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クォーツとの戦い


「クォーツ様……」



 ジェイドはクォーツと対峙する。

 その表情は険しい。



「なんだい、ジェイド。随分と怖い顔をしているよ」


「……クォーツ様、ヤダカインで闇の精霊から信じられないことを聞きました。

 女王に協力し血を提供していたと。本当なのですか?」


「ああ、そうだよ」



 なんてことないように、軽い答えが返ってきた。

 いつもと変わらない笑みを浮かべたクォーツ。


 ジェイドは本当にクォーツが関わっていた事に愕然とする。



「どうしてですか!?どうして、女王に協力など。

 ……いや、それよりもどこまで関わっていたのですか?

 ナダーシャや神光教とも関わりがあったのですか?」


「闇の精霊はなんて?」


「本人に聞けとしか」


「ふーん」



 クォーツが視線だけ光の精霊に向けると、光の精霊はこくりと頷いた。



「ジェイドはどうだと思う?」


「茶化さないで下さい!

 ナダーシャにより戦争が起こり、少なくない死者が出ました。神光教によりルリや愛し子が命を狙われ、我が国の兵士もさらわれました。獣王国でも一騒動起こしている。それらにあなたが関わっていたとしたら、私は……」


「関わっていたら、どうするんだい?」


「……私は王としてあなたを罰せねばならない」



 苦悶に歪むジェイドの顔からは、そうであってほしくないと、心から思っているようだ。



「優しいね、ジェイドは。けれどその優しさは時に甘さに変わる」



 一瞬の内に空間から剣を取り出したクォーツは、あっという間にジェイドとの間を詰める。


 ジェイドは反射的にクォーツが振った剣を避けると、自分も空間から剣を取り出し構えた。



「クォーツ様。どうして……」


「真実を聞きたかったら私を倒してごらん。早くしないと……ね」



 クォーツはちらりと瑠璃に視線を送った後、意味深な笑みを浮かべた。



「ルリに何をしたんですか!?」


「ちょっと飲ませただけだよ。竜族にはたいしたことない物だったけど、人間には強すぎたみたいだね」


「毒でも飲ませたか……?」



 そのひー様の呟きはジェイドにも聞こえ、頭にカッと血が上る。


 怒りにまかせ振り下ろした剣は、ガキンっと音を立ててクォーツの剣と合わさった。



「やっとやる気になったみたいだね」



 至極楽しそうな笑みを浮かべたクォーツと違い、ジェイドの顔は厳しく、クォーツを敵と認識していた。



 先代と現在の王二人の激しい闘いが繰り広げられている横で、リンは何とか瑠璃に近付こうと苦慮していた。


 力をぶつけても光の精霊の張った結界はびくともしない。

 そもそも光の精霊がこんなことをする理由はなんなのか。



『ああ、もう!コタロウはどこに行ったのよ!』



 側で瑠璃を守っているはずのコタロウ。

 しかし、全然姿が見えないではないか。

 それどころか、いつもはうろちょろ瑠璃の側にいる精霊が一人も見当たらない。



『もう、ルリ!!』



 叫ぶリンの声にも全く反応を示さない瑠璃。

 何があったのかと焦燥感だけが募る。


 その間も激しい攻防を繰り広げるジェイドとクォーツ。


 以前試合した時は互角で戦いつつも、時間が経つにつれジェイドが押されていっていた。

 その時はジェイドの中に迷いがあったせいもある。

 しかし今ジェイドの目に映るのはクォーツだけ。

 クォーツに勝つ。それだけを思うジェイドに以前のような迷いはなかった。


 ガキン、ガキンと、剣が合わさっては離れる。

 クォーツが振り下ろした剣を紙一重でかわし、反対に下から上に切り上げたジェイドの剣がクォーツの腕を斬りつける。



「つっ」



 鮮血が舞ったかと思えば、一瞬の隙に間を詰めて、クォーツがジェイドの懐に飛び込んで蹴りつけ吹っ飛ばす。


