ダンジョン入ります三人パーティー
第二部 三人PT少女と剣士とポニーテール
あれから一週間程たったが、これといって普通の学校と逸脱したような教育を受けることはなかった。基本的な教育、生きるために必要な知識。簡単に言うと、数学、国語、社会、理科、英語、5大教科が主になっていた。時々体育などがあり、そこでちょっとした手合せをするものの、その程度で戦いの訓練などはなかったのだった。
「いい加減、少しはヒーローらしいことしないのかねぇ?」
「彼方は魔法少女だし。別にいいんじゃない?」
大鎌を背中に背負ったまま俺の机の上に座ったま、会話しているの遥だ。一週間もすればこの大鎌にも慣れてきたと言いたいところだが、危険極まりないこれに慣れていい事はないのでいつも警戒するようにしている毎日だった。
「ところでさー」
「あぶな! お前振り向くときは気を付けろっていつも言ってるだろ!」
「ごめんごめん。鎌を背中に背負う何て中々慣れなくて」
「大体なんで抜き身で持ってるんだよ」
「鎌の鞘なんてないし。なにより格好いいし」
「その格好よさの所為で俺は何時も危険と隣り合わせなのか?」
「彼方、何事にも危険っていうのは付き物なんだよ」
「お前さえやめればそれでいいと思うんだが……」
そんなバカ話をしていた何時もの朝。突然の全校放送が響きわたる。
「えぇー、これから本格的にお前たちの教育に乗り出そうと思う」
「また突然の宣言だな」
「今までのは本格的じゃなかったってことだね」
遥がわくわくしているのは、俺もわかる。今まで普通の学生として過ごしてきて、やはり消化不良だったのはみんな一緒らしく、周りの人たちのテンションもおのずと上がっていることが感じられてきた。
「今回、学校の地下にあるダンジョンを解放した。この一週間の内に地下3階まで潜ってボスを倒し、証であるアイテムをもってこい。ちなみに4人までは協力していいこととする。各自準備をしっかりしてダンジョンに挑むように! 以上!」
簡潔に今後の試験を報告すると、放送は終わってた。結局ダンジョンの中でボスを倒してくるっていう試験を数人のパーティーでやってこいってことか。
「よし、行くよ! 彼方!」
「いや、まず準備が……」
「いいの!」
「うわ! こら引っ張るな! やめ……うわあああああ」
結局遥に引きずられながらダンジョンの入り口にまで連れていかれた俺だった。
「ほらほら、行こうよ……死んでる!」
「お前の所為だろ!」
あまりに引きずられすぎて意識なくなりかけてたわ。
「ごめんごめん」
「お前のごめんと政治家の遺憾だけは信用度0だな」
「そこまでいう?」
「もう少し、ちゃんと謝れるようになってからそういう言葉をいいなさい」
少しふてくされた遥をしり目に俺はダンジョンへと進む。結局ここまで来たらいくしかないからな。古臭い匂いと暗い道、いかにも迷宮って感じの作りだなぁ。
「おぉ! 現代日本にこんなところがあるなんて!」
「確かにその部分は驚きだな……」
洞窟どころか、森すらもなくなってきがちの現代にこんな自然風の空間があるなんてな。そんなどうでもいいところに感動しながらも俺たちは迷宮を進んでいく。一本道であるその道は普通に突き進むことはできたのだが。
「うわ!」
突然現れたのはドロドロの不定形のモンスター。
「これってあれだよね。俗にいうスライムだよね」
「そうだな。最弱モンスター代表のスライムだな」
「任せて! 切り裂け!」
遥の一閃。大きな鎌を狭い道で器用に振り切り。スライムは真っ二つになる。
「おぉ」
「どう? 見直した?」
「いやぁ、ちゃんと使えるんだな」
「えへへ」
「ならいつもはなぜ俺にとってはあんなに危険な状態になってるのかな?」
「あ……いやぁ……あれはー」
歯切れが悪い時は、都合が悪い時。昔からこういうわかりやすいところは変わってないな。
「遥! 危ない!」
「え!」
スライムは絶命していなかった。二つに増えたスライムは背後から遥に襲い掛かってくる。体がとっさに反応し、遥を後ろに吹き飛ばす、そのまま庇うように俺はスライムの飛ばした粘液を右肩に受けた。
「あっちいいいい」
「っちょ、彼方!」
「いいから、ほら取りあえず逃げるぞ」
「う、うん……」
俺たちだけではスライムすらかなわないのかよ。てか物理ではあいつらを倒せそうにないな、俺の花を生やすだけの技も使えないし。取りあえず今は逃げるしかない。一目散にダンジョンから逃げて、保健室に向かう。
「すいません。ちょっと治療をお願いしたいんですけど」
「はい」
振り向いた少女のポニーテルが揺れ、そこには現れたのは見慣れたクラスメイトの顔だった。
「なんだ。ポニ子か」
「あんた私の名前覚える気ないでしょ?」
「別にいいだろ」
「はぁ…… ってあんた! その火傷どうしたの!?」
「あぁ、たいしたことないよ」
「いいからそこ座って!」
「あ、あぁ……」
すごい気迫だな……ただ、少し肩を火傷しただけなんだが。
「これは、スライムの攻撃ね」
「その私を庇って……」
「あんまり気を落とすな遥」
「でも……」
いつも元気なこいつがここまで落ち込むとは……そこまで、責任を感じているのか。
「あんな攻撃よけられないこいつが悪いのよ」
「お前は容赦ないな」
「はいはい」
そんな嫌味なことを言いながらもポニ子は、薬箱のようなものから俺に使う薬品を探してくれている。なんだかんだで、心配してくれているのだろうか?
