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 いなくなった聖獣の子供の捜索を始めた瑠璃と精霊達。

 だが、数日経っても聖獣の居場所は見つけられなかった。

 コタロウはそのことに苛立ちが隠せないようで、尻尾を荒々しくビタンビタンと床に叩き付けている。

 リンにもこれは想定外だったようだ。



『コタロウで探せないなんて、精霊殺しを使ってるか、光の精霊の力を使うしかないんだけどね~』


「光の精霊?」


『光の精霊の張る結界はどの精霊が張る結界よりも頑丈で、結界内の者を外界から隔絶させる力があるの。その気になれば今回のように樹の監視下から気付かれずに聖獣を連れ去ることも可能だけど……』


「光の精霊は竜王国でお留守番してるよね?」



 瑠璃はちゃんと港で光の精霊の姿を確認している。



『うむ。我も光の精霊のことが過ったから確認したが、ちゃんと竜王国にいるし、聖獣のことなど知らんと返事があった』



 精霊同士は独自の伝達方法を持っているので、離れていても連絡が取れる。

 こういう時は便利な力だ。



「じゃあ、精霊殺しが使われたなんてことはないよね?」



 精霊殺しを使っていたヤダカインにはその魔法を使わないようにし、今は闇の精霊が使わないようにと監視している。

 だが、もしその魔法が使われていたとしたら……。



『いや、それはない。以前から樹のはあの森を監視下にしていた。そんな中であの魔法が使われていたら樹のが気付かぬはずがない』


「うーん、だったらなおさらなんでだってことだよね」


『我にも分からぬ』


「百聞は一見にしかず。現場百回。森に何かないか実際に見に行ってみる?」


『ここでじっとしているよりましか』


『そうね、行ってみましょう』



 そして、アウェインに許可を求めに行ったところ、また何かあってルリが責められるようなことがあってはならないと、今度はラピスと霊王国の兵士数人も同行することに。


 やって来た森では、前回ののんびりとした空気は変わり、聖獣達は子供がいなくなったことに殺気立っているように感じる。

 これは早く見つけなければ別の騒ぎが起こるかもしれない。



「聖獣達は以前にも子供を殺されてる。まだ生死は不明だが、子供がいなくなるのはこれで二度目だからな」



 以前に殺された子供とは、現在コタロウが使っている肉体の元の持ち主だ。

 死んだ肉体をコタロウがもらい受けたわけだが……。



「コタロウの体を持ってた子は殺されたの?」



 そこは知らなかった瑠璃は驚いた。



「ああ。当時の世話係が毒を盛ったんだよ。警戒心のない子供はそれを口にして死んだ。その実行犯はすでに捕らえられているが、不審な点も多いんだよ」


「不審な点って?」


「知らない。国のことは親父に任せてる。愛し子が色々と知りすぎるのはよくないからな」


「その気になればいくらでも情報を手に入れられるって前に自慢げに言ってたじゃない」


「それはそれ、これはこれ」



 つまり、ラピスは聖獣の問題にはあまり興味がなかったと言うことなのだろう。



「そっちの問題に関しては親父が動いてるから、気にしなくていい」


「でも、前にも聖獣で問題が起きてるなら関連性があるかもしれないじゃない」


「それも含めて親父が調べてるはずだ。ルリができることは聖獣の子供を探すことだ。そしたらおのずと犯人も分かるんじゃないのか?」


「くっ、ラピスに正論を言われるとなんか悔しい……」



 すぐに一目惚れする、性格に難ありの男なのに言ってることは正しい。

 今回は瑠璃が犯人扱いされたことに精霊達がお怒りなので、仕方なく瑠璃が同行しているにすぎないのだ。

 本当なら、霊王国の問題に他国の愛し子である瑠璃が首を突っ込む案件ではない。

 やる気満々の精霊達が森に散っていったのを確認したら、瑠璃にすることはないので静かに待ち続ける。


 しかし、数時間粘ったが何もみつけることはできなかった。

 仕方なく手ぶらで城へと戻る。


 すると、セレスティンが怒りの形相でやって来た。



「どういうことですか、ルリさん!?」



 開口一番に怒鳴られる瑠璃こそ、どういうことかと問いたかった。



「何がでしょう?」


「何がではありません! 今城内では、あなたが聖獣の子供を殺したという噂が流れているのです」


「はい!?」



 目が飛び出そうなほど瑠璃は驚いた。



「なんですか、その噂!」


「こちらが聞きたいですよ。急速にそんな話が城内を駆け巡っていると、私の世話係が教えてくれたのです。また何か厄介事に首を突っ込んでいるんですか? ルリさんの周りでは何かと騒動が絶えないではありませんか」


