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閑話

 月も見えない日の深夜。

 竜王国からヤダカインの調査にやってきたヨシュアの姿は、ヤダカインの城内にあった。


 この日のために長い時間を掛けてヤダカインの町で調査。苦心して手に入れた情報により、警備の兵を掻い潜り城の捜索を行う。

 鎖国状態で見知らぬ者への警戒心が強いヤダカインでは簡単な情報を手に入れるのにも骨が折れた。

 しかしヨシュアは頑張った。これが終わったら休暇だという希望を胸にヨシュアは頑張ったのだ。


 することは魔女が神光教の問題に関わっていたかだが、それを確かめるには魔女の周囲を調べる必要がある。


 しかしヨシュアは、魔女が誰かなど分かるはずもなく。

 とりあえず片っ端から部屋を確かめていくしかなく、竜王国の城ほどではないにしろ、広い城内の見取り図に辟易してきた。

 基本的に人の少ない夜に動き、昼間は身を隠す。そんな行動を行いながら早数日が経った。



 今のところおかしな点は一つも見つからない。

 後、調べていないのは最も警備の厚い王の周辺。


 気合いを入れ直し慎重に探りを入れる。元々一番怪しいのは魔女の中で最も力が強いと言われる王の周辺だと考えられた。

 王の周囲には他の魔女もいるだろう。

 だが、その分危険も大きい。



 ヤダカインは精霊殺しの影響でこの国では魔法も使えない。一方向こうはそれに当てはまらないと思われる。

 慎重すぎるほど慎重に探りを入れた結果、王は基本的に王の仕事を他の魔女に任せ、昼間は姿を消しているということ。

 とある部屋に入ったまま、そこで何かをしているようだ。しかしそこで何をしているかは側近以外は知らない様子。


 ヨシュアは夜中を待って部屋に侵入することにした。


 部屋には鍵が掛かっていたがそれほど難しいものではない。ヨシュアに掛かればあっという間に開かれた。

 何ら変哲のない室内。あえて言うなら物が何もないことぐらいだろうか。王はここで一日中何をしていたのか。

 ヨシュアはすぐに感じ取っていた。下からやけに風が吹いていることに。



(こういうものはどこかに仕掛けが……)



 壁や床を入念に触りまくっていると、カチリと壁がへこんだ。そして床が動き地下へと続く階段が現れる。

 にやりと口角を上げたヨシュアはゆっくりと暗い階段を下りていく。

 階段を下り、通路を歩いて行くと、床が再び動いて閉じていく。

 おそらく内側にもスイッチはあるだろうと、焦ることはなく通路を進んだ先には一つの部屋。



 明かり一つない真っ暗な部屋に明かりを灯そうとするが、魔法が使えないので不便なことこの上ない。空間から取り出したランプにマッチで火を付ける。

 ゆらゆらと燃える炎が部屋を照らし出す。直後。



「うがあぁぁぉ!」



 びくぅとヨシュアの体が跳ねる。

 声のした方を見ると、檻の中に入れられた複数の人。

 骨と皮だけの手足、くぼんだ生気のない目、乾いたような肌。それはヨシュアに見覚えのあるものだった。



「びびらせんなよ。ってか、これって獣王国にいたゾンビじゃねぇのか」



 同じく思考力はないようで、意味のないうめき声を上げている。



「ここにこいつらがいるってことは、やっぱり神光教と関わりがあったのはこの国の魔女ってことか?」



 他にも何かないかとランプで照らしながら捜索すると、神光教のアジトにもあった魔方陣と試験管の中に入った血が見つかる。



「この血は竜族のか? いや、だがヤダカインの魔女がどうやって竜族の血なんか手に入れるんだ」



 次にヨシュアはテーブルの上に乱雑に置かれた書類に目を通した。



「竜の血による死者蘇生、異世界から召喚?」



 そしてそれらの実験結果が書かれていた。どれも成功はしていないようだ。



(こりゃ、完璧黒だな。てか、異世界からの召喚つて、ナダーシャがルリを召喚したあの魔法じゃないだろうな。

 そう言えばあいつらも精霊殺しの魔法使ってたな。あいつらもヤダカインの魔女と繋がってたのか?)



