑠璃の前に十歳に届くかぐらいの少年が現れた。


 流石に子供とあって、フィン達は警戒しつつも子供を制することはなかった。


 瑠璃が好むふさふさとした尻尾と尖った耳の獣人の少年。

 尻尾の形から、恐らく狐だろう獣人の子供のあまりの可愛さにうっかりときめく瑠璃。



「あの……愛し子様?」


「なあに?」



 怖がらせないよう優しく笑みを浮かべ、屈んで少年と目線の高さを同じにする。


 少し緊張していた様子の少年は、瑠璃が怖くないと分かるとほっとした表情を浮かべる。


 実際はその耳とか耳とか耳とか尻尾とかに触りたいと邪な思いを抱いていたのだが、少年はそんな瑠璃の心の声は聞こえていないので、優しいお姉さんに見えていたのは幸いだ。


 そうでなければきっと怯えていたに違いない。



「あのね、僕のお店とっても美味しい串焼きのお店なの。

 きっと愛し子様も気に入ると思うんだ」

 

「そう。そんなに美味しいなら食べてみたいな。お店はどこにあるの?」



 こんな可愛い子供にお願いされて拒否などできようか。

 いや、できない!

 がっつりお肉という気分ではなかったが、瑠璃はこの少年のお店に行くことにした。



「あそこ」



 子供が指差す屋台では、子供の親らしきおじさんが、よくやった息子よ! とでもいうように満面の笑みを浮かべ小さくガッツポーズをしている。


 と同時に、子供を使った姑息な手段に周囲の店主が「その手があったかあぁぁ!」と天を仰ぎ悔しがっていたり、「俺にはガキがいねぇー!」と頭を抱え落ち込んだりと騒いでいた。



「ようこそ愛し子様!

 我が店自慢の串焼き、どうぞ召し上がってみて下さい」

 