「そう言われましても……」 


「とりあえずこちらにいらしてください」



 そう言うと、瑠璃の腕を掴んで引っ張っていく。

 どこに連れて行かれるのかと思えば、その部屋には四カ国のトップが顔を揃えていた。



「皆さんお揃いですね。入ってきて良かったですか?」


「ああ、今ルリのことについて話していたからな」


「私のですか?」



 とりあえずジェイドの隣の椅子に座ると、当然のようにジェイドを挟んだ反対側にセレスティンが座る。

 もう決められた席次のようになっている。

 さらにラピスも座ると、先程セレスティンが言っていた噂についての話が始まった。



「どうやらルリについてよろしくない噂が蔓延しているようだ」


「そうみたいですねー」



 気にした様子のない呑気な瑠璃に、ジェイドから苦笑がこぼる。



「ルリ、少しは気にするべきだぞ」


「所詮噂でしょう?」



 何かあっても精霊達が反論してくれるという自信があればこそなのだが、ジェイドは危険視していた。



「噂と侮るわけにはいかない。それがいつ足下をすくうか分からないのだからな。それによって起こるのは……」



 ジェイドはチラリとコタロウとリンを見た。

 瑠璃もその視線の先を辿って納得する。

 愛し子に何かあって怒りを爆発させるのは瑠璃ではなく精霊達だ。



「その噂はどこから来てるんですか?」



 そう問うと、アウェイン「今、調べている最中だ」と、答えた。



「どうやら噂は、精霊の見えない貴族を中心に回っているようだ。精霊が見えない貴族には愛し子や精霊への信仰心が薄い者が一部いてな。頭の痛いことだが、ラピスのことも私の息子だから敬意を払っているだけで、愛し子であることを疑っている者がいる。噂を信じているのはそんな一部の精霊が見えない者達だ」