「そういえば、なんでお前がここに?」
「基本的には、ここは生徒が切り盛りすることになってるのよ」
「へぇー」
「戦いに出たら、自分で手当てしなきゃいけないこともあるからね。ここで覚えるってこと、ほら火傷の箇所見せた」
「あぁ」
俺は右肩を見せるために、向きを変える。
「ほんと、直撃だったのね。制服は完全に溶けてるけど、それのお蔭で火傷で済んだってとこね」
「なかったら?」
「筋肉まで溶けてたかもしれないわよ」
スライム恐ろしい……
「はい。少し沁みるけど、我慢してね」
「いて」
ポニ子は俺の負傷した肩に、白い布を当ててくる。それだけではずり落ちるだけなので、その後からテープで固定してくれた。
「どう?」
「あぁ、少し楽になったかな。ありがとう」
「別にいいわよ。制服はある程度したら勝手に修復されるから」
「へぇ……」
さすがに、魔法を唯一日本で扱ってる学園。制服にも魔法が施されているのだろう。
「彼方、私……」
「気にするなって言っても無理だろうな。だったら俺のいう事聞いてもらうかな」
「あ、うん」
「ちょっとあんた!」
「そうだな。ポニ子をパーティーに入れてくれたらいいぞ」
「っはぁ! なんだあたしを巻き込んでのよ!」
「がんばるよ!」
「なんでよ!」
「おう、がんばれ」
少し元気になってくれた遥は、それからというものポニ子勧誘を本当によくやってくれた。授業中にきたり、昼休みには昼食を誘ったり、トイレにまで入ったりしたらしい。そして、3日後。
「わかった……一緒に行くわよ……」
「やった! ありがとうポニ子ちゃん」
「おぉーついに観念したか」
「あそこまでされたら仕方ないわ……」
ポニ子は疲れきったような顔をしていた。いったいどれだけしつこく遥に攻めよられていたのかは想像もしたくない。
「じゃあ、宿題をしよう!」
「おう!」
「はぁ……」
一人だけ乗り気じゃないポニ子をよそに俺と遥はやる気満々に洞窟に入っていく。前入った時と同じ所でやはり一匹のスライムがやってきた。
「やっぱり、同じところででるんだな」
「彼方どうしよう?」
「ポニ子さんよろしく」
「はぁ! なんで私が!?」
「俺たち二人物理技しかもってなくて」
「どんだけ偏ったパーティーで行こうとしてたのよ!」
「鎌さえあれば何でもできると思っていた時期がありました」
「どんな時期!?」
「突っ込みはいいから、早くしてくれよ」
「もう、わかったわよ……」
漸く観念したのか。潔くポニ子は俺たちの最前線に立ってくれる。懐から取り出したのは4つの指輪。その指輪を両手の指に、同じ数だけつけていく。
「右手に火と風、左手に水と土を自然の力を私に力を貸して!」
「これが変身……」
「格好いい!」
ポニ子が光に包まれていく。光が晴れそこに現れたのは、派手な赤い魔法少女の服装をしたツインテールの女の子だった。
「ポニ子が……」
「ツインテール子になっちゃった」
「髪型変わったら、名前も変わるわけね。もういいわよ……」
返信後のポニ子、いやツインテール子でいいのか? とりあえず、さっきまで感じなかった協力な魔力を彼女からは感じられる。
「さっさと倒して次に行くわよ。ほら!」
右手に装着した赤い指輪から炎が出ると、一瞬でスライムを燃やし尽くす。
「おぉ……」
「ツイン子ちゃんつよーい」
「スライムは火が弱点なんだから、火のアイテムか、火の技使える人連れてきなさいよ」
「スライムって火に弱かったのか、遥知ってた?」
「全然、殴れば倒せると思ってた」
「あんたらね……」
全身全霊をもって呆れられてるなぁ。モンスターの生体とかそういえば授業で習った記憶があるような気もしないが、正直聞いて無かったからな。
「それじゃ先に進むか」
「おう!」
「わかったわよ」
