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困った皇子達



 アデュラリアとの面会を終えた後、クォーツは医師にアデュラリアの症状や、竜の血を飲ませた後の状態など詳しく聞いていた。


 それが終わるや、ジェイドに竜王国へ帰ると言ってきた。

 来たその日に帰ると言い出すとはジェイドも思わず、せめて一晩休んでからにしてはどうかと提案するも、クォーツは頑なに首を縦に振らなかった。

 その意思の強さにジェイドも否を言えず、クォーツは帝国に着いたその日に竜王国へと戻っていった。

 最後に「間に合えばいいのだけど……」と、意味深な言葉を残して。


 もしかしたらクォーツには何か助ける術があるのかもしれない。

 クォーツが帝国の医師から話を聞いたところによると、セラフィが冒された病と同じと判断していいかもしれないと言っていたから。


 しかし、それはあくまで瑠璃の願望だ。

 それを病に冒されたアデュラリアや、悲しみに暮れているコランダムに話すことなどできようはずもない。

 変に期待をさせて、後になって無理だなんてことになったら余計につらくさせるだけなのだ。


 瑠璃は静かに祈るしかなかった。


 そんな瑠璃やジェイドはしばらく宮殿に滞在することとなった。

 それはアデュラリアの状態が芳しくなく、いつどうなってもおかしくないからだった。


 皇帝がそんな状態の帝国である。

 宮殿内では、水面下でしか起こっていなかった後継者争いが表立って始まってしまっていた。

 そのせいか、宮殿内はピリピリとした空気に包まれており、不穏な気配が瑠璃にも感じられていた。



『なんか気分が悪くなる空気ね』


『人の死を前に後継者争いを行うなど、人というのは強欲だな』



 と、精霊であるリンとコタロウからは辛らつな言葉が発せられる。

 だがしかし、決して間違っていないので、瑠璃も隣に座るジェイドも否定はしなかった。


 コンコンとノックをして入ってきたのはフィンである。

 フィンは困った様子でジェイドの耳に囁いた。

 げんなりとしたそのジェイドの表情を見て、瑠璃はピンとくる。



「またですか、ジェイド様?」


「ああ、まただ。こりないやつらめ」


「あはは……」



 苦笑いする瑠璃や、こめかみを押さえるジェイドの目下の悩みは、帝国の皇子達である。

 自分達を生んだ母親であるアデュラリアが死の淵にあるというのに、継承争いを率先して行っている第一皇子のロイと第三皇子のサマダンが何度となく面会の打診をしてくるのである。


 ジェイドによると、恐らく竜王国か愛し子の後押しが欲しいのだろうということ。

 そんな他国の問題に首を突っ込むつもりなど、ジェイドはもちろんのこと、瑠璃とてない。


 第四皇子のオリオも面会の希望を出してきたが、一度断ったらそれっきりだ。

 きっと、帝国に来た竜王と愛し子に、皇子としてただ挨拶をしようと思っただけなのだろう。

 こちらが忙しいと断ったら、会える状況になったら挨拶させてくれとあっさり引いた。


 そんな弟と同じように引いてくれればいいのに、ロイとサマダンは、こちらが何度会えないと告げても、まだかまだかと何度も催促してくるのである。


 第二皇子のマリアノは、現在宮殿内にいないようなので問題はなかった。

 そもそも彼は隣国に婿入りが決まっているので、皇帝の椅子を巡る争いには関係ない。

 本人も以前から参戦するつもりはないと明言していたそうだ。


 なので、現在火花を散らしているのは第一皇子と第三皇子ということになる。



「今回はどっちだったんですか?」


「ロイ皇子の方だ」


「第一皇子ですか……。そのしつこさはなんなんですかね」



 瑠璃もいい加減嫌になってくる。



「さすがにコランダムに苦情を入れるべきか? ……だがなぁ」



 コランダムは皇帝に代わって政務をしている上に、アデュラリアのことで頭がいっぱいなのだ。

 息子のこととは言え、これ以上の問題を与えるのは酷ではないかと言い出せずにいた。



「私も告げ口するのは反対です。あまりにもストレスがかかりすぎます」


「そうだな」


「なんとか諦めてくれる方法はないものですかねぇ。せっかくコランダムさんが宮殿内を散策していいと言ってくれたのに、これじゃあ待ち伏せされて捕まりますよ」



 コランダムからは、ずっと部屋にいるのは息が詰まるだろうからと、好きに宮殿内を出歩いてくれと許可をくれた。

 霊王国にも負けない美しい宮殿内と、森のような大きな庭は瑠璃の興味をくすぐったが、普通に部屋から出ていけば、偶然を装ってロイかサマダンのどちらかが待ち構えていそうだと部屋から出られずにいた。


 実際、部屋の外には扉を窺う監視のような人が始終張りついているという。

 精霊からそう教えられた瑠璃は、何それ怖いと部屋に籠城することにしたのだが、ずっと部屋にいるのも気が滅入る。



『ルリー。僕達がなんとかしようか?』



 精霊の優しさにじーんとしながら、素直に是とは言えなかった。



「どうするの?」


『皇子が来たら、お尻に火を付けちゃえばいいんだよー』


『さんせーい』


『えぇー。たくさんの水で洗い流しちゃおうよ』


『いっそ竜巻起こして宮殿の外まで放り出そう!』


『わーい。楽しそー』


「いやいやいや、それやっちゃ駄目だからね」



 やはり普段通りの精霊であった。やることが力ずくなのである。

 何故こうも実力行使なのか。話し合いという言葉は存在しないのだろうか。


 まあ、話し合いで引いてくれる相手ならばとっくに引いているだろうが、皇子相手にその方法は駄目だ。

 凶悪犯罪者ならまだしも、皇子である。一つ間違えれば国際問題に発展してしまうではないか。


 いや、精霊のしたことだからで片付けられるか? と、一瞬瑠璃に悪魔が囁いたがはっとして頭を振る。



「駄目駄目。もし怪我なんてさせちゃったら後が大変だから、そんなことしないのよ」


『でもうっとうしくない?』


『邪魔なら排除しないとー』


『ルリに近付けない体にする?』



 きゃっきゃっと楽しそうに話しているが、その内容は本人達が聞いたら顔を青ざめさせることだろう。



「リン、コタロウ、なんとか言ってよ」


『ルリの害になるなら消してもいいんじゃない?』


『我もそう思う』



 がっくりと肩を落とす瑠璃。

 最高位精霊がこれなのだから、下の精霊達の思考が危ない方向へと向かうのは無理もないのかもしれない。

 やれやれと息を吐く瑠璃は、あることを閃く。



「あー、人のままじゃ駄目なら、猫になっちゃえばいいじゃない」





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― 新着の感想 ―
[一言] 猫になっても愛し子であることは変わりなく、精霊を引き連れていたら、猫の姿で軟禁されそうですが?
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