帝国のその後
竜王国へ帰ってきた瑠璃は、なんとも懐かしい思いで城へと戻った。
「なんだか一年ぐらい留守にしていた気分です。ジェイド様もそう思いませんか?」
「そうだな。帝国では色々とあったからな」
どこかしんみりとしたように見えるジェイドは、続けて口を開く。
「恐らく帝国はこれから荒れるだろうな」
「第一皇子と第三皇子のどっちが皇帝になるか、ですか?」
「ああ。アデュラリアのことを思うと、争うことなく決まってくれればいいが、あれだけ貴族同士がぶつかり合っていたら、皇子達にも止めることはできまい」
ジェイドは帝国にいる間に、コタロウに頼んで帝国貴族の動向を教えてもらっていた。
完全な対立構図ができあがってしまっていて、下手をすると内乱に発展するかもしれない。
「アデュラリアは早くに次の後継者を指名しておくべきだった。その点だけで、アデュラリアは後世において、争いの発端となった愚かな皇帝と記されてしまうかもしれない。それが残念でならないのだ」
アデュラリアは良い君主であったのに……。
そう悲しそうにするジェイドの手を握った。
それしか瑠璃にはできることがなかったから。
「それでも、竜王である私が口を挟める問題でもない。そんなことをすれば余計な争いを生んでしまうだけだからな。後は、コランダムと皇子達に期待するしかない。アデュラリアの息子達だ。なんとかしてくれると願いたい」
「そうですね」
ジェイドの予想通り、後継者争いは激化し、中々皇帝は決まらずにいた。
しかし、たくさんの貴族を巻き込んだ末に、第一皇子派が勝利を収め、ロイ皇帝が誕生する。
それまでには何年もの時間を要してしまい、帝国の政治は荒れてしまった。
それを新たな皇帝は立て直すことから始めたが、ロイ皇帝は古い貴族を優遇して、新興貴族を蔑ろにする傾向にあった。
そんな皇帝と新興貴族との仲を取り持ったのが、第三皇子である。
多少の軋轢はありつつも、なんとか兄と弟で帝国を立て直していった。
しかし、やはり貴族との間にどこか距離感が生まれてしまったのは仕方のない話なのかもしれない。
ロイ皇帝から次の代へ移ると、かろうじて保っていた均衡が崩れてしまう。
ロイの息子であったその皇帝には貴族をとりまとめるような力量がそもそもなかったのである。
政治は腐敗して、民心は荒れた。
そんな帝国を救ったのは、皇帝の息子でありながら愛し子でもある皇子。
皇子が皇帝として立つと、腐敗した貴族を粛正し、正しきあるべき姿へと国を変えていったのだが、それはまた別のお話。
こちら、皇帝となった愛し子の皇子のお話しが気になった方は、『裏切られた黒猫は幸せな魔法具ライフを目指したい』をご覧ください。