こうして俺たちはついにスライムの脅威を突破したのだった。結局一回は殆どスライムだらけだった。出てくるモンスターはスライムで、戦えるのはツイン子のみ、だから俺たちは。
「ほら、傷薬だ」
「彼方、こっちはお金だよ」
「それって、外でも使えるんだっけ?」
「たぶん学園内だけかな」
「そっか、だけど宝箱とかあるとテンション上がるよな」
「そうだねぇ」
戦闘そっちのけで宝箱を探しているだけだった。
「少しは手伝いなさい!」
「うわ!」
「っひゃ!」
「あんたら、何宝箱探すだけしてるのよ。私の魔力だって無尽蔵じゃないのよ!」
「あははは…… ほら、これ飲み薬の回復剤飲む?」
「いるか!」
一蹴されたよ。結局この一階での戦闘は全部、ツインテ子に任しちゃったからなぁ……
「いい加減降りるか」
「そうだね」
「私ももう、スライムはこりごりよ」
満場一致で、下の階に降りることに決める。実は、階段はもう見つかっていたのだった。ただ、一階に何があるかっていうのを探索していただけだった。
「ここが二階ね」
「雰囲気は変わらないな」
「でもなんとなく、一階より敵が強くなってる気配がするよ」
遥のいう通りだ。スライムみたいなのは正直さっきを一切感じないレベルだった。なによりも襲ってきても走れば逃げれるレベルだし、スライム自身には意思がなく、動いてるものを攻撃してるだけだったからな。
「ここの玉で、私たちの進行状況を保存するんだけど、私たちパーティー設定は?」
「なにそれ?」
「さぁ。私は知らないけど」
「あんた達本当に何も知らないのね……学生手帳が電子端末になってるでしょ」
「あぁこれ」
俺は胸ポケットから学生手帳を出す。ホログラムが俺の顔と所属学科、学年年齢等を証明している。
「でもこれってただの手帳だろ?」
「それ、ホログラム所にマイクのマークあるでしょ?」
「あぁこれか」
「そこに触れて、空野遥をパーティーに入れるってって言ってみて」
「こうか、空野遥をパーティーに入れる」
言われた通りに、マイクボタンを押した後に言われた通りのセリフを言う。するとホログラムが切り替わり左上にパーティー編成と書かれた画面に俺の情報が出てきた。
「おぉ! 画面がかわった」
「私のほうに、パーティー要請が来たよ!」
「そこで、肯定のボタンをタッチしたらはいれるわよ」
「わかった」
遥がパーティー要請に賛成したところで、俺の画面には遥の情報が入ってきた。
「おぉ! きたきた」
「パーティー編成の方法はまだあるけど、ボイスコマンドが一番楽ね」
「へぇ、ツインテ子ちゃん詳しい」
「あんたらが、知らなすぎなのよ……」
「じゃあ次はお前だな、ツインテ子をパーティーに入れる」
「そんなので入るわけ……嘘、要請きてる!」
「つまりお前は自他ともにツインテ子だな」
「違うわよ! 何でこんなことに……あぁもう入るわよ入る!」
ツインテ子は結局パーティー要請を承諾して、取りあえずはここに三人パーティがようやく結成された。
「それじゃその玉に、リーダーであるあんたが学生手帳をかざして」
「あぁ」
俺が学生手帳をかざすと、俺のだけでなく遥とツインテ子の学生手帳が同時に。
「記憶完了しました。今後、ここからダンジョンを開始することが可能です」
「手帳がしゃべったよ!」
「すげえな!」
「最近の携帯機器はしゃべるぐらい普通よ」
「そうなのか?」
「携帯電話とか持ってないの?」
「ヒーローになった時携帯電話が変身道具だったらややこしいから持たないことにしていた」
「空野さんは?」
「私は、持たすとすぐ壊すからって親に買ってもらえなかった!」
「なんていうアナログ……携帯の機能は学生同士なら手帳でできるから覚えときなさい」
「さっきのマイクで?」
「そうよ……」
「彼方に電話!」
遥の声の後に、俺の手帳が突然なり始めた。
