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改ミライ  作者: 音哉
6/12

改憶5


 翌日、地下街の外にまで騒がしい声が聞こえてきた。


 何事かと俺が階段を下りると、ひどい埃っぽさに俺は咳き込む。手で砂埃のようなものを払いながら顔を上げると、俺は目を疑った。


 元原の店が無い。それどころか、それに連なる両脇の店に全て灰色のシャッターが下りている。


「こっ…これは……どうなって……」


 近づくと、シャッターの存在が明らかになった。天井のコンクリートが横一列で崩れ落ち、元原の店側の商店が軒並み押しつぶされていた。


「も…元原っ! どこだっ!?」


 俺が叫ぶと、気がついた住人達が両脇に寄って道を開けてくれた。その向こうに屈んだ三杉がおり、奴の足元の瓦礫から誰かの髪の毛が見えている。


 まっ…まさか……。


 俺を振り返った三杉は、僅かに首を横に振って見せた。そして、視線を元原へ落とす。


「元原っ!」


 俺が走り寄って三杉の横に屈むと、瓦礫から仰向けに顔だけを覗かせている元原の目が開いた。


「小野田君……今日は桃ジュース……出せないかも……」


 かすれる声でそう言うと、元原は無理に笑顔を作り、震えるまぶたで俺を見上げ続ける。


「三杉! 何をしているんだっ! どうして出してやらない!」


 俺が三杉の肩を揺すって言うと、奴は俺の耳元で小さく答える。


「体の殆どがつぶされている。無理に引き出すと、内蔵を傷めて即死だ」


「そ……そく……? そんな……」

 

そうは言っても、このまま放っておいても元原は間違いなく死ぬ。だが、奇跡的に助け出す事に成功しても、三杉には内臓を手術する腕はあるが、設備が無いと昨日言っていた。


 元原を助ける方法は無いのか?


 せっかく三杉を助けて三人になったのに、また一人減ってしまうのか……?