 とりあえずこの辺の書類を拝借しておこうと空間の中に入れようとしていると、部屋の外の通路から誰かが歩いてくる音がしてきた。



(やべっ、この時間は誰も来ないはずなのに)



 数日の間調べた限りでは、この時間帯は誰も部屋を訪れないはずだった。ヨシュアは慌てて物陰に身を潜める。

 部屋には物が乱雑に置かれているので隠れる場所があったのが幸いだった。



 少しして部屋の扉がゆっくりと開き、若い女性と男性が入ってきた。

 入ってきた女性、それはヤダカインの魔女であり、王だと気付いたヨシュアは、見つからないように警戒しながらも耳をすませた。


 共にいる男のことは分からない。ただ、常に王に寄り添い、行動を共にしているようだ。

 見た目は普通の男。だが、何か妙に気になった。



「もう血が残り少ないようだよ、愛しい子」


「分かっておる! だが、あやつの置いていった血はこれだけじゃ。このままでは研究ができない。それだけは許されぬのじゃ。あの人を生き返らせるまでは」



 女性は苛立たしそうに爪を噛む。



「どうにかして竜の血を手に入れなくては」


「しかし、そんな簡単に手に入れられる物ではないよ。この血もあの者が提供したからこそ手に入れられた物だし」


(あの者? 誰のことだ)



 話を聞くに、血を彼女達に提供した者がいるようだ。協力者がいるのか。



「血がないのならば手に入れてくればいいではないか」


「愛しい子。それはつまり……」


「竜王国に軍を差し向ける。そして竜族を捕らえて血を抜き取るのだ」


「竜王国と開戦することになるよ?」


「かまわん。一人でも多く竜族を連れてくるのじゃ」



 竜族相手に勝てると思っているのか。それか、それほどの危険を冒す価値があるほどの実験だとでも言うのか。



「ヤダカインの軍勢ではたして竜族を捕らえることができるかな?」


「精霊殺しも使えばいかに竜族と言えど一人二人は捕まえてこれよう」


(おいおい、マジかよ。これは早く陛下に連絡した方が良いな)



 男性は困ったような表情で、女性の肩に手を置く。



「愛しい子……。もう止めてはどうだい? こんな研究を続けても、あの子を生き返らせるなど無理な話だったのでは……?」



 言いづらそうに、そう告げた男性を女性は睨み付ける。



「馬鹿を言うな。このためにいったいどれだけの物を犠牲にしてきたと思う。研究は成功する! まだ時間が掛かるだけじゃ」


「しかし、やはり不可能だったのではないか。あれから何年も経つが、一向に成果はあがらない。死人が増えていくばかり。

 まあ、そんなことはさした問題ではないが、諦めてお前が穏やかに暮らしていくことをあの子も願っているのではないか?

 それがお前にとってもあの子にとっても幸せなのでは……」


「そんなことはない! あの人は取り戻す、絶対にじゃ!」



 そこには悲痛な程の願いが込められていた。


 彼女達の話から推測するに、誰か生き返らせたい者がいるようだ。そして檻の中のゾンビがその研究のなれの果て。

 だが、そこからどう神光教と繋がるのかは分からない。

 疑問は残るが、今はヤダカインからの進攻が始まるかもしれないことを伝えるのが先決だ。



(早く出て行かねえかな)


 そんなことを思っていると、こつんと肘が置物にぶつかった。

 やばいと思って手を差し出したが遅く、がちゃんと激しい音を立てて砕け散った。



「なんじゃ!?」


「どうやらネズミが一匹いるようだ」


(やべっ)



 二人がヨシュアのいる方へと向かってくる。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 一気読みさせてもらっています。読みやすく、感情移入もしやすい上手な作りになっていると感じます。本人は希望してないのに、周りが勝手に集まってきて外堀を埋められていくほのぼの系?は笑いもあって…
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