「おぉ! 呼び出し音普通だなぁ。この電話が上がってるボタン押すんだな、もしもーし」
「聞こえるよ。すごいねこの手帳」
「何て言うか、説明書とか読まないタイプねあんた達二人」
「よし、このまま宿題を終わらせるぞ!」
「任せて!」
「私は疲れたわよ……」
ツインテ子のテンションは最低付近だがそこを無視して俺たち三人は二階を進撃していった。幸い二階に現れるモンスターは蝙蝠などの動物系、遥の鎌や俺の鍛えた拳が効くようで、二階の間はツインテ子には休んでもらった。
「これといって山場もなく。二階が終わったわね」
「そうだな」
「物理が効く楽勝だよ」
「最初の宿題だし、そんなものよね」
「早く3階いって、宿題終わらそうぜ」
「そうだねぇ」
こうして俺たちは3階へと足を踏み入れた。三階の構造は単純で階段を降りてすぐに扉があり、その前が待合室になっていて、そこで生徒たちがまっていた。
「結構人がいるなぁ」
その大広間に入ったら、そこの案内人の人なのだろう。俺たちに話掛けてくる。
「現在ボスは三十分待ちです。ここにリーダ-の生徒手帳をかざして、お待ちください」
「はいよ」
言われたとおき、彼女の横にあった機会に手帳をかざす。
「はい。登録完了です。ではお待ちください」
「はーい」
元気の良いな遥は、取りあえず三人で一緒に地べたに座り時間を経過するのを待つことにした。
「BOSSって強いのかな?」
「最初の宿題だしそうでもないだろ」
「そうね。彼のいう通りそこまでは強いとは思えないわ。たぶん一人でも勝てるレベルでしょう」
「ならなんでパーティー組ませるような放送したんだろ」
「今回必要だったのは、仲間と連携する力と、属性の概念の勉強でしょ」
「だから、最初にスライムが来たのか」
「そういうことよ、剣士学科の人間だけでは敵わないスライムを置いて、別の学科とも交流を持たせる、実際戦いの場では仲間との協力が必要だしね」
「へぇー、考えられてるなぁ」
遥の関心はもっともだった。実際俺たちは二人してスライムにやられて、結局魔法を使用できるツイン子に協力を依頼したわけだし。
「ほら順番来たわよ」
「よし、行くぞ!」
「おぉ~」
気合を入れて、扉に入る。そこに待っていたのは大きな石人形、俗にいうゴーレムといわれるものだ。
「ゴーレムってやつか、パンチとか効くかな?」
「無理ね、打撃ならちゃんとした武器がいるわよ」
「鎌は?」
「それこそ無理よ。打撃用の武器が必要だわ」
「どうしろって……」
最終的には、武器の相性がある程度結果を決めることになるよなぁ。
「うがぁぁぁ」
「来るわ!」
「うわ!」
「っひゃ!」
両手を振り押してくるゴーレムを、それを三人とっさに避けて、同じ場所に集まる。
「ツインテ子、どうにかできないのかよ?」
「あんたたちの所為で魔力不足よ! あんたこそ、検査の時ハンマーもってたじゃないの!?」
「あれか……」
あんなダメな武器どう使えば。だけど今は言ってるときじゃないよな。ハンマーは使わない時は俺の腕輪になっていた。そこに意識を集中させる。
「こい!」
俺の手には前回現れたハンマーが握られていた。
「これでたたいてくれ」
「OK! でりゃあああああああ」
「だから加減を! いてえええええ」
また思いっきりたたかれた……目の前に星が飛んで意識がちかちかするのが止まったころ自分が魔法少女になっていることがわかる。
「だから、痛いって……」
「とんでけえええええええええ」
「またかよ!」
結局ハンマーで吹き飛ばされた俺は見事ゴーレムにぶつかり。ゴーレムを倒すことに成功したらしい。俺はその衝撃で気絶、気が付いたときには保健室で寝ていた。そして、前回と同じ用遥に説教をして、この最初の宿題は終わっていった。今後も敵と戦う時は俺は殴られ続けるのだろうか? そんな不安を抱えながら俺たちの初のダンジョンは終わった