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戦争 2

 部屋の捜索で見つかった隠し階段。


 猫の姿の瑠璃は小さく、踏んでしまいそうだという事で、ヨシュアに抱っこされながら階段を降りる。

 周囲から羨ましそうな視線がヨシュアに注がれ、こんな時に余裕だなと一気に緊張感がなくなっていくのを感じる。


 薄暗く、湿気の嫌な臭いがする階段を降りきると、重厚な鉄の扉が姿を見せた。



 僅かな光と話し声が中から漏れ出ている。


 瑠璃はヨシュアから降りるとコタロウの側へ行き、ヨシュアが視線で合図すると、兵の一人が扉を開け、他の者が一斉に室内へなだれ込む。


 中から激しい喧騒が聞こえる。

 その中に「やっべ、まじで魔法使えねぇ」と焦ったヨシュアの声が聞こえてきた。


 恐る恐る部屋の中をのぞき込むと、薄暗い室外とは違い室内は明るくはっきりと物が見える。


 魔法が使えないので、武器と体術で次々気絶させていく ヨシュア達。

 精霊殺しと呼ばれる魔法で攻撃する神官達だが、肉体労働はしない主義なのか、持久力がなく次々地面に倒されていく。

 魔法が使えずとも、その能力は竜。回避力も高く人が敵うものではなかった。


 人数が思ったより多いのでまだ時間は掛かりそうだが、ヨシュア達は大丈夫そうだと安心し、次は室内をじっくりと眺める。



 室内は上の広間とほぼ同じ広さ、同じ造りで思っていたより綺麗な部屋だった。

 ただ、上の広間と一つ違うのは、室内に巨大な魔法陣が描かれ、それが光を放っていた事だ。



『コタロウ、あれも精霊殺しの魔法?確か地下にあるのは召喚魔法だったはずよね』


『ああ。ルリをここに呼んだ召喚魔法だ。

 道を広げるのは相当な魔力を必要とする。それを奴らは世界から補填していたのだろう。

 あの魔法陣に力が流れているのを感じる。不愉快な気配だ』



 瑠璃にも魔法陣に力が流れているのを感じた。

 そしてそれを理解すると、嫌な予感が頭を過ぎる。



『ねえ、あの魔法陣に力が流れているって事は、もしかして、また召喚しようとしているって事じゃないの?』


『おそらく』



 また被害者を出そうというのか。自分達の自分勝手な理由の為に。

 そのせいでどれだけ私が苦しんで悲しんだと思っているのか。

 

 瑠璃は抑えきれない怒りを感じた。

 そうなるともう止められない。


 広間を見回し、にっくき諸悪の根源、神官長を見つけると瑠璃は飛び出した。



『ルリ!』



 コタロウが後ろで切羽詰まったように瑠璃を呼ぶが、頭に血が上った瑠璃の耳には届かない。



『こんの野郎-!』



 瑠璃はこの日の為に研いだ鋭い爪で、神官長の頬に引っかき傷をつけてやった。



「な、なんだこの猫は!?」



 尻もちをついた神官長は、頬の傷を押さえながら、怯えるように瑠璃を見た。



『これで終わったと思うなぁぁ!』


「ひぃぃ」



 瑠璃が再び飛び掛かろうとしたその時、神官長が後ろにあった箱から透明な石を取り出し、瑠璃に向かって投げつけた。


 直後、爆発が起こった。



「にゃあぁぁ!」



 すんでのところでコタロウが瑠璃の前に盾となり、コタロウの張った風の壁で瑠璃をはじめ怪我人は出なかった。

 だが、爆風で小さな瑠璃はころころと床を転がっていく。



「大丈夫か、ルリ?無理すんなあ」



 呆れたような声のヨシュアに救助された瑠璃は、ふらつきながらお礼を言う。



『ありがとう、ヨシュア。………一体何だったの今の?』


「俺にも何が何だか」



 覚えているのは石を投げられた事だけ。何故爆発が起こったかも分からない。



 室内を見回すと、先程の爆発の影響か、天井が焦げ所々崩れているのが目に見えた。

 神官達は粗方床に転がされ、神官長もコタロウの風により拘束されていた。



『コタロウ』


『大丈夫か、ルリ?』


『うん。それより今の何だったの?』


『ルリがしている腕輪のような魔法具の類だろう。

 精霊殺しの魔法と同様、石に力が吸収され、直後に爆発が起こった。

 まさかこんな物まで作っているとは……』



 コタロウの説明を聞いたヨシュアは、神官長の後方にあった箱の中を確認すると、焦りを表情に滲ませる。

 中には、先程爆発を起こした大小様々な大きさの透明な石が山のように入っていた。



「もし戦争でこれが使われていたら……。

 おい、すぐにフィンさんの所に報告しろ!