 アウェインはこめかみを押さえる。

 これだけ他国の愛し子、それも最高位精霊と契約している瑠璃に無礼な噂が蔓延しているのだ。

 聖獣がいなくなったことも合わせて、アウェインの胃が心配だ。

 胃薬が必要かもしれない。



「精霊が見える者はその恐ろしさをよく分かっているからな」



 ジェイドの言葉にその場にいた者が頷く。

 証拠もなく愛し子を疑うなど、精霊に喧嘩を売っているようなものだ。



「ルリ。噂の出所は今調べているところだ。噂を消すようにも動いている。だから、できれば……」


「ええ、私は大丈夫ですから気にしないで下さい」



 アウェインが言わんとしていることは分かったので、気を使わないようにと伝える。

 ほっとした顔をしたアウェインに、これ以上の心労を増やすのはしのびないと思っていたのだが……。



『ルリ』


「なに、コタロウ?」


『やはりあの小娘を抹殺して良いか?』


「いや、小娘って誰!?」



 不穏な言葉を吐くコタロウに瑠璃はツッコむ。



『ルリになにかと言いがかりを付けてくる小娘だ』


「あー、もしかしてスピネルって子のこと言ってる?」


『うむ。どうやらその小娘が噂の発生源のようだ。今も城内で、堂々とルリのことを悪し様に言っている。ルリが聖獣を殺したと』


「ええ~」



 面倒臭そうな表情をする瑠璃とは違い、顔色を変えたのは霊王であるアウェインだ。



「あの馬鹿者め! 誰か! 誰かいないか!?」



 アウェインが廊下に向けて大きな声を上げると、扉の外で控えていただろう兵士がすぐに入ってきた。



「お呼びでしょうか?」


「今すぐ、城内のどこかにいるスピネルを連れてくるんだ。モルガ家の当主も登城しているはずだから連れてきてくれ!」


「はっ、かしこまりました!」



 兵士が部屋を出て行ってすぐに、霊王は文字通り頭を抱えた。

 それを不憫そうに見つめる三人の王達。



 しばらくすると、アウェインに呼び出されたスピネルと、ちょび髭で小太りの中年の男性が入った来た。

 きっと彼がモルガ家の当主なのだろう。

 男性の方は走った来たのだろうか、汗を掻いて息を切らしている。


 対するスピネルは涼しい顔で、王たちを前に美しい礼を見せた。

 見せかけだけはちゃんと教育されているようなのだが、精霊のことになると途端に勉強不足な所が顔を出す。


 よほど偏った思想を植え付けられたのだろうと思われる。

 まあ、見えないのだから信じられないのは仕方がないのかもしれない。


 鋭い眼光を浴びせられ身をすくませるモルガ家当主と、ジェイドを見つけて頬を染めるスピネルの温度差が激しい。



「モルガ」


「はっ!」


「現在、竜王国の愛し子について城内で噂となっていることを知っているな?」


「はい。霊王国の城で愛し子様を貶めるような噂が流れていることは、筆頭貴族として遺憾に思っております」


「その噂を流しているのがそこにいるお前の娘と聞いてもそんな言葉ですませられるか?」


「なんですと!?」



 モルガ家当主は驚いたように自分の娘を凝視した。



「スピネル、それは本当なのか!?」


「なんのことでしょうか?」



 白々しくもとぼけるスピネルにアウェインは冷めた眼差しを向ける。



「最高位の風の精霊が全てを見聞きしているのだ。言い逃れは許さぬ」



 すると、スピネルは不服そうに眉根を寄せる。



「恐れながら陛下。精霊の言葉など信用に値しません。精霊など所詮は偶像。存在はしないのですから」


「だそうだが、モルガよ。お前は娘にどういう教育をしている? この霊王国にあって、しかも筆頭貴族の娘という立場にありながら、このような世迷い言を言うとは」


「も、申し訳ございません! この子の母親は他国から来た魔力を持たぬ者。精霊を信じておらず、その影響を大きく受けてしまったのです。気付いて教育をし直そうとしましたが、すでに固定観念ができあがってしまい信じようといたしません。それ故、霊王国では生きづらいだろうと、精霊信仰の薄い他国に嫁入りをさせようと動いている最中でございます」


「なるほど、確かにこれだけ凝り固まった価値観は変えようがなさそうだ。それで、いつ嫁入りさせるのだ?」



 とっとと嫁に出せという圧力をアウェインから感じる。



「はっ! 準備が整い次第すぐにでも」


「お待ちください! 私を嫁に出す? どういうことですか!?」



 聞いていなかったらしいスピネルは強く拒否反応を示す。



「お前はここ数日の間にどれだけ愛し子様に迷惑をかけたと思っている!? その様な危険な思想を持つ者を筆頭貴族の娘として霊王国に置いておくわけにはいかない。せめてちゃんとした嫁ぎ先を見つけてやるのが親としての最後の情けだ。それが嫌ならば、お前は一般人として自分の力で生きていくしかない」


