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毘の華  作者: 逍遙軒
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変化

 綺麗どころを心を弾ませながら見学していると言うのに、夏の日差しは容赦なく黒く塗られた兜を焼いて、頭や体から瀧のような汗を流させやがる。

 何度か気を失いそうになる事を繰り返しながらも頑張って開始の合図を待っていた。

 司会者がいよいよお祭りスタートの挨拶を始めると、勇壮な太鼓の音と法螺貝?の音が鳴り響いて来た。

 お寺の門が音を立てて開くのを見ると意外と緊張してくる。

 隣にいた甲冑姿の佐藤が俺の肩を叩いて来た。

「そろそろ出発。今日はやたら暑いから、気合を入れてしっかり頼むぞ」

 なんと心やさしい言葉だろう。

 どうせなら出発前の電話で不参加の言葉を聞いて欲しかったよ。

 太鼓の音に合わせて行進が始まったようで、誘導係りが手際よく順次甲冑隊を進ませ始める。

 ここでラッキーだったのは、俺たちの前に御姫様グループがおり、その後ろを付いて歩けることだ。

 俺たちはある意味幸せ者かもしれない。

 クソ暑い中で唯一の清涼剤なのだから。

 さて、とうとう自分の順番になったようだ。

「いくぞ」

 佐藤の声に促されて歩きだした俺。

 道中両脇にはカメラを構えた人たちが山盛り鈴なりで待ち構えていた。

 これはすごい、成田空港に降り立ったハリウッドスター並みの扱いだ。

 ちょっと言い過ぎた。

 しかしストロボの光が眩しくシャッターの音が立て続けに鳴り響く。

 これは確かに病みつきになるかもしれない。

 満面の笑みを湛えて歓声についつい手を振って答えてしまう自分がいた。

 しかし暑い。寝不足がそろそろ効いてきたようで目眩がしてきた。

 暑さを堪えながらもようやくお祭り会場に到着。ここって春日山神社って言うのか?石垣とかあって、もろお城じゃないか。

 居並ぶ鎧武者の中に自分も居るといった、現実離れした状況を不思議と遠くから見ている自分に気が付いたのはこの辺り。

 先頭の方では、頭に白い布を被った偉そうな鎧武者が、神前に何かを運んでいる。

 あれが謙信さんかな。

 俺たちはかなり後方でそれを見ているだけなのだが、意外な程の厳かな儀式に見惚れていた。

 出陣の儀式も終わった時、少し離れた位置に火縄銃を持った鉄砲隊が整列を始めた。

「あ、鉄砲だ」

 おれはこの時熱中症にでもかかっていたのかもしれない。

 虚ろな独り言が無意識のうちに口から出て来た。

 隣にいた佐藤が気にかけてくれたのか、こちらを振り向いた。

「おい広田、大丈夫か?顔が真っ赤だぞ」

 そんなとき、鉄砲隊が演武を始めたんだろう、火縄銃の轟音が聞こえた。

 音に合わせるように、視界一杯にキラキラとした光の粒子が飛び交う貧血状態になり、佐藤の顔が見えなくなってきた。

 たぶんこの時、気絶しかけていたんだと思う。

 不思議なのは佐藤が見えなくなってきたのに、騎馬隊が走ってるのが見えた事だ。

 こんな人たち居たっけ?

 再び鉄砲の轟音が鳴り響いた時、兜の鍔の部分に火花が散り頭を強か叩かれたような衝撃を受けた。

 この後の記憶は無い。

 どうやら俺はそこに倒れ込んでしまったようだ。


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