 子供と同じ耳と尻尾を生やした店主は上機嫌で瑠璃に串焼きを差し出し、その後フィン達にも串焼きを渡していった。


 最後にフィンがジェイドから預かったお金で支払いをしようとすると。



「いえいえ、愛し子様からお金を取るなどとんでもない」



 瑠璃がチェルシーと初めて町へ行った時と同じように、瑠璃の支払いを拒否した。


 その町では何度も行っている内に、ちゃんとお金を受け取ってくれるようになったが、それでも値段以上のおまけを追加してくれる。


 それは少しでも町に来てもらって、精霊の恩恵を受けるためであり、きっとこの店主も同じ思いなのだろうと瑠璃は考えた。


 だがしかし、のんびりとした王都から離れた街の商売人と違い、王都の商売人は商魂たくましいと瑠璃はすぐに知ることとなる。



「ただ、お金を頂かない代わりに美味しいと言って頂ければ、それだけでもう」


「それだけでいいの?」


「ええ、できましたら大きめの声で」



 あくどい笑みを浮かべた店主は瑠璃に顔を寄せ、そうぽそりと呟いた。


 言われた通り瑠璃は串焼きを食べ、少し大袈裟に「わあ、美味しーい!」と声を上げる。


 大袈裟ではあったが、串焼きは確かに美味しかった。

 ヨシュアなどはちゃっかりおかわりをもらっている。

 少し前にも食堂でしっかりと食事をしていたのにどういう胃袋をしているのか。

 やはりそういうところは人間と竜族の違いなのだろう。



 店主は大いに喜び、一人ではとても食べきれない数の串焼きをどんどん袋に詰め瑠璃に差し出してきた。



「えっ、そんなにいいですよ」


「いえいえ、店の売り上げに貢献して下さる愛し子様にほんのささやかなお礼です」


「貢献?」



 遠慮したもののそのまま押し切られ、大量の串焼きを空間の中に放り込む。


 そして店主の最後の言葉の意味も分からぬまま店を後にした後、ふと振り返ると………。



「今愛し子様が食べた串焼きを十本!!」


「こっちは二十本だ!」



 まるでバーゲンセールに群がる人の群れのような壮絶な戦いが始まっており、瑠璃は口元を引きつらせた。



「何、あれ……?」


「愛し子効果って奴だ。

 愛し子っていやあ、どの国でも憧れの対象だからな。

 愛し子が食べてる食事、着てる服、持ってる装飾品、そういうのを真似したがるものなんだよ。

 獣王国なんかは愛し子御用達の品と銘打って、愛し子の名前で大々的に観光客を呼び込んでたりするぞ。

 これがまた人が来るんだよなあ」



 瑠璃の疑問によるヨシュアの答えに瑠璃は納得した。



「なるほど、好きなアイドルやモデルが使ってるアイテムを欲しがるのと同じ心理ってわけね」



 串焼き屋の繁盛を見た他の店主は俄然やる気になり、瑠璃の呼び込み合戦が開始する。



「愛し子様、こっちも美味しいよ!」


「馬鹿野郎、こっちの方が美味ぇよ!」


「愛し子様、お肉の後はすっきりした飲み物はいかが?」



 周囲に飛び交う声に誘われながら店を見ていく度に、食べ物屋で無料で食べ物をもらい、あっという間にお腹一杯になってしまった。


 体格の大きいフィン達はまだまだ入るようだが、大食漢でもない瑠璃はこれ以上は入らない。

 そもそも少し前に食堂でしっかりと食事をしてきた後なのだから当然の結果だ。


 それでも止まらぬ食べ物攻撃に、店主達に謝りながら空間の中に入れていく。

 きっと今瑠璃の空間の中は食べ物の良い匂いで溢れているだろう。

 近くにいた精霊に、リディアの食べたい物があったら食べても良いからと伝えてと言うと、少しして精霊伝手にリディアからお礼の言葉をもらった。



 できるだけ食べ物の店を避け、歩き回っていると、一つの屋台が瑠璃の目に入った。


 瑠璃の瞳と同じ瑠璃色のビー玉のようなガラス玉。

 他の色はなく、瑠璃色のガラス玉一色。

 そのガラス玉を色々な装飾品に加工した商品がずらりと並んでいる。


 今はやりの物なのかと興味を引かれ近付いていく。



 店に立つ女性は瑠璃が来たことに一瞬驚きの表情を浮かべたが、すぐに「いらっしゃいませ」とにっこりと笑う。



「これ何ですか?この色だけってのは何かあるんですか?」


「こちらは、お守りですー。

 愛し子様の瞳の色と同じ色を身に着けたら精霊が守ってくれる……かもしれないという」



 店員さんは満面の笑みで、当の本人を前に便乗商品の説明をしてくれた。


 しかもいったいどうやって瑠璃の瞳の色を知ったのやら……。


 瑠璃が王都に来てからはずっと城の上層階にしかおらず、それ故瑠璃の姿を知っているのは竜族の者達だけだったのだが、正式な発表があるまで瑠璃の名も姿形も秘されていた。


 そうなると瑠璃が人の姿で参加した戦勝祝いの場で瑠璃を見た者から話を聞いたのだろうが、戦勝祝いからそう時は経っていない。

 商品にするまでの速さに瑠璃は呆れと共にその逞しさに感心する。



「お蔭様で大変売れておりますー!」


「そ……それは良かったですね……」


「宜しければお一つどうぞ~」



 そうして店員は店に飾ってあった商品を瑠璃に手渡した。


 ストラップのようにガラス玉に付いた細い紐が輪のようになっており、紐には小さな鈴が付いている。

 

