ヤダカインの後始末
本当ならすぐにでも竜王国へ帰り、クォーツに事実を問い掛けたいところなのだが、残念ながらまだヤダカインでしなければならないことが残っている。
連れ去られた竜族は、諜報活動でヤダカインに来ていたヨシュア達と共に皆無事だったので一安心だが、リン達最高位精霊の要望である精霊殺しの魔法についてはまだ解決していない。
女王と話ができない以上他の者と話をするしかない。
女王に代わる代表者と話し合いの場を設けたジェイドは代表者に精霊殺しを今後使わないようにと要求した。
そして精霊殺しを使った武器や道具、そして精霊殺しに関する資料の破棄も付け加える。
代表者側は難色を示す。代表者自身も魔女のようで、精霊殺しの魔法とは密接に暮らしてきたのだ。
それが使えなくなるというのは何かと問題があるのだろう。だが、ジェイドとしてもこれは引けない。リン達の強い要求でもある。
そう要求だ。
決してお願いしているわけではない。
受け入れられないのなら竜王国側でもそれ相応の措置を執ることになる。
このまま連れてきた兵でヤダカインを制圧することも視野に入れなければならないと。
しかし、こちらの要求を受け入れるのならヤダカインはヤダカインのまま、今までと同じように存在することを許すと。そうジェイドは脅しを掛ける。
ジェイドが決して口だけではない、本気だと理解した代表者は顔色を悪くした。
しかし代表者と言えど一存では決められないのか、少し他の魔女とも相談する時間を欲しいと言ってきた。
ヨシュアからの報告によると、ヤダカインの国民の生活を見るに、精霊殺しとはあまり関わりのない生活を送っているようだ。
この国で魔法を使うのは基本魔女達だけ。
しかし、精霊殺しの恩恵を受けた物は色々とあるようだ。
この国には精霊がいない。
普通精霊がいないとその土地は枯れ果て人が住めるような場所ではなくなるのだが、ヤダカインは普通に植物が生い茂り自給自足ができている。
それは精霊殺しの力により魔力を世界から吸収し、この土地に還元しているからだそうだ。
精霊殺しを使わなかったら精霊のいないヤダカインは人が住めない土地になってしまうと代表者は訴えてきた。
正直、これまで散々その危険性を周囲が訴えてきたのに止めるどころか研究してあれこれ生み出してきたのだから自業自得だろうと竜王国側の者は思った。
精霊が住めない土地にしたのは魔女達なのだから。だが、だからといって無視するわけにもいかない。
その件に関しては闇の精霊が解決策を提示してきた。
精霊殺しさえなくせば、闇の精霊が他の精霊達を連れてくるから大丈夫だと言うのだ。そもそも最高位精霊のいるところには精霊が集まってくるものだと。
闇の精霊は今の女王が生存している限りはこの国にいるそうなので、愛し子である女王の恩恵もあり、しばらくは精霊が集まってくるだろうと言っている。
女王が亡くなっても、その頃にはこの国に居着く精霊もいるだろうから問題はないはず。
それなら国民の生活にはさほど影響は及ぼさないだろう。
後は魔女達がこれまで使っていた魔法を捨てることができるかだ。
できないというなら代表者に告げたとおり武力で制圧ということも考えなければならない。
ジェイドとしてはあまりそういうことをしたくないが、放置すればまた同じような問題を引き起こす可能性があるし、リン達精霊が納得しないだろう。
元々滅ぼすとか言っていたのだ。ジェイドの顔を立てて一旦は引いてくれたが、このまま精霊殺しが使われるというならリン達が手を下すだろう。
そうなったらどれだけヤダカインという国がめちゃめちゃにされるか分かったものではない。
精霊は加減を知らない。対象が精霊の憎むべき魔法なのだからなおさらだ。
まだジェイドが制圧した方が被害が少ないと思われる。
クォーツが気になるので早く帰りたいというのに思うようにならない。イライラとしながら待っている間に、兵達にはすぐに帰還できるように準備を命じた。
だが、魔女達の選択次第ではまだまだ時間が掛かってしまう。
賢明な判断を望むが、果たしてどう出るか。
かなりの時間が経ってから、再び代表者が部屋に入ってきた。
彼らの選択は全て受け入れるという判断だった。
別に精霊殺しを使うなと言っただけで、彼女達が本来使っている呪術自体を使うなと言ったわけではないのだから、ジェイドとしては当然の判断だったが、魔女達にとっては苦渋の決断だったのだろう。
このまま竜王国に制圧されるよりは、ヤダカインという国のまま残すことを選んだのだ。
