証拠探し
コランダムから間に合ったと聞かされた時には、一同ほっと安堵の息を吐いた。
医者からオリオ皇子の名前を出された時には、信じられず、ただの偶然ではないかと思いたかった。
だって、子が親を殺した可能性があるのだ。
けれど、精霊によって調べれば調べるほど、オリオは怪しかった。
亡くなった昆虫の研究者から採取した血液は、医師によりちゃんと鍵のかかる棚に保管されていた。
調べにより危ないことが分かっていたために、他より厳重にしてあったそうだ。
けれど、よく調べてもらえば、その量がわずかながら少なくなっていたのだ。
瑠璃達に取られた可能性はないかと指摘されるまで気が付かなかった医者は、後々コランダムより厳重に注意してもらうとして、誰が盗んだかだ。
それができるのは医者を支援し、保管棚の鍵を持っていたオリオが一番怪しい。
毒は空気感染はしないが、少しでも体内に入ればその効果を存分に発揮してしまう恐るべきもの。
血液はその場でジェイドが回収した。
少なくなっていることにも気付かぬ者に、そんな危険物を管理させておくなどできないからだ。
厳重注意があるとは言ったが、注意ですむかはコランダムの采配次第だろう。
知らぬこととは言え、彼の管理不行き届きにより、人が殺された可能性があるのだから。
研究のために血液を投与された動物達も、埋葬された庭から掘りおこして焼き払うことになった。
感染した者の血も毒へと変わると知っていながら、庭に埋めるとはどういうことかと、ジェイドが激昂した。
瑠璃ですら怯えたその覇気をぶつけられた医者は顔面蒼白だ。
まさかこんな大事になるとは思っていなかったのだろう。
ただ、良かれと思って。
自分の研究が誰かの助けになることを願い、研究していたのだろうが、後始末が悪かった。
そして、人を見る目も。
オリオは以前から奇病やその原因。今の医学では治せない毒や人にうつる病気のことを、それはもう熱心に聞いていたという。
医者は得意げに自分の研究成果を話して聞かせていたそうだ。
支援者であり、知識を求める若者のため、余すところなく学びを与えた。
恐らくオリオはその頃から皇帝の暗殺を視野に入れていたのではないだろうか。
だからこそ、奇病を研究する医者を支援し、自分の管理下に置いた。
その慎重さと計画性の高さに、身が震えるような空恐ろしさを感じる。
そこまでしてアデュラリアを殺したかったのかと。
そうして、瑠璃達が犯人としてオリオに目星を付けたところで、コタロウにはオリオを見張るように頼んだ。
それと共に、コランダムにこの話を伝えれば、酷いショックを受けていた。
まあ、当然だろう。一応息子達にも疑いの目を向けてはいても、本当に息子であると聞かされれば。
それにコランダムは、もし可能性があるとしたら第三皇子のサマダンだろうと考えていたようだ。
死神との契約書が、偽物かもしれないことはジェイドから伝えられてはいたし、本人も否定していたが、疑惑の目はどうしても向けてしまう。
第一皇子と後継者争いをしており、誰よりも第一皇子を邪魔に思っているのはサマダンだろうから。
それに引き換え、第四皇子のオリオは影が薄く。皇子でありながら気弱な性格を心配するほどだったため、オリオだけはないとコランダムの注意すべき者の候補にも入っていなかった。
まさに、青天の霹靂。
最初はどんなに説明してもコランダムは信じようとしなかった。
それだけオリオの表向きの姿は善良な人間だったのだろう。
それに、まだ明確な証拠が出てきたわけでもない。
今はまだ、光毒虫と関わりがあり、その危険性をオリオは知っていたというだけの話だ。
オリオから実際に光毒虫の毒が見つかったのではない。
それ故、コランダムは認めようとはしない。信じたくはないのだろう。
それに目的もその時点では分かっていなかった。
だから決定的な証拠が必要だ。
オリオは以前からアデュラリアにお茶をよく持ってきていたと話を聞いた。
毒を盛るチャンスはいくらでもあったのだ。
精霊か誰かがそれに毒を盛った瞬間を見ていればいいが、愛し子もいないこの宮殿で精霊は多くなく、タイミング良くその瞬間を見ている精霊はいなかった。
そして、第一皇子が倒れたことで、行われた兵士による調べでも、オリオの部屋から不審物は発見されなかった。
第一皇子は魔力がないが、オリオには魔力があるらしいので空間を持っていた。
恐らく空間の中に入れてしまっているのだろう。
そうなれば他人には手を出せない。
それではいったい、どう証拠を手に入れればいいのかと一同が頭を悩ませている中、瑠璃が盲点に気付く。
「私が空間の中に入って、第四皇子の空間を調べてくればいいんでは?」
「あっ」
瑠璃が空間の中に入れ、さらには他の空間にも出入りできることを、他の者達も今思い出したという様子だ。
「そうと決まればちょっくら行ってきます!」
「待て、ルリ。それを見つけても確認するだけでそのままにしておくんだ。ルリが持ってきてしまったらどうとでも言い逃れができてしまうから」
しかし、それに待ったをかけたのはパールである。
「待て。ルリが見ても、それが光毒虫に汚染された血液かなど分からぬだろう?」
「確かに」
瑠璃にはそんな医療の知識も光毒虫への知識も持ってはいない。
「おい、そこのトカゲ。スポイトと瓶をよこすのじゃ」
「はいはい」
トカゲと言われたクォーツは、苦笑しながら自分の空間から小瓶とスポイトを取り出しパールに渡した。
どうやらパールの荷物はクォーツが預かっているらしい。
その小瓶とスポイトを、瑠璃へ渡した。
「相手に気付かれぬよう、この中に少しだけ、一滴でもよいから血液を採ってくるのじゃ。決して素手で触れるでないぞ。ちゃんとスポイトを使え」
「了解です!」
敬礼をして、瑠璃はまず自分の空間の中に入っていった。