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葬儀



 アデュラリアの死に、多くの人が嘆き悲しんだ。

 長く善政を敷いていたアデュラリアは、国民からの人気も高く、アデュラリアの死の知らせに、多くの国民が宮殿の前で祈りを捧げた。


 誰もがアデュラリアの安らかな眠りを願ったのだ。

 アデュラリアの葬儀に参列した者の中には、急いで駆けつけた霊王や獣王もいた。


 ジェイドにより、あらかじめアデュラリアの状態の悪さを知らされていた二人は、アデュラリアの悲報が届くより先に国を出ていたのだ。

 そのおかげでこんなに早く駆けつけることができた。


 しかし、今回はアデュラリアの死に不審な点もあることから、両国の愛し子である、ラピスとセレスティンは出席を控えたようだ。

 瑠璃もきっとコタロウとリンがいなければ留守番を余儀なくされていただろう。



 結局、アデュラリアの枕元に死神を示す紙を置いたのが誰だったのかは判明せず終いだ。

 現状で分からぬのならきっと闇に葬られたままになってしまうのではないかと思う。

 その場に精霊がいたら話は違ってきたのだろうが、あいにくとその現場を見た精霊はいなかった。

 そもそも精霊は自分の興味のあることしか気にはしないのだから仕方がない。


 このまま忘れ去られてしまうのかと思うと、モヤモヤとしたものが残ってしまう。

 だが、それはどうすることもできない。



 アデュラリアの葬儀は、たくさんの人々に見守られながら行われた。

 帝国では火葬が一般的なようで、皇族専用の火葬場で、これから棺を入れる前の最後のひと時をコランダムと息子達で過ごす。

 どうやら宮殿を離れていた第二皇子も戻ってきていたようで、息子四人がそろっている。


 それを少し離れたところから見ていた瑠璃の元にも聞こえてくるコランダムの悲痛な泣き声が、瑠璃の涙腺を刺激した。

 とっさにハンカチを渡してくれたジェイドに礼を言い、涙を拭いてからジェイドの様子を窺うが、見た目には普通に見えた。



「ジェイド様、大丈夫ですか?」


「ああ、私は大丈夫だ。……非情と言われるかもしれないが、人の死には慣れている」



 霊王に視線を向けると、霊王も苦笑を浮かべる。 



「私やアウェインのように長命な種族は、それだけ人の死をたくさん見てきたからな。人間の命は短い。アデュラリアだけでなく、コランダムも、その息子達も、私が死ぬより先に死んでいく。その度に嘆いていてはとてもではないが、生きてはいけない。長く生きれば生きるほど自然と割り切ることを覚えていく」


