協力者
思い出すのは優しい記憶。
「ねえ、あなた、聞いてほしいものがあるの」
「なんだい、セラフィ?」
「歌を作ったの。私の力作よ」
「へえ、それは楽しみだ歌ってごらん」
包み込まれるような柔らかで優しい愛しい人の歌声。
それは色あせることなくクォーツの記憶の中に残っている。
「綺麗な歌だね」
「当然よ、あなたを思って作ったんですもの」
「嬉しいな、じゃあその歌は私のためだけに歌ってくれるかい?
他の人の前で歌っては駄目だよ。私のためだけに歌ってくれ」
「ええいいわ。あなたのためにあなたを思って歌うわ。だからあなたはずっと側で聞いていてね」
ずっと側にいる。これからもずっと。
だが思ったよりも早くセラフィは倒れてしまった。
本来なら、婚姻の儀を行い竜心を体内に取り込めば、番いの寿命を長い竜族に合わせることができる。
そのはずだったのにセラフィは病に伏せてしまった。
それは竜心でも竜の血をもってしても癒やすことはできない不治の病だった。
こうなってしまってはいくら竜心を受け長い寿命を得ていたとしても体が保たない。
セラフィがいなくなる。
そんなことが耐えられるはずがなかった。
やつれていく愛しい番いの姿に恐怖を抱きながら日々を送っていた。毎朝毎朝怯えながら息をしているか確認することが日課となっていたクォーツの精神はすり減っていく。
そんなクォーツにセラフィは言った。
「ねえ、あなた、私が死んでも絶対に後を追ったりしないでね」
そんな残酷なことをセラフィは告げた。
「無理だよ、セラフィ。君のいない世界でなんて生きていけるはずがない。君が逝くというなら私も共に逝く。
ずっと一緒だと言っただろう?」
「駄目よ、それは絶対に駄目。そんなことしたら私、許さないから」
「けれど、私一人では無理だよ、そんなの耐えられないっ」
そう、セラフィのいない世界など考えただけで耐えられない。
そんなクォーツに、セラフィは微笑んだ。
「ねえ、知ってる? 人は死ぬと魂になり再び世界に生まれ変わってくるのよ」
「知っているが、急にそんなことどうしたんだい?」
「私は死んでもまた生まれ変わってくる。そうしたら、ねえ、あなた。私を見つけて欲しいの」
それは途方もない願いだった。
「私きっと生まれ変わってもあなたのこと忘れない、忘れたとしてもきっと思い出してみせる。だからお願い私を見つけて。
不可能じゃないってあの子が言っていたわ。私の最後のお願い、聞いてくれるでしょう」
「ああ、分かった。君がそれを願うなら、探してみせるよ、世界の中からどれだけ時間が掛かっても」
そんな非情な願いを残しセラフィはクォーツの前からいなくなった。
しばらくは何をするにも億劫で、どうやって過ごしていたかほとんど記憶にない。
しかし、そんなクォーツに追い打ちを掛けるような出来事が起こった。
墓荒らしだった。
セラフィと共にクォーツは生前セラフィが好んで使っていたいくつかの宝飾品も一緒に入れて埋めていた。
どこから情報を仕入れてきたのかそんなセラフィの墓を荒らした愚者がいたのだ。
幸いセラフィ自身は無事だったが、セラフィが好んで使っていた宝飾品がなくなっていた。
目の前が真っ赤になったようだった。
渦巻くのは激しい怒り。
すぐに墓荒らしは見つかり、その者には死んだ方がましだという目に遭わせて兵に引き渡した。
宝飾品も見つかったが、ただ一つセラフィが特に大事にしていた指輪だけが見つからなかった。
どうやら墓荒らしには仲間がいたのだが、戦利品を巡って争いとなり仲間をふいに殺してしまったようだ。指輪はその死んだ仲間の空間の中に残され、その者が死んでしまった以上取り返すことができなくなってしまった。
クォーツのショックは激しく、二度とセラフィを人目にさらすわけにはいかないと、クォーツはセラフィの遺体を空間の中に納めることにした。精神的にどん底に落ち込んだそんなクォーツを正気に戻したのはセラフィとの約束。
こんなことをしている場合ではない、君を探さなければ、君が望むのならどんなことでもしよう。
そしてクォーツはセラフィを探すために王位も国も全てを捨てた。全ては愛する番いの願いのために。
それからクォーツはたった一人を探して世界を旅した。
世界のどこに生まれるかも分からない、髪の色、目の色、肌の色。人間か亜人かそれすらも分からない中探し回った。
