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第四皇子の空間の中



 相変わらずたくさん物でごった返している瑠璃の空間の中は、リディアの前の契約者である初代竜王ヴァイトの遺産から受け継がれた物が多いが、リディアが他の人の空間から持ち込んだ物もかなり多い。


 整理しなければと思いつつも、まだ空間の広さに余裕があったので放置していたら、どんどんと物が増えていって、どこから手を付けたら良いか分からない有様となってしまっている。


 これらの品は、ヴァイトがそうしたように、自分が死んだ後には次にリディアの契約者になってくれた人に押しつけ……いや、譲ろうと思っている。

 決して整理するのが面倒くさいからではないのだと自分に言い聞かす。



「リディアぁ。いる~?」



 瑠璃が呼べば、すぐに姿を見せたリディア。



「リディア、来てすぐで悪いんだけど、ちょっとお願いがあって」


『ええ。水のと風のから詳しい話は伝わっているわ。第四皇子の空間を見たいのよね』


「さっすが、精霊の伝達能力は便利ね。話が早くて助かるわ。どの空間か場所分かる?」



 なにせ空間は作った人の数だけ存在しているのだ。その中から特定の人物の空間をピンポイントで探せるのか、瑠璃には分からない。



『ふふふ。私を誰だと思っているの?』



 リディアは小さく笑うと、指をパチリと鳴らす。

 次の瞬間には、瑠璃は螺旋階段にいた。

 ここは空間の裏側。リディアとリディアと契約した者しか入れない場所。

 ここに、他の人の空間へ繋がるたくさんの扉が存在するのだ。


 もう一度パチリと指を鳴らせば、瑠璃はある扉の前まで移動した。

 扉が光っているのは所有者が生きている証であり、瑠璃の前で淡く光る扉の持ち主が存命であることを教えてくれる。



『ここが、その第四皇子の部屋よ』


「おー、こんな簡単に……」



 これはリディアに頼めば入りたい人の空間に入りたい放題だなと、よからぬ思いが頭をよぎる。

 自分の知らぬうちに、絶対に調べられることのない空間の中を見られていると知ったら、第四皇子はなんと思うだろうか。


 自分なら、ずるいぞ! と、指を差して罵りたくなるだろう。


 だが、これは必要なことなのだ。これ以上の犠牲を出さないための。

 後ろめたい気持ちをそうして押さえ込み、瑠璃は扉を開いた。


 瑠璃と比べたら……いや、比べるのが可哀想なほどに小さな空間。

 けれど、リディアと共に亡くなった人の空間の整理を手伝っている瑠璃には、これが普通サイズだということを知っているので驚きはしない。


 空間の広さは魔力量によりかわるので、つまりは瑠璃の魔力量が規格外なだけなのだ。


 それに、大きくない方が探しものをするには助かる。

 しかし、瑠璃にはどれが証拠になるのか分からない。

 分かりやすく光毒虫の毒と書いてあればいいが、第四皇子の空間の中は、液体が入った小瓶がたくさん置いてあった。

 捜しているものは血液なので、赤い液体を見つければいいのだが、赤いものも何本かあってどれか分からない。


 まさにお手上げ状態。

 瑠璃はそれらを前にして、「うーん」と唸る。



「リディア。どれが光毒虫に汚染された血液か分かる?」


『私も直接知っているわけじゃないのよねぇ』



 それはそうだ。リディアはこの空間の世界から外には出られないのだから。

 情報源は外にいる精霊から伝えられたもののみ。



『ちょっと待って。水のに確認するから』


「うん」



 静かに目をつぶるリディアを見ながらじっと待つ。

 今、外にいるリンと情報交換をしているところなのだろう。

 リンかコタロウを連れてこられれば早いのだが、リディアがこの空間の外に出られないように、外の精霊はこの空間の中に入ってこられないのだ。


 何故なのかは瑠璃には分からないが、そういうものらしいと思っておくしかなかった。

 もし、外の精霊が入ってこられるならリディアも寂しい思いをせずにすむだろうに。


 しかし、決まりと言われれば、瑠璃が文句を言ってもリディアを困らせるだけだ。

 本当に、いったい誰がこんな決まりを作ったのやら。その誰かが存在しているなら怒鳴り込みたい気持ちだ。


 そんなことを考えている間に情報交換が終わったのか、リディアが目を開ける。



「リディア、どう?」


『そうね、だいたい分かったわ』



 リディアは空間の中に向けて指をちょいと動かすと、その中から小さな瓶が一つ浮き上がって、瑠璃の前で止まった。



『それがルリの探しているものだわ』


「ありがとう、リディア!」



 その小瓶を手に取り観察すると、中には赤い液体がほんの少しだけ入っていた。