 いや……、


 過去だ。またあの機械を使うしかない。


 しかし、いつに戻る? 昨日か? 違う、この地下街を根本的に直す必要がある。


 俺の脳裏に、暑苦しい笑顔の馬鹿でかい男が思い浮かぶ。


 園山だ。あいつの力が必要だ。奴がいればこの地下街を補修出来るし、三杉が渇望する手術室も作れるかもしれない。


 俺は立ち上がり、地上への階段を見た。後ろから三杉の声がする。


「おい、何処へ行くんだ? 元原を……看取ってやらないと……」


「看取る? ふざけるな。俺は元原を助けるために、奴を、園山を連れてくる」


 俺が踏み出そうとすると、元原の明るい声が聞こえてきた。


「えっ? 園山君が来たのっ? やっぱり生きてたんだ! 一番目立つ場所でお店をしてて良かったなぁ…………」


「しゃべるな元原っ! も…元原、しっかりしろっ!」


 三杉の取り乱す声が聞こえてきた。俺は振り返る事無く、階段へ走り、駆け上がって地上へ飛び出した。




     ◆     ◆     ◆




 俺は、木や、草や、……肉の焼ける臭いがする場所へ立っていた。正面には半壊した学校が見える。


 誰かの気配がするので振り返ると、そこには木にもたれ掛かって座っている制服姿の三杉と、その足の手当てをしている元原がいる。


 三杉は、俺の目をじっと見ながら言う。


「……嫌な予感がするな」


 それを聞き、驚いたように顔を上げた元原も俺を見る。


「まさか……また行っちゃう気?」


 そんな二人に、俺は答える。


「園山を助けてくる」


「無理だ」


 即答した三杉の後に、元原も首を横に振りながら言う。


「そうよ! さっき皆で話し合ったじゃない? 園山君がいた下足場はぐちゃぐちゃで……絶対に生きてなんか……」


 涙声になった元原は顔を伏せた。


「大丈夫だ。外れた肩も、三杉にはめてもらったしな」


 俺はそう良いながら肩を回そうとしたが、激痛がしたので気付かれないようにそっと腕を下ろした。


「アディオス! アミーゴ!」


 俺は園山を真似てそう叫ぶと、校舎へと走り出す。


「やれやれ……意外にひょうきんな奴だ」


「……ぷっ!」


 三杉は肩をすくめて笑い、元原も笑顔で俺を見送った。




 校庭端の茂みから、グランドを横切って二百メートル走ると目の前は校舎だ、更にここから五十メートル左へ回り込むと、靴箱が立ち並ぶ下足場になる……はずだ。


 だが、下足場があった校舎は、半分以上が破壊されて消えており、積み上がったコンクリート片だらけで何処が下足場だったのかまるで分からない。


 校門も消え、街も無くなり、位置関係から下足場を割り出すのも困難だ。残っている校舎の端から、俺の記憶の距離感で当たりを付けるしかない。


 俺は恐らく下足場だと思われる場所に来たが、瓦礫の山で当然園山の姿は無い。


「そうだっ!」


 冬の山で、雪崩に巻き込まれた時に携帯を鳴らして居場所を探す方法があった。ここは雪の上ほど静かでは無いが、やらない寄りましだろう。それに、次のミサイルが来る時間まであと五分も無いはずだ。


プルルル……プルルル……プルルル…… 


 携帯はまだ使えた。俺はスマホを耳に当てながら、落ち着き無く右へ左へとうろうろした。


 やはり無理だったかと諦めた時、スマホからの音が変わった。


プツン


〈はいこちら園山。今暗い場所で困ってます。誰? 動けなくて、画面が確認出来ないよ〉


「園山っ!」


 奴のでかい声が、スマホだけじゃなく瓦礫の中から聞こえた。あの馬鹿、この状況で生きてやがった!


「どこだ園山!」


「えっ! その声、小野田かっ? ここだよぉ! 助けてくれぇ!」

 

 見当をつけた俺が三十センチ大の瓦礫を投げ飛ばしながら掘る。すると、黒く焼け焦げたスチール製の靴箱の一部が現れた。


「ここかっ!」


 俺が靴箱を叩くと、バイーンと鉄の震える音の後、その靴箱の下から園山の声がする。


「うっ……うるせーよぉ! 狭い場所で音が反響するんだからっ!」


 俺は、靴箱を覆うように乗っていた瓦礫を一つ一つ剥ぎ取っていく。一つ当たり十キロ程度だろうが、全部合わせると三百キロはあるだろう。


 あらかた片した俺は、倒れた靴箱に手をかけて持ち上げる。すると、それを感じたのか、他の誰かの力も加わり、寝ていた人の背丈ほどの靴箱が立ち上がった。


「た……助かったぁ」


 靴箱の陰から現れたのは園山だ。どうやら奴は倒れた靴箱と壁との間に出来た隙間に、ぴったりと寝転んで収まっていたようだった。


 周囲の様子を確認した園山は、顔をしかめて身を震わせる。


「や…やっぱり爆弾か……。この靴箱のお陰で……、元原のお陰で俺は生き延びたんだなぁ……」


 園山は靴箱の一つを開け、元原の物と思われるスニーカーに頬ずりした。その靴の一部は焦げ、園山が入れたラブレターも灰になっている。靴箱の反対側は相当な熱に晒されたようだった。


「行くぞ園山! 時間が無いんだ!」


 俺が園山の腕を引っ張るが、奴は元原のスニーカーを顔にくっつけたまま動かない。


「ちょっと待って、もう少し匂いを嗅いでから……。だって、もう元原は……」


「生きてるよ! 元原も三杉も生きてるぞ!」


「うそんっ?」


 次の瞬間、園山は逆に俺の腕を引っ張って走り出した。俺は体を浮き上がらせながら指示を出す。


「そっちじゃない! グラウンドと、第二グラウンドとの間の茂みだ!」


「りょうか…」


ドガ――――ン!


 来た。次のミサイルだ。俺は爆風に飛ばされながら硬いコンクリートの上を……上を……あれっ?


「怪我ないか小野田?」


「お……おう。タフだな園山」


 園山は、俺を抱きかかえながら地面を転がっていた。奴の制服は破れ、肘や膝が擦りむけている。だが、園山は何でも無いように立ち上がった。そのまま俺達は、元原と三杉が待つ校庭の隅へ向かう。


「はい、元原。スニーカーに履き替える?」


 園山が懐から元原の靴を取り出すと、元原は涙を浮かべながら「ありがとう」と言った。




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