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愛し子の自覚



 正式に護衛として瑠璃に付くようになったルチル。


 とは言っても、瑠璃の周囲にはコタロウやリンを始めとした精霊達がいるので危険な目に遭うはずもない。

 なのでもっぱら話し相手と化しているのだが、その状況が瑠璃は心配だった。



「あの、ルチルさんは本当に私の護衛なんかして良かったんですか?」


「と、言いますと?」


「だって、ユアンや他の竜族の人の話だと、フィンさんの次に強くて、優秀な兵士だって。そんな人を護衛とは名ばかりの私の話し相手なんかにしてしまって、力の無駄遣いというか……。なんか申し訳なくなってしまって」



 ルチルならばもっと有用な役職に就けるはずだろうに、これでは左遷されたようなものではないのか。

 毎日のようにお茶の相手をさせられて不満がないのかと瑠璃は不安だった。


 ルチルはジェイドから人たらしと呼ばれるだけあって、女性達からも絶大な人気がある。

 ルチルが専属の護衛として四六時中いると知った女性達が、瑠璃に対して羨ましいと騒いだぐらいだ。

 いつにも増してちょくちょく瑠璃の部屋に侍女がやってきては、それ今必要なくない? というような用事をするのだ。

 そして、さりげなくルチルと話をして、満足そうに帰っていく。


 そんなことが一度や二度ではない。

 運悪くルチルがいない時に来てしまい残念そうにした侍女からこっそり教えられたのは、次に誰がルチルに会いに行くかで激しい争いが水面下で起こっているらしいとのこと。


 瑠璃の世話をしにではないことに、それでいいのかとツッコミを入れたい。

 だが、それだけルチルの人気が高いのだという。


 ルチルが帝国に派遣されることになった時には、女性達が群れをなしてジェイドの執務室に乗り込んだとか。

 それはなんともジェイドも対応に困ったことだろう。その時の慌てぶりが想像に難くない。


 そんなルチルが帰ってきて、それはもう涙を流さんばかりに喜ばれているらしい。

 しばらくはルチルフィーバーが続くと思うので、目をつぶって欲しいとお願いされた。


 それはまあいいのだが、そんな人気者のルチルを婚約者にしているフィンの身が心配になってきた。

 いつか闇討ちされないだろうか。

 ジェイドの次に強い力を持っていて幸いである。

 そうでなければとっくの昔に墓石の下にいた可能性がある。

 いや、今後も気は抜けないだろう。それを承知でルチルの婚約者をしているフィンはまさに勇者。


 どういう経緯で二人は結ばれたのかぜひ聞き出したいと思ったのだが、ルチルの方が上手で笑顔でかわされてしまった。

 残念であるが、今一番気になるのは、そんな大人気のルチルを独り占めしていいものなのかということ。

 瑠璃の問いかけにルチルは優しげににこりと微笑んだ。



「陛下からルリには愛し子としての自覚が足りないと聞いていましたが、本当のようですね」


「あう、すみません……」



 ユアンにも散々叱られたことだ。



「怒っているわけではありませんよ。ですが、あなたは愛し子で、愛し子とは世界にとってとても特別な存在なんです。その愛し子の護衛に選ばれて外れを引いたなんて思うのは、精霊を信じていない者達ぐらいのものです。普通は名誉ある職に身を打ち振るわせて喜ぶようなことなのですよ」


「……うーん。愛し子が大事なことは色んな人に聞いて分かってはいるんですけど、それが自分ってことに未だに慣れないというか、信じられなくて」



 なにせ、向こうの世界では大事とは真逆の対応を十数年受けてきたのである。

 大事だ大事だと口を酸っぱく言われても、瑠璃がピンとこないのは仕方ない。

 幼少期より刷り込まれた価値観はすぐには変わらないのだ。



「陛下の苦労が偲ばれますね」



 さすがのルチルも困ったような顔になった。



「ジェイド様は心配性なんですよ。コタロウが結界を張ってくれているので、怪我なんてしないのに」


「それでも心配するのが竜族の男というものですよ。あまり心配させすぎると監禁されるかもしれないので気を付けてくださいね。過去に事例はたくさんあるので」


「ははは……。気を付けまーす」



 瑠璃も監禁だけは勘弁願いたい。



「話は変わりますが、風の精霊様がご一緒なら町に出てみませんか?」


「今さっき愛し子の自覚が足りないって言ってたのに」


「それはそれ、これはこれです。毎日城にばかりいては息も詰まるでしょう? 気分転換は必要です。それに今の王都は特別なので、これを逃すと数十年待たないといけないんですよ」


「何があるんですか?」


「それは行ってからのお楽しみです」



 にこりと笑うだけでルチルは教えてくれない。けれど、特別と言われたら行きたくなってしまう。問題はジェイドだ。



「ジェイド様が許してくれるかなぁ……」


「そしたらこっそり抜け出しましょう」



 いたずらっ子のような笑みを浮かべるルチルに、瑠璃も頬が緩んだ。



「それでジェイド様に監禁されそうになったら助けてくださいね」


「承知しました。陛下からもルリの命令を第一にと言われておりますから全力でお助けします。私はルリの護衛ですから」



 強力な味方を手に入れた瑠璃は、早速ジェイドの執務室へ向かい外出したいと願うと、あっさりと許可された。

 あまりに簡単に許可が出たので、瑠璃は喜ぶよりも不安になった。



「えっ、どうしたんですか、ジェイド様! いつもなら許してくれないのに」



 駄目だと言われたら猫になっておねだりするつもりで腕輪も準備していたというのに。



「何か変なものでも食べました?」


「ルリは私のことをなんだと思ってるんだ……」



 過保護すぎるモフモフ好きとは口には出さなかった。



「元々ルリに王都を見せようと思っていたんだ。今の時期にしか見られないからな」


「ルチルさんも言ってましたね。今の王都は特別だって。何かあるんですか?」


「それは行って確かめてみると良い。本当は私が連れて行きたかったが、仕事が立て込んでいてな。ルチルが一緒なら私も安心だ。頼んだぞ、ルチル」



 ジェイドが瑠璃の後ろに向かって声をかけると、ルチルはにっこりと微笑んで「御意」と頭を下げた。




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