ずっと一緒に
本日はジェイドの大会優勝兼、戦勝祝いのパーティーだ。
瑠璃も綺麗におめかしして参加している。
例のごとく、樽を抱えた竜族達が飲み比べをしたり、踊ったりと大騒ぎ。
しかし、今回は国内だけでなく他国の要人も参加しているので、ちょっと控えめだ。
けれど、酒に酔ってきたらそんなこともすぐに忘れ去ってしまうのだろう。
人への被害や城が破壊されないことを祈るばかりだ。
瑠璃にとってのメインイベントはクラーケンを使ったたこ焼きパーティーだ。
この日のために用意したたこ焼き用の特製の鉄板を会場のど真ん中に設置し、生地を流し具を入れ、千枚通しで器用にくるりと回して丸い形を作ると、方々から「おぉー」と拍手が起きた。
見たことのない人からすると、細い千枚通しでくるりと生地を回すのが面白いようだ。
やりたいと手を上げた人にやらせてみたが、初心者には少し難しかったようで、上手くはいかなかった。
が、その難しさが見ている人達にやる気を持たせたらしい。
ベリル主導で我も我もとたこ焼き作りに精を出す人達に焼くのを任せ、瑠璃は自分で焼いたたこ焼きを頬張って、ようやく出会えた懐かしの味に舌鼓を打った。
幸運だったのは、多くの国から船が入港する港があり、多種多様な種族がいることで色々な食材が集まるこの竜王国には、ソースと似た調味料があったことだろう。
多種族国家万歳と喜んだ瞬間だった。
コタロウ達も、変わった食べ物だと不思議そうにしながらも口をひたすら動かしている。
リディアにもお裾分けしようと、空間の中にも一皿入れておいた。
今頃美味しく食べていることだろう。
ジェイドにも食べてもらおうと周囲を見渡したが、今回の主役であるはずの人が見当たらない。
うろうろ探し回ると、人気のないテラスにいるのを見つけた。
「ジェイド様」
「ん?ああ、ルリか」
「こんな所で何してるんですか?今日の主役なのに」
「少し休憩だ。今日は他国の要人も多く来ているから、挨拶回りをするのにも一苦労だ」
「お疲れ様です。休憩中ならこれ食べてみて下さい」
お手製のたこ焼きが乗った皿を差し出した。
「ルリが言っていたたこ焼きか」
「そうです!」
たこ焼きとは言っているが、たこではなくクラーケンではあるが。
一つ口に入れたジェイドの反応を待つ。
「美味しいな」
「でしょう!」
ジェイドの口にも合ったようで、瑠璃も嬉しくなった。
あっという間に平らげてしまったカラの皿を給仕の人に渡して、代わりに二人分の飲み物を持ってジェイドの所に戻る。
ジェイドに飲み物を渡すと、瑠璃も隣に並ぶ。
「そう言えば、今回はお手柄だったな」
「ん?」
「クォーツ様のことだ」
「ああ、セラフィさんを見つけたことですね。本当はもっと前に幽霊の存在は知ってたんですよ。まさかそれがセラフィさんだなんて思わなかったから、もう少し早く気付いてたら良かったとクォーツ様にもセラフィさんにも申し訳なかったです」
「だが、ルリがいたからあの二人は会えたんだ。あんなに嬉しそうな顔は久方ぶりに見た。私からも礼を言う」
自分のことのように嬉しそうにしているジェイドに、瑠璃も嬉しくなる。
「ふふっ、ジェイド様はお兄ちゃん子ですね。ユアンのことどうこう言えないですよ」
「あそこまで酷くはない」
ユアンと一緒にされるのは心外なのかもしれないが、瑠璃から見ればどっちもどっちだ。
手に持った飲み物を飲む。
会場内の喧騒とは違い静かな沈黙が二人を包む。
沈黙を切り裂くように口を開いたのは瑠璃だった。
「……ジェイド様ならどうしますか?」
「何がだ?」
「私が死んだらクォーツ様のように全てを捨てて私を捜しますか?」
「探す」
即答だった。
あまりの潔さに瑠璃は笑ってしまう。