「量が少ないなぁ。あんまり取るとバレるから、少しだけ」



 一滴でもいいと言っていたので、それぐらいなら採っても気付かれることはないだろう。

 手に触れないように、慎重に蓋を開けてスポイトで血液を採取する。

 パールから渡された小瓶に移し終え、作業は終了だ。

 リディアに元の自分の空間に戻してもらう。



『忙しないのね。もう行っちゃうの?』


「ごめんね、リディア。これが解決したら帝都の美味しいお菓子買ってくるから、セラフィさんとお茶会しましょう」


『楽しみにしてるわね』



 手を振るリディアに手を振り返して、瑠璃は空間から外へ出た。

 待ってましたとばかりに瑠璃に集まる面々。



「ルリ、どうだった?」



 誰よりも先に近付いてきたジェイドに、戦利品を見せる。



「これが第四皇子の空間の中にありました」



 それをパールに渡す。



「よかろう。少し待て。調べてくるのでな」



 そう言って部屋を出ていったパールを待つことしばらく。

 険しい顔で戻って来たパールは、これが確かに光毒虫に汚染された血であることを断言した。



「これは証拠になりますよね?」


「そうだな。コランダム、これを聞いてもまだ信じぬか?」



 ジェイドは厳しい眼差しでコランダムを見据える。

 コランダムはその眼差しを受け止めることができず、静かに目を伏せた。



「なんてことに……」


「嘆くのは後だ。お前がすべきことを果たせ」


「はい……」



 意気消沈したコランダムを可哀想に思うが、引導を渡すのは父であるコランダムの役目だ。



「先にロイに話をしてきます。あの子も私のように最初は信じぬでしょうが……」



 そう言って出ていったコランダムの背は小さく見えた。

 なんとも言えぬ複雑な気持ちになり、誰もが言葉を発しない中、オリオに付けていた精霊の内の何人かが戻ってきた。



『あのねー。なんか変なの入れてたー』


『そう、変なの。ポタポタって』



 主語がないので、言っている意味が分からない瑠璃は首をかしげる。



「誰が何に何を入れてたの?」


『うんとね、第四皇子~』


『それでね、ポットにね、お茶を用意してたのー』


『それでそれで、その中に赤いのを入れてた』


「それが何か分かる?」


『ルリが言ってた、虫の毒が入った血だったよー』


「第四皇子は今どこにいるの?」


『えっとぉ……』



 しばらくな沈黙があったのは、オリオに付いている他の精霊と交信しているからだろう。

 遠く離れていても意思の疎通が可能な精霊の能力は、こういう時とても便利に思う。



『お茶を淹れて移動してる~』


「どこに?」


『兄様の部屋に行くって言ってるみたい。兄様って誰だろうね?』



 こてんと首をかしげる精霊はとても可愛いが、そんなことより気にしなくてはいけないその内容。

 


「ジェイド様」 



 ジェイドの方を向けば、ジェイドの顔にも焦りが浮かんでいる。



「第一皇子は病を理由に面会謝絶だ。他に今宮殿にいる兄と言える者は第三皇子だけだ」


「まさか第三皇子にまで飲ませる気かい?」



 その言葉からは、クォーツの焦燥感が伝わってくるようだった。



「フィン、急いでコランダムに知らせるんだ!」


「はっ!」



 フィンが慌てて走っていった。



「邪魔しに行きましょう!」



 そう瑠璃が立ち上がったが、ジェイドは瑠璃の腕を掴んで制止した。



「ジェイド様?」 


「逆にこれは好機だ。向こうから証拠を持って来てくれるのだからな。ここはコランダムに任せるしかない」


「私も、ジェイドの意見に賛成だよ。現行犯で逮捕できる絶好の機会だ」



 そう、クォーツにまで言われてしまったら、瑠璃の出る幕はない。



「うわーん。気になるよぉ」



 飲んだりしないか心配で仕方なく、どうにもできない苛立ちをぶつけるようにコタロウを抱き締め、そのモフモフで心を落ちかせる。

 一方のパールは落ち着いたものだ。

 さすが女王と言われるだけの人だと尊敬する。



「安心しろ。たとえその茶を飲んだとしても、まだ光毒虫の治療薬の材料はまだあるからな。私が治るまでしっかり口に流し込んでやる」



 なんとも心強いお言葉。

 けれど、第三皇子にとったら、ある意味地獄が待っている。

 三日間の地獄ツアーに強制参加されるかは、コランダムが間に合うかにかかっていた。


 彼のためにもどうか間に合ってくれと、心から願ったのは瑠璃だけではなかったはずだ。






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