それは砂漠の中から金の砂粒を見つけ出すようなものだ。
できるはずがないと誰もが言った。だが不可能ではないとも言われた。
不可能ではないのなら、もう一度セラフィと会える可能性があるのだとした。
クォーツはそんな奇跡のような希望に縋った。そうしなければとてもではないが正気でいられなかった。
何年も何十年も探して探して探して。
けれどセラフィは見つからない……。
本当に見つかるのだろうか。いや、必ず見つける。
けれどいつまで経っても見つからないセラフィに、弱い自分が顔を出す。
もうこのまま見つからないのではないか。もう会えないまま死んでしまうのではないか。
セラフィのいない世界は色がなく、もの悲しい。
セラフィがいない世界に生き続けることに耐えられなくなってくる。何度自ら命を絶とうと思ったことか。
何度もくじけそうになり、その度にセラフィの最後の顔を思い出して自分を鼓舞する。
けれど本当は限界だった。セラフィのいない世界で生き続けることに。
セラフィが願ったから、生きることが最後の願いだったから。でも、もう終わらせたいと心から血を流し叫ぶ自分がいる。
自分でもよく保った方だと思っていた。セラフィのいない世界で数十年。竜王国へ帰ってきたのは瑠璃を見るためだと言ったが、本当は違っていた。本当は……。
部屋の中で落ち着きなくうろうろとしている瑠璃。
ジェイドが心配で仕方がないようだ。
「ちょっと落ち着きな、ルリ」
見かねてチェルシーが口を出す。
「だってチェルシーさん、もうとっくにヤダカインに着いてる頃ですよ。どうなったか心配で」
「そのうち連絡があるだろうからそれまで待ちな。ここで騒いでいたってどうしようもないんだから」
「うう~、分かってはいるんですけどぉ」
「少しお茶にしようか」
落ち着けるようにとクォーツがそう提案する。
「落ち着くように私が特製のお茶を入れてあげるよ」
「ありがとうございます、クォーツ様」
素直に喜ぶ瑠璃に背を向け、お茶を入れに厨房へ向かったクォーツはお茶を入れながら……。
「セラフィ、君はこんな私に失望するかな……?」
クォーツの呟きに答える者はいない。
***
ヤダカインにいるジェイドは、来客用の一室に案内されていた。
どうやらあの火は女王自らが放ったもののようで、幸い城中を巻き込むほど大きなものではなかったが、火元となる部屋は完全に燃えてしまった。
ヨシュアによるとその部屋の地下室には研究を行っていた部屋があるらしいのだが、そこに火を放ったらしいのでそこにある物は燃え残ってはいないだろうとのことだ。
女王は茫然自失状態で闇の精霊にどこかに連れて行かれた。
そして侵略者でもあるジェイド達竜王国の者は予想外にも丁重に扱われている。
竜王国への進攻と竜族の誘拐は女王と闇の精霊の独断のようで、他の側近が止める間もなかったそうだ。
ジェイドとしては仲間が無事であり、ヤダカインがこれ以上竜王国に対して攻撃を仕掛ける気はないというのなら大人しくしているつもりだ
。
外に残した兵も今は城内に受け入れられ休憩している。
だが、女王が本当に敵対する意思がないかは分からない。直接会って話したいが、あの状態ではしばらく無理だろう。
代わりにジェイドはヨシュアから報告を受けていた。
「神光教との繋がりは分かりませんが、死者蘇生の魔法は女王の研究で生み出されたもののようです」
「そうか」
「他にも、ナダーシャとも繋がりがあるかもしれません」
「何?」
「女王の研究室からこんな物を見つけました」
ジェイドに差し出された書類。そこには死者蘇生の研究結果と、異世界からの召喚について詳しく書かれていた。
「ナダーシャが行った召喚か。ルリをこちらに連れてきた」
「ええ、その研究も行っていたようです。ナダーシャを調べた時はこんなに詳しい内容の物は発見されませんでした。おそらくこれを作り出したのはあの女王でしょう」
「ナダーシャとも繋がりがあったということか」
「ルリが怒りそうですね」
「そうだな」
瑠璃が召喚されたのはナダーシャのせいだ。
そう思って瑠璃は酷く怒りそして実行した王と神官達に復讐した。
だが、そもそもそれを生み出した者が他にいると知ればその者に対しても怒りを感じるだろう。