「わ、私はジェイド様の妻となるのです!」



 その件は、まだ納得してなかったのかと、瑠璃はジェイドと顔を見合わせて苦笑した。



「竜族は一人の伴侶しか愛さぬ。竜王陛下にはすでにご結婚なされている。お前が陛下の妻になることはない」


「そんなの分かりませんわ。それに私は成人したらジェイド様の妻になるんだとずっと言われてきましたのよ」


「いったい誰がそんな恐れ多いことを言うんだ。陛下はお前とそんな約束はしてないとおっしゃっているそうだぞ」


「お母様です。お母様にジェイド様がいずれ迎えに来てくださるんだと教えていただいたのです!」



 親子の言い合いが続く中、ここに来て、ようやくジェイドの浮気疑惑の真相が見えてきた。

 モルガ家当主はとうとう頭を抱え始めた。



「あの、馬鹿者が……」



 どうやら胃薬が必要な人がもう一人増えたようだ。



「なるほど、お前の母が、成人したら私が迎えに来ると言ったわけか?」


「はい、その通りです!」



 急にジェイドに話し掛けられてスピネルは嬉しそうに答える。



「なんだ、ジェイド様が子供に手を出したわけじゃなかったと分かって良かったですね。じゃないとロリコンだって疑われ続けるところです」


「ルリ……」



 ジェイドにジトッとした目で見られたので、瑠璃は視線をそらす。


 スピネルの母親は、ラピスに対しても娘を嫁がせようと画策していたようなので、よっぽど権力欲の強い人物なのだろう。

 しかし、娘にそう思わせておいて、ジェイドに嫁がせる勝算があったのか問いたいところだ。


 スピネルを見ると、かなり思い込みが激しそうなので、この子にしてこの親ありな人物なのかもしれない。

 激しく関わり合いになりたくない相手だ。



「その件に関してはモルガ、お前が始末を付けるように」


「かしこまりました。早急に娘の輿入れの準備を始めます」


「お父様!?」



 スピネルが批難するような声を上げたが、モルガ家当主は黙殺した。



「噂につきましても、ただちに鎮火にあたらせていただきます」


「そうしてくれ。もう行ってよい」


「皆々様には大変ご迷惑をおかけいたしまして、まことに申し訳ございません」



 そう言って、モルガ家の当主はスピネルを引きずるようにして部屋を後にした。

 スピネルは最後までジェイドに向けて何かを言っていたが、誰も関心を向けなかった。

 二人が出て行って、誰からともなく溜息を吐く。



「霊王国のような古い国でも色々と頭の痛い問題はあるようだな」



 決して嫌味ではなく、同じように頭の痛い貴族を抱える帝国皇帝のアデュラリアが憐憫の含んだ眼差しでそう口にした。

 アウェインは否定はできず頷くしかできない。



「まったくだ。こういう時ほど、王を投げ出したいと思うことはない」



 建国より王で居続けるアウェインだからこそ、その重みも桁が違う。



「とりあえず、この件に関しては解決したと思ってよさそうだな」


「そうですね。他国に嫁ぐなら今後関わることもないでしょうし」



 そんなアルマンとセレスティンの話を聞いていた瑠璃には疑問が。



「この世界では親が子供の結婚を決めるのは一般的なことなんですか?」


「国や種族によって場合によりけりだな。私とルリのように恋愛婚のような場合もあれば、家同士の繋がりを太くするための政略的なものもある。後者は特に貴族ではよくあることだ。帝国や霊王国などのな」


「へぇ。竜王国では少ないんですか?」


「そうだな。竜王国には貴族はいないし、竜族自体が恋愛婚推奨派だ。だが、まったくないというわけではないぞ。種族によっては家が結婚を決めるのが普通という所もある」



 自分が好き合って結婚したから違和感を覚えたのだが、そう説明されると、瑠璃がいた世界でも似たようなものかもしれないなと瑠璃は思った。

 まあ、これで話は終わったと思っていたら……。



『あら、じゃああの女にお仕置きできないってことかしら?』


『むう……』


『え~』


『一発だけでもだめ?』


『ちょびっとも?』


『死なない程度にするから~』



 と、精霊達から不平不満が巻き起こったが、アウェインがどうにか取りなしていた。





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― 新着の感想 ―
ぶっちゃけ、ルリが精霊達に何もさせないから見えない者が増長するんだよね。 すっころばせてしばらくたてないように繰り返すとか、水ぶっかけ続けるとかしたら簡単なのに、全部ダメってするから「消していい?」と…
精霊を信じない奴等を全員、紐無し逆バンジーさせれば良いのに…コタロウの風の力なら雲近くまでぶっ飛ばして地面スレスレで止めたり出来るでしょう
[一言] こうなったら、目に見えないモノを信じない人にも分かるような現象を精霊達にやらせた方がいいですね!
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