 店員にお礼を言い、貰ったガラス玉の紐を持ち目線の高さに上げると、瑠璃色のガラス玉が光を反射しながらゆらゆらと揺れる。


 そこへ周囲にいた精霊が興味津々に寄ってきた。



『きれーい』



 精霊に人の価値観は関係ない。

 希少な宝石だろうと、安物のガラス玉だろうと綺麗な物を綺麗と評価する。

 逆にどんなに希少で高値で取引される宝石だろうと、興味がなければ道端の小石のような扱いだ。


 そんな精霊達に、このガラス玉は好評のよう。



『ねえ、ルリ。これってお守りなんだよね?』


「まあ、一応はそうらしいけど……」



 お守りという名をしているだけで、その実ただのガラス玉だと言うことは間違いない。



『でも、何の力もないよ?』


『だよねー?』



 お守りから何の力も感じ取れなかった精霊達は不思議そうに首を傾げる。

 しかしそれも当然の事。何せ何ら変哲のないただのガラス玉なのだから。


 人の欲望を理解できていない精霊達は何故これがお守りと言うのか分からない。

 どうしてー?と不思議がる純真無垢な精霊達に説明できず、瑠璃は笑って誤魔化す。



『じゃあ代わりに僕がお守りにしてあげる』



 と、一人がガラス玉に手を寄せると、ガラス玉が一瞬淡く光った。

 それに続き『じゃあ私もー』と一人が続くと、ガラス玉の周りに次々精霊が群がりガラス玉に触っていく。



『徹底排除~』


『完膚なきまでに』


『情け容赦なし』



 不穏な言葉を告げながら、しばらくして満足げな精霊達の姿と、精霊達により加護を重ねがけされ偽物から本物のお守りとなったガラス玉があった。



 フィンとヨシュアの引きつった顔から、自分の手にあるガラス玉がとんでもない変貌を遂げてしまったことを察した瑠璃。


 精霊の見えないユアンだけが、何があったか分からずきょとんとしている。



「これどうしたらいいの?」


「もらっとけばいいじゃん。精霊の加護付きのお守りなんて手に入るもんじゃねえし。

 ただ、できれば空間に入れといてくれると有難いけど」



 そう言ってヨシュアは一歩瑠璃から離れた。



「あれだけの人数の加護を受けたそれの持ち主に何かあった時、どんな力を発するか分からなさすぎて恐ろしい」



 まるで危険物を見るような眼差しでガラス玉を見るヨシュアとフィンに、瑠璃もだらだらと冷や汗が滲む。



 そんな危険物を持ったまま城へ戻った瑠璃一行。


 フィン、ヨシュア、ユアンと別れ、瑠璃はジェイドの執務室へ向かう。

 執務室にはジェイド一人だけだった。



「ただいまです、ジェイド様」



 ジェイドは瑠璃が顔を見せると、手を止め柔らかく微笑む。



「ああ、おかえり」



 ジェイドに近付いていくと、ジェイドは瑠璃を引き寄せ横抱きにして膝の上に乗せる。



「楽しかったか?」


「はい!食堂の人ともちゃんと話せました」


「そうか」



 少し間を置いて、ジェイドはさり気なく「……それで例の男とは会ったのか?」と聞いてきた。


 平静を装っているが、ジェットと会ったのかが気になっていたのだろう。

 瑠璃はくすりと笑う。



「いいえ、会っていませんよ。

 会えれば謝ろうと思っていたんですけど、食堂の人が必要ないって教えてくれたので、その気が失せました」


「どういう事だ?」



 瑠璃はジェイドに食堂で聞いた話をする。



「なるほど、一夫多妻制の種族は案外多いからな。そういうこともあるだろう。

 竜族には理解不能だがな」



 瑠璃は力強くうんうんと頷く。



 ジェイドは瑠璃の頬に手を寄せると、少し眉を下げた顔で「すまないな」と謝る。


 何に対しての謝罪か分からない瑠璃は首を傾げる。



「ユークレースからルリを縛りすぎは良くないと言われた。

 ルリを信じていないわけではない。

 ルリも二人以上の相手を持つことに否定派のようで安心したが、いかんせん竜族は嫉妬深い。

 また行動を制限するようなことを言うかもしれないから先に謝っておく」


「別に、元彼?じゃないけど、一度なりとも好意を持った相手と会って欲しくないってのは竜族じゃなくても人間でもよくあることですよ。

 私はそれぐらいは気にしてないです。

 それってつまりは、えっと……やきもち焼いたって事ですよね?

 攻撃したり過激なのは困りますけど、ジェイド様が私のことを好きだっていう証でもあるんで嫌じゃないです……」



 自分で言うのも恥ずかしくて、ジェイドから視線を外し彷徨わせながら、ほんのり顔を赤くする。


 目を見張ったジェイドはそんな瑠璃のこめかみに唇を寄せた。


 突然のジェイドの行動に驚いてジェイドに顔を向けると、今度は唇に重ねられる。



「なな、なんですか、急に!」


「ルリが可愛いことを言うからついな。

 ルリも問題ないというのでついでに聞くが、あちらの世界で恋人はいなかったのか?

 ルリの年齢ならば結婚していてもおかしくない年齢だろう?」



 こちらの世界での人間の平均的な結婚年齢は十六歳から二十代前半だ。

 あちらの瑠璃の国より圧倒的に早い。



「私の国では結婚する平均的な年齢はもっと遅いです。

 でも、彼氏は今までにそれなりにいましたよ。

 まあ、あさひにことごとく邪魔をされて長く続かなかったんですけど」



 思い出すと少しムカついてきて眉間に皺が寄る。



「なるほど、あの者か………。

 正直関わり合いたくない人種だが、ルリの恋人を排除してきたのだから礼を言わなければならないな」


「ジェイド様、本当にあさひが嫌いですね」



 ジェイドがあさひと関わったのは一度か二度程度のはずだが、そうとは感じられないほど嫌っているのが伝わってくる。

 


