最後の陸上生活
「先輩! どうしてご実家の住所も、電話番号も、新しい引越し先も教えていただけないんですか? ツイッターまでやめちゃって!」
この駅伝を最後に『陸上生活を終える』先輩選手に向かって、後輩選手が問い詰めていた。
「悪いな。もう、電話も、メールも、チャットも、ツイッターもできなくなるからだ。別にお前が嫌いになったわけじゃない」
「なんでですか? まあ、就職したら会うことは難しいでしょうけど。でも、もしかしたら都合がいいときだってあるかもしれないですし、いずれは俺の結婚式とかだってお呼びしたいです」
「… 悪い。俺の一族は二十五歳になると足が尾ひれになっちまうんだ」
「!」
「冗談だよ。そう思ってくれ。まあ、この与太話では、足が尾ひれになっちまうと陸上に上がれるのは超短い時間だけになるんだ。息をするのも大変だから話もしづらい。水中に持ち込めるパソコンなんかないから、ネットもできなくなるって御丁寧な設定があるんだぜ」
「!」
「いいさ。気にするな。お前ならどこにいったってかわいがってもらえる。それに来年と再来年の駅伝のエースはお前だ。しっかりやれよ」
そして、卒業式以降、この『先輩』の姿を見たものはいなくなった。