エピローグ
ついに……ようやく完成しました。
気が抜けてしまい、足元がおぼつかない私は、壁に背中をぶつけてしまった。
引き裂かれたあの子の声を聞いてから、もう……何日、何年とろくに寝ていなかったのでしょうか。気が付けば、目もよく見えなくなっているようです。
私は、埃をかぶっていた茶色の背広を拾い上げ、袖に手を通しました。
私は、あの子達を救わなければならない。
あの子達は、いつまでも仲良く、平和な生活を過ごさせてあげなければいけない。
それが私の使命。
私は階段を上がり、地階から地上へと出ました。
確かに、あの子達は私を馬鹿にしていたかもしれない。
しかし、あの子達は友達のように振舞いながら、どこかで私を信頼し、暖かい心で接してくれる。
同じ先生でも、まるで違いました。
神の領域へ踏み込む研究など、きっと誰かが悪事に利用する。
あそこを辞めて教師になり、本当に……、幸せな毎日でした。
神の領域、もし……私が神になれたなら……
私は、あの子達を見守る神になりたい。
ほら! 君達、あれを使ってください。あそこに、君達の運命を変える物が…………
「こんな所に遺体だ」
白いヘルメットを被った作業服姿の男は、かがみ込んで白骨死体を眺めた。
「大戦中……じゃなさそうだが、死後何年も経っているな」
男は目を閉じ、手を合わせた。
隣で立って手を合わせていた別の男は、屈んだ男に言う。
「どちらにしても、手厚く葬らないとな。しかし、大戦後にも普段から背広を着ていたとは珍しい」
「N A K A M U R A . S ……か。中村茂雄? 中村茂?」
「こらこら。やめておけ」
「だって、何か手がかりになるかもしれないだろ?」
男は不満そうに、背広の内側に刻まれた名前を指差す。
「そういう事は、専門機関に任せておけ。勝手な事をすると、警察長官に怒られるぞ」
「それもそうだな。ところでそう言えば……警察長官って最近結婚したんだよな?」
「ああ。相手は、小柄だけど、白い肌の可愛い人だったな」
カタ……カタ……
「ほんと、羨まし……ん?」
屈んでいた男は、不思議そうに背広を着たしゃれこうべを覗き込んだ。
「どうかしたか?」
「いや……いま、この遺体が……笑った気がしたからさ……」
「昼間っから何言ってんだ? さあ、人口も増えて、街を広げる俺達の仕事も忙しいんだ。サボっている暇はないぞ」
「そうだな。お~い、遺体回収班を呼んでくれ~ぇ!」
二人の作業員は、遠くにいた別の作業員に言った。
カタ……カタカタ……
みなさん……本当に良かった……
〈了〉
本来はここで完結ですが、特別に次話として、おまけ編が掲載されます。