 互いに相手に手傷を負わせるが決定打に欠けていた。

 けれど次第にクォーツの方がジェイドよりも傷を負っていくのが分かる。


 明らかにジェイドの力がクォーツより勝っていた。


 そして……。


 一瞬クォーツが体勢を崩した。

 その隙をジェイドは見逃さなかった。


 ジェイドの剣がクォーツの剣を弾き飛ばし、くるくると回って壁に突き刺さった。


 それでもなおクォーツは戦いを諦めなかったが、武器を持ったジェイドによりボロボロになっていく。

 いや、ジェイドもそれなりに怪我を負い、服も破れ血を流していたが、クォーツほどではない。


 ジェイドの繰り出した蹴りがクォーツをまともに襲い、とうとう、クォーツが膝を床に付いた。


 勝敗は決した。

 しかし、それでもジェイドが手を緩めることはなかった。



 その様子を見ていた光の精霊はというと。



「おっと、これはまずいな」



 光の精霊は、どこからともなく取り出した巨大ハリセンを、瑠璃の頭に向かって振りかぶった。


 スパーンと、小気味良い音が鳴る。


 闇の精霊すら吹っ飛ばした光の精霊の巨大ハリセンだが、光の精霊も一応加減はしたのだろう。

 瑠璃が吹っ飛ぶことはなく、頭が少し動いただけだった。


 だが、それなりの衝撃はあったようだ。

 それまでピクリとも動かなかった瑠璃の瞼がゆっくりと開いた。



「…………ふえ?」



 ぼうとした様子で顔を上げた瑠璃は、光の精霊を見て。



「大っきなフランス人形がいるぅ~」


「目を覚ませ、酔っ払い」



 まだまどろみの中にいる瑠璃の頭をハリセンでべしっと叩く。



「……あなた誰?…………うう~頭が痛い」



 頭を押さえつつ、意識がはっきりしてきたようで、見知らぬ少女を疑問に思う瑠璃。

 そんなのんびりとした瑠璃の様子を見かねて光の精霊は急かす。



「良いから早く起きて、あれを止めてこい」


「あれ?」



 あれと言われて、光の精霊がハリセンで指す方向を見ると、今にもとどめを刺そうとしているジェイドと、傷だらけのクォーツの姿が瑠璃の目に入った。



「へっ?何してるのジェイド様達」


「呆けてないで止めてこい」



 光の精霊は瑠璃を無理矢理立ち上がらせ、瑠璃の背を思いっきり押した。



「うわっ、ととと」



 押された瑠璃は、言われたままに止めに入ろうとしたが、何やら足がもつれて勢いよく突っ込んでいく。

 そこはジェイドが今まさに留めを刺さんと剣を振り下ろした真っ只中であった。


 突然間に割って入ってきた瑠璃に、ジェイドもクォーツもぎょっとする。



 とっさにクォーツが瑠璃を引き寄せて上から覆い被さる。

 ジェイドはその手を止めようとしたが、勢いが付いていて剣先を逸らすのがやっとだった。

 それでも完全には逸らしきれず、クォーツもろとも串刺しにしてしまうと、ジェイドは焦燥感を覚えたが、そんな心配に反して剣は二人を刺し貫くことはなく見えない何かが剣を弾いた。



「ルリ、大丈夫か!?」



 ジェイドは持っていた剣を放り投げて瑠璃に駆け寄る。


 クォーツが身を起こすと、瑠璃も起き上がる。どうやら無傷のようで、ジェイドも、そしてクォーツもほっとする。

 無事なことに安堵したら次に湧き上がってきたのは怒りだ。



「突然間に入ってきたら危ないだろう!」



 自らの手で番いを刺してしまうかもしれなかったジェイドの心臓は未だにバクバク激しく鼓動している。


 そんなジェイドの心配に反して、瑠璃に危機感は皆無だった。



「いや、だって急に叩き起こされたと思ったら止めろとか言われて、突き飛ばされて足がもつれちゃって。

 何だか頭も痛いし、ふらふらするし」


「まあ、あれだけ飲んだらね」



 苦笑を浮かべるクォーツ。


 そこで、ジェイドははっとした。



「ルリ!どこも何ともないのか!?」

 


