表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
149/190

愛し子と名乗り出た者



 それは、フーリエルの第二陣が去った日のこと。


 第二陣がやって来たのは満月が輝く夜だった。

 約束通り竜体となったジェイドに乗って、フーリエルとの夜の散歩を楽しんだ。

 満月の光に照らされたフーリエルは淡く発光しており、群れで空を泳ぐ光景はとても幻想的で瑠璃の心に深く刻まれる。


 思い出すだけでうっとりするひと時に、瑠璃は写真を撮らなかったことを激しく後悔した。

 フーリエルは今後一週間ほどの間に次々にやって来るというので、次は絶対に写真を撮ろうと心に誓う。

 そんな翌日、仕事するジェイドの執務室で、コタロウとリンとお茶を飲んでいる。


 今日、ルチルは休みで瑠璃の近くにはいない。どうやらフィンと王都の町をデートするらしく、瑠璃と出かけた時の男装姿と違って、綺麗なワンピースを着て出かけていった。

 ユークレースがコーディネートしたようで、さすが女子力の高さが窺えるチョイスに感嘆する。

 どうやらルチルとユークレースの二人は親友のように仲が良いようで、相談を受けてユークレースがはりきったようだ。

 きっとフィンもメロメロになることだろう。


 好奇心からちょっと覗いて見たくなったが、そこはぐっとこらえた。

 ずっと帝国に行っていたルチルは、フィンと出かけること自体数年ぶりらしく、せっかくのデートを邪魔するのはかわいそうというもの。


 ちなみに、一番二人の邪魔虫になりそうなユアンには、ジェイドがフィンに構っていられないほどの量の仕事を申しつけたらしい。グッジョブである。


 ルチルという護衛がいないので、瑠璃もジェイドの側で大人しくしている。

 そんな執務室の扉をノックする音に全員の手が止まった。



「入れ」



 ジェイドの合図で入ってきた兵士は、酷く困惑した表情をしている。



「どうした?」


「それが、自分は愛し子だと名乗る少女が城にやって来まして、どうしたものかと陛下の判断を仰ぎたくこちらに」


「愛し子だと?」


「はい。確かにそう申しております。そしてどうやら水の精霊を複数連れている上に、高位精霊と契約しているようで、私共の判断で追い返すわけにもいかない状況でして……」



 ジェイドも驚いたように目を見張り、部屋の中にいたクラウスへと視線を向けると、クラウスも困ったように眉尻を下げている。



「連れているのは水の精霊だけか?」


「そのようです。いかがいたしましょう?」


「そうだな……。会ってみないことには判断しようがないか」


「そうですね。本物の愛し子だとしたら下手な対応をするわけにもいきませんから」



 ジェイドの言葉にクラウスも同意する。

 少し気になったことがあった瑠璃が手をあげた。



「はい、ジェイド様、質問! 愛し子かどうかなんてどうやって判断するんですか?」



 瑠璃とて、周りが自分ことを愛し子だというから、そうなのかと受け入れているが、何を判断基準にしているかはいまいち分かっていない。



「それは簡単なようで少し難しい質問だな。そもそも精霊に好かれる人はある程度存在する。例としてあげるなら、ヨシュアがそうだ。ヨシュアは風の精霊に好かれる体質で、数体の風の精霊を連れている時がある」


「でも、ヨシュアは愛し子ではないですよね?」


「そうだ。愛し子とでは明らかに連れている精霊の数が違うし、愛し子は風だとか水だとか属性にかかわらず複数の精霊に好かれるから、風の精霊しか連れていないヨシュアは愛し子ではない。ルリやセレスティンは色んな種類の精霊を連れているだろう?」


「なるほど、確かに」



 瑠璃は自分の周囲を見回して納得する。

 自分だけでなく、母や祖父の周りにも、水や風や火やその属性に関係なく精霊が集まってきていたことを瑠璃は思い返す。



「今回名乗り出た少女というのは水の精霊しか連れていないというし、愛し子ではない可能性が高いが、高位精霊と契約しているというのが気になるな」



 ジェイドは椅子から立ち上がった。



「会いに行くんですか?」



「ああ。愛し子でなかったとしても、高位精霊と契約している者を放置しておけない。自分から愛し子と名乗っているならなおさらな」


「じゃあ、私も行きたいです」



 そう言えば、途端にジェイドは眉をひそめる。



「同盟している四カ国以外の愛し子同士が会うのは禁止されていると知っているだろう? 駄目だ」


「でも、ジェイド様はその子が愛し子でない可能性の方が高いと考えているみたいですけど」


「万が一ということがあるだろう」



 瑠璃は不満そうな顔をした後、はっとひらめいた。

 瑠璃は立ち上がるとポケットから腕輪を取り出し、腕に通した。

 その瞬間白猫の姿となった瑠璃は、ジェイドの足下に擦り寄り、ウルウルとした眼差しで見上げる。



「うっ……」



 激しく動揺するジェイドは相変わらずチョロかった。



「……お、大人しくしているんだぞ?」



 あっけなく陥落したジェイドに、クラウスはやれやれと頭を振った。



 そして、ジェイドに抱っこされて、少女がいるという部屋へとやって来た。

 瑠璃が行くとあってコタロウとリンも一緒である。

 相手が高位精霊を連れているので、ジェイドの方から同席して欲しいとお願いされたコタロウとリンは、頼まれなくても行く気満々であった。

 その精霊というのが水の精霊であるために、水の最高位精霊であるリンがいつになくやる気に満ちあふれていた。



『ルリに何かしようとしたら私が威嚇してあげるわね』



 という、なんとも頼もしいお言葉。


 精霊は上下関係がはっきりしており、自分より上位の精霊の命令には逆らえないのだそう。

 そして愛し子とは言っても、従属でもさせていないかぎり、精霊に対してできるのはお願いなのだ。

 命令することはできない。


 そして、上位の精霊の命令はそんな願いより優先されるので、たとえ相手が愛し子だろうと契約していようと、最高位精霊であるリンを従属させている瑠璃に逆らうことなどできないという。


 その説明を聞いた時には、こういうのがチートというのかと、頼もしいやら怖ろしいやら。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