「たとえそれが不可能に近いと言われても、またルリと会えるなら、馬鹿だと言われても馬鹿な選択をしてしまうだろうな。……逆に瑠璃ならどうする?セラフィ殿のように自分を捜せと言うか?」
「私なら……」
生まれ変わってもジェイドに会える。
それはなんて素敵なことだろうか。
けれど……。
「そんなことは言いません。そんな言葉を残された人の苦しみはクォーツ様を見ていてよく分かりましたから。思っていても、とても言えません」
「なら、共に死ぬことを望むのか?」
「それも望みません」
大切な人の死など誰が望むというのだろうか。
寿命の長い竜族と、短い人間。
瑠璃は魔力が多いので長生きするだろうとチェルシーから聞いていたが、どれほど生きるかはその時になってみなければ分からない。
けれど、ジェイドを置いていく可能性の方が限りなく大きい。
それでも、後を追って欲しいなどと思わない。
「たとえ私が死んでもジェイド様なら大丈夫ですよ。ジェイド様の周りにはジェイド様を支えてくれるたくさんの人がいますから」
「簡単に言ってくれるな」
苦笑を浮かべるジェイドの瞳は不安で揺れている。
クォーツ様のことがあり、瑠璃という番いを得て、ようやく自分の身にも降りかかる身近な問題だと分かったからだろう。
「大丈夫です。ジェイド様なら!」
「その自信はどこからくるんだ」
「だって私が死ぬ頃には、子供がいて、孫もひ孫までたっくさん残していくつもりですから。悲しいなんて思っても、その子達がジェイド様を支えてくれますよ。きっと賑やかすぎて後を追いたいなんて思わないはずです!」
目指すは大家族。
自分がいなくなった後も、ジェイドの笑顔が消えないように。
寂しくないように。
その答えは予想外だったのか、ジェイドも目を丸くした後、くくくっと笑う。
「そうか。ルリの子供達ならきっと騒がしいだろうな」
「騒がしいんじゃなくて、賑やかです。そこ間違えないで下さい」
「分かった分かった」
笑いながらでは説得力がないが、こうして笑って冗談を言い合える事がどれだけ幸せなことなのかが、クォーツの件で身につまされる。
そっとジェイドが身を寄せてきて瑠璃をその腕で抱き締める。
「……ルリはあまり早く私を置いていかないでくれよ」
「うちの家系は丈夫なので、そこは安心して下さい。まあ、絶対とは言えませんが。そんなことより、今はそんな遠い未来のことより目前に迫る結婚式の方が大事です」
「確かにそうだな。もうすぐか……」
「いつ来るか分からない事で悩むより、もうすぐにある楽しいことを考えましょう」
「そうだな。ルリのドレス姿が楽しみだ」
「私はとちらないか心配です……」
ドレスの裾を踏んで転んだら生涯に残る赤っ恥だ。
「楽しいことなのだろう。そんなこと気にせず楽しめばいい。一生に一度のことなのだから」
「はい」
きっとその日はたくさんの、人や精霊が祝福する中、笑顔に囲まれた式になることだろう。
そんな光景が目に浮かぶ。
そして、その後に待ち受けることも、二人なら大丈夫だと思うことが出来る。
いつか死が二人を分かつその時まで。
「ジェイド様、大好きですよ。ずっと一緒にいますから」
「ああ。ずっと一緒にいよう」
これにて完結になります。
途中停滞したりして、エタるのではとヤキモキさせてしまったかもしれませんが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
この作品は私の商業デビュー作品でもあり、とても思い入れのある作品なので、ちゃんと完結させることが出来て良かったです。
書籍の方は完結していますが、コミカライズの方はまだ連載していますので、これからも白猫の世界をお楽しみ頂ければと思います。
2015年から書き始めて5年もの長い間ありがとうございました。