 魔法が使えなくなる上、今より大きな爆発が起こったら、頑丈な竜族でもやばいぞ!」



 怒鳴るようなヨシュアの声に、顔を強張らせ弾かれるように一人の兵が部屋を出ていく。



「この石も何とかしねえと」


『移動途中に、何かの拍子に魔力吸って爆発したりしないよね………』


「……………」


『……………』



 瑠璃とヨシュアは揃って途方に暮れたような顔をする。

 精霊殺しの魔法については、ヨシュアもほとんど知らない。

 何を条件に発動するのかすら分からない状態だ。

 へたに動かすのは危険すぎる。かと言ってこの危険物をいつまでも放置してはいられない。


 話を聞こうにも神官達はヨシュア達に気絶させられ、残っていた神官長もいつの間にかコタロウにより気を失わされ泡を吹きながら転がっていた。


 一瞬殺したのかと心配になったが、一応息はしているようだ。


 すると、コタロウが口を挟む。



『ルリ、時のがいる空間に入れればいい』


『時の?』


『リディアの事だ。時のがいる空間ならば問題ない』


『でも魔力を吸収して発動するんだよね?

 それなら危険性は変わらないんじゃないの?』


『時のがいる空間は特殊だ。

 時があってない隔絶された空間。例え魔力を吸収し爆発直前の石を投げ込んでも、入れた時のまま爆発せず保存される。

 取りあえず空間に保管し、必要なければ消滅させる部屋に入れて一緒に消滅させればいい』


『なるほど、その手があった』



 いつ爆発するか分からないこの危険物は、処理にも頭を悩ませるが、消滅されるなら大した苦労はない。

 部屋と共に簡単に消せる。



 という事で、危険物を自身の空間に放り込んで、一息吐いた。


 その間に、神官達を移動させる班と、精霊殺しの魔法に関するものを捜索する班とに分かれた。



 さっそく瑠璃は召喚の魔法陣の前に立つ。



『でもこれはどうやって壊せばいいの?』


『簡単だ』



 そう言ってコタロウはかまいたちのような風を使い、石畳の床を切り刻んだ。

 すると、それまで放っていた光が消え去り、ずっと流れていた魔力の気配がなくなった。



『呆気ない。でも、この魔法陣だけ壊しても、資料が残っていたらまた作られちゃうよね』


「ああ、そうだな。

 だから一つ残らず捜索するぞ」



 少しすると、魔法陣を消した為か途中で別れた精霊達も合流し、城と神殿を全員で手分けして捜索した。

 精霊にとっても一大事という事で、急遽駆け付けた多くの精霊達のおかげで、思ったより早く捜索は終わった。


 念の為、城と神殿はジェイドの了承を得た後、徹底的に燃やされる事となった。



 そしてやって来た対決の時。



 これから竜王国へ護送される王と神官長と話をする為、二人だけ別室へと隔離してもらった。



 すでにナダーシャの城は、竜王国にて保護されていた元ナダーシャの穏健派によって回り始めている。

 ここにいるのは何の地位もない元王と元神官長。

 だが、その表情は不貞不貞しく、自らが引き起こした事の結果だと理解している様子はない。


 ならば、その舐めきった態度を崩してやろうではないか!



『ヨシュア、腕輪取って』


「おう、存分に楽しめ」



 ヨシュアは不敵な笑みを浮かべ、言われた通り瑠璃の腕輪を取る。

 人間の姿に戻った瑠璃を、王と神官長は驚きの表情を浮かべる。

 だが、それは猫が人間になった事に対してのようで、まだ二人は瑠璃だという事には気付いていないようだ。


 瑠璃は空間から取り出した眼鏡を掛け、次にカツラを被る。

 当時使っていたカツラはコタロウがチェルシーに預けたままなので手元にはないが、色と長さの似たものを用意していた。


 それを被った瑠璃を見た王と神官長は、更に驚愕の色を濃くした。



「お、お前は………」



 まるで幽霊でも見たかのような顔で瑠璃を指差す王と神官長。



「ごきげんよう、このクズ共っ」



 満面の笑みでゆっくりと歩み寄る瑠璃。



「準備は良いかしら?良くなくても別に問題ないけどね。

 それじゃあ、二度と帰れなくなった私の恨みを思い知れ!!!」

 