それがなければ呼び出されることはなかったのだから。
ジェイドとしてはそれにより瑠璃を手に入れたのだからお礼を言いたいところだが、瑠璃は全く逆の反応を示すことだろう。
「竜族を狙った理由は?」
「詳しくは分かりませんが、血が足りなくなったからだと話しているのを聞きました。神光教が行っていた死者蘇生には竜の血が使われていました。おそらくその血がなくなったからだと思われます」
「だが、そもそもそれまであった血はどこから手に入れた?」
「それが、どうも協力者がいるような話をしていました」
「血もその協力者が?」
「いえ、そこまでは分かりません」
ある程度話が見えてきたが、まだ分からないことがあるようだ。
「直接話を聞くのが早いのだがな」
「まあ、落ち着け、竜族の王よ」
そう声をかけてきたのは、ジェイドが座る向かいのソファーにちょこんと座り優雅にお茶を飲んでいる光の精霊だという少女。
まるで我が家のようにくつろいでいる。
「……失礼だが、あなたはどうしてここに?」
「なに、私も無関係というわけでもないからな。知りたいのだろう?こうなった経緯を」
「教えていただけるのですか?」
「お前達は色々と被害を受けているようだしな。真実を聞かねば納得できないだろう?」
「はい」
カップをテーブルの上に置いた光の精霊は、おかわりのお茶を入れ、お前達も飲めとお茶を勧める。
長くなるからと聞き、ヨシュアがジェイドと、リン達精霊の分を用意していく。
そして全員のお茶が揃ったところで、光の精霊が口を開く。
「まず始まりは、ヤダカインの女王の婚約者が亡くなったことだ。当然と言えば当然だが、あの小娘は毎日毎日泣きくれた。
まあ、そこで悲しみを受け入れ、時間をかけながらも前へ進んでいこうとする者がほとんどなのだろうが、あれはそれが受け入れられなかった。
そしてあろうことか、魔女の力を持ってすれば婚約者を生き返らせる事もできるのではないかと考えたのだ」
『そんなことできるわけないじゃない』
リンがバッサリと切り捨てる。
「その通りだ。だから言ってやったのだよ。はっきりと、不可能だとな。そしたら絶望して研究していた部屋を盛大に燃やし始めよった。癇癪を起こした子供だな」
『闇の精霊が側にいたんでしょ?何で闇の精霊が言わないのよ、無理だって』
「それどころか手伝ってすらいたな。あの女王の言われるままに、または己の独断で様々なことに手を出していた。
竜族をさらったのは女王の願いだったがな」
「神光教という団体に蘇生術を与えたのも闇の精霊なのですか?」
ジェイドの問い掛けに、光の精霊は頷く。
「そうだ。他にもナダーシャという国にも接触して、色々と道具を渡していたな。全てあの女王のためにと言って。だが、あれはただの甘やかしだ」
「とんだ迷惑だな」
ふんっとひー様が鼻を鳴らす。
「…………それがあの子のためだと思ったからだ」
ふと聞こえてきた低い男性の声に、扉の方を見ると、闇の精霊が静かに入ってきているところだった。
酷く冷めた光の精霊の眼差しが闇の精霊を刺すように見る。
「あの子のため?お前は怖かっただけだろう?真実を告げることを」
「…………真実を告げることだけが、正しいわけではない。人は時には逃げ道も必要だと、そう思ってのことだ」
「違うな、お前は怖かっただけだ。告げることで愛し子が悲しむことが。だが、それはお前のエゴだ。人はお前が思っているより強いものだ。
ましてやあの小娘は一国の王。国民を導く使命がある。いつまでも現実から逃げることは許されない。それが王であるあの者の義務だ」
「…………」
闇の精霊から反論の言葉は出て来なかった。
表情を曇らせたままの闇の精霊に、口を開いたのはジェイド。
「女王と話をしたいが可能ですか?」
女王の話が出ると、闇の精霊はその目に悲しみを浮かべ首を横に振った。
「いや、しばらくは無理だ。……光の精霊に、どんな方法であろうと死者は生き返らないと厳しい言葉で言い聞かされ、あの子は酷くショックを受けて、とても話せる状況じゃない」
「そうですか」
「……分かってはいたんだ。だが、研究をしている間はあの子は希望を抱くことができた。必死になってそれに縋るあの子を見ていると、辛い現実を突きつけることが私にはできなかった。そのせいで結果的にはあの子をさらに傷付けることになってしまった」