 瑠璃の肩を掴んで様子を窺う。

 リンもすぐに飛んできて瑠璃に張り付く。



『ルリ、大丈夫なの!?』



 何をそんなに心配しているのか分からない瑠璃はきょとんとした。



「何が?」


『何がじゃないわよ!戻ってきたらあなたは眠ってるし、名前呼んでも全然起きないし、心配したのよ』


「あー、そう言えばいつの間に帰ってきたの?おかえりー」



 と、のんきにおかえりと言う瑠璃にジェイドとリンは気が抜ける。

 そして、ひー様は目をつり上げて瑠璃の頭にげんこつを落とした。



「痛い、ひー様!」


「お前が悪い、小娘の分際で」


「いや、意味分からないんだけど」



 わーわーと騒いでいると……。



「何を騒いでるんだい?」



 声のした方を見ると、コップを乗せたお盆を持ったチェルシーと、コタロウが部屋に入ってきていた。


 傷だらけのジェイドとクォーツを見て、チェルシーは片眉を上げる。



「こんな室内で喧嘩ですか?」


「あー、いや」



 ジェイドがどう説明したものか迷っていると、チェルシーは瑠璃に目を止める。



「おや、やっと起きたのかい、ルリ。調子はどうだい?」


「なんかフラフラします。なんか頭も痛いし」

 

「だろうね。あれだけ酒を飲んで酔っ払って泣いたら、頭も痛くなるよ」



 その会話に目を丸くしたのはジェイドだ。



「えっ、酒?毒を飲んだのでは……」



 ジェイドがクォーツに視線を向けると。



「毒なんて一言も言ってないよ。竜族にはたいしたことないけど人間には強いお酒を飲んだだけ。やだなぁ」



 あははっと軽快に笑うクォーツ。


 そう、毒と言い出したのはひー様である。



「君達が勝手に勘違いしただけだよ」


「勘違い……」



 ジェイドは一気に脱力して床に膝を付いた。

 しかし、瑠璃の顔を見て疑問が浮かぶ。



「けれどルリに泣いた跡があるのは?」


「お酒に酔っぱらって、絡んで喚いて大泣きして寝ちゃったんだよね。こんなに酒癖悪いとは思わなかったよ。

 精霊達もルリに絡まれて、手に負えないって逃げていったし。

 そう言えば霊王国と獣王国の愛し子も酒癖悪いらしいね。愛し子ってのは総じて酒癖が悪いのかな?」


「酔っぱらい……」



 ジェイド達に何とも言えない空気が流れる。



「チェルシーさん。その持ってるの何ですか?」


「ああ、ルリのために作った酔い覚ましに効く薬湯だよ。そろそろ起きると思ってね」


「ありがとうございます」



 チェルシーに渡されたコップに入った緑色の液体を一口飲む。



「うえー、苦っ。苦すぎますよ、チェルシーさん」


「良薬口に苦し、だよ。良く効くから全部飲みな」


「はーい」



 嫌そうな顔をしながらも、言われた通りちびちびと飲んでいく瑠璃。



 ようやく冷静になってきたジェイドは、クォーツをギッと睨む。



「説明して下さい!何故こんなことをしたのか。わざわざ勘違いさせて戦うようなことして!」


「はいはい、分かったよ。けど、場所を移そうか。ここじゃゆっくり話せないし」



 ひー様が盛大に火を放ったせいで焼け跡が目立ち、ジェイドとクォーツが戦ったせいでぐちゃぐちゃとなった室内。


 この部屋を調えたアゲットが見たら悲鳴を上げそうな惨状だ。



 しばらくこの部屋は使えないだろう。



 部屋を移すことになったが、只一人寝ていた瑠璃だけは状況が理解できなかった。






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― 新着の感想 ―
ジェイドがいつも、瑠璃への心配より先に叱るところ。どうにもやはり監禁ヤンデレ性質なのだなぁ…笑
[良い点] すごく面白くて一気読みをしてしまい、徹夜してしまいました笑 クスッと笑える要素もあってとても読みやすかったです。 [気になる点] これを言ってしまうと根本を否定するように感じるかもしれませ…
[良い点] 面白い。全部一気に読んでしまった。 [気になる点] ちょいちょい伏線っぽいのがあるから それが今後どうなるのか楽しみ。 歌とか指輪とかおばけの出る部屋とか。 ちゃんと全部回収されるのを今か…
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