 そして室内に、王と神官長の悲鳴が木霊した。



 その後、すっきりとした顔で額の汗を拭う瑠璃が部屋から出て来た。





***




 あさひの投げた石により引き起こされた爆発を間近で受けたフィン。


 衝撃を覚悟し、目を瞑り腕を前で交差させる。


 だが、いつまで経っても体に痛みを感じない。

 恐る恐る目を開けると、視界は砂煙で視界が悪く他の兵がどうなったか見えない。


 その間も近くや遠く、様々な場所から断続的に爆発音が聞こえてくる。


 最悪な予想がフィンの頭を過ぎると同時に、フィンは何故自分が無事だったのか不思議に思った。

 そして砂煙が周囲を覆う中、フィンの体の周囲には砂煙が来ていなかった。

 よく目をこらしてみると、フィンの周囲に半円状の壁がフィンを外界から守っていた。


 手を伸ばし触ってみると、濡れた感触。



「これは、水か……?」



 暫くすると、爆発音が止み砂煙が落ち着き視界が晴れてくる。


 仲間の身を案じていたフィンはほっと息を吐いた。


 周囲には、フィンと同じように水の壁に守られた仲間達の姿が見えた。

 誰もが何が起こったか分からずぽかんとしているが、見たところ怪我をしている者はいないようだ。


 役目を果たしたかのように一斉に水の壁が消えていく。



『危なかったわね』



 その声と共に小さな魔獣の姿をした水の精霊がフィンの元に羽ばたきながら下りてくる。



「リン殿……?何故あなたがここに。

 それに今我々を守って下さったのはあなたか?」


『ええ、そうよ』



 フィンは胸に手を当て深々と頭を下げ謝意を表す。



「心から感謝を。

 ですが、あなたはルリと一緒にナダーシャに行ったものと思っていたが?」


『そのつもりだったんだけど、出掛ける前にルリが思い出した事があったのよ。

 ナダーシャの王と神官長が、あの巫女姫っていう女を戦争に乗じて殺そうとしているって。

 それで私が見張りに来たの。

 まさか精霊殺しの魔法が使われるなんて思わなかったけど』


「精霊殺し!?」



 フィンも見たことはなかったが、耳にしたことはある。

 強制的に世界から力を奪い、精霊を殺してしまう魔法。

 精霊が消えればそれだけ自然界は不安定となる、それ故、竜王国や多くの国で禁じられた魔法だ。



「防御した時、結界が石に吸収されたように見えたのは………」


『気のせいじゃないわ。

 精霊殺しは力を奪い発現する魔法。魔力も吸収され魔法が使えなくなる。

 まっ、私ほどの精霊となれば、些末なことだけどね』

 


 自慢気にふふふん、と笑うリン。



『コタロウから連絡があったけど、ナダーシャでも神官が大量の石を持っていたそうよ』



 今の爆発の大きさを思い出し、フィンの表情が険しくなる。



『それらは空間に入れているわ。

 そうすれば魔力を吸ったとしても爆発はしないから、あなた達も見つけたらすぐに空間に入れなさい』


「何から何まで感謝する」



 リンはフィンの肩に腰を落ち着けると、フィンは王子達がいた方へと視線を向ける。

 先程の爆発で、同じようにリンに守られた王子達は怪我一つしていなかったが、恐怖心には耐えられなかったのか気絶しているようだ。


 あさひだけは意識もしっかりとしているが、爆発のせいか怯えたような表情で顔色も蒼白だった。


 爆発は至る所で何度も起こった。

 それは、つまり石を持っていたのはあさひだけではないという事。


 フィンは周囲の兵に向けて声を上げる。



「他にもナダーシャの兵に透明な石を持っている者がいないか探せ!

 見つけたらすぐに空間に入れるんだ!」


「はっ!」



 命を受けた兵は、戦場に散らばっていく。

 だが、兵の人数の差がありすぎて、一人一人探すのに難航しそうだ。


 すると、戦場の数カ所で先程フィン達を守った水の壁が発生する。

 中には人がいるようだ。


 フィンは肩に乗るリンへ問うような視線を向ける。



『また爆発されても困るもの』


「助かる」



 そして、フィンは「水の壁の中にいる者の身体検査をしろ」と周囲の兵に向けて命じる。


 リンのおかげでピンポイントで見つけ出せた為、捜索は思っていたより随分早く終了した。

 ただ、石を取り上げるまでに爆発を起こす所があったが、リンの張った水の壁により爆発が外に漏れる事は無かった。



 そして、王子と巫女姫を捕縛、王都に護送しナダーシャとの戦争は終わりを告げた。







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[一言] 王と神官長を殺してはいけない論理的な理由を説明できない件
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