その選択を聞いたジェイドはすぐに動いた。
この島全体に影響を及ぼしている精霊殺しの魔法を即座に停止させる。それにより島の中でも魔法が使えるようになった。
次に精霊殺しの資料と武器や道具を全て提出させる。隠されている可能性もあるので、連れてきた竜王国の兵を総動員して家捜しをする。
それには闇の精霊が手伝ってくれた。
ずっとこの城で暮らしていたので、資料のある場所や隠し場所などに精通していた。
女王の資料は研究室と共に全て燃えてしまったので大丈夫だそうだ。
集めた道具や資料をひとまとめにし、ひー様の炎で燃やす。本当にこれで全てなのか疑いは持ったが、これからは闇の精霊が責任を持って精霊殺しが使われないよう目を光らせていくということだ。
闇の精霊が監視していくのなら信用できるだろう。精霊は嘘をつかないから。
女王がこの状況を果たして納得しているのか定かではないが、闇の精霊がしっかりと見ているからと言っていた。
彼女も婚約者を亡くして悲しい思いをしたのだろうが、やはり他人を巻き込むやり方には納得ができない。
謝罪一つなかったが、あの状態ではまあ、仕方がないと思うしかない。
精霊殺しの処理はできた。早く帰らなければとジェイドは気が焦る。
急ぎ兵に帰還を進めるように告げ、ジェイドも船に乗り込む。
これからクォーツと話をしなければならないのかと思うと気が重かった。
それでも話をしないわけにはいかない。竜王としても、クォーツをよく知るものとしても。
全ての者が乗り込んだのを確認して、ジェイド達はヤダカインを後にした。
リンの力で限界を超える速度で竜王国へ戻ってきたジェイド達は、後始末を別の者に任せ城へと急いだ。
港からなら走るより竜体となって第一区にそのまま飛ぶ方が速い。
リンとひー様を乗せて飛び立った。
城内はいつも通り。
むしろ慌てたように先を急ぐジェイドを驚いたように見ている。
きっと何かの間違いだったのだろうと、ジェイドは己に言い聞かせつつも、歩む足の速度を落とすことはなかった。
先を行くリンの後に付いていき、着いたのは瑠璃の自室。
愛し子の部屋から移したこの王妃の部屋は、アゲットがカーテン一枚にも凝りに凝ったために、歴代の中でも一番ではないかというほど豪華な仕上がりになっていた。
それは竜王であるジェイドの自室以上のできあがりになったため、瑠璃は少し身の置き所に困っていたようだ。
もっぱら夜寝る時は、華美な物を嫌うジェイドの部屋を使っているので問題なかったが、自室の部屋では豪華すぎて落ち着かないとしきりに言っていた。
そんな贅をこらした部屋に入ると、瑠璃がテーブルに突っ伏して目を閉じている姿が目に入ってきた。
その横にはクォーツがいて、笑顔でジェイド達を出迎える。
「やあ、おかえりジェイド」
「ルリ!?」
大きな声を上げて名前を呼ぶが、瑠璃は身動き一つしない。
どことなく顔色が悪いように見える。
そして、目元は赤く、頬には涙の跡が。
「ルリに何をしたんですか!?」
「何も?ただ眠っているだけだよ」
すると、窓からふわりと光の精霊が降り立った。
「おかえり、あちらはどうだった?」
「問題ない」
そのやりとりで、確かにクォーツと光の精霊には面識があることが分かった。
あの光の精霊の意味深な発言と、今の瑠璃の様子。
何かされたのではと嫌な予想がジェイドの頭をよぎる。
『ルリ!』
リンがパタパタと瑠璃の元へ飛んでいく。
様子を見ようと近くへ行こうとしたが、その瞬間瑠璃の周りに結界が張られリンが弾き飛ばされた。
『ちょっ!光の、何するのよ!?』
瑠璃の周りに結界を張ったのは光の精霊であった。
光の精霊は口角を上げる。
「何のつもりだ、光の」
ひー様が険しい顔で問い掛けるが、やはり光の精霊は何も答えない。
一気に空気が緊張する。
ひー様が瑠璃に向かって炎を放つ。
ごうごうと、瑠璃の周りが火に包まれたが、光の精霊が張った結界にはひび割れ一つ出来ない。
ただ、周囲の家具や床が焦げただけだ。
『ちょっと、ルリに当たったらどうするのよ!』
リンがひー様に吠える。
「ちゃんと加減はしている。だが、やはり俺様の力では光のが張った結界には傷一つ付けられないか。
こんなことなら闇のを連れてくるべきだったな」
精霊には相性がある。
光の精霊が張る結界は全精霊の中で最も強い。
それを壊すことが出来るのは闇の精霊の力だけ。
ひー様一人、いや、ここにリンとカイが加わったとしても傷一つ付けられないだろう。
そして、こんな騒ぎの中でも、瑠璃が起きる様子はなかった。