闇の精霊は酷く後悔しているようだ。
「女王に話が聞けないなら、あなたから聞きたい。」
「なんだ?」
「死者の蘇生、そして、異世界からの召喚の魔法を生み出したのは女王ですか?」
「ああ、そうだ。あの子の婚約者が亡くなり、あの子は憔悴して食事も喉を通らないほどだった。私は心配で仕方がなかったが私にできることは側にいることだけだった。
しばらくして何を思ったか魔法の研究を始めた。やっと吹っ切れることができたのだと喜んだが、あの子が研究していたのは死者の蘇生についてだった。
あの子は亡くなった婚約者を魔法の力で生き返らせようとしたのだ」
「お前は言わなかったのか、そんなことは不可能だと」
ひー様が厳しい眼差しで問い詰める。
「できなかった。不可能だと分かっていたのにあの子に突きつけることができなかったんだ。
理由はどうあれ、ようやく自らの力で立ち上がれたのに、言ってしまったら前のように戻ってしまうのではと。光のの言う通り怖かったのだ」
ひー様はふんっと鼻をならすが、何も言わなかった。
「研究で体を生き返らせることに成功し喜んだ顔を見ていると本当のことが言えなかった。
だが、それとなく告げてはいたんだ。魂がなくては生き返ったとは言わないと。すると段々とあの子の研究は過激さを増し、際限がなくなってきた」
「何故異世界からの召喚が必要だったのです?」
ジェイドが問う。
「魂があちらの世界に行っている可能性もあるのだよと話したら、それなら連れてくればいいのだと言ってね。
向こうから魔力のある人間を連れてくるためにと作ったものなんだよ。まあ、まだ未完成だったが」
「それをナダーシャに渡したのですか?」
「他の者なら完成に近付けるかと思ったのだ」
「その結果、無関係の者が巻き込まれるとは思わなかったのか!」
ジェイドが怒りを露わにする。
ナダーシャに渡した召喚魔法によって巻き込まれた瑠璃。
それだけでなく、それにより戦争まで起こったのだ。
少なくない被害が出ている。
神光教のことにしてもだ。
愛し子は命を狙われ、獣王国もこの闇の精霊が引き起こしたことに巻き込まれている。
「あの子が幸せならその他大勢がどうなろうと些末なことだ」
その言いように、ジェイドは怒りで拳をぎゅっと握りしめるが、リン達精霊の反応は違っていた。
『まあ、その気持ちは分かるけどね。私だって人間や亜人がどうなろうと知ったこっちゃないし』
リンからそんな言葉が出たことにジェイドは目を見開いてリンを見た。
竜王国の中で仲良くやっていると思っていたリンのあまりに冷たい言葉が信じられないのだ。
「ならば何故邪魔をする?」
闇の精霊が問い掛ける。
『あなたと同じよ。私の契約者であるルリを危険にさらした。あんたがナダーシャや神光教に色々と渡したせいでね。
ルリを傷付ける者は誰だろうと許さないわ。
さらにあなたは精霊殺しを広めてしまった。精霊にとってこの上なく唾棄すべきその術を。
私達は精霊殺しを消し去ることを望んでいるわ』
「確かにあれは、なくすべきだな」
光の精霊もリンに同意する。
闇の精霊は少し考え込んだ。
「お前とてあれは我らにとって害悪にしかならないことはわかっているだろう。
けれどこれまで見逃されていたのは、このヤダカインの中だけのことであったからだ。
しかし、それをお前が壊した。外に持ち出したお前の責任でもある」
「分かっている……」
しばらくの目を閉じ沈黙した後、闇の精霊は目を開いた。
「そちらの要求は飲む。だが、あの子に手を出すのだけは止めてほしい。もう研究は止めさせる。だから」
「分かりました」
即答したジェイドに、闇の精霊は意外そうな目をした。
「いいのかい?」
「元々ここへ来たのは仲間の奪還と精霊殺しの魔法の消滅が望み。
仲間は無事戻りました。後は精霊殺しの件さえ応じてもらえるならそれ以上ヤダカインに介入する気はありません」
「そうか。ヤダカインは長らく精霊殺しによって生活してきた。反対する者も多いだろうが、私がなんとかしよう」
「初めからそうしていればややこしいことにはならなかったんだ」
椅子に座るひー様が尊大に嫌みを言う。闇の精霊は苦笑でそれを受け流す。
「最後に聞きたいことがあるのですが、神光教や女王が使っていた竜族の血。あれはどうやって手に入れたのです?