「会話が不可能なのもそうだが、ルリにまとわりつく時点で非常に気に食わない」


「そうですか………」



 反応に困り、はははっと乾いた笑い声を上げる。


 と、そこで瑠璃は思い出した。



「あっ、そうだ。こんな物をもらったんですけど、ジェイド様にあげます」



 そう言って瑠璃は王都の店で貰った瑠璃色のガラス玉のお守りをジェイドに渡した。



「お守りらしいのでどこかに身に着けていると良いと思います」


「そうか、ありがとうルリ」



 大事そうに受け取り破顔するジェイド。


 ヨシュアからは空間に入れておけと言われたが、お守りなのだから身に付けなければ意味がないと考えた瑠璃はジェイドに渡すことを思いついた。


 ジェイドは竜族の中で最も強い竜王。

 そんなジェイドの身が危険になる事態というのはそう考えられず、なお且つ護衛もいるので世界一安全な場所と言っても過言ではないだろう。


 そんなジェイドがお守りを持てば、お守りの効果が発現する確率も少なく、なお且つお守りの効果が現れる事態というのはそれなりの事態であるはずなので、容赦する必要はない。



 お守りをお守りとして使う妙案だと自負する瑠璃。


 そんな二人の前に………。



『ずるいわ』


『そうだ、ずるい』



 二人っきりだったはずの空間に聞こえてくる第三者の声。

 瑠璃がぱっと振り返ると、じとっとした眼差しを向けるリンとコタロウの姿があった。



「リン!?コタロウも……」



 リンは『ずるい、ずるい~』と言いながら部屋の中をぐるぐると飛び回る。



「ずるいって何が?」


『ルリは食堂に行くのではなかったのか?

 そんな所に我が行っては騒ぎになるからと我は大人しく留守番していた』



 確かにコタロウの言うように、食堂へ霊王国の聖獣の体を持つコタロウを連れていくのは、愛し子だと言っているようなものなので、リンと一緒に留守番をしてもらっていた。



『だがルリは我らには留守番と言っておいて、他の精霊達を連れ楽しく買い物をしたと言うではないか』



 いつも瑠璃の前では激しく横に振るコタロウの尻尾も、今ではしょんぼりと垂れ下がっている。

 一方、リンは他の精霊は連れて行って自分達を連れていかなかったことに怒り心頭のようだ。



『ずるい!私達もルリとお買い物に行きたかったのに仲間はずれなんて。

 それに王にはお土産があるのに私達には!?』



 いつから話を聞いていたのか。

 会話を聞かれていた恥ずかしさもあるが、申し訳なさが先に立つ。

 行きたいと言っていたコタロウ達を置いて行ったのに、他の精霊達を連れ歩いていたのだから、きっと何故自分達だけ置いて行かれたのかとショックを受けただろう。



「ごめんね。最初はこっそり行くつもりだったんだけど、途中で予定が変わっちゃったの。

 二人とはまた次の時一緒に行こう?」


『じゃあ明日!』

 

『明日行く!』


「えっ明日?」



 今帰ってきたところなのにと思いつつも、二人の様子では聞きはしないだろう。



「またフィンさんに護衛お願いしないと。

 仕事大丈夫かな……?」



 愛し子として歩くなら騒ぎにならないよう護衛は絶対必要だと今日王都を歩いて実感した。

 しかし今日は目に見えたところにいるフィンだけでなく、見えないところでも護衛がいたようだ。


 それだけの人材を再び配置できるのか瑠璃には分からない。

 高位の軍人であるため忙しいフィンに言いづらいなと思っていると、『じゃあ私がお願いしてくるわ』とリンが部屋を飛び出していき、『我も』とコタロウが後に続く。



「リン、コタロウ、ちょっと待って!」



 最高位精霊のお願いなど脅迫に等しい。

 フィンの精神衛生上良くない。

 瑠璃はジェイドの膝の上から降り、リンとコタロウを追い掛けた。



 瑠璃と最高位精霊のやり取りを苦笑を浮かべながら見守っていたジェイドは、瑠璃から貰った瑠璃色のガラス玉を内ポケットへと入れた。



 後にお守りにより第一区が半壊する事態になるとはこの時誰も想像もしなかった。





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― 新着の感想 ―
精霊達、愛おしすぎる〜。
最高位精霊のお願いが脅迫に等しいのなら、その最高位精霊に愛されまくっている愛し子様のお願いは一体何になるのか(笑)
[良い点] 最後の一文だけでめちゃくちゃ笑いました…! 少し前に見つけて、楽しく読ませていただいてます。 読んでいてすごく楽しいです。ありがとうございます!!
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