「ジェイド様……」


「こんな時ばかりは、竜族に生まれたことを不運に思ってしまうな。アデュラリアのために泣いてやりたいが、涙は出てこないのだ」



 そう笑うジェイドの顔はじゅうぶんにアデュラリアの死を悲しんでいるように見えた。

 割り切るとは言っても、何も感じないわけではないはずだ。

 瑠璃はジェイドをぎゅうっと抱き締める。そうすれば、ジェイドはポンポンと優しく頭を撫でてくる。



「私やアウェインの代わりに泣いてやってくれ。アデュラリアのために」


「はい……っ」



 涙に濡れる顔を隠すように、ジェイドにしがみついた。

 そして、皇帝を燃やす煙が空へと昇っていった。



***



 葬儀を終えた後、竜王ジェイドと、霊王アウェイン、獣王アルマンで話をしていた。

 そこにはちゃっかり瑠璃も参加している。猫の姿で。

 何故この面々での話し合いの場に自分がいるか瑠璃はいまいち分かっていない。



「まさかアデュラリアがこんなに早く逝っちまうなんてな」



 アルマンが信じられないという顔で話す。

 それはジェイドもアウェインも同じ気持ちだろう。



「問題は、次の皇帝に誰がなるか、だが……お前達はどう思う?」



 アルマンは厳しい眼差しでジェイドとアウェインに視線を巡らせた。

 四大大国の一つである帝国の皇帝が亡くなった。

 アデュラリアが皇帝に就いた時には、アデュラリアの他に前皇帝の子がいなかったためにスムーズに即位できたが、今回は違う。

 第一皇子と第三皇子が皇帝の椅子を争っていることは、アルマンやアウェインの耳にも入っているのだろう。


 次の皇帝が誰になるかを懸念していた。

 同じ同盟国としてある以上、皇帝が誰になるかは他の三国の王にとっても無視できない問題だった。

 かといって、三国の王が他国の継承問題に口を出すつもりもないようだ。



「皇帝になる可能性があるのは第一皇子と第三皇子のどちらかだが、私もあまり話したことがないのでどういう人物か分からない。アウェインはどうだ?」


「私もジェイドと同じだ。だが、どちらが優れているからといって、私達が口を出せる問題ではないだろう? 決めるのは帝国の貴族であり、国民だ」


「まあな。アウェインの言ってることは正しいが、愚王に立たれると困るのも事実だ。気付いてたか? あの息子達、大泣きしてるコランダムを前にしても涙一つ見せやしねぇ」



 それは瑠璃も気付いていた。

 母の死を前にもう少し感情的になってもおかしくはないだろうに、皇子四人は父親と違い酷く冷静だった。

 それはもう不気味なほどに。



「お前達のとこに皇子達が来たか?」



 アルマンの問いに、ジェイドは当然のように頷いたが、アウェインも同じく首を縦に振った。



「やっぱりか」


「やっぱりかということは、アルマンのところにも来たのか?」


「ああ。あからさまに自分を皇位に就ける手伝いをさせようとしているのが見え見えだったんで追い出したんだがよ、二人も同じか?」


「私の所には瑠璃がいるから特に酷いぞ。アデュラリアが亡くなって、挨拶をしないわけにはいかなかったのでとりあえず全員と話をしたが、第一皇子と第三皇子は瑠璃に会わせろとしきりに強請ってくる。まあ、会わせるつもりはないがな。アウェインは?」


「私の所も似たようなものだ。ラピスを連れてこなくて正解だった」



 はぁ……と、三国の王はそろって溜息を吐いた。



『王様業も大変ですねぇ』



 ジェイドの膝の上でしみじみと話す瑠璃に、アルマンはやさぐれたように口角を上げる。



「愛し子のルリは人ごとで気楽なもんだよなぁ。ルリが猫でいるのも、皇子達に会わせないための対策か?」


「ああ。どうやら皇子達はルリが猫になれるのを知らないようだからな。万が一偶然を装って会いに来たとしても居留守を使えるように、しばらく猫でいてもらっている」


「まあ、最善策だな」


「うむ。できればうちのラピスにも欲しいところだが、あれに渡すととんでもないことに使いそうで、怖くて渡せんな」



 なんとも信用がないラピスである。

 日頃から女性に一目惚ればかりしているせいだろう。



「まあ、なんにせよ、これ以上ここにいても継承問題に巻き込まれるだけだ。早めに国に戻った方がよさそうだな」


「同意見だ」


「そうだな」



 三国の王の意見がそろったところで話し合いはお開きとなった。

 翌日にはアルマンとアウェインはそれぞれの国へ帰っていき、瑠璃達も帰り支度をしていた。


 瑠璃達が帰るのに少し時間がかかっているのは、ジェイドが憔悴しているコランダムのことを気にしているからだ。

 どうやら落ち込むコランダムの姿が、セラフィを亡くした後のクォーツと重なってしまい、放っておけないらしい。

 優しいジェイドらしかった。


 どうにかコランダムの悲しみを少しでも癒やせないかと、甲斐甲斐しくコランダムの部屋を訪ねているようだ。

 普通ならそれは息子達の役目だろうに、第一皇子と第三皇子は皇帝になることばかり考えており、第二皇子は婿入りする隣国へ行ってしまったらしい。

 それを聞いた時には「はあ!?」と、声を荒げてしまったが、瑠璃を責める者はいなかった。

 誰もが同じ気持ちだったのだから。


 そして、末っ子の第四皇子は、母の死にショックを受けて部屋に籠もってしまったらしい。

 唯一まともな感覚を持っていると言って良いかもしれないが、その第四皇子とて葬儀では酷く冷めていたのを瑠璃は忘れていない。

 あまりにショックすぎて受け入れられなかっただけなのか、はたまた……。


 それは瑠璃には分からない。







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