聞くところによると協力者がいるという話ですが」
協力者がいるのであれば、その者のことも何とかしなければと思いそう聞いたジェイド。
「死者蘇生の研究には竜族の血が必要不可欠なんだが」
「ヨシュアから聞きました。女王は協力者から血を手に入れていたようだと」
「そうだ。彼もまた大事な人を亡くしていて、あの子の研究で生き返らせることを望んでいたんだ。血はその者からもらった。その者はあの子の研究を一時手伝っていたんだが、ある日姿を消した」
「その者はどんな者なのです? どうやって竜族の血を手に入れたのです?」
「私よりも光のの方がよく知っている。それにお前も」
そう言って闇の精霊は光の精霊を見た後、ジェイドに視線を向けた。
名指しされたジェイドは困惑する。自分の方が知っている? どういうことなのか。
「あの子に協力し、血を提供していたのは竜族だ」
「竜族!?」
思わずジェイドは前のめりになって驚いた。
だが、竜族ならば納得もする。自分の血を提供すればどこからか調達してくる必要もない。
「ああ、以前竜王だった者だと聞いている。竜王であるお前なら知っているのではないか?」
どくりとジェイドの心臓が摘ままれたようないやな鼓動する。
「クォーク、ルォーツ……いや、クォーツと言ったか? そんな名だ」
「見た目は!? どんな容姿をしていましたか」
「白銀の髪に紫の瞳を持った優しげな男だ」
そんなはずがないと、ジェイドは心の中で否定するが、闇の精霊からもたらされたのはクォーツを思わせるものばかり。
いやに口の中が乾く。
「そんな、クォーツ様が。まさか……」
「番いを亡くし死者蘇生に一縷の望みを託したのだろうよ」
確かにクォーツは番いを亡くしている。死者を生き返らせたいと誰よりも願っている者だろう。
「そもそもどうやってヤダカインの女王と繋がりをもったのですか?」
「知らないのか? あの者の番いは元々このヤダカインの魔女だったんだ。そして、光のの契約者でもあった」
驚きの連続でジェイドも声が出ない。
『それ本当なの、光の!?』
光の精霊は口角を上げただけで何も答えない。
「セラフィと言ったか?
たしかそんな名だったはずだ。あの子の母とセラフィが旧知の仲でな。あの男は何か目的があってこのヤダカインに来たようだが、そこであの子が男と同じように大事な者を亡くし、死者蘇生の研究をしていると知り協力者となったのだ」
特に気にした様子のない闇の精霊とは反対に、ジェイドの表情は強ばる。
「その容姿に似合わず酷く暗い目をした男だった」
「クォーツ様はどこまで関わっていたのだ?」
「私に聞くより本人から聞いた方が良いのではないか?その方がお前も納得するだろう」
いったいどこまで関わっていたのか。
ナダーシャが竜王国を滅ぼそうと進攻してきたことには?
神光教に瑠璃が殺されかけたことには?
竜族が捕らわれたり、城が襲撃を受けたことには?
闇の精霊がしたことといっているが、それらに関わっているのか?知っていたのか?
知っていて放置していたのか?
ぐるぐるとジェイドの中に疑問が浮かんでくる。
そんな中で光の精霊が意味深な発言をする。
「やつは今、お前達の大事な愛し子と一緒にいるようだな?
何もないといいがな」
空気が凍り付く。
『ちょっとそれどういう意味よ、光の!』
「さてな」
「ルリ……」
ジェイドに不安が襲った。
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